機動きどう

機動きどう（きどう、英えい: maneuver：マニューバ）とは、一般いっぱんに作戦さくせん行動こうどうにおいて戦力せんりょくを適切てきせつな時点じてんに、適切てきせつな地点ちてんに位置いちさせるための部隊ぶたいの運動うんどうである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

機動きどうとは戦闘せんとうを構成こうせいする最もっとも基本きほん的てきな要素ようその一ひとつであり、それは単たんに部隊ぶたいの運動うんどう(movement)を意味いみするだけでなく、作戦さくせん行動こうどうにおいて合理ごうり的てきに選択せんたくされた運動うんどうを指さしている。より厳密げんみつに定義ていぎするならば、部隊ぶたいが単たんにある地点ちてんから別べつの地点ちてんへ移うつることは単純たんじゅんに運動うんどうと呼よぶことができるが、戦闘せんとう状態じょうたいにおいて敵てきと相互そうごに有利ゆうりな位置いち関係かんけいを争あらそっている場面ばめんで戦術せんじゅつ的てきな決断けつだんの下したで実行じっこうされる運動うんどうは機動きどうである。したがって機動きどうとは戦場せんじょうにおける部隊ぶたいの戦闘せんとう行動こうどうの重要じゅうような要素ようそであり、アメリカ軍ぐんの野戦やせん教範きょうはん100-5では、敵てきの包囲ほうい、迂回うかい、孤立こりつ化かを意図いとした攻撃こうげきを意味いみする行動こうどうとも述のべている。さらに効果こうか的てきな機動きどうを成功せいこうさせることで、自みずから不利ふりな地形ちけいへと敵てきに移動いどうさせることが可能かのうであるとも同どう教範きょうはんは指摘してきしている。これは指揮しき官かんの心理しんりとして部隊ぶたいにとって脆弱ぜいじゃくである側面そくめんや背後はいごを優先ゆうせん的てきに守まもろうとするためにしばしば生しょうじる事態じたいである。火力かりょくによるのではなく、このように機動きどうによって敵てきの部隊ぶたいを退しりぞかせるような戦闘せんとうは機動きどう戦せん(maneuver warfare)と呼よばれ、紀元前きげんぜん490年ねんのマラトンの戦たたかい、紀元前きげんぜん371年ねんのレウクトラの戦たたかい、216年ねんのカンナエの戦たたかい、1757年ねんのロイテンの戦たたかいなどはそのような機動きどう戦せんが展開てんかいされた古典こてん的てきな戦史せんしと言いえる。

近代きんだい戦せん・現代げんだい戦せんにおいては行軍こうぐん以外いがいの戦闘せんとう機動きどうを行おこなえる部隊ぶたいとして、自動車じどうしゃ化か歩兵ほへい・機械きかい化か歩兵ほへい及および戦車せんしゃを含ふくむ直射ちょくしゃ火力かりょくを主おも兵へい装そうとする戦闘せんとう車両しゃりょうを部隊ぶたい構成こうせいの基幹きかんとした部隊ぶたいを機動きどう部隊ぶたいと呼称こしょうする。
- 砲兵ほうへいは、射程しゃていが長ながく戦闘せんとう機動きどうを行おこなう必要ひつよう性せいがないため機動きどう部隊ぶたいに含ふくまない場合ばあいが多おおいが、自じ走はし砲ほう（自じ走はし迫撃はくげき砲ほう・自じ走はし榴弾りゅうだん砲ほう等ひとし）を含ふくむ部隊ぶたいも機動きどう部隊ぶたいと呼称こしょうする場合ばあいもある（戦闘せんとう団だんを参照さんしょう）。

分類ぶんるい[編集へんしゅう]

行軍こうぐん[編集へんしゅう]

行軍こうぐん(traveling)とは戦場せんじょう以外いがいにおいて部隊ぶたいが移動いどう（運動うんどう）することをいう。行軍こうぐんは敵てき部隊ぶたいとの接触せっしょくの蓋然性がいぜんせい、地形ちけいによる隊形たいけい・運動うんどうへの影響えいきょう、安全あんぜん性せいと効率こうりつ性せいの関係かんけい、続つづく戦闘せんとう展開てんかいへの移行いこうなどを考慮こうりょし、移動いどう速度そくどや隊形たいけいを定さだめて行おこなわれる。

