ダリエン地峡ちきょう

パナマ・コロンビア国境こっきょうにまたがるダリエン地峡ちきょうの地図ちず

ダリエン地峡ちきょう（ダリエンちきょう、英語えいご: Darién Gap）、もしくはダリエン・ギャップは、北きたアメリカ大陸あめりかたいりくと南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくとをつなぐ地峡ちきょう部分ぶぶんにおいて、最もっとも南みなみアメリカ大陸あめりかたいりくに近ちかい区間くかんである。中央ちゅうおうアメリカのパナマのダリエン県けんと、南みなみアメリカのコロンビアのチョコ県けん北部ほくぶにまたがっており、21世紀せいき初頭しょとうにおいても開発かいはつの手てがあまり及およんでいない沼地ぬまちや熱帯ねったい雨林うりんが残のこる地帯ちたいである。そして2018年ねん現在げんざいも南北なんぼくアメリカ大陸あめりかたいりくを縦断じゅうだんするパン・アメリカン・ハイウェイにおける未み開通かいつう区間くかんとなっている。この区間くかんはパナマのヤビサに始はじまってコロンビアのトゥルボまで106kmにわたって延のびている。この地域ちいきへの道路どうろ建設けんせつには多額たがくの費用ひようと多大ただいな環境かんきょうへの負荷ふかがかかり、建設けんせつに向むけた政治せいじ的てき合意ごういは、2024年ねん現在げんざいもなされていない。

地峡ちきょう部ぶのコロンビア側がわはアトラト川がわのデルタ地帯ちたいが大勢おおぜいを占しめており、低てい平たいらな沼沢しょうたく地ちが80kmにわたって広ひろがり、その大半たいはんは沼地ぬまちである。バウド山脈さんみゃくがコロンビアの太平洋たいへいよう岸きしに沿そってパナマまで延のびている。パナマ側がわは全まったく対照たいしょう的てきに、60mの谷たに床ゆかから最高さいこう1,845m（ダリエン山脈さんみゃく）に達たっする山やまがちな熱帯ねったい雨林うりん地帯ちたいである。

パン・アメリカン・ハイウェイ

ダリエン地峡ちきょうおよびヤビサ・トゥルボ間あいだの道路どうろ不通ふつう区間くかん

パン・アメリカン・ハイウェイは北きた・中央ちゅうおう・南なんアメリカを貫つらぬく総そう延長えんちょう30,000kmに及およぶ道路どうろシステムであり、ダリエン地峡ちきょうはその唯一ゆいいつの例外れいがいとなっている。南みなみアメリカ側がわでは北緯ほくい08度ど05分ふん24秒びょう 西経せいけい76度ど43分ふん12秒びょう付近ふきん、コロンビアのトゥルボで途切とぎれ、パナマ側がわでは北緯ほくい08度ど09分ふん00秒びょう 西経せいけい77度ど41分ふん24秒びょう付近ふきんに位置いちするヤビサの街まちが終点しゅうてんとなっている。この間あいだは直線ちょくせん距離きょりにして約やく100kmに及およぶ。

このパン・アメリカン・ハイウェイにおける不通ふつう区間くかんを補完ほかんする試こころみは、何なん十じゅう年ねんにもわたって続つづけられてきた。計画けいかくは1971年ねんにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの資金しきん援助えんじょのもとに始はじまったが、1974年ねんには環境かんきょう活動かつどう家かが懸念けねんを示しめしたことによって頓挫とんざした。再度さいど道路どうろ建設けんせつの取とり組くみが1992年ねんに立たち上あがったが、国連こくれんの調査ちょうさ機関きかんが1994年ねんに、道路どうろやそれに伴ともなう開発かいはつが環境かんきょうに多大ただいな悪影響あくえいきょうを与あたえるだろうと報告ほうこくした。引ひき合あいに出だされた理由りゆうの1つとして、ダリエン地峡ちきょうが中ちゅう北米ほくべいへの畜牛の感染かんせん症しょう拡大かくだいを防ふせいできたことが挙あげられている。中北なかきた米まいには1954年ねん以来いらい口蹄疫こうていえきが確認かくにんされておらず、少すくなくとも1970年代ねんだいまではこのことがダリエン地峡ちきょうへの道路どうろ接続せつぞくを防ふせぐ重大じゅうだいな要因よういんであった。エンベラ・ウォウナーン族ぞくとクナ族ぞくも、道路どうろ建設けんせつによって自分じぶんたちの文化ぶんかが侵食しんしょくされることへの懸念けねんを示しめしていた。

多おおくの人々ひとびと、団体だんたい、先住民せんじゅうみんおよび政府せいふが、ダリエン地峡ちきょう部ぶのハイウェイ接続せつぞくに反対はんたいしている。 反対はんたいの理由りゆうには、熱帯ねったい雨林うりんの保護ほご・熱帯ねったい病びょうの蔓延まんえんの封ふうじ込こめ・域内いきない先住民せんじゅうみんの生活せいかつの保護ほご・麻薬まやく密売みつばいとそれに伴ともなう紛争ふんそうの防止ぼうし、口蹄疫こうていえきの北米ほくべいへの侵入しんにゅう防止ぼうしなどが挙あげられる。 ヤビサまでのハイウェイの延長えんちょうは、過去かこ10年ねんにハイウェイ沿線えんせん部ぶの深刻しんこくな森林しんりん破壊はかいを招まねいた。

