シグナル伝達でんたつけん転写てんしゃ活性かっせい因子いんし5

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signal transducer and activator of transcription 5A
STAT5A
識別子しきべつし
略号りゃくごう STAT5A
略号りゃくごう STAT5
Entrez英語えいごばん 6776
HUGO 11366
OMIM 601511
RefSeq NM_003152
UniProt P42229
のデータ
遺伝子いでんし Chr. 17 q11.2
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signal transducer and activator of transcription 5B
STAT5B
識別子しきべつし
略号りゃくごう STAT5B
Entrez英語えいごばん 6777
HUGO 11367
OMIM 604260
RefSeq NM_012448
UniProt P51692
のデータ
遺伝子いでんし Chr. 17 q11.2
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シグナル伝達でんたつけん転写てんしゃ活性かっせい因子いんし5(signal transducer and activator of transcription 5、STAT5)は、非常ひじょうたか関連かんれんせいゆうする2種類しゅるいタンパク質たんぱくしつSTAT5A英語えいごばんSTAT5Bす。これらは7つのメンバーから構成こうせいされるSTATファミリーのタンパク質たんぱくしつである。STAT5AとSTAT5Bは別個べっこ遺伝子いでんしによってコードされているが、タンパク質たんぱくしつアミノ酸あみのさんレベルで90%が同一どういつである[1]。STAT5タンパク質たんぱくしつ細胞さいぼうしつ基質きしつでのシグナル伝達でんたつと、特定とくてい遺伝子いでんし発現はつげん媒介ばいかい関与かんよしている[2]。STAT5の活性かっせい異常いじょうはヒトの広範囲こうはんいがん密接みっせつ関係かんけいしていることがしめされており、この異常いじょう活性かっせいのサイレンシングは、医薬品いやくひん化学かがく分野ぶんや活発かっぱつ研究けんきゅう対象たいしょうとなっている[3]

活性かっせい機能きのう[編集へんしゅう]

STAT5タンパク質たんぱくしつ機能きのうするためには、まず活性かっせいされる必要ひつようがある。この活性かっせいは、まく貫通かんつう受容じゅようたい結合けつごうしたキナーゼによっておこなわれる[4]

  • まく貫通かんつう受容じゅようたい細胞さいぼう外側そとがわリガンド結合けつごうし、キナーゼが活性かっせいされる。
  • 刺激しげきされたキナーゼが受容じゅようたい特定とくていチロシンざんもとリンさんもと付加ふかする。
  • その、STAT5がSH2ドメイン利用りようしてこれらのリン酸化さんかチロシンざんもと結合けつごうする。
  • つづいて結合けつごうしたSTAT5がキナーゼによってリン酸化さんかされる。リン酸化さんかタンパク質たんぱくしつC末端まったん特定とくていのチロシンざんもとたいしておこなわれる。
  • リン酸化さんかによってSTAT5が受容じゅようたいから解離かいりする。
  • リン酸化さんかされたSTAT5は、ホモりょうたい(STAT5-STAT5)またはのSTATタンパク質たんぱくしつとのヘテロりょうたい(STAT5-STATX)を形成けいせいする。このりょうからだにはSH2ドメインがふたた利用りようされる。STAT5はヒストンメチルトランスフェラーゼEZH2きょうはたらかしてホモよんりょうからだ形成けいせいする場合ばあいもあり、転写てんしゃリプレッサーとして作用さようする[5]
STAT5の活性かっせい

活性かっせい経路けいろしきてきしめされているように、関与かんよするリガンドはサイトカインであり、活性かっせいおこな特異とくいてきキナーゼはJAKである。りょうからだしたSTAT5は活性かっせい状態じょうたいであり、かく移行いこうする。

かくないでは、りょうたいはSTAT5応答おうとうエレメントに結合けつごうし、特定とくていのセットの遺伝子いでんし転写てんしゃ誘導ゆうどうする。STAT5りょうたいによって発現はつげんがアップレギュレーションされる遺伝子いでんしは、つぎのような過程かてい関与かんよしている[2]

活性かっせいされたSTAT5りょうたい寿命じゅみょうみじかく、迅速じんそく活性かっせいおこなわれる。活性かっせいは、PIAS英語えいごばんSHP2などをかいして直接的ちょくせつてきおこなわれる場合ばあいや、サイトカインシグナルの減少げんしょうなど間接かんせつてきおこなわれる場合ばあいがある[6]

STAT5とがん[編集へんしゅう]

STAT5はがん細胞さいぼう恒常こうじょうてきにリン酸化さんかされていることが判明はんめいしており[3]タンパク質たんぱくしつつね活性かっせいがたとして存在そんざいしていることが示唆しさされる。この恒常こうじょうてき活性かっせい変異へんいによるものかまたは細胞さいぼうシグナルの異常いじょう発現はつげんによるものであり、STAT5の影響えいきょうける遺伝子いでんし転写てんしゃ活性かっせい調節ちょうせつがうまくおこなわれなくなったり、完全かんぜん制御せいぎょ不能ふのう状態じょうたいとなったりし、恒常こうじょうてき発現はつげん上昇じょうしょうおこなわれる。たとえば、変異へんいによってこうアポトーシス遺伝子いでんし発現はつげん上昇じょうしょうがもたらされると、遺伝子いでんし産物さんぶつ恒常こうじょうてき存在そんざいすることとなる。その結果けっか細胞さいぼうはがんしても保存ほぞんされることとなり、最終さいしゅうてきには悪性あくせい腫瘍しゅようとなる。

