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戦略せんりゃく

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戦略せんりゃく(せんりゃく、えい: strategy)は、一般いっぱんてきには特定とくてい目的もくてき達成たっせいするために、長期ちょうきてき視野しやふくあい思考しこうちから資源しげん総合そうごうてき運用うんようする技術ぎじゅつ応用おうよう科学かがくである[注釈ちゅうしゃく 1]

概説がいせつ

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戦略せんりゃく特定とくてい目的もくてき達成たっせいのために、総合そうごうてき調整ちょうせいつうじてちから資源しげん効果こうかてき運用うんようする技術ぎじゅつ理論りろんである。ただし戦略せんりゃく定義ていぎ時代じだい地域ちいき分野ぶんやによってその意味いみことなる。戦略せんりゃくはもともと戦争せんそうじゅつから戦術せんじゅつあわせて分化ぶんかした概念がいねんであり、軍事ぐんじがく専門せんもん用語ようごであった。

軍事ぐんじてき分野ぶんや限定げんていした定義ていぎ一様いちようではないが、一般いっぱんてき戦略せんりゃく戦闘せんとう部隊ぶたい戦場せんじょう優位ゆういてるようにするための巨視的きょしてき策略さくりゃくであり、一連いちれん戦闘せんとうにおける勝利しょうりこう次元じげん最大限さいだいげん利用りようする術策じゅっさくである。これに対応たいおうして戦術せんじゅつ戦闘せんとうにおいて勝利しょうりるために部隊ぶたい運用うんようするじゅつである[1]

戦略せんりゃく研究けんきゅう途上とじょうにあり、また、だい世界せかい大戦たいせん日本にっぽんでは企業きぎょう経営けいえい戦略せんりゃくのように使用しようされたり、経済けいざい戦略せんりゃく外交がいこう戦略せんりゃくのように政策せいさく同義語どうぎごとして使用しようされることもおおく、また戦略せんりゃくてきという形容詞けいようし多用たようされることもかさなって、その定義ていぎ拡散かくさんしている。

歴史れきし

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初期しょき戦略せんりゃく

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現存げんそんする史料しりょうからかんがえて、世界せかい最初さいしょ戦略せんりゃく概念がいねん使用しようしたのは孫子まごこだとかんがえられる。戦略せんりゃくという言葉ことばこそてこないものの、国家こっか戦略せんりゃく戦争せんそう哲学てつがくしめし、また軍事ぐんじがくてき戦術せんじゅつ軍事ぐんじ地理ちり内容ないようろんじて戦略せんりゃく思考しこうほうしめしており、今日きょうにおいても孫子まごこきわめてすぐれた戦略せんりゃく教書きょうしょかんがえられている。ヨーロッパにおける戦略せんりゃく概念がいねんクセノポン将軍しょうぐんまたは将軍しょうぐん軍隊ぐんたい指揮しき意味いみする「στρατεγος」「στρατεγια」という言葉ことばもちいたのにはじまり[よう出典しゅってん]、これが戦略せんりゃく語源ごげんとなった。しかしながら当時とうじ戦略せんりゃく定義ていぎ曖昧あいまいであり、戦略せんりゃく戦術せんじゅつ区別くべつされずに戦争せんそうじゅつへいじゅつとして理解りかいしていたために、現代げんだいのような意味いみかならずしもたなかった。

戦略せんりゃく戦術せんじゅつ分化ぶんか

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ニッコロ・マキャヴェッリ近代きんだい西欧せいおうにおける軍事ぐんじ思想しそう始祖しそてき存在そんざいである。『戦術せんじゅつろん』において「戦争せんそう目的もくてきは、自己じこ意志いし相手あいて強制きょうせいすることによって、てき完全かんぜん敗北はいぼくという成果せいかて、すみやかに終結しゅうけつさせなければならない」とさだめ、てき軍事ぐんじりょく破壊はかいする戦略せんりゃく主張しゅちょうした。ナポレオン1せいはマキャヴェッリの思想しそう継承けいしょうしており、「だい戦術せんじゅつ」という言葉ことばもちいて通常つうじょう戦術せんじゅつ区別くべつし、大局たいきょくてき戦争せんそう指導しどうおこなって戦略せんりゃく戦術せんじゅつ概念がいねん分化ぶんかした。このころ[いつ?]ポール・ギデオン・ジョリィ・マイゼロアは、古代こだい戦史せんし研究けんきゅうから西欧せいおうはじめて戦略せんりゃく戦術せんじゅつ用語ようご区別くべつして使用しようし、戦略せんりゃく用語ようご概念がいねん西洋せいよう普及ふきゅうさせた[2]

