アラトナシリ

アラトナシリ（Aratnaširi, モンゴル語ご: Аратнашири, 中国ちゅうごく語ご: 阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと, ? - 1358年ねん）は、チャガタイの孫まごブリの子孫しそんで、モンゴル帝国ていこくの皇族こうぞく。『元もと史し』などの漢文かんぶん史料しりょうでは阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さとと記しるされる。忠ちゅう粛王（高こう麗うらら）のモンゴル語ご名めいも同おなじアラトナシリ（阿おもね剌忒訥失里さと）であるが、同名どうめいの別人べつじんである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

アラトナシリはチャガタイの曾孫そうそんアフマドの曾孫そうそんで、元々もともとは中央ちゅうおうアジアビシュバリク方面ほうめんに居住きょじゅうする一族いちぞくであったが、アフマドがバラクによって殺ころされて以来いらい東方とうほうに移住いじゅうし大だい元もとウルスに仕つかえていた。アフマドの一族いちぞくの居住きょじゅう地ちは河西かさい方面ほうめんにあったと見みられる^[1]が、この方面ほうめんにはチャガタイ家かの内紛ないふんを避さけて大元おおもとウルスに投降とうこうしてきたチャガタイ家かの諸王しょおうが集中しゅうちゅうして居住きょじゅうしており、これらのチャガタイ系けい諸王しょおう家かはチュベイ家いえを中心ちゅうしんにゆるやかなまとまり（チュベイ・ウルス）を形成けいせいしていたと見みられる^[2]。

アラトナシリの父ちち越えつ王おうトレはテムル・カーン死後しごの政変せいへんで功績こうせきを挙あげカイシャン・カーンより越えつ王おうに封ふうぜられていたが、カーンを軽かるんじる言動げんどうが多おおかったためにカイシャンの命いのちにより殺ころされてしまった。アラトナシリは刑死けいしした父ちちの王おう号ごう（越えつ王位おうい）を継つぐことはできなかったが、新あらたに西安しーあん王おうに封ふうぜられて大元おおもとウルスに仕つかえることとなった。

致和元年がんねん（1328年ねん）、イェスン・テムル・カーンが死去しきょすると、その旧臣きゅうしんダウラト・シャーらによってアリギバが擁立ようりつされたが、キプチャク人じん軍閥ぐんばつの長ながエル・テムルはカイシャン・カーンの遺児いじトク・テムルを擁立ようりつして武力ぶりょくで帝位ていいを争あらそう構かまえを見みせた（天てん暦れきの内乱ないらん）。アラトナシリは大だい都とに拠よってトク・テムルを擁立ようりつした「大だい都と派は」に参加さんかし、大だい都との守備しゅび^[3]やダウラト・シャーの討伐とうばつ^[4]などに功績こうせきを挙あげ、エル・テムルに次つぐ大だい都と派はの中心ちゅうしん人物じんぶつとして活躍かつやくした。

天てん暦れきの内乱ないらんが大だい都と派はの勝利しょうりに終おわり、短みじかいコシラ（クトクトゥ・カーン）の即位そくいを挟はさんでトク・テムル（ジャヤート・カーン）が即位そくいすると、内乱ないらん時じの功績こうせきによってアラトナシリは最高さいこうランクの豫よ王おうに封ふうぜられた^[5]。同どう時期じきにチュベイ・ウルスに属ぞくするコンチェク、クタトミシュも最高さいこうランクの王おう号ごう（粛王と豳王）を与あたえられており、彼等かれらもアラトナシリと共ともに大だい都と派はに協力きょうりょくしたのではないかと推測すいそくされている^[6]。

天てん暦れきの内乱ないらんの功績こうせきによってトク・テムル政権せいけんの重要じゅうよう人物じんぶつとなったアラトナシリは、以後いご雲南うんなんへの出だし鎮^[7]やチベットへの進駐しんちゅう^[8]に功績こうせきを挙あげた^[9]。特とくに至いたり順じゅん2年ねん（1331年ねん）には鎮西ちんぜい武たけ靖やすし王おうチョスバルとともに雲南うんなんの賊ぞくの平定へいていに尽力じんりょくしている^[10]^[11]。

