陸戦りくせん

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戦国せんごく時代じだい (日本にっぽん)だいよん川中島かわなかじまたたか(1561ねん
戦争せんそう


軍事ぐんじ

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陸戦りくせん(りくせん Land warfare)とは陸上りくじょうでの戦闘せんとう陸上りくじょうせんのことである[1]武力ぶりょく紛争ふんそうは、それが展開てんかいされる地域ちいき区分くぶんしたがって、陸上りくじょう陸戦りくせん海上かいじょう海戦かいせん空中くうちゅう空戦くうせんとされ、国際こくさいほうはおおむねこの区分くぶんしたがって規定きていされている[2]

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

だい世界せかい大戦たいせん電撃でんげきせん(1942ねん)
アフガニスタンで[だい4歩兵ほへい師団しだん (アメリカぐん)(2009ねん
SWORDSはリモートコントロール偵察ていさつ攻撃こうげき可能かのうFoster-Miller TALON軍事ぐんじようロボット(2006ねん

ふるくは欧米おうべいにおいて戦争せんそうといえば、陸戦りくせんのことであった。政府せいふない戦争せんそう大臣だいじん戦争せんそう長官ちょうかん陸戦りくせん大臣だいじん)がかれたが、海軍かいぐん仕事しごと戦争せんそうとはべつで、政治せいじてき補助ほじょてき副次的ふくじてきにすぎないとして序列じょれつ区別くべつがついており、海軍かいぐん大臣だいじん格下かくした閣僚かくりょうぎなかった。そのため、1832ねん発表はっぴょうされたプロイセン王国おうこく軍人ぐんじんカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争せんそうろん』(『ON WAR』)のタイトルは、陸上りくじょう戦争せんそうにおける全般ぜんぱんについてという意味合いみあいをつ。

海軍かいぐんりょく海洋かいよう支配しはい強国きょうこく存立そんりつ左右さゆうする死活しかつ問題もんだいとされたのは、19世紀せいき後半こうはんアルフレッド・セイヤー・マハン、J・S・コルベット、ハルフォード・マッキンダーらによって海洋かいよう戦略せんりゃく陸戦りくせん同格どうかく研究けんきゅうしなければならないという主張しゅちょうこり、列強れっきょうがそれを受容じゅようしてからである[3]

クラウゼヴィッツは、「てき戦闘せんとうりょく撃滅げきめつ」と「自己じこ戦闘せんとうりょく保持ほじ」に戦闘せんとう形態けいたい大別たいべつしている。毛沢東もうたくとう同様どうよう分類ぶんるいした。これら2つの側面そくめんのどちらを重視じゅうしするかで、作戦さくせん形態けいたいは2種類しゅるい分類ぶんるいできる。

  • 決戦けっせん:てき撃滅げきめつ重視じゅうしして、てき撃滅げきめつするために能動のうどうてき攻撃こうげきしようとする作戦さくせん双方そうほうあるいは一方いっぽう決戦けっせん意思いしってうご場合ばあい発生はっせいする。
  • 持久じきゅうせん:自己じこ保全ほぜん重視じゅうしして、決戦けっせん回避かいひするための受動じゅどうてき防御ぼうぎょする作戦さくせん