この戦略せんりゃく概念がいねん当時とうじ[いつ?]ナポレオン戦争せんそう研究けんきゅうしていたおおくの軍事ぐんじ学者がくしゃたちに影響えいきょうあたえた。カール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争せんそうろん』で個々ここ戦闘せんとう問題もんだいとなる戦術せんじゅつ対比たいひし「戦略せんりゃくとは戦争せんそう目的もくてき達成たっせいするために戦闘せんとうわせる活動かつどうだ」とべ、戦略せんりゃく戦争せんそうでの使用しよう目的もくてき限定げんていした。これはのち[いつ?]クラウゼヴィッツ主義しゅぎ軍事ぐんじ研究けんきゅうしゃたちによって過剰かじょう教条きょうじょうされ、決戦けっせん至上しじょう主義しゅぎす。またアントワーヌ=アンリ・ジョミニの『戦争せんそう概論がいろん』では「戦略せんりゃくとは地図ちずうえにおいて戦争せんそう計画けいかくする技術ぎじゅつであり、作戦さくせん全体ぜんたい包括ほうかつする」と定義ていぎして、戦略せんりゃく戦争せんそう目的もくてき限定げんていした。さらにヘルムート・カール・ベルンハルト・フォン・モルトケは「戦略せんりゃく知識ちしき以上いじょうであり、実際じっさい生活せいかつへの応用おうようであり、流動的りゅうどうてき状況じょうきょうしたが創造そうぞうてき思考しこう発展はってんであり、困難こんなん状況じょうきょうにおける行為こうい芸術げいじゅつである」とべている。

陸海空りくかいくう戦略せんりゃく分化ぶんか

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戦略せんりゃく軍事ぐんじ戦略せんりゃくとして歴史れきしてき発展はってんげてきた。ただし軍事ぐんじ戦略せんりゃくにおいても陸海空りくかいくうぐん基本きほんてきまったことなる前提ぜんていしたたたかっているため、それぞれの独自どくじ戦略せんりゃく発展はってんしてきている。軍事ぐんじ戦略せんりゃくはその系譜けいふ主流しゅりゅう陸軍りくぐん陸上りくじょう作戦さくせん前提ぜんていとなった陸軍りくぐん戦略せんりゃくであり、海軍かいぐん戦略せんりゃく空軍くうぐん戦略せんりゃく軍艦ぐんかん軍用ぐんよう技術ぎじゅつてき発展はってんともなって進歩しんぽしてきた。

海軍かいぐん戦略せんりゃく基礎きそ確立かくりつしたのはジュリアン・コルベットである。コルベットは戦略せんりゃく一般いっぱんについて、最終さいしゅう目的もくてき追求ついきゅうする全体ぜんたい戦略せんりゃく初期しょき目的もくてき追求ついきゅうするしょう戦略せんりゃくとにけ、戦略せんりゃく階層かいそうこころみている。海軍かいぐん戦略せんりゃくについては「陸地りくち支配しはいのために海洋かいよう支配しはいすべき」として制海権せいかいけん確立かくりつ体系たいけいさせた。またコーベットのいち世代せだいまえアルフレッド・セイヤー・マハン制海権せいかいけん関連かんれん事項じこうについてろんじている。

空軍くうぐん戦略せんりゃくおおきな貢献こうけんをした軍事ぐんじ学者がくしゃとしてジュリオ・ドゥーエげられる。かれだいいち世界せかい大戦たいせんころから航空機こうくうき軍事ぐんじてき重要じゅうようせい認識にんしきし、戦略せんりゃく爆撃ばくげき実施じっしやそのための独立どくりつ空軍くうぐん創設そうせつ主張しゅちょうしていた。

