ジゴキシン

ジゴキシン
IUPAC命名めいめい法ほうによる物質ぶっしつ名めい
	IUPAC名めい 4-[(3S,5R,8R,9S,10S,12R,13S,14S)-3-[(2S,4S,5R,6R)-5-[(2S,4S,5R,6R)-5-[(2S,4S,5R,6R)-4,5-dihydroxy-6-methyl-oxan-2-yl]oxy-4-hydroxy-6-methyl-oxan-2-yl]oxy-4-hydroxy-6-methyl-oxan-2-yl]oxy-12,14-dihydroxy-10,13-dimethyl-1,2,3,4,5,6,7,8,9,11,12,15,16,17-tetradecahydrocyclopenta[a]phenanthren-17-yl]-5H-furan-2-one;
臨床りんしょうデータ
胎児たいじ危険きけん度ど分類ぶんるい	A (Au), C (U.S.);
法的ほうてき規制きせい	S4 (Au), POM (UK), ℞-only (U.S.);
投与とうよ経路けいろ	経口けいこう、静脈じょうみゃく注ちゅう
薬物やくぶつ動態どうたいデータ
生物せいぶつ学がく的てき利用りよう能のう	60 - 80% (経口けいこう)
血漿けっしょうタンパク結合けつごう	25%
代謝たいしゃ	肝臓かんぞう 16%
半減はんげん期き	36 - 48 時じ間あいだ ; (腎じん機能きのう正常せいじょう者しゃ); 3.5 - 5 日にち ; (腎じん機能きのう障害しょうがい者しゃ)
排泄はいせつ	腎臓じんぞう
識別しきべつ
CAS番号ばんごう;	20830-75-5
ATCコード	C01AA05 (WHO)
PubChem	CID: 2724385
KEGG	D00298
ChEBI	CHEBI:4551
ChEMBL	CHEMBL1751
化学かがく的てきデータ
化学かがく式しき	C41H64O14
分子ぶんし量りょう	780.938 g/mol
	SMILES O=C\1OC/C(=C/1)[C@H]2CC[C@@]8(O)[C@]2(C)[C@H](O)C[C@H]7[C@H]8CC[C@H]6[C@]7(C)CC[C@H](O[C@@H]5O[C@H](C)[C@@H](O[C@@H]4O[C@@H]([C@@H](O[C@@H]3O[C@@H]([C@@H](O)[C@@H](O)C3)C)[C@@H](O)C4)C)[C@@H](O)C5)C6;
	InChI InChI=1S/C41H64O14/c1-19-36(47)28(42)15-34(50-19)54-38-21(3)52-35(17-30(38)44)55-37-20(2)51-33(16-29(37)43)53-24-8-10-39(4)23(13-24)6-7-26-27(39)14-31(45)40(5)25(9-11-41(26,40)48)22-12-32(46)49-18-22/h12,19-21,23-31,33-38,42-45,47-48H,6-11,13-18H2,1-5H3/t19-,20-,21-,23-,24+,25-,26-,27+,28+,29+,30+,31-,33+,34+,35+,36-,37-,38-,39+,40+,41+/m1/s1; Key:LTMHDMANZUZIPE-PUGKRICDSA-N;
物理ぶつり的てきデータ
融点ゆうてん	249.3 °C (480.7 °F)
水みずへの溶解ようかい量りょう	0.0648 mg/mL (20 °C)
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ジゴキシン（Digoxin）とはジギタリス属ぞく植物しょくぶつであるケジギタリス（英語えいご版ばん） (Digitalis lanata) の葉はから抽出ちゅうしゅつされる強つよ心配しんぱい糖とう体からだである。作用さようはジギトキシンより強つよく、作用さよう時間じかんが長ながい。ジゴキシンのアグリコン（非ひ糖とう部ぶ）に相当そうとうする化合かごう物ぶつはジゴキシゲニン (Digoxigenin) である。糖とう部ぶであるジギトキソース (Digitoxose) は呈てい色しょく反応はんのうであるケラー–キリアニ反応はんのうに対たいして陽性ようせいを示しめす。商品しょうひん名めいはジゴシン。