治療ちりょうアプローチ[編集へんしゅう]

恒常こうじょうてきにリン酸化さんかされたSTAT5をゆうするがん細胞さいぼうたいする治療ちりょうとして、STAT5活性かっせい直接的ちょくせつてき間接かんせつてき阻害そがいこころみられている。医薬品いやくひん研究けんきゅうがよりおおおこなわれているのは間接かんせつてき阻害そがいによるアプローチであるが、このアプローチでは細胞さいぼう毒性どくせい増大ぞうだい非特異ひとくいてき効果こうかしょうじる可能かのうせいがあり、直接的ちょくせつてき阻害そがいによるアプローチがよりのぞましいとかんがえられている[3]

間接かんせつてき阻害そがいによるアプローチは、STAT5と結合けつごうするキナーゼやタンパク質たんぱくしつ末端まったん切断せつだんするプロテアーゼ標的ひょうてきとしている。さまざまなキナーゼを標的ひょうてきとした阻害そがいざい設計せっけいされている。

STATタンパク質たんぱくしつのドメイン構造こうぞう

STAT5の直接的ちょくせつてき阻害そがいには、STAT5のDNAへの適切てきせつ結合けつごう適切てきせつりょうからださまたげるてい分子ぶんし阻害そがいざい利用りようされる。DNA結合けつごう阻害そがいにはRNAi[10]アンチセンスオリゴヌクレオチド[10]shRNA[11]利用りようされる。一方いっぽう適切てきせつりょうからだ阻害そがいにはSH2ドメインを標的ひょうてきとしたてい分子ぶんし利用りようされる。近年きんねん薬剤やくざい開発かいはつではとく後者こうしゃ有効ゆうこうせいしめされている[12]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ “Stat5a and Stat5b: fraternal twins of signal transduction and transcriptional activation”. Cytokine Growth Factor Rev. 10 (2): 131–57. (June 1999). doi:10.1016/S1359-6101(99)00011-8. PMID 10743504. 
  2. ^ a b “STAT5 as a molecular regulator of proliferation, differentiation and apoptosis in hematopoietic cells”. EMBO J. 18 (17): 4754–65. (September 1999). doi:10.1093/emboj/18.17.4754. PMC 1171548. PMID 10469654. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1171548/. 
  3. ^ a b c “Inhibitors of Stat5 protein signalling”. MedChemComm 3 (1): 22–27. (January 2012). doi:10.1039/C1MD00175B. 
  4. ^ “Signal transducer and activator of transcription 5A/B in prostate and breast cancers”. Endocr. Relat. Cancer 15 (2): 367–90. (June 2008). doi:10.1677/ERC-08-0013. PMC 6036917. PMID 18508994. http://erc.endocrinology-journals.org/content/15/2/367.full.pdf. 
  5. ^ “Epigenetic repression of the Igk locus by STAT5-mediated recruitment of the histone methyltransferase Ezh2”. Nat. Immunol. 12 (12): 1212–20. (December 2011). doi:10.1038/ni.2136. PMC 3233979. PMID 22037603. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3233979/. 
  6. ^ “Constitutive activation of STAT5 by the BCR-ABL oncogene in chronic myelogenous leukemia”. Oncogene 13 (2): 247–54. (July 1996). PMID 8710363. 
  7. ^ “Effects of a selective inhibitor of the Abl tyrosine kinase on the growth of Bcr-Abl positive cells”. Nat. Med. 2 (5): 561–6. (May 1996). doi:10.1038/nm0596-561. PMID 8616716. 
  8. ^ “A FLT3-targeted tyrosine kinase inhibitor is cytotoxic to leukemia cells in vitro and in vivo”. Blood 99 (11): 3885–91. (June 2002). doi:10.1182/blood.V99.11.3885. PMID 12010785. 
  9. ^ “CYT387, a selective JAK1/JAK2 inhibitor: in vitro assessment of kinase selectivity and preclinical studies using cell lines and primary cells from polycythemia vera patients”. Leukemia 23 (8): 1441–5. (August 2009). doi:10.1038/leu.2009.50. PMID 19295546. 
  10. ^ a b “Specific inhibition of Stat5a/b promotes apoptosis of IL-2-responsive primary and tumor-derived lymphoid cells”. J. Immunol. 171 (8): 3919–27. (October 2003). doi:10.4049/jimmunol.171.8.3919. PMID 14530308. http://www.jimmunol.org/content/171/8/3919.full.pdf. 
  11. ^ “Stat3 as a molecular target in RNA interference-based treatment of oral squamous cell carcinoma”. Oncol. Rep. 20 (4): 873–8. (October 2008). doi:10.3892/or_00000085. PMID 18813829. 
  12. ^ “Small molecule STAT5-SH2 domain inhibitors exhibit potent antileukemia activity”. J. Med. Chem. 55 (3): 1047–55. (February 2012). doi:10.1021/jm200720n. PMID 22148584.