きん現代げんだい戦略せんりゃく理論りろん

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だいいち世界せかい大戦たいせんだい世界せかい大戦たいせんというそう力戦りきせん冷戦れいせんて、戦略せんりゃくあたらしい発展はってんせた。中国ちゅうごく人民じんみん解放かいほう戦争せんそう指導しどうした毛沢東もうたくとう地方ちほう農民のうみん教化きょうかし、日本にっぽんぐんたいしてだい規模きぼゲリラせん仕掛しかけ、独自どくじ戦略せんりゃく思想しそう確立かくりつした。このような思想しそうのちヴォー・グエン・ザップフィデル・カストロチェ・ゲバラなどももちいて成功せいこうしている。まただいいち世界せかい大戦たいせん将校しょうこうとして従軍じゅうぐんして軍事ぐんじ評論ひょうろんとなったベイジル・リデル=ハート間接かんせつアプローチ戦略せんりゃく理論りろんし「直接的ちょくせつてき武力ぶりょく衝突しょうとつではないあたらしい間接かんせつてき手法しゅほうによって勝利しょうりすべき」とろんじた。

冷戦れいせんにおいては核兵器かくへいきというあらたな大量たいりょう破壊はかい兵器へいき出現しゅつげんにより、抑止よくしおも概念がいねんとしたかく抑止よくし戦略せんりゃく構築こうちくされた。これは軍事ぐんじ目的もくてきをはるかにえる破壊はかいりょく核兵器かくへいき軍事ぐんじ戦略せんりゃく位置いちづけるために構築こうちくされた戦略せんりゃく理論りろんであり、以下いかの3つに大別たいべつされる。

抑止よくしのためのかく戦略せんりゃく
核兵器かくへいき兵器へいき相応ふさわしくなく、あくまで抑止よくしのために使用しようする(バーナード・ブローディなど)
拒否きょひのためのかく戦略せんりゃく
核兵器かくへいき兵器へいきであり、拒否きょひのために使用しようする(ボーデンなど)
限定げんていてき段階だんかいてきかく攻撃こうげき
核兵器かくへいき兵器へいきであるが威力いりょく絶大ぜつだいであるため、限定げんていてき段階だんかいてき使用しようする(アルバート・ウォルステッターなど)

1999ねんには中国ちゅうごくちょうきりせんという概念がいねん提出ていしゅつされている[3][ようページ番号ばんごう]

定義ていぎ

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戦略せんりゃく概念がいねん戦術せんじゅつがくなかから発展はってんしてきた」という歴史れきしてき経緯けいいもあるため、戦略せんりゃく定義ていぎ非常ひじょう多様たようであり、一概いちがいうのはむずかしい。

陸軍りくぐん定義ていぎ

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陸軍りくぐんではしばしば部隊ぶたい規模きぼによって戦略せんりゃく戦術せんじゅつ区別くべつしてかんがえていた。そのため戦略せんりゃく定義ていぎめぐ論争ろんそうではゆう視界しかい距離きょりによって戦略せんりゃく戦術せんじゅつ区別くべつした定義ていぎ一時いちじてきられたが、これはクラウゼヴィッツなどによって否定ひていされた[よう出典しゅってん]大日本帝国だいにっぽんていこく陸軍りくぐんにおいてはりく大兵だいひょうかいによると、戦略せんりゃくとは「作戦さくせん計画けいかく立案りつあんしてその実行じっこう統制とうせいし、部隊ぶたい行動こうどう方向ほうこう目的もくてき時期じき場所ばしょなどの関係かんけいせいさだめて適切てきせつ調整ちょうせいし、会戦かいせん優勢ゆうせいみちび戦果せんか拡大かくだいするための方策ほうさく」で、戦術せんじゅつは「戦闘せんとうでの勝利しょうり獲得かくとくのための戦闘せんとう実施じっしじゅつ」であった。