包囲ほうい[編集へんしゅう]

包囲ほうい(envelopment)とは敵てきを捕捉ほそくして撃滅げきめつすることを目的もくてきとし、敵てきを正面しょうめんに捕捉ほそくしつつ主力しゅりょく部隊ぶたいで敵てきの背後はいごを攻撃こうげきして退路たいろを遮断しゃだんする攻撃こうげき機動きどうの方式ほうしき。また「反はん包囲ほうい」とは包囲ほういを試こころみる部隊ぶたいを逆ぎゃくに包囲ほういする攻撃こうげき機動きどうをいう（突破とっぱとあわせて攻撃こうげきの方式ほうしきとして考かんがえられている）。また包囲ほういされた部隊ぶたいがその包囲ほういに対抗たいこうして行おこなう攻撃こうげき行動こうどうを「解かい囲かこえ攻撃こうげき」と呼よび通常つうじょうその攻撃こうげきは後続こうぞく部隊ぶたいの通路つうろを確保かくほするための突破口とっぱこう形成けいせい部隊ぶたいの突破とっぱによって構成こうせいされる。

迂回うかい[編集へんしゅう]

迂回うかい(turning movement)とは敵てきをより自軍じぐんにとって有利ゆうりな戦場せんじょうへ誘さそい込こむことを目的もくてきとし、敵てきの後方こうほう連絡れんらく線せんを遮断しゃだんする攻撃こうげき機動きどうの方式ほうしき。包囲ほういはその場ばでの撃滅げきめつを目的もくてきとしているが、迂回うかいはあくまでも敵てきが移動いどうせざるを得えないようにし向むけることにその目的もくてきがある。

突破とっぱ[編集へんしゅう]

突破とっぱ(penetration,breakthrough)とは敵てき防御ぼうぎょの正面しょうめんに位置いちする戦闘せんとう部隊ぶたいを破砕はさいし、その突破口とっぱこうを拡大かくだいして各個かっこ撃破げきはすることにより敵てき防御ぼうぎょを破砕はさいする攻撃こうげき機動きどうの方式ほうしきをいう。防御ぼうぎょ陣地じんちを素早すばやく破砕はさいして間隙かんげきをつくることを「突破口とっぱこうの形成けいせい」、これ行おこなう部隊ぶたいを「突破口とっぱこう形成けいせい部隊ぶたい」という。

戦略せんりゃく機動きどう[編集へんしゅう]

敵てきに対たいして戦略せんりゃく的てきな優位ゆういを占しめるために実行じっこうされる機動きどうをいう。最高さいこう司令しれい部ぶが立案りつあんして実施じっしする全国ぜんこく的てきな規模きぼの部隊ぶたいの機動きどうと、地方ちほう的てき統合とうごう軍ぐん・方面ほうめん隊たいが自己じこの作戦さくせん領域りょういきの範囲はんい内ないで行おこなう地域ちいき的てきな規模きぼの部隊ぶたいの機動きどうの二に種類しゅるいがある。

戦術せんじゅつ機動きどう[編集へんしゅう]

敵てきに対たいして戦術せんじゅつ的てきな優位ゆういを占しめるために実行じっこうされる機動きどうを言いう。これには接せっ敵てき機動きどうと戦場せんじょう機動きどうの二に種類しゅるいがある。接せっ敵てき機動きどう(接せっ敵てき運動うんどうとも、movement to contact,advance to contact)とは戦闘せんとう態勢たいせいを有利ゆうりに整ととのえるために戦闘せんとうに先立さきだって行おこなわれる機動きどうであり、場合ばあいによって接触せっしょくを失うしなった敵てきに対たいする積極せっきょく的てきな攻勢こうせい行動こうどうをいう。戦場せんじょう機動きどう(battle field maneuver)とは戦場せんじょうにおいて敵てきに対たいしてより有効ゆうこうかつ効率こうりつ的てきに打撃だげきを行おこなえる態勢たいせいに移うつるための機動きどうをいう。