その以下いかのような分類ぶんるいもある。

攻防こうぼうによる分類ぶんるい
  • 攻勢こうせい作戦さくせん:てきもとめて積極せっきょくてきてきさがし、発見はっけんすれば攻撃こうげきする作戦さくせん主導しゅどうけん掌握しょうあくしやすく、地域ちいき占領せんりょうし、てき戦力せんりょく効果こうかてき撃滅げきめつできるが、充足じゅうそくした戦闘せんとうりょく不可欠ふかけつである。
  • ぼうぜい作戦さくせん:戦力せんりょく劣位れついおぎないつつ、時間じかんてき猶予ゆうよるためにてき攻撃こうげき受動じゅどうてき破砕はさいする作戦さくせん
部隊ぶたい配置はいちによる分類ぶんるい
  • 外線がいせん作戦さくせん:てきたいして後方こうほう連絡れんらくせんそと方向ほうこうき、しょ方面ほうめんから求心きゅうしんてき部隊ぶたい配備はいびしておこな作戦さくせん包囲ほうい挟撃きょうげき位置いち関係かんけいにある。かく正面しょうめん相互そうごてき関連かんれんせいがあり、いち正面しょうめん戦果せんか即時そくじ隣接りんせつする地域ちいき戦果せんか直結ちょっけつする。
  • 内線ないせん作戦さくせん:後方こうほう連絡れんらくせんうち方向ほうこうき、作戦さくせん正面しょうめんはなれ心的しんてき部隊ぶたい配備はいびしておこな作戦さくせん戦力せんりょく集中しゅうちゅうして運用うんようできるものの、各個かっこ撃破げきはできないと即座そくざ後方こうほう連絡れんらくせんてきさらされる危険きけんせいがある。
地形ちけいによる分類ぶんるい
  • 上陸じょうりく作戦さくせん - 上陸じょうりくせん一環いっかんで、てき領地りょうち海岸かいがん地域ちいき機動きどう攻撃こうげきする攻勢こうせい作戦さくせん
  • たい上陸じょうりく作戦さくせん - 上陸じょうりくこころみて機動きどう攻撃こうげきするてきたいしてのぼうぜい作戦さくせん
  • 野戦やせん - 人工じんこう建築けんちくぶつ要塞ようさいなどが存在そんざいしない地形ちけいでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 陣地じんちせん要塞ようさいせん - 築城ちくじょう存在そんざいする地形ちけいでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 森林しんりんせん - 熱帯ねったい雨林うりんなど植生しょくせい地形ちけいでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 湿地しっちせん - 沼地ぬまちなどの湿しめおお場所ばしょでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 山岳さんがくせん - 高低こうてい起伏きふくはげしい、とく高地こうちでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • ゆきちゅうせん - 寒冷かんれいでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 砂漠さばくせん - 砂漠さばく地帯ちたいでの作戦さくせん戦闘せんとう
  • 市街しがいせん - 人工じんこう建築けんちくぶつ集中しゅうちゅうてき存在そんざいする都市としでの作戦さくせん戦闘せんとう

戦略せんりゃく[編集へんしゅう]

陸戦りくせんでは地形ちけい戦力せんりょくおこなわれることがある。海軍かいぐんりょく空軍くうぐんりょく比較ひかくして、陸軍りくぐんりょく地形ちけい影響えいきょう多大ただいける。陸地りくちには高低こうてい起伏きふく地表ちひょうめん土質どしつ水系すいけい植生しょくせい人工じんこうぶつなど多様たよう性格せいかくがあり、しかも気候きこう時間じかんによって逐次ちくじ変化へんかしていく。これらは陸上りくじょう作戦さくせんにおいて有利ゆうりにも不利ふりにもなり、地形ちけい部隊ぶたい位置いちてき優位ゆうい視界しかいしゃかい偽装ぎそう隠蔽いんぺい掩蔽えんぺいなどに影響えいきょうする。したがって地形ちけい戦力せんりょくむことができ、とく築城ちくじょうはこの効果こうかたかめる。

陸戦りくせんでは、作戦さくせん地域ちいき拡大かくだいするほど作戦さくせんせん伸長しんちょうして戦力せんりょく密度みつどがり、兵站へいたん負担ふたんし、指揮しき統率とうそつはより困難こんなんになる。とくてき侵攻しんこうする場合ばあいにこの性質せいしつ顕著けんちょとなる。作戦さくせんせん伸長しんちょうともな戦力せんりょく逓減ていげんぎゃく場合ばあい戦力せんりょく逓増ていぞう原則げんそくカール・フォン・クラウゼヴィッツが「頂点ちょうてん思想しそう」でべており、また「やまへいむ」と古来こらいよりたたかえくんとしてつたえられている。