海軍かいぐん定義ていぎ

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海軍かいぐんではしばしば彼我ひが距離きょり関係かんけいによって戦略せんりゃく戦術せんじゅつ区別くべつした。大日本帝国だいにっぽんていこく海軍かいぐんでは戦略せんりゃくを「てき離隔りかくしてわが兵力へいりょく運用うんようするへいじゅつ」と定義ていぎしている。また日本にっぽん海軍かいぐん作戦さくせん参謀さんぼうであった秋山あきやま真之まさゆき戦略せんりゃく戦術せんじゅつ上位じょういいて、「これを指導しどうし、よって戦闘せんとう時期じき場所ばしょ戦力せんりょくなどをさだめるものであり」と位置いちづけていた[4]

一般いっぱん定義ていぎ

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戦略せんりゃく一般いっぱんてき定義ていぎについてはいま研究けんきゅう途上とじょうである。ハーバード大学だいがくトーマス・シェリング教授きょうじゅは、戦略せんりゃく勢力せいりょく適用てきようではなく潜在せんざいてき勢力せいりょく発掘はっくつであるとし、取引とりひきのプロセスというモデルでこれを説明せつめいした。またロジンスキー教授きょうじゅ戦略せんりゃくを「ちから総合そうごうてき制御せいぎょ」と定義ていぎし、戦術せんじゅつはその直接的ちょくせつてき運用うんようであるとろんじた。つまり戦略せんりゃくとは「あらゆる行動こうどう総合そうごうてき調整ちょうせい最適さいてき選択せんたく」であるとかんがえた。ただし近年きんねんでは企業きぎょう経営けいえいスポーツにまで軍事ぐんじ用語ようご戦略せんりゃく概念がいねん応用おうようされているためにあたらしく定義ていぎされ、「長期ちょうきてき大局たいきょくてき観点かんてんから物事ものごと見通みとおして行動こうどう調整ちょうせいする技術ぎじゅつ」としてさい認識にんしきされるようになっている[4]

戦略せんりゃく構造こうぞう概念がいねん

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現代げんだいにおいて戦略せんりゃく戦術せんじゅつ概念がいねんおおきく発展はってんし、おおむおおくのくに以下いかのように体系たいけいされている[5][6][7][ようページ番号ばんごう]

国家こっか理念りねん
あらゆる戦略せんりゃく根幹こんかんとなる基本きほん理念りねんであり、究極きゅうきょくてき最終さいしゅう目的もくてきやそれをまえた目標もくひょうなどをさだめる
国家こっか方針ほうしん[注釈ちゅうしゃく 2]
国家こっか理念りねんもとづいた国家こっか目的もくてき達成たっせいするために政治せいじてき軍事ぐんじてき外交がいこうてき経済けいざいてき心理しんりてき政策せいさく整合せいごうてき方針ほうしんとしてまとめたもの
国家こっか戦略せんりゃく[注釈ちゅうしゃく 3]
国家こっか方針ほうしん沿って国家こっか目的もくてき達成たっせいするための統合とうごうてき戦略せんりゃくであり、だい戦略せんりゃく統合とうごう戦略せんりゃく全体ぜんたい戦略せんりゃくとも
軍事ぐんじ戦略せんりゃく[注釈ちゅうしゃく 4]
国家こっか戦略せんりゃくもとづいた軍事ぐんじ行政ぎょうせい軍事ぐんじ作戦さくせん全体ぜんたいてき戦略せんりゃくである
作戦さくせん戦略せんりゃく[注釈ちゅうしゃく 5]
軍事ぐんじ作戦さくせん実行じっこうするじょうでの戦略せんりゃくであり、部隊ぶたい作戦さくせん行動こうどう指導しどうする
戦術せんじゅつ[注釈ちゅうしゃく 6]
戦闘せんとう指導しどうする術策じゅっさく狭義きょうぎ戦略せんりゃく一部いちぶふくむにまり、戦略せんりゃくとはことなる概念がいねんである。

また以下いかのような政治せいじ軍事ぐんじ以外いがい戦略せんりゃく国家こっか戦略せんりゃく下位かいもうけられる:

