サカゲツボカビつな

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サカゲツボカビつな
分類ぶんるい
ドメイン : かく生物せいぶつ Eukaryota
階級かいきゅうなし : ディアフォレティケス Diaphoretickes
階級かいきゅうなし : SARスーパーグループ SAR supergroup
階級かいきゅうなし : ストラメノパイル Stramenopiles
階級かいきゅうなし : Gyrista
もん : にせきんもん Pseudofungi
またはたまごきんもん Oomycota
またはサカゲツボカビもん Hyphochytriomycota
つな : サカゲツボカビつな Hyphochytriomycetes
: サカゲツボカビ Hyphochytriales
学名がくめい
Hyphochytriomycota Whittaker (1969)[1]

Hyphochytriomycetes Sparrow ex M.W. Dick (1983)[1]
Hyphochytriales E.A. Bessey ex P.M. Kirk, P.F. Cannon & J.C. David (2001)[1]

タイプぞく
サカゲツボカビぞく Hyphochytrium Zopf (1884)[1]
和名わみょう
サカゲツボカビつな[2][3]、サカゲカビつな[4][5][6]、サカゲツボカビるい
英名えいめい
hyphochytrids[7][8]
下位かい分類ぶんるい

サカゲツボカビつな(サカゲツボカビこう; 学名がくめい: Hyphochytriomycetes)とは、ストラメノパイルぞくする原生げんせい生物せいぶつ一群いちぐんであり、菌類きんるい生活せいかつ様式ようしきをもつ。吸収きゅうしゅう栄養えいようおこな単純たんじゅんきんたいをもち、ゆうはしむちをもつ胞子ほうし)によって無性むしょう生殖せいしょくおこなう。ツボカビるいなどにているが、ゆうはし細胞さいぼういただきはしから前方ぜんぽうびる1ほんむちをもつてんことなる。たまごきんきんえんであり、その姉妹しまいぐんであるとかんがえられている。独立どくりつもん(サカゲツボカビもん)とされることもあるが、たまごきんとともにたまごきんもんまたはにせきんもん分類ぶんるいされることもある。海水かいすい淡水たんすい土壌どじょう生育せいいくするくさなまきんまたは寄生きせいきんであり、6ぞく20しゅ程度ていどられるちいさなグループである。

特徴とくちょう[編集へんしゅう]

きんたい単純たんじゅんであり、1個いっこゆうはしかりからなるぶんじつたん心性しんせいまたは複数ふくすうゆうはし嚢がかりじょう菌糸きんしつらなったぶんじつ心性しんせいきんたい形成けいせいする[5][9][2][10][11][8]きんたい基質きしつうちせいまたはそとせいする[8]発達はったつした菌糸きんし形成けいせいするたねられていない[9][2]

細胞さいぼうかべは、セルロースキチンふく[5][9][12][11][8]ミトコンドリア管状かんじょうクリステをもつ[8]リジン合成ごうせいは、ジアミノピメリンさん経路けいろ(DAP経路けいろ)をもちいる[9][12][7][11]ステロール合成ごうせいのうをもつ[11]

サカゲツボカビるいは、ゆうはしによって無性むしょう生殖せいしょくおこなう。ゆうはし細胞さいぼういただきはしから前方ぜんぽうびる1ほんむちをもち、むちには、管状かんじょうしょう付随ふずいしている(はねがたむち[5][9][2][10][13][7][11][8]下図したず1d)。ゆうはし形成けいせいは、はら形質けいしつゆうはし嚢からてからこるものと、ゆうはし嚢内でこるものがある[8]ゆうはしむち基部きぶに、むちをもたない中心ちゅうしん小体こてい付随ふずいしている[7]むち基部きぶ移行いこうには、らせん構造こうぞう存在そんざいする[8]ゆうはしにおいて、かく後方こうほうリボソーム密集みっしゅうし、ミトコンドリアかこまれている[8]

1. さまざまなむちきんゆうはし (あか矢印やじるし進行しんこう方向ほうこう): (a) ツボカビるい、(b) ツボカビるいネオカリマスチクスるい一部いちぶ)、(c) ネコブカビるい、(d) サカゲツボカビるい、(e) たまご菌類きんるいいちゆうはし、(f) たまご菌類きんるいゆうはし

ゆうはし適当てきとう基質きしつじょう着生ちゃくせい細胞さいぼうかべ形成けいせいしてシストし、発芽はつがしてかりなどをばす[9][7]

有性ゆうせい生殖せいしょく確実かくじつ報告ほうこくはない[5][2][10][9][7][8]。ただし、いくつかのたね耐久たいきゅう胞子ほうし嚢が報告ほうこくされており、この構造こうぞう有性ゆうせい生殖せいしょくかかわっている可能かのうせいもある[8]

生態せいたい[編集へんしゅう]

海水かいすい淡水たんすい土壌どじょう生育せいいくしている[9][2][10][13][7]

