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適応障害 - Wikipedia

適応てきおう障害しょうがい

はっきり確認かくにんできるストレス因子いんしによっていちじるしい苦痛くつう機能きのう障害しょうがいしょうじる精神せいしん障害しょうがい

適応てきおう障害しょうがい(てきおうしょうがい、えい: adjustment disorder:AD)とは、はっきりと確認かくにんできるストレス因子いんしにより、いちじるしい苦痛くつう機能きのう障害しょうがいしょうじており、そのストレス因子いんし除去じょきょされれば症状しょうじょう消失しょうしつする特徴とくちょう精神せいしん障害しょうがいである。『精神せいしん障害しょうがい診断しんだん統計とうけいマニュアル』(DSM)の『だい4はん』(DSM-IV)では適応てきおう障害しょうがいとして独立どくりつしていたが、『だい5はん』(DSM-5)ではストレス関連かんれん障害しょうがいぐんふくめられ、急性きゅうせいストレス障害しょうがいしんてき外傷がいしょうストレス障害しょうがい(PTSD)がふくまれる。

適応てきおう障害しょうがい
概要がいよう
診療しんりょう 精神せいしん医学いがく, 臨床りんしょう心理しんりがく
分類ぶんるいおよび外部がいぶ参照さんしょう情報じょうほう
ICD-10 F43.2
ICD-9-CM 309
DiseasesDB 33765
MedlinePlus 000932
eMedicine med/3348
MeSH D000275

ストレスへの正常せいじょう反応はんのうは、いちじるしい苦痛くつうていさない[1]。また死別しべつ適応てきおう障害しょうがいではない[1]精神せいしん障害しょうがいてはまるときはそれが優先ゆうせんされる[1]うつびょうとの判別はんべつがつきにくい場合ばあいがある[2]。また適応てきおう障害しょうがいが、正当せいとう臨床りんしょう単位たんいであることを確立かくりつするデータは不足ふそくしている[3]。ストレスが原因げんいん発生はっせいする身体しんたいてき異常いじょう心身しんしんしょうである。

適応てきおう障害しょうがい自然しぜん軽快けいかいすることもおお[3][1]治療ちりょうには心理しんり療法りょうほう推奨すいしょうされ、薬物やくぶつ療法りょうほう証拠しょうこ不足ふそくによりけるべきである[3]治療ちりょうほうについては、「適応てきおう障害しょうがい#治療ちりょう」を参照さんしょう

精神せいしん医学いがくてき障害しょうがい一種いっしゅである。

症状しょうじょう

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  • ストレスが原因げんいんで、情緒じょうちょてき障害しょうがい発生はっせいし、それはそもそもうつ気分きぶん不安ふあんなどをともなうことがおお[4]。また青年せいねん小児しょうにでは、社会しゃかい規範きはんおかすなど素行そこう問題もんだいあらわれることがある[4]
  • 社会しゃかい生活せいかつ職業しょくぎょう学業がくぎょうなどにも支障ししょうをきたし、生活せいかつ機能きのう低下ていかや、業績ぎょうせき学力がくりょく低下ていか場合ばあいによっては就業しゅうぎょう就学しゅうがくそのものが不可能ふかのうになる場合ばあいがある。
  • 行動こうどうてき障害しょうがいともな患者かんじゃは、ストレスが原因げんいん普段ふだんとはかけはなれたいちじるしい行動こうどうることがある。それらの行動こうどう具体ぐたいれいとしては、とし相応そうおう規則きそくをやぶり、だるがく喧嘩けんか法律ほうりつそむくことなどがげられる[4]社会しゃかいてきルールを無視むしするような行為こうい破壊はかい暴走ぼうそう、また暴飲ぼういんなどもある[5]
  • 軽度けいど行動こうどうてき障害しょうがいとしては、電話でんわやメール、手紙てがみ応答おうとうせず、ひととの接触せっしょくけてきこもることもげられる。

診断しんだん基準きじゅん

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適応てきおう障害しょうがいは、DSM-IV[4]ICD-10でも若干じゃっかん診断しんだん基準きじゅんことなる。