これらの功績こうせきによってか、同どう至いたり順じゅん2年ねんに父ちちトレが生前せいぜんに食しょく邑としていた紹興しょうこう路ろからの収入しゅうにゅうの半分はんぶんを供給きょうきゅうされるようになった^[12]。アラトナシリの死期しきや子孫しそんについての記述きじゅつはなくその後ごの系譜けいふは明あきらかになっていないが、至いたり順じゅん十じゅう三さん年ねんに弟おとうとのダルマが南陽なんようの賊ぞくを討伐とうばつした功績こうせきによってアラトナシリの以前いぜんの王おう号ごうである西安しーあん王おうに封ふうぜられたことが記録きろくされている^[13]。

ブリの子こアフマドの子孫しそん[編集へんしゅう]

『元もと史し』宗室そうしつ世よ系けい表ひょうでは「豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと」をクビライの曾孫そうそんラオディ（老ろう的てき）の息子むすことしているが、これはアラトナシリが雲くも南みなみに出で鎮したことに起因きいんする誤あやまりである。また同どう表ひょうではアラトナシリの父ちちトレを威い遠とお王おうアジキの孫まごとしているがこれも誤あやまりで、『ヴァッサーフ史し』の伝つたえる「ブリの子こアフマドの子こシャーディーの子こトレ」という系図けいずが正ただしいとされる。

チャガタイ（Čaγがんまatai, 察合台だい／چغتاى Chaghatāī）
- モエトゥケン(Mö'etüken,／مواتوكان Muwātūkān)
  - ブリ(Büri,不ふ里さと／بورى Būrī)
    - アフマド(احمد Aḥmad)
      - ババ大王だいおう(Baba,八はち八はち／باباBābā)
        ハビル・テムル王おう(Habil-temür,合ごう賓まろうど帖じょう木き児じ?／Hābīr tīmūr)
        
        カビル・テムル王おう(Qabil-temür,合ごう賓まろうど帖じょう木き児じ?／Qābīr tīmūr)
        
        ユルトゥズ・テムル王おう(Yultuz-temür,允まこと禿かぶろ思おもえ帖じょう木き児じ／Yūldūz tīmūr)
      - シャーディー(『集あつまり史し』:ساتیSātī／『ヴァッサーフ史し』:شادیŠādī)
        越えつ王おうトレ(Töre,禿かぶろ剌／تولا اغولTūlā aghūl)
        豫よ王おうアラトナシリ(Aratnaširi,阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと)
        
        西にし安王やすおうダルマ(Darma,答こたえ児じ麻あさ)