外交がいこう戦略せんりゃく
国家こっか戦略せんりゃくもとづいた外交がいこう政策せいさく全体ぜんたいてき戦略せんりゃく
経済けいざい戦略せんりゃく[注釈ちゅうしゃく 7]
国家こっか戦略せんりゃくもとづいた国家こっか経済けいざい全体ぜんたいてき戦略せんりゃく
技術ぎじゅつ戦略せんりゃく
国家こっか戦略せんりゃくもとづいた国際こくさいてき技術ぎじゅつ開発かいはつ競争きょうそう全体ぜんたいてき戦略せんりゃく
心理しんり戦略せんりゃく
国家こっか戦略せんりゃくもとづいた国家こっか心理しんりせん全体ぜんたいてき戦略せんりゃく

国家こっか戦略せんりゃく

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国家こっか戦略せんりゃく概観がいかん

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国家こっか指導しどう立場たちばった政治せいじ戦略せんりゃくは、国家こっか戦略せんりゃく政戦せいせんりゃくなどとばれる。国家こっか目的もくてき国力こくりょくもとづいて、国内外こくないがい情勢じょうせい総合そうごうてき判断はんだんして策定さくていされる総合そうごうてき戦略せんりゃくである。これにもとづいて軍事ぐんじ戦略せんりゃく外交がいこう戦略せんりゃくなどの戦略せんりゃく規定きていする。その重要じゅうようせい部分ぶぶんてき軍事ぐんじてき経済けいざいてき合理ごうりせいしのぐ。国家こっか戦略せんりゃくによりもたらされる致命ちめいてき失敗しっぱい軍事ぐんじ戦略せんりゃく外交がいこう戦略せんりゃくなどの下位かい戦略せんりゃくでは回復かいふくできない。

国家こっか戦略せんりゃく歴史れきしにおいてしばしば軍事ぐんじ戦略せんりゃくとその関係かんけい逆転ぎゃくてんすることがあったが、そうじて戦略せんりゃくてき失敗しっぱいえの戦術せんじゅつてき勝利しょうり回復かいふくできない」[よう出典しゅってん]ことをしめしている。だいいち世界せかい大戦たいせんドイツぐん参謀さんぼう総長そうちょうエーリヒ・ルーデンドルフは、国家こっかそう力戦りきせん状況じょうきょうかんがみて「政治せいじ戦争せんそう指導しどうのために実施じっししてそう力戦りきせん対応たいおうすべき」と主張しゅちょうした。このような軍事ぐんじてき合理ごうりせい重視じゅうしするかんがかたヘルムート・ヨハン・ルートヴィヒ・フォン・モルトケなどにもれられたため、当時とうじのドイツの政策せいさく決定けっていおおきく関与かんよした。しかし軍事ぐんじてき合理ごうりせい追求ついきゅうした結果けっか、ドイツぐん中立ちゅうりつこくであったベルギー経由けいゆするフランスへの攻勢こうせい作戦さくせんによりイギリスの、また制限せいげん潜水せんすいかん作戦さくせんによってアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく参戦さんせんまねくという戦略せんりゃくてき失敗しっぱいおかした。この代償だいしょうとしてドイツは170まんにんえる戦死せんししゃ莫大ばくだい賠償金ばいしょうきん社会しゃかいてき混乱こんらん、そして国家こっか体制たいせい破綻はたん支払しはらうこととなった。

国家こっか戦略せんりゃくという概念がいねんやその実態じったい非常ひじょう包括ほうかつてき曖昧あいまいである。国家こっか戦略せんりゃくを「その国家こっか地理ちり基本きほん理念りねんまえたうえ軍事ぐんじ外交がいこう経済けいざい心理しんりなどから国際こくさい関係かんけい情勢じょうせい判断はんだんし、歴史れきしてき経験けいけんやそのなかつちかわれた戦略せんりゃく文化ぶんかもとづいて組織そしきてき形成けいせい運用うんようされるもの」と位置いちづけられるが、人間にんげん社会しゃかい複雑ふくざつせい曖昧あいまいせいかんがみた場合ばあいには国家こっか戦略せんりゃく概念がいねんはかなり不確ふたしかなものとならざるをえない。ただ「国家こっかとはさまざまな社会しゃかいシステムの有機ゆうきてきふく合体がったいであり、それらシステムの総力そうりょく調和ちょうわてき計画けいかくてき運用うんようして生存せいぞん発展はってん維持いじするためには、総合そうごうてき情勢じょうせい認識にんしき政治せいじてき決断けつだんとその支持しじかく分野ぶんや長期ちょうきてき目標もくひょう行動こうどう方針ほうしん、すなわち戦略せんりゃく必要ひつようである」とは確実かくじつえる。そして「国家こっか戦略せんりゃく中核ちゅうかくとなるのは軍事ぐんじ経済けいざい文化ぶんかなどあらゆるめんいて支配しはいてき影響えいきょうおよぼす政治せいじにおける戦略せんりゃくである」と位置いちづけることができる。