  • はっきりと確認かくにんできるおおきなストレス、およ継続けいぞくてき反復はんぷくてきにかかりつづけるストレスが発症はっしょう原因げんいんであり、そのストレスをけてから3かげつ以内いない(ICD10では1かげつ以内いない)に情緒じょうちょめん行動こうどうめん症状しょうじょう発生はっせいすること。
  • ストレス因子いんしせっしたとききる予測よそくえた苦痛くつうはんおうもしくは、社会しゃかい生活せいかつ職業しょくぎょう学業がくぎょうてき機能きのうにおいていちじるしい障害しょうがいきること。
  • 不安ふあん障害しょうがい気分きぶん障害しょうがい、うつびょうなど精神せいしん障害しょうがい原因げんいんではなく、ストレスが死別しべつ反応はんのうなどによるものではないこと。
  • ストレス因子いんし排除はいじょされた場合ばあい半年はんとし以内いない症状しょうじょうがなくなること。
  • ストレス因子いんしがなくなったのち半年はんとし以上いじょう症状しょうじょうつづ場合ばあいは、のストレス障害しょうがいPTSD分類ぶんるい不能ふのう重度じゅうどのストレス障害しょうがい)や特定とくてい不能ふのう不安ふあん障害しょうがいなどを考慮こうりょする必要ひつようがある。ただし、ICD10の場合ばあいは、遷延せんえんせいそもそもうつ反応はんのう場合ばあい最長さいちょう2年間ねんかん持続じぞくするとされている。
  • また、症状しょうじょう持続じぞく時間じかんが6かげつ以内いないのものを急性きゅうせい、6かげつ以上いじょうのものを慢性まんせいぶ。慢性まんせい場合ばあい継続けいぞくてきなストレスがつづいている場合ばあい適用てきようされる(たとえば、まわりに犯罪はんざい多発たはつする場所ばしょんでいる。裁判さいばんまれるなど)。

またDSMの下位かい診断しんだんコードの分類ぶんるいとして、そもそもうつ気分きぶんともなう、不安ふあんともなう、素行そこう障害しょうがいともなう、特定とくてい不能ふのう適応てきおう障害しょうがいがある[4]

鑑別かんべつ診断しんだん

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DSMIVとDSM-5についてげる。

ストレスへの正常せいじょう反応はんのうは、いちじるしい苦痛くつう機能きのう障害しょうがいていさない[1]経済けいざい破綻はたん災害さいがいじゅうあつし病気びょうきなどへのはんおうも、理解りかい可能かのう正常せいじょう反応はんのうである場合ばあいもある[6]診断しんだんには外的がいてきなストレスが必要ひつようである[1]

うつびょう気分きぶん変調へんちょうしょうとの鑑別かんべつとくむずかしいときがある[2]。ストレス因子いんし反応はんのうし、だいうつびょうエピソードの診断しんだん基準きじゅんたしていれば、適応てきおう障害しょうがいではない[7]パーソナリティ障害しょうがいはストレスによって悪化あっかしやすいので、通常つうじょう適応てきおう障害しょうがい追加ついか診断しんだん不要ふようである[7]

死別しべつへの反応はんのう精神せいしん障害しょうがいではなく[1]通常つうじょう死別しべつ反応はんのう診断しんだんコードV62.82)である[7]。DSM-5においては、死別しべつ反応はんのうといったつよいストレスにともなそもそもうつは、治療ちりょうなく回復かいふくする可能かのうせいがあるため、うつびょう診断しんだん基準きじゅん死別しべつ反応はんのうかんする注釈ちゅうしゃくくわえられた[8]。DSM-5のうつびょう診断しんだん基準きじゅん注釈ちゅうしゃくによれば、死別しべつによるよくうつしょうじょうは、1-2ねんつづ理解りかい可能かのう正常せいじょう反応はんのうである場合ばあいもある[6]

ICD-10についてげる。

児童じどう分離ぶんり不安ふあん障害しょうがい(ICD F93.0)である場合ばあい適応てきおう障害しょうがい診断しんだんくだされないとされる[9]

明確めいかく臨床りんしょう単位たんい

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臨床りんしょう現場げんばでは一般いっぱんてき診断しんだんめいであるが、正当せいとう臨床りんしょう単位たんいであることを確立かくりつするデータは不足ふそくしている[3]適応てきおう障害しょうがいとうつびょうとを区別くべつできるような、生物せいぶつがくてきデータによる証拠しょうこ存在そんざいしない[3]

治療ちりょう

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一般いっぱん適応てきおう障害しょうがいながつづかず、時間じかん経過けいかとも消失しょうしつする[3]自然しぜん軽快けいかいすることもおお[1]。そうした事実じじつは、治療ちりょうかんする研究けんきゅう不足ふそく示唆しさしている[3]

