出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
陸戦(りくせん land battle)とは陸上における作戦・戦闘である。陸上戦闘、陸上作戦とも呼ぶ。
概要
人間のあらゆる活動の基盤は陸地にあり、究極的にその地域を支配するためには陸戦によって敵の陸上戦力を排除する必要性がある。陸戦は地形地勢・時間・攻勢防勢・戦法によってさまざまな形態があり、要する兵員・物資・活動も多種多様かつ膨大である。
特徴
地形の戦力化
陸上戦力は海上・航空戦力と比較して地形の影響を多大に受ける。陸地には多用な性格があり、高低起伏、地表面土質、水系、植生、人工物などがあり、またこれらは気候や時間によって逐次変化していく。これらは陸上作戦において有利にも不利にもなり得るものであり、地形は部隊の位置的な優位、視界、射界、偽装、隠蔽、掩蔽などに影響する。従って地形を戦力として取り込むことが可能であり、特に築城はこの効果を高めるために行われる。
兵力吸収性
作戦地域が拡大すればするほど、作戦線は伸長して戦力の密度は低下し、兵站の負担は増大し、指揮統率はより困難になる。特に敵地へ侵攻する場合、この性質は顕著となる。作戦線の伸長に伴う戦力逓減と逆の場合の戦力逓増の原則はクラウゼヴィッツが「頂点の思想」で述べており、また「山は兵を飲む」と古来より戦訓として伝えられている。
作戦の固定性
陸上作戦は後方支援に基づいて行われており、かつ後方支援は道路・鉄道・水路・都市などに基づいて行われているため、作戦は固定的な性質を持つ。また後方支援は厳密な計画に沿って業務が進められるために簡単に変更ができない。
局地的独立性
陸上戦力は海上・航空戦力に比較してその指揮統制に限界がある。作戦地域各地で同時多発的に戦闘が起こり、同時進行で事態が進み、また現場指揮官は自己の判断に基づいて行動するためである。大規模な陸戦になればなるほどこの性質は高まり、全体の戦闘をすべて一元的に完全掌握することはできない。
精神力の依存性
陸上戦力の最小単位は一人の人間であり、一人ひとりの判断の蓄積で戦闘行動は進行する。これらをすべて把握することは不可能であり、個々の現場指揮官とその指揮下にある兵士たちの高度な士気、強固な意思、各員のチームワークと各級指揮官のリーダーシップが重要となる。
形態
決戦と持久戦
クラウゼヴィッツは作戦の形態を「敵戦闘力の撃滅」と「自己戦闘力の保持」に大別し、毛沢東も同様に「敵の撃滅」と「自己の保存」に分類した。これら二つの側面のどちらを重視するかによって作戦の形態は決戦と持久戦に分類できる。すなわち敵の撃滅を重視して、敵を撃滅するために能動的に攻撃を行おうとする作戦は「決戦」であり、双方あるいは一方が決戦の意思を持って動く場合、決戦は発生する。自己の保全を重視して、決戦を回避するための受動的に防御を行う作戦は「持久戦」である。
攻勢・防勢作戦
敵を求めて積極的に敵を探して、発見すればこれに攻撃を行う攻勢の作戦は「攻勢作戦」である。攻勢作戦はその性格上主導権を掌握しやすく、また地域を占領し、敵戦力を効果的に撃滅することが可能であるが、充足した戦闘力が不可欠である。一方で戦力の劣位を補いつつ、時間的猶予を得るために敵の攻撃を受動的に破砕する防勢の作戦は「防勢作戦」である。攻防の選択は任務を基軸に、攻防両作戦の性質、状況、双方の戦闘力の消費や効果などを総合的に行って決められなければならない。
外線・内線作戦
敵に対して後方連絡線を外方向に置き、諸方面から求心的に部隊を配備して行う作戦が「外線作戦」である。包囲・挟撃の位置関係にある作戦である。各正面に相互的な関連性があり、一正面の戦果は即時に隣接する地域の戦果に直結する特徴がある。一方、後方連絡線を内方向に置き、諸方面から求心的に作戦正面を離心的に部隊を配備して行う作戦が「内線作戦」である。戦力を集中して運用することが可能であるものの、各個撃破できない場合は即座に後方連絡線が敵に晒される危険性がある。内・外線作戦は相対的な関係にあり、外線作戦は攻勢的であり、内線作戦は防勢的である。どちらが有利なのかは、任務、戦闘力、状況に左右される。
各種地形
- 着上陸作戦とは上陸戦の一環であり、敵の領地の沿岸地域に対する機動攻撃を行う攻勢作戦である。
- 対着上陸作戦とは上陸を試みて機動攻撃を行う敵に対して防勢作戦である。
- 野戦とは人口建築物・要塞などが存在しない地形における作戦戦闘である。
- 陣地戦及び要塞戦とは各種築城が存在する地形における作戦戦闘である。
- 森林戦とは熱帯雨林など植生が濃い地形における作戦戦闘である。
- 山岳戦とは高低起伏が激しく、特に高地における作戦戦闘である。
- 雪中戦とは、主に氷点下の気候における作戦戦闘である。
- 砂漠戦とは砂漠地帯における作戦戦闘である。
- 市街戦とは人口建築物が集中的に存在する都市部における作戦戦闘である。
参考文献
- 防衛大学校・防衛学研究会『軍事学入門』 かや書房
関連項目