薬理やくり作用さよう

ジゴキシンは細胞さいぼう膜まくに存在そんざいするNa⁺/K⁺-ATPaseを阻害そがいすることによって細胞さいぼう内ないNa⁺濃度のうどの上昇じょうしょうをもたらす。結果けっか、Na⁺を細胞さいぼうへ取とり込こみ、代かわりにCa²⁺排出はいしゅつする経路けいろとして存在そんざいするNa⁺-Ca²⁺-交換こうかん体たいが抑制よくせいされ、心筋しんきん細胞さいぼう内ないCa²⁺濃度のうどの増加ぞうかを引ひき起おこし、心筋しんきんの収縮しゅうしゅく力りょくの増加ぞうか（陽性ようせい変へん力作りきさく用よう）^[1]^[2]、心拍しんぱく数すうの減少げんしょう（陰性いんせい変へん時じ作用さよう）および心筋しんきんにおける神経しんけい興奮こうふん伝導でんどう速度そくどの低下ていか（陰性いんせい変へん伝導でんどう作用さよう）を引ひき起おこす。主おもに狭心症きょうしんしょう^{[要よう出典しゅってん]}および心房しんぼう細ほそ動どうに対たいして用もちいられる。副作用ふくさようとして嘔吐おうと、不整脈ふせいみゃくなどがある。

体内たいない動態どうたい

半減はんげん期きは約やく36時じ間あいだであり、臨床りんしょうにおいて通常つうじょう1日にち1回かい125μみゅーgまたは250µgを投与とうよする。消化しょうか管かん吸収きゅうしゅうは良好りょうこうであり、経口けいこう、静せい注ちゅう、筋すじ注ちゅうでの投与とうよが可能かのうである。腎じん排泄はいせつ型がたの薬物やくぶつであり、P-糖とう蛋白質たんぱくしつ（P-glycoprotein）により血ち中ちゅうから尿にょう細管さいかんへと分泌ぶんぴつ・排泄はいせつされる。そのため腎じん障害しょうがいの患者かんじゃに対たいする投与とうよは不適ふてきである。ジギトキシンは有効ゆうこう血ち中ちゅう濃度のうど範囲はんいが狭せまく、臨床りんしょうで用もちいる際さいには薬物やくぶつ治療ちりょうモニタリング（Therapeutic Drug Monitoring、TDM）が必要ひつようとなる。

後発こうはつ品ひんの品質ひんしつ

2008年ねん4月がつ、米国べいこく食品しょくひん医薬品いやくひん局きょく（FDA）は、マイラン製薬せいやくのジゴキシン製剤せいざいについてクラスIの回収かいしゅう（英語えいご版ばん）を実施じっしすると発表はっぴょうした^[3]^[4]。一部いちぶの錠剤じょうざいで厚あつさが2倍ばいあり、含有がんゆう量りょうが2倍ばいであるので一部いちぶの患者かんじゃでジゴキシンの毒性どくせいが見みられた。

2009年ねん3月がつ31日にちにも、FDAは別べつのジェネリック医薬品いやくひんメーカーCaraco Pharmaceutical Laboratories, Ltd.が製造せいぞうしたジゴキシン錠じょうを自主じしゅ回収かいしゅうすると発表はっぴょうした。「Caraco社しゃは全米ぜんべいでジゴキシン錠じょう全ぜんロットの自主じしゅ回収かいしゅうを実施じっしする。その理由りゆうは錠剤じょうざいの大おおきさの変動へんどう幅はばが大おおき過すぎるためである。」

同日どうじつ発表はっぴょうされたCaraco社しゃの記者きしゃ発表はっぴょうを以下いかに引用いんようする。

2009年ねん3月がつ31日にち以前いぜんに出荷しゅっかされたCaraco社しゃ製せいの全すべてのジゴキシン錠じょうは、0.125mg錠じょうも0.25mg錠じょうも使用しよう期限きげん2011年ねん9月がつを迎むかえていませんが、消費しょうひ者しゃの皆様みなさまの手てに渡わたったものを含ふくめて自主じしゅ回収かいしゅう致いたします。錠剤じょうざいの大おおきさにばらつきがあり、1錠じょう当あたりの成分せいぶん量りょうが多おお過すぎまたは少すくな過すぎるからです。