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ 『元もと史し』巻まき29,「[泰たい定元さだもと年ねん秋あき七なな月がつ]庚かのえ子こ、諸王しょおう伯はく顔がお帖じょう木き児じ出で鎮闊連れん東部とうぶ、阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと出で鎮沙州しゅう、各かく賜たまもの鈔三さん千せん錠じょう」
^ 杉山すぎやま2004,323-325頁ぺーじ
^ 『元もと史し』巻まき31,「[年春としはる正月しょうがつ]八はち月がつ甲かぶと午うま……燕つばめ鉄てつ木き児じ与あずか西安しーあん王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと固守こしゅ内廷ないてい」
^ 『元もと史し』巻まき135,「致和元年がんねん八はち月がつ、西安しーあん王おう以兵討倒剌沙、命いのち従したがえ丞相じょうしょう燕つばめ帖じょう木き児じ擒とりこ烏がらす伯はく都と剌、分ぶん兵備へいび禦」
^ 『元もと史し』巻まき117禿かぶろ剌伝,「子こ西安しーあん王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと、天てん暦れき初はつ以推戴すいたい功こう、進すすむ封ふう豫よ王おう」／『元もと史し』巻まき33,「[天てん暦れき二に年ねん十じゅう一いち月がつ]丙へい子こ、諸王しょおう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと翊戴有ゆう労ろう、以其父ちち越えつ王おう禿かぶろ剌印与あずか之これ」
^ 杉山すぎやま2004,262-263頁ぺーじ
^ 『元もと史し』巻まき33,「[天てん暦れき二に年ねん十じゅう一いち月がつ]壬みずのえ午うま、詔みことのり豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと鎮雲南みなみ、賜たまもの其衛士し鈔万まん錠じょう、仍毎歳まいさい豫よ給きゅう其衣廩」
^ 『元もと史し』巻まき34,「[至いたり順じゅん元年がんねん五ご月がつ]戊つちのえ辰たつ……遣や豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと鎮西ちんぜい番ばん、授以金きん印しるし」
^ 杉山すぎやま2004,324頁ぺーじ
^ 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん春はる正月しょうがつ]乙おつ巳み……鎮西ちんぜい武たけ靖やすし王おう搠思班はん・豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと及行省しょう・行ぎょう院いん官かん同どう討雲南みなみ、兵へい十じゅう余あまり万まん、以去年ねん十じゅう一いち月がつ十じゅう一いち日にち、搠思班はん師し次じ羅ら羅ら斯、与あずか躍おど里さと鉄てつ木き児じ期き至いたり三さん泊はく浪なみ、会かい於曲靖やすし馬うま龍りゅう等とう州しゅう、同どう進すすむ兵へい」
^ 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん三さん月がつ]癸巳きし……豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと・鎮西ちんぜい武たけ靖やすし王おう搠思班はん等とう禽雲南みなみ諸しょ賊ぞく也木干ひ・羅ら羅ら・脱だつ脱だつ木き児じ・板いた不ふ・阿おもね居きょ・澂江路ろ総そう管かん羅ら羅ら不ふ花はな・伯はく忽ゆるがせ之の叔怯得とく該・偽にせ署しょ万戸哈剌答児及諸将校、悉斬之の、磔はりつけ屍かばね以徇」
^ 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん夏なつ四よん月がつ]甲きのえ寅とら……中書ちゅうしょ省しょう臣しん言ごと「越えつ王おう禿かぶろ剌在武たけ宗時むねとき以紹興きょう路ろ為ため食しょく邑、歳とし割わり賜たまもの本ほん路ろ租賦鈔四万まん錠じょう、今こん其子阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと襲かさね王おう號ごう、宜むべ歳とし給きゅう其半」。從したがえ之これ」
^ 『元もと史し』巻まき43,「[至いたり順じゅん十じゅう三さん年ねん十じゅう二に月がつ]癸みずのと丑うし、以西いせい安王やすおう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと為ため豫よ王おう；弟おとうと答こたえ児じ麻あさ討南陽ひ賊ぞく有功ゆうこう、以西いせい安王やすおう印しるし与あずか之これ、命いのち鎮察吉きち児じ之の地ち」

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

杉山すぎやま正明まさあき『モンゴル帝国ていこくと大元おおもとウルス』京都大学きょうとだいがく学術がくじゅつ出版しゅっぱん会かい、2004年ねん
『元もと史し』巻まき117禿かぶろ剌伝
『新元しんもと史し』巻まき107列伝れつでん4

[1] 『元もと史し』巻まき29,「[泰たい定元さだもと年ねん秋あき七なな月がつ]庚かのえ子こ、諸王しょおう伯はく顔がお帖じょう木き児じ出で鎮闊連れん東部とうぶ、阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと出で鎮沙州しゅう、各かく賜たまもの鈔三さん千せん錠じょう」

