青鞜せいとう

『青鞜せいとう』（せいとう）は、青鞜せいとう社しゃが1911年ねん（明治めいじ44年ねん）9月がつから 1916年ねん（大正たいしょう5年ねん）2月がつまで52冊さつ発行はっこうした女性じょせいによる婦人ふじん月刊げっかん誌し。編集へんしゅう長ちょうは平塚ひらつからいてう、伊藤いとう野枝のえ。らいてうが内縁ないえんの夫おっとを優先ゆうせんした末期まっきに、伊藤いとうが新あらたに編集へんしゅう長ちょうの座ざを得えるが、大杉おおすぎ栄さかえのもとに走はしって青鞜せいとうの編集へんしゅうを放棄ほうきした恋愛れんあい事件じけん、青鞜せいとうメンバーの神近かみちか市子いちこが野枝のえと大杉おおすぎを巡めぐって大杉おおすぎ栄さかえ刺傷ししょう事件じけんを起おこすなどで廃刊はいかんとなる^[1]。「文学ぶんがく史し的てきにはさほどの役割やくわりは果はたさなかったが、婦人ふじん問題もんだいを世よに印象いんしょうづけた意義いぎは大おおきい」という論ろんもある^[2]。

経緯けいい

平塚ひらつからいてう。『青鞜せいとう』を創刊そうかんした頃ころ。

明治めいじ末期まっきの日本にっぽんでは良妻賢母りょうさいけんぼこそが女性じょせいに求もとめられており、選挙せんきょ権けんはなかった。また、治安ちあん警察けいさつ法ほうは女性じょせいの政治せいじ活動かつどうを禁止きんししていた。しかしながら、欧米おうべいではフェミニズムが叫さけばれそれが日本にっぽんにも伝つたえられていた。

生田長江いくたちょうこうが平塚ひらつか明あきら（はる）に女性じょせいだけの文芸ぶんげい誌しの発行はっこうを勧すすめ、迷まよう平塚ひらつかを日本女子大にほんじょしだい学校がっこうの同窓どうそう、保持ほじ研けん子こが後押あとおしした。知友ちゆうを訪たずねて誘さそい、2人ふたりと中野なかの初子はつこ^[3]、木内きうち錠じょう子こ^[3]、物もの集しゅう和子かずこの計けい5名めいが発起人ほっきにんとなり、1911年ねん（明治めいじ44年ねん）9月がつ、婦人ふじん月刊げっかん誌し『青鞜せいとう』を創刊そうかんした。1千せん部ぶが全国ぜんこくで発行はっこうされた。

『青鞜せいとう』の名なは"Bluestocking"（ブルーストッキング）の和訳わやくで、生田長江いくたちょうこうがつけた。18世紀せいきにロンドンで、フォーマルなシルクの黒くろい靴下くつしたではなく、深ふかい青あおい色いろの毛糸けいとの長靴ながぐつ下かを身みにつける事ことが、教養きょうようが高たかく知性ちせいを尊重そんちょうする婦人ふじん達たちのグループ（ブルー・ストッキングス・ソサエティ（英語えいご版ばん））のシンボルとして採用さいようされた事ことから引用いんようされたものである。

創業そうぎょう時じの社員しゃいんは、岩野いわの清子きよこ（岩野いわの泡鳴ほうめいの内縁ないえんの妻つま）、茅野ちの雅子まさこ^[3]、田村たむらとし子こ^[3]、野上のかみ八重子やえこ^[3]、水野みずの仙子せんこら18人にん、賛助さんじょ員いんは、長谷川時雨はせがわしぐれ、与謝野よさの晶子あきこ、森もりしげ子こ（森もり鷗外の妻つま）、小金井こがねい喜美子きみこ、岡田おかだ八千代やちよ、国木田くにきだ治子はるこら7人にんだった。社員しゃいんは会費かいひと平塚ひらつかの母ははの資金しきん援助えんじょが基本きほん資金しきんとなった。

創刊そうかん号ごうの表紙ひょうしは、長沼ながぬま智恵子ちえこ^[3]が描えがき、巻頭かんとうを与謝野よさのの詩しが飾かざった。そして平塚ひらつかが、高名こうみょうな「元始げんし女性じょせいは太陽たいようであった」に始はじまる創刊そうかんの辞じを載のせここに初はじめて「らいてう」の筆名ひつめいを使つかった。

1912年ねん（明治めいじ45年ねん）の新年しんねん号ごうは、前年ぜんねんの『人形にんぎょうの家いえ』上演じょうえんに関連かんれんして、『附録ふろくノラ』上じょうに社員しゃいんらの評論ひょうろんを特集とくしゅうした（雑誌ざっし上じょうで文芸ぶんげいを、附録ふろくで婦人ふじん問題もんだいを扱あつかった）。