2009ねん適応てきおう障害しょうがいかんするシステマティック・レビュー以下いかのように結論けつろんづけている。

心理しんり療法りょうほう

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心理しんり療法りょうほう有用ゆうようせいは、臨床りんしょうてき証拠しょうこつよ裏付うらづけられている[3]対人たいじん関係かんけい療法りょうほう問題もんだい解決かいけつ療法りょうほうほかにも個々ここ心理しんり療法りょうほう有効ゆうこうせい報告ほうこくされているが、そうした心理しんり療法りょうほう同士どうし比較ひかくした研究けんきゅうはない[3]一方いっぽうそもそもうつや不安ふあんともな適応てきおう障害しょうがいたいする、こううつやくなどの医薬品いやくひん使用しよう適切てきせつなエビデンスがないためけるべきである[3]

認知にんち行動こうどう療法りょうほう

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適応てきおう障害しょうがいへの認知にんち行動こうどう療法りょうほう有効ゆうこうであり、ストレスをかんじる出来事できごと問題もんだいたいし、心理しんりてき苦痛くつう軽減けいげんする解釈かいしゃく思考しこう方法ほうほう認知にんち)と対処たいしょ行動こうどう行動こうどう)を習得しゅうとくできるよう、支援しえんおこなわれる[10][11]

治療ちりょうしゃは、心理しんり教育きょういく認知にんちさい構成こうせいほうリフレーミングやマインドエクササイズ、リハーサルやロールプレイングコーチングやガイダンス、リラクセーションほう活動かつどうスケジュールひょう問題もんだい解決かいけつほうなどの認知にんち行動こうどう療法りょうほうしょ技法ぎほうもちいて、患者かんじゃをサポートする。これらをとおして、ストレスが軽減けいげんされる思考しこう方法ほうほう対処たいしょ行動こうどう患者かんじゃ治療ちりょうしゃ協同きょうどう模索もさく練習れんしゅうしていき、機能きのうてき思考しこう方法ほうほう(「現状げんじょう他者たしゃ行動こうどう肯定こうていてきにとらえる[12]」・「自分じぶん自身じしんめずにみとめる[12]」・「自分じぶんかんがえているほど、まわりは自分じぶんのことをなんともおもっていないことを把握はあくする[13]」など)や対処たいしょ行動こうどう(「かかまずに相談そうだんする[13]」など)をにつけられるようサポートする[14][15]

また、人間にんげん関係かんけいにおける適応てきおうをサポートするため、ひととうまくせっするための社会しゃかいてきスキル育成いくせいするソーシャルスキルトレーニング (SST) [16]アサーショントレーニング[17]もちいた支援しえんおこなわれる。

なお、適切てきせつストレス管理かんり支援しえんしていくことも治療ちりょう目標もくひょうひとつであり[18]気分きぶん転換てんかんほう(「ストレス管理かんり#技法ぎほう」を参照さんしょう)の発見はっけんなども症状しょうじょう緩和かんわ一助いちじょになるとされる[17]

環境かんきょう調整ちょうせい

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適応てきおう障害しょうがいはその診断しんだん基準きじゅんにあるとおりストレスが原因げんいんであるため、それが除去じょきょされれば症状しょうじょう改善かいぜんされる可能かのうせいがある。たとえば、人事じんじ異動いどう部署ぶしょえたり、したりするなど、現在げんざい環境かんきょうえることで病状びょうじょう改善かいぜんされる可能かのうせいがある。

現実げんじつてきなストレス因子いんしそのものを低減ていげんしたり(れい配置はいち転換てんかん)、ソーシャルサポート強化きょうかしたり(れい家族かぞく上司じょうし理解りかい援助えんじょうながすためのコンサルテーション)、患者かんじゃくストレスフルな環境かんきょう調整ちょうせいしていくこと、つまり環境かんきょう調整ちょうせいによるサポートも重要じゅうようである[19]

