カルベン

カルベン (carbene) とは価あたい電子でんしを六ろく個こしか持もたず、電荷でんかを持もたない、二に配はい位いの炭素たんそのことである。或あるいは、そのような炭素たんそを持もつ化学かがく種しゅの総称そうしょうである。

同族どうぞく元素げんその類縁るいえん体たいとして、シリレン、ゲルミレンがある。また、配はい位い飽和ほうわから二に電子でんし少すくない化学かがく種しゅとしては他たにニトレンが知しられている。カルベンを置換ちかん基もととして見みた場合ばあいにはアルキリデン基もとなどと呼よばれる。

最もっとも単純たんじゅんな構造こうぞうのカルベンであるメチレン (methylene､H₂C:) はジアゾメタンの分解ぶんかいにより発生はっせいさせることができる（メチレンの炭素たんそは2価かである。そのため、メチレンだけが無機物むきぶつとする分類ぶんるいもある。また、methylaneと呼よぶこともある）。

形式けいしき上じょう、カルベンを配はい位い子ことしたものと見みなせる金属きんぞく錯体さくたい (R₂C=M) を、カルベン錯体さくたい、あるいはカルベノイド (carbenoid) と呼よぶことがある。それらの中なかには、カルベンと似にた反応はんのう性せいを示しめすものもある。

構造こうぞうと物性ぶっせい

一いち重じゅう項こうカルベン(sp²混こん成型せいけい)

三重みえ項こうカルベン(sp³混こん成型せいけい)

カルベンの炭素たんそは価あたい電子でんしを六ろく個こ持もち、それらのスピンの状態じょうたいにより一いち重じゅう項こうカルベンと三重みえ項こうカルベンに分わけることができる。一重ひとえ項こうカルベンはさらに、炭素たんそ上じょうの混成こんせいの形式けいしきにより、(1) sp²混成こんせい型かた：三さん個このsp²軌道きどうに二に電子でんしずつが配置はいちし、空そらのp軌道きどうが一ひとつ残のこっている状態じょうたい、(2) sp³混成こんせい型かた：三さん個このsp³軌道きどうに二に電子でんしずつが配置はいちし、残のこりのsp³軌道きどうが一ひとつ空そらとなっている状態じょうたい、の二に通とおりに分わけられるが、ほとんどの場合ばあいは前者ぜんしゃが安定あんていである。三重みえ項こうカルベンにもsp²混こん成型せいけいとsp³混こん成型せいけいがあり、後者こうしゃでは四よん個このsp³軌道きどうのうち二に個こが二に電子でんしずつで満みたされ、残のこりの二に個このsp³軌道きどうには同おなじスピンの電子でんしが一ひとつずつ配置はいちしている。一重ひとえ項こうカルベンと三重みえ項こうカルベン、そしてそれぞれの混こん成型せいけいの安定あんてい性せいは、炭素たんそ上じょうの置換ちかん基もとの電気でんき的てき、構造こうぞう的てきな要因よういんなどにより変かわる。一重ひとえ項こうカルベンは求もとめ電子でんし的てきな反応はんのう性せいを、三重みえ項こうカルベンは不ふ対たい電子でんしによるラジカル的てきな反応はんのう性せいを示しめす場合ばあいが多おおい。

発生はっせい法ほう

ジクロロカルベンの発生はっせい

一般いっぱんによく見みられる発生はっせい法ほうは、ジアゾ化合かごう物ぶつからの熱ねつ、光ひかり、または触媒しょくばいの作用さようによる窒素ちっそ分子ぶんしの脱だつ離反りはん応おうである。 また、クロロホルムと強つよし塩基えんきとの反はん応おうからも、トリクロロメチルアニオンを中間ちゅうかん体からだとして、ジクロロカルベンが生成せいせいする。一方いっぽう、イミダゾリウム塩しおと塩基えんきとの反はん応おうからはプロトンの脱だつ離はなれによりカルベン（イミダゾリデン）が発生はっせいするが、これは両隣りょうどなりの窒素ちっそ原子げんしにより強つよく安定あんてい化かされており、また、同どう系統けいとうのイミダゾリジニリデンはグラブス触媒しょくばいをはじめとする遷移せんい金属きんぞく触媒しょくばいの配はい位い子ことしてしばしば利用りようされる。

一般いっぱん的てきなカルボカチオンが六ろく個この価あたい電子でんしとプラスの電荷でんかを持もつ三さん配はい位い化学かがく種しゅであり、カルバニオンが八はち個この価あたい電子でんしとマイナスの電荷でんかを持もつ三さん配はい位い化学かがく種しゅであることを考かんがえると、上記じょうきのうち、二に番目ばんめの反応はんのうはカルバニオンからのアニオンの脱だつ離反りはん応おうとみなすことができ、最後さいごの反応はんのうはカルボカチオンからのカチオンの脱だつ離はなれと見みることができる。なお、三さん配はい位い型がたのカルボカチオンを特とくに指さす「カルベニウムイオン」という呼称こしょうは、カルベンに由来ゆらいする (carben + ium)。

反応はんのう

代表だいひょう的てきな反応はんのうとしては炭素たんそ-炭素たんそ二に重じゅう結合けつごうのシクロプロパン化かが挙あげられる。その反応はんのうの中なかで、生成せいせいするシクロプロパンの立体りったい化学かがくによって、元もとのカルベンが一いち重じゅう項こう型がたであったか、三重みえ項こう型がたであったかを知しることができる場合ばあいがある。一重ひとえ項こう型がたのカルベンは一いち段階だんかいで協奏きょうそう的てきに付加ふかするため、生しょうじるシクロプロパンの立体りったいがシス付加ふか体たいに限かぎられるのに対たいし、三重みえ項こう型がたのカルベンはラジカル的てきに二に段階だんかいで付加ふかする場合ばあいが多おおく、中間なかま体たい上じょうでのC-C結合けつごうの回転かいてんに由来ゆらいした、立体りったい異性いせい体たいの混合こんごう生成せいせい物ぶつを与あたえやすい。

カルベンが中ちゅう間あいだ体たいとして関与かんよする人名じんめい反応はんのうとしては、ウルフ転位てんい、ライマー・チーマン反応はんのうが挙あげられる。カルベンにはまた、C-H結合けつごうやO-H結合けつごうへの挿入そうにゅう反応はんのうもよく知しられる。

カルベン付加ふかとならび、シクロプロパン化かに用もちいられる反応はんのうでは他たに、亜鉛あえん化合かごう物ぶつを用もちいたシモンズ・スミス反応はんのうがある。

関連かんれん項目こうもく

• カルベン錯体さくたい
• メタン
• エチレン