(Translated by https://www.hiragana.jp/)
大戦略 - Wikipedia コンテンツにスキップ

だい戦略せんりゃく

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

だい戦略せんりゃく(だいせんりゃく、えい: Grand strategy)とは、国家こっか目的もくてき達成たっせいするためにあらゆる国力こくりょく効果こうかてき運用うんようする戦略せんりゃくである。国家こっか戦略せんりゃく (National strategy)、全体ぜんたい戦略せんりゃく (Total strategy)、統合とうごう戦略せんりゃく(Joint strategy)ともう。

概要がいよう

[編集へんしゅう]

だい戦略せんりゃく国家こっか目的もくてき遂行すいこうする最高さいこう観点かんてんから、たいらせんりょう政治せいじてき軍事ぐんじてき経済けいざいてき心理しんりてき国力こくりょく効果こうかてき運用うんようする統一とういつてき総合そうごうてき全般ぜんぱんてき戦略せんりゃくである。すべての戦略せんりゃく問題もんだい同様どうように、だい戦略せんりゃくにおいて考慮こうりょされるのは目標もくひょう手段しゅだん関係かんけい、すなわち国力こくりょく国益こくえき関係かんけい問題もんだいであり、どのように国力こくりょく適用てきようすれば国益こくえき実現じつげんすることができるのかが重要じゅうよう課題かだいである。だからこそ、だい戦略せんりゃくでは軍事ぐんじてき手段しゅだんだけでなく国政こくせいじゅつ(statecraft)であつかうような軍事ぐんじてき手段しゅだんをも研究けんきゅう対象たいしょうとし、政治せいじてき経済けいざいてき社会しゃかいてき次元じげんについても考察こうさつする。このことがだい戦略せんりゃく複雑ふくざつせい理解りかい困難こんなん増大ぞうだいさせている。だい戦略せんりゃく想定そうていしている事態じたいふくあいてきであり、その領域りょういき広範囲こうはんいである。しかもだい戦略せんりゃく独立どくりつして作動さどうするのではなく、複数ふくすう行為こうい主体しゅたいだい戦略せんりゃく相互そうご影響えいきょうって機能きのうするためである。

この概念がいねん提唱ていしょうしゃであるベイジル・リデル=ハートそう力戦りきせん様相ようそうていしただい世界せかい大戦たいせんまえながら、だい戦略せんりゃく国民こくみんすべての資源しげん協調きょうちょうさせ、また方向付ほうこうづけること、もしくは国民こくみん根本こんぽんてき政策せいさくによって定義ていぎされた目標もくひょうむすびつけることであるとしてとらえている。リデル・ハートが強調きょうちょうしていることは、戦略せんりゃく戦争せんそう勝利しょうりだけを徹底てっていすることが戦後せんご平和へいわにとってぎゃく効果こうかをもたらしうるということにあった。だからこそ、軍事ぐんじ戦略せんりゃく上位じょうい概念がいねんとしてだい戦略せんりゃく位置いちづけることにより、戦争せんそうをより戦略せんりゃくてき遂行すいこうすることができるとかんがえた。このようなだい戦略せんりゃく概念がいねん核兵器かくへいき背景はいけいとする冷戦れいせん構造こうぞうした抑止よくし(detterence)を中心ちゅうしんとする概念がいねんへと発展はってんしていった。だい戦略せんりゃくという用語ようごはより軍事ぐんじてき側面そくめん強調きょうちょうした国家こっか安全あんぜん保障ほしょう戦略せんりゃく(national security strategy)や国家こっか戦略せんりゃく(national strategy)ともばれるようになる。

原理げんり

[編集へんしゅう]

戦略せんりゃく目標もくひょう

[編集へんしゅう]