[2] 杉山すぎやま2004,323-325頁ぺーじ

[3] 『元もと史し』巻まき31,「[年春としはる正月しょうがつ]八はち月がつ甲かぶと午うま……燕つばめ鉄てつ木き児じ与あずか西安しーあん王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと固守こしゅ内廷ないてい」

[4] 『元もと史し』巻まき135,「致和元年がんねん八はち月がつ、西安しーあん王おう以兵討倒剌沙、命いのち従したがえ丞相じょうしょう燕つばめ帖じょう木き児じ擒とりこ烏がらす伯はく都と剌、分ぶん兵備へいび禦」

[5] 『元もと史し』巻まき117禿かぶろ剌伝,「子こ西安しーあん王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと、天てん暦れき初はつ以推戴すいたい功こう、進すすむ封ふう豫よ王おう」／『元もと史し』巻まき33,「[天てん暦れき二に年ねん十じゅう一いち月がつ]丙へい子こ、諸王しょおう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと翊戴有ゆう労ろう、以其父ちち越えつ王おう禿かぶろ剌印与あずか之これ」

[6] 杉山すぎやま2004,262-263頁ぺーじ

[7] 『元もと史し』巻まき33,「[天てん暦れき二に年ねん十じゅう一いち月がつ]壬みずのえ午うま、詔みことのり豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと鎮雲南みなみ、賜たまもの其衛士し鈔万まん錠じょう、仍毎歳まいさい豫よ給きゅう其衣廩」

[8] 『元もと史し』巻まき34,「[至いたり順じゅん元年がんねん五ご月がつ]戊つちのえ辰たつ……遣や豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと鎮西ちんぜい番ばん、授以金きん印しるし」

[9] 杉山すぎやま2004,324頁ぺーじ

[10] 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん春はる正月しょうがつ]乙おつ巳み……鎮西ちんぜい武たけ靖やすし王おう搠思班はん・豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと及行省しょう・行ぎょう院いん官かん同どう討雲南みなみ、兵へい十じゅう余あまり万まん、以去年ねん十じゅう一いち月がつ十じゅう一いち日にち、搠思班はん師し次じ羅ら羅ら斯、与あずか躍おど里さと鉄てつ木き児じ期き至いたり三さん泊はく浪なみ、会かい於曲靖やすし馬うま龍りゅう等とう州しゅう、同どう進すすむ兵へい」

[11] 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん三さん月がつ]癸巳きし……豫よ王おう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと・鎮西ちんぜい武たけ靖やすし王おう搠思班はん等とう禽雲南みなみ諸しょ賊ぞく也木干ひ・羅ら羅ら・脱だつ脱だつ木き児じ・板いた不ふ・阿おもね居きょ・澂江路ろ総そう管かん羅ら羅ら不ふ花はな・伯はく忽ゆるがせ之の叔怯得とく該・偽にせ署しょ万戸哈剌答児及諸将校、悉斬之の、磔はりつけ屍かばね以徇」

[12] 『元もと史し』巻まき35,「[至いたり順じゅん二に年ねん夏なつ四よん月がつ]甲きのえ寅とら……中書ちゅうしょ省しょう臣しん言ごと「越えつ王おう禿かぶろ剌在武たけ宗時むねとき以紹興きょう路ろ為ため食しょく邑、歳とし割わり賜たまもの本ほん路ろ租賦鈔四万まん錠じょう、今こん其子阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと襲かさね王おう號ごう、宜むべ歳とし給きゅう其半」。從したがえ之これ」

[13] 『元もと史し』巻まき43,「[至いたり順じゅん十じゅう三さん年ねん十じゅう二に月がつ]癸みずのと丑うし、以西いせい安王やすおう阿おもね剌忒納おさめ失しつ里さと為ため豫よ王おう；弟おとうと答こたえ児じ麻あさ討南陽ひ賊ぞく有功ゆうこう、以西いせい安王やすおう印しるし与あずか之これ、命いのち鎮察吉きち児じ之の地ち」

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