その他た

2008年ねんに発表はっぴょうされた研究けんきゅうでは、ジゴキシンの有用ゆうよう性せいは心臓しんぞうに対たいする作用さようだけでなく、一部いちぶの癌がん発症はっしょうの可能かのう性せいを低下ていかさせるとされた^[5] が、ジゴキシンの通常つうじょうの用量ようりょうでは効果こうかがないと思おもわれ^[6]、結果けっかの解釈かいしゃくにはさらなる研究けんきゅうが必要ひつようである^[7]。

心房しんぼう細ほそ動どうにおいて、ジゴキシン処方しょほうは全ぜん死亡しぼう・心こころ血管けっかん死亡しぼう・突然とつぜん死しの増加ぞうかと関連かんれんが報告ほうこくされた^[8]。

アメリカでは看護かんご師しであったチャールズ・カレンがジゴキシンを用もちいて患者かんじゃを殺害さつがいする事件じけんが起おきている。

出典しゅってん

^ 獣医じゅうい学がく大だい辞典じてん編集へんしゅう委員いいん会かい『明解めいかい獣じゅう医学いがく辞典じてん』チクサン出版しゅっぱん社しゃ、1991年ねん。ISBN 4885006104。
^ 高橋たかはし迪すすむ雄ゆう『獣医じゅうい生理学せいりがく第だい2版はん』文ぶん永えい堂どう出版しゅっぱん、2000年ねん。ISBN 4830031824。
^ “Recalls, Market Withdrawals & Safety Alerts”. FDA (2008年ねん10月がつ15日にち). 2011年ねん11月8日にち閲覧えつらん。
^ “Urgent Digitek Digoxin Recall”. U.S. Recall News. (2008年ねん4月がつ28日にち). オリジナルの2008年ねん5月がつ4日にち時点じてんにおけるアーカイブ。 2009年ねん7月がつ25日にち閲覧えつらん。
^ Zhang, H.; Qian, D. Z.; Tan, Y. S.; Lee, K.; Gao, P.; Ren, Y. R.; Rey, S.; Hammers, H. et al. (2008). “Inaugural Article: Digoxin and other cardiac glycosides inhibit HIF-1 synthesis and block tumor growth”. Proceedings of the National Academy of Sciences 105 (50): 19579–19586. Bibcode: 2008PNAS..10519579Z. doi:10.1073/pnas.0809763105. PMC 2604945. PMID 19020076.
^ Lopez-Lazaro M (March 2009). “Digoxin, HIF-1, and cancer” (pdf). PNAS 106 (9): E26. Bibcode: 2009PNAS..106...26L. doi:10.1073/pnas.0813047106. PMC 2651277. PMID 19240208.
^ Zhang, H.; Semenza, G. L. (2009). “Reply to Lopez-Lazaro: Evidence that digoxin inhibits human cancer”. Proceedings of the National Academy of Sciences 106 (9): E27. Bibcode: 2009PNAS..106...27Z. doi:10.1073/pnas.0900125106.
^ Washam JB, Stevens SR, Lokhnygina Y, Halperin JL, Breithardt G, Singer DE et al. (2015). “Digoxin use in patients with atrial fibrillation and adverse cardiovascular outcomes: a retrospective analysis of the Rivaroxaban Once Daily Oral Direct Factor Xa Inhibition Compared with Vitamin K Antagonism for Prevention of Stroke and Embolism Trial in Atrial Fibrillation (ROCKET AF).”. Lancet 385 (9985): 2363-70. doi:10.1016/S0140-6736(14)61836-5. PMID 25749644.

参考さんこう文献ぶんけん

田中たなか千賀子ちかこら編集へんしゅう『NEW 薬理やくり学がく第だい4版はん』南江堂なんこうどう 2002年ねん ISBN 4524220836
大本おおもと太一たいちら編集へんしゅう『天然てんねん物ぶつ薬品やくひん化学かがく』廣川ひろかわ書店しょてん 1991年ねん ISBN 4567431022