軍事ぐんじ戦略せんりゃく

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軍事ぐんじ戦略せんりゃく概観がいかん

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軍事ぐんじ戦略せんりゃく平時へいじ戦時せんじにおける戦力せんりょく整備せいび教育きょういく訓練くんれん戦力せんりょく運用うんようかんする全体ぜんたいてき戦略せんりゃくである。外交がいこう戦略せんりゃくとも密接みっせつ関係かんけいしており、まとめて安全あんぜん保障ほしょう戦略せんりゃくとしてかんがえられることもある。これは戦争せんそう指導しどうという概念がいねんでもある。

決戦けっせん戦略せんりゃく持久じきゅう戦略せんりゃく

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軍事ぐんじ戦略せんりゃく戦争せんそう勃発ぼっぱつ想定そうていして、国家こっか軍事ぐんじ政策せいさく実行じっこう指導しどうする。軍事ぐんじ戦略せんりゃくはしばしば決戦けっせん戦略せんりゃく持久じきゅう戦略せんりゃく区分くぶんされる:

決戦けっせん戦略せんりゃく
勝利しょうりねらって迅速じんそくかつ効率こうりつてきてき戦力せんりょく殲滅せんめつ実行じっこうする。攻勢こうせい戦略せんりゃく相当そうとうし、優勢ゆうせい軍事ぐんじりょくをもって現状げんじょう優位ゆうい拡張かくちょうしようとする。
持久じきゅう戦略せんりゃく
不敗ふはいねらって戦力せんりょく温存おんぞん長期ちょうきせん実行じっこうする。ぼうぜい戦略せんりゃく相当そうとうし、劣勢れっせい軍事ぐんじりょくをもって現状げんじょう劣位れつい縮小しゅくしょうしようとする。

抑止よくし戦略せんりゃくあいだ接戦せっせんりゃく

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だいいち世界せかい大戦たいせんだい世界せかい大戦たいせんつうじて「直接的ちょくせつてき武力ぶりょく行使こうしでは不用ふよう殺戮さつりく破壊はかいをもたらしかねない」という反省はんせいられた。そのため戦争せんそう勝利しょうり戦略せんりゃくだけでなく、抑止よくし戦略せんりゃく形成けいせいされた。抑止よくしとは戦力せんりょく準備じゅんびにより、てき軍事ぐんじ行動こうどうることによって予想よそうされる費用ひよう効果こうかわない状況じょうきょうつくし、軍事ぐんじ行動こうどうふせぐことである。

あいだ接戦せっせんりゃくとはボーフルが提唱ていしょうしたもので、軍事ぐんじじょう勝利しょうり以外いがい手段しゅだんによって政治せいじ目的もくてき達成たっせいする戦略せんりゃくである。これとたものにリデル・ハートの間接かんせつアプローチ戦略せんりゃくがある。これはてきとの正面しょうめん衝突しょうとつ回避かいひしながら後方こうほうてき弱点じゃくてんたたくことで勝利しょうりする戦略せんりゃくである。

陸上りくじょう海洋かいよう航空こうくう戦略せんりゃく

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陸上りくじょう戦略せんりゃく
陸上りくじょうにおける戦略せんりゃく、すなわち陸軍りくぐん戦略せんりゃく陸上りくじょうけん確立かくりつという要点ようてんがある。クラウゼヴィッツらによって構築こうちくされた。
海洋かいよう戦略せんりゃく
海洋かいようにおける戦略せんりゃく、すなわち海軍かいぐん戦略せんりゃく。「制海権せいかいけん確立かくりつ」および「陸上りくじょうけん確立かくりつのための制海権せいかいけん活用かつよう」の2つの要点ようてんがある。コルベット、マハンらによって構築こうちくされた。
航空こうくう戦略せんりゃく
空域くういきにおける戦略せんりゃく、すなわち空軍くうぐん戦略せんりゃくである。「航空こうくう優勢ゆうせい確立かくりつ」「陸上りくじょうけん制海権せいかいけん確立かくりつのための航空こうくう優勢ゆうせい活用かつよう」という要点ようてんつ。ドゥーエらにより構築こうちくされた。