だい戦略せんりゃくにおいてだいいち問題もんだいとなるのは目的もくてきであり、これがあらゆる戦略せんりゃくてき手段しゅだん指向しこうする中心ちゅうしんてんとなる。どのような国家こっかでも国家こっか生存せいぞん安全あんぜん保障ほしょうこそが死活しかつてき利益りえき(vital interest)であるが、背景はいけいとなる国際こくさい情勢じょうせい国内こくない政治せいじ情勢じょうせいによって目的もくてきはさまざまな意味いみ内容ないようつ。だい戦略せんりゃく課題かだいはこの政治せいじてき決定けっていされる目的もくてきから具体ぐたいてき目標もくひょうみちびすことであり、それは国益こくえき脅威きょうい明確めいかくすることを意味いみする。戦略せんりゃく国内こくない政治せいじ情勢じょうせいからこの作業さぎょうすすめるが、一般いっぱん国益こくえきかんすることなる見解けんかい競合きょうごうしながら並存へいそんしている。しかもその戦略せんりゃく目標もくひょうつね流動的りゅうどうてきでありうる。ウィリアム・マーレーとマーク・グリムズリーが戦略せんりゃく形成けいせい過程かていかんする研究けんきゅうなかで、だい戦略せんりゃく確実かくじつせい曖昧あいまいせい偶然ぐうぜんせいなか形成けいせいされていることをろんじている。そして、地理ちり歴史れきし世界せかいかん経済けいざいてき要因よういん政府せいふ軍事ぐんじ組織そしき戦略せんりゃくめる重要じゅうよう要因よういんとなっているとべている。

まずだい戦略せんりゃく大前提だいぜんていとして定義ていぎされるの行動こうどう指針ししん国家こっか基本きほん利益りえき(The national interest)により規定きていされる。これは普遍ふへんてきかつ永続えいぞくてき国家こっか活動かつどう目的もくてきであり、国是こくぜ国家こっか価値かちともばれる。これは抽象ちゅうしょうてき国家こっか安全あんぜん個人こじん自由じゆう戦争せんそう戦争せんそう脅威きょうい排除はいじょ生活せいかつ水準すいじゅん向上こうじょうなどとしてまとめられているが、国益こくえき(National interest)として政府せいふ首脳しゅのうにより政治せいじてき明確めいかくされる。国益こくえき確保かくほ、または保持ほじするための国家こっか目的もくてき(National objectives)がさだめられ、ここで戦争せんそう防止ぼうし国土こくど防衛ぼうえい地域ちいきてき安定あんてい友好国ゆうこうこくとの団結だんけつ、または戦争せんそう勝利しょうりなどがげられる。この国家こっか目的もくてき達成たっせいするための活動かつどう方針ほうしんとしてさだめられるのが国家こっか政策せいさく(National policies)である。政治せいじ外交がいこう軍事ぐんじ経済けいざい心理しんりなどのしょちからをまとめあげる。そしてだい戦略せんりゃくはこの国家こっか政策せいさく実施じっしするじょう競合きょうごうする他国たこく対処たいしょしながらしょちから効果こうかてき活用かつようする計画けいかくとしてさだまり、そのもと軍事ぐんじ戦略せんりゃくなどが策定さくていされる[1]

戦略せんりゃく手段しゅだん

[編集へんしゅう]

だい戦略せんりゃくつぎ問題もんだいとなるのは政策せいさく実施じっしするための手段しゅだんである。国家こっか権力けんりょく資源しげん外交がいこう交渉こうしょう軍事ぐんじ同盟どうめい宣伝せんでん活動かつどう国際こくさいほう貿易ぼうえき取引とりひき経済けいざい制裁せいさい武力ぶりょく行使こうしなど様々さまざま局面きょくめん反映はんえいされ、だい戦略せんりゃく直接的ちょくせつてきにそれら国力こくりょく創造そうぞうし、管理かんりし、運用うんようするよう指導しどうする。しかしジョン・コリンは国力こくりょくといっても軍事ぐんじりょくがいくつかある要素ようそひとつにぎないことに注意ちゅういうながしている。かれ軍事ぐんじ戦略せんりゃく武力ぶりょく行使こうしつうじた勝利しょうり追及ついきゅうである一方いっぽうで、だい戦略せんりゃくにおいて戦争せんそう勝利しょうり同等どうとう平和へいわ維持いじ重要じゅうようであることを指摘してきする。そしてだい戦略せんりゃく軍事ぐんじ戦略せんりゃく管理かんりし、それをひとつの要素ようそとしてあつかうものであるとべている。さらにエドワード・ルトワックはだい戦略せんりゃくあつかうものは顕在けんざいてき能力のうりょくだけでなく、潜在せんざいてき能力のうりょくをもふくみ、両者りょうしゃはトレードオフの関係かんけいにあることを指摘してきしている。だい戦略せんりゃく手段しゅだんとして動員どういん可能かのう軍事ぐんじりょく経済けいざいりょく基盤きばんには人口じんこう規模きぼ技術ぎじゅつ発展はってん教育きょういく水準すいじゅんなどがある。