出典しゅってん

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  1. ^ a b c d e f g h アレン・フランセス精神せいしん疾患しっかん診断しんだんのエッセンス―DSM-5の上手じょうず使つかかた金剛こんごう出版しゅっぱん、2014ねん3がつ、117-118ぺーじISBN 978-4772413527 
  2. ^ a b 日本にっぽんうつびょう学会がっかい; 気分きぶん障害しょうがいのガイドライン作成さくせい委員いいんかい (26 July 2012). 日本にっぽんうつびょう学会がっかい治療ちりょうガイドライン (pdf) (Report) (2012 Ver.1 ed.). p. 3.
  3. ^ a b c d e f g h i j Adjustment Disorder: epidemiology, diagnosis and treatment 2009.
  4. ^ a b c d e DSM-IV-TR邦訳ほうやくしょ 2004, §適応てきおう障害しょうがい.
  5. ^ 齋藤さいとう英二えいじ監修かんしゅうしん病気びょうき』p.70.
  6. ^ a b アメリカ精神せいしん学会がっかい『DSM-5 精神せいしん疾患しっかん診断しんだん統計とうけいマニュアル』日本にっぽん精神せいしん神経しんけい学会がっかい日本語にほんごばん用語ようご監修かんしゅう高橋たかはし三郎さぶろう大野おおのひろし監訳かんやくしみ俊幸としゆき神庭かみにわ重信しげのぶ尾崎おざき紀夫のりお三村みつむらすすむ村井むらい俊哉としやわけ医学書院いがくしょいん、2014ねん6がつ30にち、20、161、801ぺーじISBN 978-4260019071 
  7. ^ a b c DSM-IV-TR邦訳ほうやくしょ 2004, §適応てきおう障害しょうがい-鑑別かんべつ診断しんだん.
  8. ^ 大野おおのひろし精神せいしん医療いりょう診断しんだん手引てびき―DSM-IIIはなぜつくられ、DSM-5はなぜ批判ひはんされたか』金剛こんごう出版しゅっぱん、2014ねん、39-40ぺーじISBN 978-4772413862 
  9. ^ ICD-10 : F43, 世界せかい保健ほけん機関きかん, (2009), http://apps.who.int/classifications/icd10/browse/2015/en#/F43 
  10. ^ アローズ, D. L., & キャレッセ, M. A. 大前おおまえ泰彦やすひこ清水しみず佳苗かなえわけ) (1999). 適応てきおう障害しょうがい解決かいけつ――解決かいけつ志向しこうブリーフセラピーによるアプローチ―― 金剛こんごう出版しゅっぱん, 79-80・84・86ぺーじ.
  11. ^ 伊藤いとう 絵美えみ (2011). 適応てきおう障害しょうがい心理しんり臨床りんしょう 原田はらだ誠一せいいちへん適応てきおう障害しょうがい (pp.122-123) 日本にっぽん出版しゅっぱんしゃ
  12. ^ a b 高井たかい祐子ゆうこ木内きうちせんあきら (2010). 認知にんち療法りょうほうとおして認知にんち過程かていおよび行動こうどう変容へんよう相互そうご作用さようみとめられた適応てきおう障害しょうがいれい. 女性じょせい心身しんしん医学いがく 2011ねん 15かん 3ごう p.321-326, doi:10.18977/jspog.15.3_321
  13. ^ a b 森下もりした克也かつや高橋たかはし歩美あゆみ (2011). 漢方薬かんぽうやく認知にんち療法りょうほう併用へいようにより改善かいぜんした適応てきおう障害しょうがいの1れい. 心身しんしん医学いがく, 2011ねん 51かん 9ごう p.831-837, doi:10.15064/jjpm.51.9_831
  14. ^ アローズ, D. L., & キャレッセ, M. A. 大前おおまえ泰彦やすひこ清水しみず佳苗かなえわけ) (1999). 適応てきおう障害しょうがい解決かいけつ解決かいけつ志向しこうブリーフセラピーによるアプローチ- 金剛こんごう出版しゅっぱん, 86-87, 89ぺーじ.
  15. ^ 伊藤いとう絵美えみ (2011). 適応てきおう障害しょうがい心理しんり臨床りんしょう 原田はらだ誠一せいいちへん適応てきおう障害しょうがい (pp.122-126) 日本にっぽん出版しゅっぱんしゃ
  16. ^ 谷口たにぐち弘一こういち福岡ふくおか欣治きんじ (2006). 対人たいじん関係かんけい適応てきおう心理しんりがく――ストレス対処たいしょ理論りろん実践じっせん―― 北大路きたおおじ書房しょぼう, 83-95ぺーじ.
  17. ^ a b 阿部あべ麻衣まい遠藤えんどう由香ゆか野田のだ智子さとこ ほか(2014). 認知にんち行動こうどう療法りょうほう奏功そうこうしたそもそもうつをともな適応てきおう障害しょうがいいちれい(一般いっぱん演題えんだい,だい74かい日本にっぽん心身しんしん学会がっかい東北とうほく地方ちほうかい演題えんだい抄録しょうろく). 心身しんしん医学いがく, 2014ねん 54かん 12ごう p.1149-, doi:10.15064/jjpm.54.12_1149_1
  18. ^ 伊藤いとう絵美えみ (2011). 適応てきおう障害しょうがい心理しんり臨床りんしょう 原田はらだ誠一せいいちへん適応てきおう障害しょうがい (p.122) 日本にっぽん出版しゅっぱんしゃ
  19. ^ 伊藤いとう絵美えみ (2011). 適応てきおう障害しょうがい心理しんり臨床りんしょう 原田はらだ誠一せいいちへん適応てきおう障害しょうがい (p.127) 日本にっぽん出版しゅっぱんしゃ

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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