これらの戦略せんりゃくくわえてゲリラ戦略せんりゃくもある。これはゲリラせん戦略せんりゃくであり、従来じゅうらい軍隊ぐんたいによる戦争せんそうではなく、正規せいき軍事ぐんじ組織そしきによる持久じきゅうてき武力ぶりょくせんまたはその手段しゅだんによる総合そうごうせん戦略せんりゃくであり、特殊とくしゅせいがある。毛沢東もうたくとうホー・チ・ミン、ザップ、カストロ、ゲバラらによって構築こうちくされた。

ゲーム理論りろんにおける戦略せんりゃく

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ゲーム理論りろん戦略せんりゃくがたゲームにおいて戦略せんりゃくとは経済けいざい主体しゅたい(プレイヤー)の選択肢せんたくしであり、「行動こうどう」という用語ようご同義どうぎである[8]。ひとりのプレイヤーにとって選択せんたく可能かのう戦略せんりゃく集合しゅうごう戦略せんりゃく空間くうかんえい: strategy space)とばれる[9]

これにたいして、展開てんかいがたゲームにおいて戦略せんりゃくとは「完全かんぜん行動こうどう計画けいかくのことで、そのプレイヤーが行動こうどうをおこすことになるかもしれないそれぞれの事態じたいでどの実行じっこう可能かのう行動こうどうをとるかをすべてれなく指定していしたもの」であり、情報じょうほう集合しゅうごうから行動こうどう指定していする関数かんすうとして定義ていぎされる[10]展開てんかいがたゲームにおいては個々ここ局面きょくめんにおける意思いし決定けってい内容ないよう行動こうどうえい: action)、ゲーム全体ぜんたいとおした行動こうどう計画けいかく戦略せんりゃくんで区別くべつしており、これらの用語ようごほうクラウゼヴィッツ戦争せんそうろんだい2へんだい1しょうにおけるそれと整合せいごうてきである[11]

長期ちょうきてきであるかどうかとは無関係むかんけいで、戦術せんじゅつ上位じょうい概念がいねんとも関係かんけいい。[独自どくじ研究けんきゅう?]

経営けいえいにおける戦略せんりゃく

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経営けいえい戦略せんりゃくろんにおいても戦略せんりゃく戦術せんじゅつというクラウゼヴィッツ以来いらいのスキームが適用てきようされている。しかし軍事ぐんじ戦略せんりゃくにおけるそれとはことなり、両者りょうしゃ明確めいかくには区別くべつせず、戦術せんじゅつ相当そうとうすることも「~戦略せんりゃく」とわれるなど、用法ようほうきわめて曖昧あいまいである。一般いっぱんてき戦術せんじゅつという用語ようご経営けいえい戦略せんりゃくろんでは使つかわれない。以下いかのようにもちいられる場合ばあいがある。

生物せいぶつがくにおける戦略せんりゃく

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生物せいぶつがく分野ぶんやとく生態せいたいがく個体こたいぐん生態せいたいがく行動こうどう生態せいたいがく分野ぶんやでは「個々ここ生物せいぶつしゅあるいは個体こたい複数ふくすう行動こうどうりうるときに、それぞれの行動こうどう行動こうどうわせ」を戦略せんりゃくび、以下いかのようにもちいる:

生物せいぶつがくにおける「戦略せんりゃく」は生物せいぶつ自身じしん意思いし自主じしゅせい含意がんいしない。つまり意図いとてきにその生物せいぶつ特定とくてい戦略せんりゃくをとっているのではなく(そのような場合ばあいもあるかもしれないが)「そのような行動こうどううなが遺伝子いでんし自然しぜん選択せんたくによってひろまる(ひろまった)」という意味いみもちいられているてん注意ちゅうい必要ひつようである。