だい戦略せんりゃく政治せいじりょく経済けいざいりょく心理しんりりょく軍事ぐんじりょくの4種類しゅるい国力こくりょく発展はってんし、また運用うんようするものである。政治せいじりょく国民こくみんせい国家こっか安定あんていせい政治せいじてきリーダーシップ、そして国民こくみん全般ぜんぱん能力のうりょくなどに規定きていされる。つぎ経済けいざいりょく国家こっか利用りよう可能かのう資源しげん産業さんぎょう交通こうつうもう国際こくさい貿易ぼうえき戦時せんじ耐久たいきゅうせいなどに規定きていされる。心理しんりりょく国民こくみん団結だんけつ社会しゃかいてき安定あんてい国家こっか機構きこう性格せいかく活力かつりょく、また愛国心あいこくしん国民こくみん士気しき忍耐にんたいりょく奉仕ほうし精神せいしんなどで規定きていされる能力のうりょくであり、また外国がいこく政府せいふ外国がいこく国民こくみん了承りょうしょう援助えんじょをもふくむ。最後さいご軍事ぐんじりょく兵員へいいんすう装備そうびすう資源しげん工業こうぎょう能力のうりょく人口じんこう国民こくみん士気しきなどに規定きていされる。だい戦略せんりゃくでは運用うんようされるこれらしょ能力のうりょくをどのように組合くみあわせる戦略せんりゃく最適さいてきであるかを問題もんだいとして、相手あいてこく保持ほじする能力のうりょくをも考慮こうりょしながら最適さいてき追求ついきゅうする。これら種類しゅるい手段しゅだんトレードオフ関係かんけいにあるために、相手あいてこくたいして優位ゆうい確保かくほするためには集中しゅうちゅうてき国力こくりょく開発かいはつ必要ひつようでありながらも、政治せいじりょく心理しんりりょく経済けいざいりょく軍事ぐんじりょくなどは相互そうご依存いぞんしている能力のうりょくであるために、均衡きんこうのとれた国力こくりょく開発かいはつもとめられる。

事例じれい研究けんきゅう

[編集へんしゅう]
ペロポネソス戦争せんそう
アテナイ当時とうじ最強さいきょう海軍かいぐんち、古代こだいギリシア周辺しゅうへん重要じゅうようみなとをいくつも支配しはいしていた。スパルタペロポネソス同盟どうめい強力きょうりょく陸軍りくぐんち、古代こだいギリシャの心臓しんぞうともいえる地域ちいき支配しはいしていた。アテナイの急速きゅうそく成長せいちょうおそれたスパルタによってペロポネソス戦争せんそうはじめられた。国内こくないおおくの抑圧よくあつみんかかえるスパルタには長期間ちょうきかん遠征えんせい無理むりだったため、直接ちょくせつアテナイを攻略こうりゃくする戦略せんりゃくをとった。一方いっぽう、アテナイの指導しどうしゃペリクレス籠城ろうじょうせんえらんだ。陸戦りくせんいて得意とくい海戦かいせんでスパルタを圧倒あっとうする作戦さくせんだった。
イギリス帝国ていこくうみ支配しはい
イギリス帝国ていこくは、その歴史れきしだい部分ぶぶんで、「maritime」または「blue water」だい戦略せんりゃくばれるものを追求ついきゅうした。この戦略せんりゃく中心ちゅうしんとなるのは、うみとくイギリス海峡かいきょう北海ほっかい―を支配しはいするための強力きょうりょく海軍かいぐん整備せいびであり、これは帝国ていこく侵略しんりゃくからまもることにもなった。そのため、イギリス帝国ていこくは、植民しょくみんにおいて水陸すいりくどちらの作戦さくせんにも使つかわれうるわずかな陸軍りくぐんしか必要ひつようとしなかった。このだい戦略せんりゃく英国えいこくが、海軍かいぐんより負担ふたんおおきくなりがちなだい規模きぼ陸軍りくぐん常設じょうせつするのに必要ひつよう負担ふたんをなくしただけでなく、おも海上かいじょう交通こうつう支配しはいつうじた貿易ぼうえき後押あとおしすることにもなった。
だい世界せかい大戦たいせん
現代げんだいだい戦略せんりゃく典型てんけいてきれいは、だい世界せかい大戦たいせんでの、連合れんごうこくによる、まずドイツやぶることに集中しゅうちゅうするという決定けっていである。これは真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきによってアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく参戦さんせんしたのちになされた共同きょうどう協定きょうていである。ドイツが枢軸すうじくこくでもっとも強力きょうりょくであり、イギリスソビエト連邦れんぽう存続そんぞく直接ちょくせつおどかしていたためになされた。反対はんたい日本にっぽん真珠湾しんじゅわん攻撃こうげきにより開戦かいせんした太平洋戦争たいへいようせんそうは、大衆たいしゅう注目ちゅうもくあつめていたが、ほとんどが計画けいかく立案りつあんしゃ政策せいさく決定けっていしゃにとっては必要ひつようせいひく植民しょくみん地域ちいきにおけるものだったため、太平洋戦争たいへいようせんそうでの連合れんごうぐん具体ぐたいてき戦略せんりゃくは、戦域せんいき司令しれいかんあたえられたすくない戦力せんりょくてられた。
冷戦れいせん時代じだいふう政策せいさく
冷戦れいせんでは、より近年きんねんだい戦略せんりゃくれいである、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくによるふう政策せいさくがなされた。
中国ちゅうごく人民じんみん解放かいほうぐん規模きぼ縮小しゅくしょう
軍事ぐんじ要素ようそ経済けいざい要素ようそ双方そうほうれただい戦略せんりゃくれいで、1980年代ねんだい初頭しょとう中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく指導しどうは、人民じんみん解放かいほうぐん規模きぼ縮小しゅくしょうし、よりおおくの資源しげん民間みんかん使つかえるようにした。これは民間みんかん経済けいざい成長せいちょうが、将来しょうらい軍備ぐんび近代きんだいたすけるだろうとかんがえてなされた。