社員しゃいんには集散しゅうさんがあり、尾お竹ちく紅べに吉きち（一枝いちえだ。19歳さい）が1912年ねん（明治めいじ45年ねん）1月がつに、神近かみちか市子いちこ（24歳さい）が7月がつに、伊藤いとう野枝のえ（17歳さい）が10月がつに入社にゅうしゃした。紅べに吉きちが五色ごしきの酒さけを飲のんだことや叔父おじの日本にっぽん画家がか・尾お竹ちく竹ちく坡に連つれられ吉原よしわらに登楼とうろうしたこと、相愛そうあいの平塚ひらつかに男おとこ友達ともだちができたことなどを誌上しじょうで奔放ほんぽうに書かき綴つづったことで、市中しちゅうの記者きしゃに批判ひはんの槍玉やりだまに上あげられ退社たいしゃに追おい込こまれると、ノラのような「目覚めざめた女性じょせい」を指さしていた「新あたらしい女おんな」のという見方みかたから「ふしだらな女性じょせい」という見方みかたが『青鞜せいとう』に向むけられるようになった。

1912年ねん（明治めいじ45年ねん）4月がつの第だい2巻かん4号ごうは、姦通かんつうを扱あつかった荒木あらき郁いくの小説しょうせつ『手紙てがみ』ゆえに発禁はっきんとなり、青鞜せいとう社しゃは物もの集しゅう邸ていから追おい出だされた。1912年ねん（明治めいじ45年ねん）5月がつごろから翌年よくねんにかけて、多おおくの新聞しんぶん・雑誌ざっしが、からかいを込こめた「新あたらしい女おんな」特集とくしゅうを載のせ、順調じゅんちょうだった『青鞜せいとう』に影かげが差さした。女子じょし英学えいがく塾じゅくの津田つだ梅子うめこは塾生じゅくせいが青鞜せいとうに関かかわることを禁きんじ、日本女子大にほんじょしだい学校がっこうの成瀬なるせ仁蔵にぞうも「新あたらしい女おんな」を批判ひはんした。青鞜せいとう側がわも、1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）の1月がつ号ごうと2月がつ号ごうの附録ふろく「新あたらしい女おんな、其他婦人ふじん問題もんだいに就て」で反撃はんげきし、岩野いわの泡鳴ほうめい、阿部あべ次郎じろう、馬場ばば孤蝶こちょう、杉村すぎむら楚人冠そじんかんらは青鞜せいとうに対たいし賛意さんいを表明ひょうめいしたが、その2月がつ号ごうは附録ふろく中ちゅうの福田ふくだ英えいの所論しょろんが社会しゃかい主義しゅぎ的てきであるとして発禁はっきん処置しょちとされた。

その後ご生田いくたが去さり、1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）10月がつ、青鞜せいとう社しゃ概がい則そくの冒頭ぼうとうを、「女流じょりゅう文学ぶんがくの発達はったつを計はかり」から「女子じょしの覚醒かくせいを促うながし」へと変更へんこうした。生田いくたの加筆かひつを平塚ひらつかが初志しょしの「女子じょしの覚醒かくせい」に戻もどしたのである。しかしながら、発行はっこう部数ぶすうは減少げんしょうしていった。

1914年ねん（大正たいしょう3年ねん）1月がつ、平塚ひらつかは両親りょうしんの家いえを出でて、奥村おくむら博ひろしとの同棲どうせいを始はじめた。青鞜せいとうに載のせた「独立どくりつするに就て両親りょうしんに」を、木下きのした杢太郎もくたろうは称賛しょうさんしたが、徳田とくた秋江あきえらは罵ののし（ののし）った。創刊そうかん時じの5人にんの発起人ほっきにんのうち、最後さいごまで残のこっていた保持ほじが4月がつに去さった。この年としは生田いくた花世はなよが多おおくの文ぶんを書かいたが、世帯せたいを持もった平塚ひらつかが多忙たぼうだったことにより9月がつ号ごうを出だせなかった。10月の三さん周年しゅうねん記念きねん号ごうには、警保局きょく長ちょうの警告けいこくを転載てんさいしている。11月号ごうは、平塚ひらつかに頼たのまれ伊藤いとうが薄うすい青鞜せいとうを出だした。

その後ご、これにより「全部ぜんぶ委まかせるならやるが、忙いそがしい時ときだけのピンチヒッターは断ことわる」と野枝のえが表明ひょうめいし、平塚ひらつかは同年どうねん11月がつ号ごうをもって青鞜せいとうの編集へんしゅうを引退いんたいした。伊藤いとうは青鞜せいとう社しゃを無む規則きそく、無む方針ほうしんに変更へんこうした。1915年ねん1月がつ号ごうは、平塚ひらつかの「青鞜せいとうと私わたし」と、伊藤いとうの「青鞜せいとうを引ひき継つぐに就て」を載のせた。

野枝のえ編集へんしゅうの青鞜せいとうは、生田いくた、原田はらだ皐月さつき、伊藤いとう、山田やまだわか、平塚ひらつか、岩野いわの清子きよこ、青山あおやま菊栄きくえらが、貞操ていそう問題もんだい、堕胎だたい問題もんだい、売うれ娼制度せいどなど女性じょせいを巡めぐる社会しゃかい問題もんだいを論争ろんそうしたが、1916年ねん（大正たいしょう5年ねん）4月がつに伊藤いとうが大杉おおすぎ栄さかえの許もとへ走はしり、無期むき休刊きゅうかんになった。その間あいだの1915年ねん（大正たいしょう4年ねん）6月がつ号ごうは、原田はらだの堕胎だたい論ろんで発禁はっきん処分しょぶんを受うけ、以後いご発禁はっきん期間きかんが終了しゅうりょうした後のち発行はっこうされていない。

付帯ふたい事項じこう