ボードゲームにおける戦略せんりゃく

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チェス・将棋しょうぎ囲碁いごなどの戦略せんりゃくせいたかいボードゲームでは、盤面ばんめん状況じょうきょうおうじた戦術せんじゅつりょうりなど)だけでなく、ゲームの目的もくてきおうめるなど)におうじた戦略せんりゃく重要じゅうようとなる。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 栗栖くりすひろししん安全あんぜん保障ほしょう概論がいろん』(ブックビジネスアソシエイツしゃ、1997ねん)p170および邉正ぎょう防衛ぼうえい用語ようご辞典じてん』(国書刊行会こくしょかんこうかい、2000ねん)を参考さんこうにして、あらゆる分野ぶんや戦略せんりゃく包括ほうかつ可能かのう定義ていぎとした。[独自どくじ研究けんきゅう?]
  2. ^ えい: national policy
  3. ^ えい: national strategy
  4. ^ えい: military strategy
  5. ^ えい: operational strategy
  6. ^ えい: tactics
  7. ^ えい: economic strategy

出典しゅってん

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引用いんよう文献ぶんけん

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  • 岡田おかだあきら『ゲーム理論りろん』(しん有斐閣ゆうひかく、2011ねんISBN 4-641-16382-0 
  • ロバート・ギボンズ ちょ福岡ふくおか 正夫まさお須田すだ 伸一しんいちわけへん経済けいざいがくのためのゲーム理論りろん入門にゅうもんそうぶんしゃ、1995ねんISBN 978-4423850800 
  • グレーヴァ香子きょうこ協力きょうりょくゲーム理論りろん知泉ちせんしょかん数理すうり経済けいざいがく叢書そうしょ〉、2011ねんISBN 978-4-86285-107-9 
  • 栗栖くりすひろししん安全あんぜん保障ほしょう概論がいろん』(ブックビジネスアソシエイツしゃ、1997ねん
  • J.D.ニコラス空軍くうぐん大佐たいさ、G.B.ピケット陸軍りくぐん大佐たいさ、W.O.スピアーズ海軍かいぐん大佐たいさちょ野中のなかいく次郎じろうたに光太郎こうたろうわけ統合とうごうぐん参謀さんぼうマニュアル』(白桃はくとう書房しょぼう、1987ねん
  • 服部はっとりみのる防衛ぼうえいがく概論がいろん』(はら書房しょぼう、1980ねん
  • 防衛大学校ぼうえいだいがくこう防衛ぼうえいがく研究けんきゅうかいへん軍事ぐんじがく入門にゅうもん』(かや書房しょぼう、2000ねん
  • 前原まえはらとおる監修かんしゅう片岡かたおか徹也てつや編集へんしゅう戦略せんりゃく思想家しそうか辞典じてん』(芙蓉ふよう書房しょぼう出版しゅっぱん、2003ねん
  • 松村まつむら『バトル・シミュレーション 戦術せんじゅつ指揮しき 命令めいれいあたかた集団しゅうだんうごかしかた』(文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう、2005ねん
  • たかしりょうおう湘穂『ちょうきりせん 21世紀せいきの「あたらしい戦争せんそう」』坂井さかいしんじょやく共同通信社きょうどうつうしんしゃ、2001ねん

参考さんこう文献ぶんけん

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日本語にほんご文献ぶんけん

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その言語げんご文献ぶんけん

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  • John Baylis, James J. Wirtz, and Colin S. Gray, eds., Strategy in the Contemporary World, An Introduction to Strategic Studies, Fifth Edition(Oxford: Oxford University Press, 2015).
  • Giulio Douhet, Command of the Air, (Office of Air Force History, United States Government Printing Office, 1983).
  • André Beaufre, Introduction to Strategy (New York: Praeger, 1965 [Introduction à la stratégie, Paris, 1963]).
  • B. Brodie, War and Politics (London: Faber&Faber 1973).
  • John S. Gray, Strategic Strudies: A Critical Assessment (London: Aldwych Press, 1982).

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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