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アジール

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

アジールあるいはアサイラムどく: Asylふつ: asileえい: asylum)は、歴史れきしてき社会しゃかいてき概念がいねんで、「聖域せいいき」「自由じゆう領域りょういき」「避難ひなんしょ」「無縁むえんしょ」などともばれる特殊とくしゅエリアのことを意味いみする。古代こだいギリシアの「ἄσυλον[ちゅう 1](ásylon:おかすことのできない、神聖しんせい場所ばしょ)」を語源ごげんとする。具体ぐたいてきには、おおむね「統治とうち権力けんりょくおよばない地域ちいき」ということになる。現代げんだいほう制度せいどなかちかいものをさがせば在外ざいがい公館こうかん内部ないぶなど「治外法権ちがいほうけん(がみとめられた場所ばしょ)」のようなものである。

概説がいせつ[編集へんしゅう]

歴史れきしてきには、当初とうしょ統治とうち権力けんりょく存在そんざいせず、すべての場所ばしょが(のちにうところの)アジールであった。統治とうち権力けんりょくは、徐々じょじょにその支配しはい領域りょういきひろげていったが、おおくの場所ばしょ統治とうち権力けんりょく支配しはいとなっても、いまだその支配しはいけない場所ばしょが、あちこちにとびとびにのこされた。この段階だんかいになってはじめて、アジールはのち歴史れきし研究けんきゅうにおけるテーマとして注目ちゅうもくされるものとなった。

アジールとされた地域ちいきには、教会きょうかい神社じんじゃ仏閣ぶっかくなどの宗教しゅうきょうてき聖地せいち要素ようそ場所ばしょ[ちゅう 2]や、市場いちばなど複数ふくすう権力けんりょくはいこんじる自由じゆう領域りょういき交易こうえき場所ばしょなどがあった。商業しょうぎょう都市としも、武力ぶりょく背景はいけいとした統治とうち権力けんりょく対抗たいこうする「自治じち都市とし」としてつよいアジールせいみとめられた場合ばあいがある。たんに「統治とうち権力けんりょくおよばない地域ちいき」というだけではなく、「おおきな統治とうち権力けんりょくちいさな統治とうち権力けんりょくがせめぎあった結果けっかおおきな統治とうち権力けんりょく実効じっこう支配しはい否定ひていされている地域ちいき」と理解りかいすることもでき、統治とうち権力けんりょくおおきく統合とうごうされていく過程かていしょうじた過渡かとてき現象げんしょうということもできる。

アジールは、おおきな統治とうち権力けんりょくがわから場合ばあいみずからのちからおよばないこのましくない場所ばしょであった。そのため、統治とうち権力けんりょくがわはアジールを否定ひていして支配しはいすることに熱意ねついをそそいだ。ちからによる制圧せいあつ[ちゅう 3]のほか、一定いってい自治じちけん統治とうち権力けんりょくがわみとゆるしたという様式ようしきととのえる・寺社じしゃなどの場合ばあいには権力けんりょくしゃみずからの菩提寺ぼだいじとしたり庇護ひごあたえるなどして特権とっけんみとめるなどのさまざまな方法ほうほう懐柔かいじゅうして[ちゅう 4]結果けっかとしてアジールせいうしなわせるといった方法ほうほうられた。こういった圧力あつりょく結果けっか時代じだいくだるにつれアジールは徐々じょじょせばめられていく傾向けいこうにあった。国家こっか隅々すみずみまであまねく統治とうち権力けんりょくおよぶとされる近代きんだい国家こっかでは、アジールはほろ原則げんそくとして存在そんざいしない。ただし、外国がいこく政府せいふ大使館たいしかんなど在外ざいがい公館こうかん内部ないぶには統治とうち権力けんりょくおよばないためアジールにちかいものである。

日本にっぽんにおけるアジール研究けんきゅうは、歴史れきし学者がくしゃ平泉ひらいずみきよし先鞭せんべんをつけた。平泉ひらいずみ初期しょき論文ろんぶん中世ちゅうせいける社寺しゃじ社会しゃかいとの関係かんけい』のなかで「アジールは人類じんるい発達はったつある段階だんかいおいて、一般いっぱん経験けいけんするところ風習ふうしゅうまた制度せいど」とべている。この発想はっそう中田なかたかおる網野あみの善彦よしひこ伊藤いとう正敏まさとしらにがれ、なにをアジールと認識にんしきすべきか、そのアジールをささえてきた制度せいどがどのように変遷へんせんしてきたか、などが徐々じょじょあきらかになってきている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく

  1. ^ σύλη(syle:占領せんりょう奪取だっしゅする権利けんり)に否定ひていαあるふぁをつけたものに由来ゆらい
  2. ^ ただしアジールであった理由りゆうが「宗教しゅうきょうてき聖地せいち」であったためかどうかについてはあらそいがある。日本にっぽんにおいては、伊藤いとう正敏まさとしなどはだい寺社じしゃはそれ自身じしんが「かなりの人口じんこう」「工業こうぎょう生産せいさん能力のうりょく」「交易こうえき機能きのう」などの都市とし機能きのうっていたことに注目ちゅうもくして「境内けいだい都市とし」という概念がいねん主張しゅちょうしている。その観点かんてんからは宗教しゅうきょうアジールはかならずしも「聖地せいちである」という理由りゆうもとづくものではなく、宗教しゅうきょうをきっかけとして誕生たんじょうした有力ゆうりょく都市としなのであり「自治じち都市とし」のヴァリエーションのひとつ、という位置いちづけとされる。[1]
  3. ^ 日本にっぽんにおいては、たとえば織田おだ信長のぶながによる比叡山ひえいざん高野たかのきよし虐殺ぎゃくさつ豊臣とよとみ秀吉ひでよしによるかたなかりれい前者ぜんしゃ特定とくていのアジールにたいする攻撃こうげきにとどまるが、後者こうしゃは(一般いっぱんてき農民のうみんなどの武装ぶそう解除かいじょおこなったとめられているがそれにとどまらず)寺社じしゃ自由じゆう都市としなどの武装ぶそうをも解除かいじょするものであり、武力ぶりょくもとづいてアジールが域外いきがい権力けんりょくから独立どくりつした存在そんざいでありつづけることが可能かのう構造こうぞう否定ひていしアジールを制圧せいあつするものであったと位置いちづけることができる。[2]
  4. ^ 日本にっぽんにおけるアジール解体かいたい過程かていについて、伊藤いとう正敏まさとしは「絶対ぜったいてき無縁むえんしょ」「相対そうたいてき無縁むえんしょ」という概念がいねん提示ていじしている。絶対ぜったいてき無縁むえんしょとは外部がいぶ権力けんりょく対等たいとうわたえる実力じつりょくつアジールであり、相対そうたいてき無縁むえんしょ外部がいぶ権力けんりょくから一定いってい自治じちみとめられたが完全かんぜん権力けんりょく影響えいきょうていないものである。時代じだいがるにつれ、絶対ぜったいてき無縁むえんしょから相対そうたいてき無縁むえんしょ移行いこうし、さらに相対そうたいてき無縁むえんしょ消滅しょうめつするという経緯けいいをたどった。具体ぐたいてきには、中世ちゅうせいから近世きんせいへの移行いこうによって絶対ぜったいてき無縁むえんしょはほぼうしなわれ、徳川とくがわ幕府ばくふ治世ちせいから明治めいじ政府せいふへのえを契機けいきとして相対そうたいてき無縁むえんしょもほぼうしなわれるにいたった。[3]

出典しゅってん

  1. ^ 伊藤いとう 2008, だいしょう境内けいだい都市とし時代じだい」.
  2. ^ 伊藤いとう 2008, 終章しゅうしょう中世ちゅうせいわり」.
  3. ^ 伊藤いとう 2008, p. 187, 「無縁むえんしょよん類型るいけい」.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 網野あみの善彦よしひこ無縁むえんおおやけかいらく : 日本にっぽん中世ちゅうせい自由じゆう平和へいわ』(増補ぞうほ平凡社へいぼんしゃ平凡社へいぼんしゃライブラリー〉、1996ねんISBN 4-582-76150-X 
  • 伊藤いとう正敏まさとし寺社じしゃ勢力せいりょく中世ちゅうせい : 無縁むえん有縁うえん移民いみん筑摩書房ちくましょぼうちくま新書しんしょ〉、2008ねんISBN 978-4-480-06435-6 
  • 伊藤いとう正敏まさとし『アジールと国家こっか : 中世ちゅうせい日本にっぽん政治せいじ宗教しゅうきょう筑摩書房ちくましょぼう筑摩ちくま選書せんしょ〉、2020ねんISBN 978-4-480-01687-4 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]