菌類きんるいおなじく吸収きゅうしゅう栄養えいようせいであり、おおくは動植物どうしょくぶつ遺骸いがいじょうくさなまてき生活せいかつするが、生物せいぶつ寄生きせいするものもられている[5][9][2][10][13][7][11]寄生きせいせいのものは、藻類そうるいたまごきんなまたまごグロムスるい胞子ほうし嚢菌甲殻こうかくるいなどから報告ほうこくされている[2][10][7][11]環境かんきょうDNA研究けんきゅうからは、うみ淡水たんすいには未知みちのサカゲツボカビるいおおいことが示唆しさされている[11][8]

系統けいとう分類ぶんるい[編集へんしゅう]

20世紀せいき後半こうはんには、サカゲツボカビるいは、ツボカビるいたまご菌類きんるいとともにきんかいむち菌類きんるいもんまたはもん)に分類ぶんるいされていた[14][15][16]。しかしむち細胞さいぼう形態けいたい細胞さいぼうかべ組成そせいリジン合成ごうせい経路けいろちがいから、ツボカビるいとの異質いしつせいひろみとめられていた。一方いっぽうで、管状かんじょうしょう付随ふずいしたぜんむちはねがたむち)をもつなどたまご菌類きんるいとは共通きょうつうてんおおく、両者りょうしゃをまとめてもうきん(dicontomycetes)とすることもあった[17]。サカゲツボカビるいたまご菌類きんるい不等ふとう褐藻かっそう珪藻けいそう)との共通きょうつうてんおおく、これらをまとめものとして、ストラメノパイルとよばれる生物せいぶつぐん提唱ていしょうされた[18]。やがて20世紀せいきまつ以降いこう分子ぶんし系統けいとうがくてき研究けんきゅうにより、サカゲツボカビるいたまご菌類きんるいが、ツボカビるいふく狭義きょうぎ菌類きんるい菌類きんるい)とは遠縁とおえんであり、ストラメノパイルにぞくすることがたしかめられた[19]

分子ぶんし系統けいとうがくてき研究けんきゅうから、ストラメノパイルなかで、サカゲツボカビるいたまご菌類きんるい姉妹しまいぐんであることがしめされている[13]独立どくりつサカゲツボカビもん分類ぶんるいすることもあるが[2][11][8]たまごきんつなとともにたまごきんもん[13]またはにせきんもん[3]分類ぶんるいされることもある。

珪藻けいそう細胞さいぼうない侵入しんにゅうする捕食ほしょくしゃであるピルソニアるいや、自由じゆう生活せいかつせいむち毛虫けむしであるデヴェロパイエラるいは、サカゲツボカビるい(およびたまご菌類きんるい)にきんえんであり、ピルソニアるいをサカゲツボカビつな分類ぶんるいしたれいもある[20]。しかし多量たりょう分子ぶんしデータにもとづく分子ぶんし系統けいとう解析かいせきからは、ピルソニアるい + デヴェロパイエラるいがサカゲツボカビるい + たまごきん姉妹しまいぐんであることが示唆しさされている[21]

わずか6ぞく20しゅほどがられるちいさなグループである[9][2][13][1]。ただし環境かんきょうDNA研究けんきゅうからは、いまだ未知みちのサカゲツボカビるいおお存在そんざいすることが示唆しさされている[11][8]

ふつうサカゲツボカビ (Hyphochytriales) にまとめられ、ぶんじつたん心性しんせいサカゲカビ (Rhizidiomycetaceae) とぶんじつ心性しんせいサカゲツボカビ (Hyphochytriaceae) にけられている[9][2][10][13][8]下表かひょう1)。ぜんせいのサカゲフクロカビぞくAnisolpidium)もサカゲフクロカビとしてサカゲツボカビつなサカゲツボカビまたはサカゲフクロカビ分類ぶんるいされていたが[5][9][13]分子ぶんし系統けいとうがくてき研究けんきゅうからサカゲフクロカビぞくたまごきんつなぞくすることがしめされ、サカゲツボカビつなからはのぞかれている[2][8][22]。このことは、たんむち複数ふくすう系統けいとう独立どくりつこったことをしめしている。

ひょう1. サカゲツボカビるいぞくまでの分類ぶんるい体系たいけいいちれい[9][5][6][3][1]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 動物どうぶつ命名めいめい規約きやくでのである[23]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

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  3. ^ a b c いわおいさお, 倉谷くらたにしげる, 斎藤さいとうしげる也 & 塚谷つかたに裕一ひろいち, ed (2013). “生物せいぶつ分類ぶんるいひょう”. 岩波いわなみ 生物せいぶつがく辞典じてん だい5はん. 岩波書店いわなみしょてん. pp. 1604–1605. ISBN 978-4000803144 
  4. ^ ジョン・ウェブスターちょ 椿つばき啓介けいすけ三浦みうら宏一こういちろう山本やまもとあきらやく (1985). “むちきんもん”. ウェブスター菌類きんるい概論がいろん. 講談社こうだんしゃ. p. 97. ISBN 978-4061396098 
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  23. ^ Cavalier-Smith, T. (1986). “The kingdom Chromista: Origin and systematics”. Progress in Phycological Research 4: 309-347. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]

  • The MycoBank”. Robert, V., Stegehuis, G. & Stalpers, J.. 2023ねん8がつ12にち閲覧えつらん