脚注きゃくちゅう

[編集へんしゅう]
  1. ^ これら国益こくえきだい戦略せんりゃく関係かんけいについてはJ.D.ニコラス空軍くうぐん大佐たいさ、G.B.ピケット陸軍りくぐん大佐たいさ、W.O.スピアーズ海軍かいぐん大佐たいさちょ野中のなかいく次郎じろうたに光太郎こうたろうわけ統合とうごうぐん参謀さんぼうマニュアル』(白桃はくとう書房しょぼう昭和しょうわ62ねん)を参照さんしょう

関連かんれん項目こうもく

[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん

[編集へんしゅう]
  • Collins, J. M. 1973. Grand strategy: Principles and practices. Annapolis, Md.: U.S. Naval Institute.
  • Gaddis, J. L. 1982. Strategies of containment. New York: Oxford Univ. Press.
  • Gaddis, J. L. 1987-88. Containment and the logic of strategy. The National Interest 10:27-38.
  • Holsti, K. J. 1976. The study of diplomacy. In World politics, ed. J. N. Rosenau and K. W. Thompson. New York: Free Press.
  • Johnson, W. 1986-87. The containment of John Gaddis. The national Interest 6:84-94.
  • Kennedy, P. 1987. The rise and fall of the great powers. New York: Random House.
    • 決定けっていばん 大国たいこく興亡こうぼう: 1500ねんから2000ねんまでの経済けいざい変遷へんせん軍事ぐんじ闘争とうそうじょうした鈴木すずき主税ちからやくくさおもえしゃ、1993ねん
  • Kissinger, H. 1979. White House years. Boston: Little, Brown.
    • 『キッシンジャー秘録ひろく(1-5)』斎藤さいとう彌三郎やさぶろうほかやく小学館しょうがくかん、1979-1980ねん
  • Kissinger, H. 1982. Years of upheaval. Boston: Little, Brown.
    • 『キッシンジャー激動げきどう時代じだい(1-3)』読売新聞よみうりしんぶん調査ちょうさ研究けんきゅう本部ほんぶやく小学館しょうがくかん、1982ねん
  • Liddle Hart, B. H. 1954. Strategy. New York: Praeger.
  • Luttwak, E. N. 1987. Strategy: The logic of war and peace. Cambridge: Harvard Univ. Press.
  • Murray, W., Knox, M., Bernstein, A. eds. 1994. The making of strategy. Cambridge: Cambridge Univ. Press.
    • 戦略せんりゃく形成けいせい 支配しはいしゃ国家こっか戦争せんそう 上下じょうげ石津いしづ朋之ともゆき永末ながすえさとし監訳かんやく中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ、2007ねん
  • National Security Council. 1987ff. National security strategy of the United States. Washington, D.C.: Brassey's.
  • Osgood, R. E. 1983. American grand strategy. Naval War College Review 36:5-17, 91-113.
  • Schelling, T. C. 1960. The strategy of conflict. Cambridge: Harvard Univ. Press.
    • 紛争ふんそう戦略せんりゃく――ゲーム理論りろんのエッセンス』河野こうのまさる監訳かんやく勁草書房しょぼう、2008ねん