陸上りくじょう作戦さくせん後方こうほう支援しえんもとづいて展開てんかいし、かつ後方こうほう支援しえん道路どうろ鉄道てつどう水路すいろ都市としなどにもとづいておこなうため、作戦さくせん固定こていてき性質せいしつつ。また後方こうほう支援しえん厳密げんみつ計画けいかく沿って業務ぎょうむすすめるため、簡単かんたんには変更へんこうできない。

海軍かいぐんりょく空軍くうぐんりょく比較ひかくして、陸軍りくぐんりょく指揮しき統制とうせい限界げんかいがある。作戦さくせん地域ちいき各地かくち同時どうじ多発たはつてき戦闘せんとうこり、同時どうじ進行しんこう事態じたいすすみ、また現場げんば指揮しきかん自己じこ判断はんだんもとづいて行動こうどうするためである。だい規模きぼ陸戦りくせんになればなるほどこの性質せいしつたかまり、全体ぜんたい戦闘せんとうをすべて一元いちげんてき完全かんぜん掌握しょうあくするのは不可能ふかのうである。

陸軍りくぐんりょく最小さいしょう単位たんい一人ひとり人間にんげんであり、一人ひとりひとりの判断はんだん蓄積ちくせき戦闘せんとう行動こうどう進行しんこうする。これらすべては把握はあくできないので、個々ここ現場げんば指揮しきかんとその指揮しきにある兵士へいしたちの高度こうど士気しき強固きょうこ意思いし各員かくいんチームワークかくきゅう指揮しきかんリーダーシップ重要じゅうようとなる。

ハーグ陸戦りくせん条約じょうやくのような国際こくさい条約じょうやくによって、事前じぜん各国かっこく陸戦りくせんにおける禁止きんし事項じこう同意どういしておき、紛争ふんそう当事とうじしゃすべてがのぞまない事態じたい予防よぼうはか方法ほうほうもある。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ デジタル大辞泉だいじせん
  2. ^ 防衛ぼうえい学会がっかい国防こくぼう用語ようご辞典じてんちょうくも新聞しんぶんしゃ305ぺーじ
  3. ^ クラウゼヴィッツ『新訳しんやく 戦争せんそうろん となり大国たいこくをどうせるか』兵頭ひょうどうじゅうはちやく PHP研究所けんきゅうじょ

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 内田うちだ政三まさぞう現代げんだい陸上りくじょう戦力せんりょく防衛大学校ぼうえいだいがくこう防衛ぼうえいがく研究けんきゅうかいへん軍事ぐんじがく入門にゅうもん』かや書房しょぼう、1999ねん、pp.152-175
  • 陸戦りくせん学会がっかいせん入門にゅうもんきゅうだんしゃ、1995ねん
  • Bellamy, C. 1987. The future of land warfare. New York: St. Martins Press.
  • Clausewitz, C, von. 1984. On war. Ed. and trans. M. Howard and P. Paret. Princeton, N.J.: Princeton Univ. Press.
  • Dunnigan, J. F. 1983. How to make war. New York: Quill.
  • Gabriel, R. A. 1990. The culture of war: Invention and early development. Westport, Conn.: Greenwood Press.
  • Garden, T. 1989. The technology trap: Science and the military. London: Brassey's.
  • Jones, A. 1987. The art of war in the western world. Oxford: Oxford Univ. Press.
  • Kendall, P. 1957. The story of land warfare. Westport, Conn.: Greenwood Press.
  • Liddell Hart, B. H. 1991. Strategy. New York: Penguin Books.
  • Macksey, K. 1973. Guinness history of land warfare. En-field, England: Guinness Superlatives.
  • NATO. 1984. Land force tactical doctrine ATP-35(A). Military Agency for Standardization. Brussels: NATO.
  • U.S. Department of the Army. 1986. Field Manual 100-5: Operations. Washington, D.C.: Government Printing Office.
  • U.S. Department of the Army. 1994. Field Manual 71-100: Division Operations. Washington, D.C.: Government Printing Office.

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]