バイオ・パシフィコの調査ちょうさで提案ていあんされた選択肢せんたくしの1つは、既存きそんのパナマ側がわの道路どうろを延長えんちょうし、コロンビアからパナマの新あらたなフェリーターミナルへ短みじかいフェリー航路こうろを接続せつぞくすることである。この方法ほうほうでは、こうした環境かんきょう上じょうの問題もんだいをほとんど悪化あっかさせることなくハイウェイを完成かんせいさせることができる。もう1つの案あんは、橋はしとトンネルを組くみ合あわせて環境かんきょうへの負荷ふかが大おおきい地域ちいきを避さけるというものである。

地峡ちきょうの内部ないぶ

エンブラ族ぞくの少女しょうじょ（ダリエン県けん）

民族みんぞく

ダリエン地峡ちきょうはエンベラ・ウォウナーン族ぞくとクナ族ぞくの居住きょじゅう地ち（かつ16世紀せいきのスペイン人じんによる民族みんぞく撲滅ぼくめつ以前いぜんのクエバ族ぞくの故こ地ち）である。移動いどうは一般いっぱんにピラグア（丸木舟まるきぶね）で行おこなわれる。パナマ側がわでは、ラ・パルマが県けん都とかつ主要しゅような文化ぶんかの中心ちゅうしん地ちとなっている。他たのメスティソの集しゅう住じゅう地ちにはヤビサやエル・レアルがある。ダリエン地峡ちきょうには1980年ねん時点じてんで1700人にんの人口じんこうが報告ほうこくされている。トウモロコシ・キャッサバ・プランテン・バナナがどのような土地とちにも育そだつ主食しゅしょく作物さくもつである。

天然てんねん資源しげん

ダリエン地峡ちきょう内ないには2つの大おおきな国立こくりつ公園こうえんが存在そんざいする。パナマのダリエン国立こくりつ公園こうえんとコロンビアのロス・カティオス国立こくりつ公園こうえんである。ダリエン地峡ちきょうの森林しんりんは以前いぜんはケドレラやマホガニーに覆おおわれていたが、こうした樹木じゅもくは伐採ばっさいされた。

ダリエン国立こくりつ公園こうえんはおよそ5,790km²の広ひろがりを持もち、1980年ねんに制定せいていされた。これは中米ちゅうべいでは最大さいだいの国立こくりつ公園こうえんである。

ダリエン地峡ちきょうの横断おうだん

パン・アメリカン・ハイウェイ

大陸たいりく間あいだの縦断じゅうだん旅行りょこうを試こころみる場合ばあい、オフロード車しゃで地峡ちきょうを渡わたることもできる。独立どくりつ後ご初はじめてのダリエン地峡ちきょうの探検たんけんは、スミソニアン協会きょうかいなどの大おおきなスポンサーの後援こうえんを受うけた1924～25年ねんのマーシュ探検たんけん隊たいであった。

地峡ちきょうを車くるまで渡わたった最初さいしょの縦断じゅうだん者しゃは、1959～60年ねんのトランス・ダリエン探検たんけん隊たいによるラ・クカラチャ・カリニョーサ（La Cucaracha Cariñosa）と名付なづけられたランドローバーとジープであった。ここにはパナマのアマド・アラウスとその妻つまレイナ・トレス・デ・アラウス、イギリスの元もと特殊とくしゅ空挺くうてい部隊ぶたい員いんリチャード・E・ベヴィル、そしてオーストラリア人じん技師ぎしのテレンス・ジョン・ウィットフィールドが乗のっていた。隊たいは1960年ねん2月がつにパナマのシェポを出発しゅっぱつし、平均へいきん時速じそく201mで136日にちを費ついやし、同年どうねん6月がつ17日にちにコロンビアのキブドに到着とうちゃくした。彼かれらは広大こうだいなアトラト川がわをかなりの距離きょりにわたって遡上そじょうした。

1960年ねん2月がつには冒険ぼうけん家かのダニー・リスカが、アラスカからアルゼンチンへのオートバイでの旅行りょこうの途上とじょうに、ダリエン地峡ちきょうをパナマからコロンビア方面ほうめんへ通とおり抜ぬけようと試こころみた。リスカはオートバイの放棄ほうきを余儀よぎなくされ、ボートと船ふねで地峡ちきょうを縦断じゅうだんした。1961年ねんには、3台だいのシボレー・コルヴェアと数すう台だいのサポート車しゃのチームがパナマを出発しゅっぱつした。109日にち後ご、彼かれらはコロンビア国境こっきょうに至いたったとき、1台だいはジャングルに打うち捨すてられ、コルヴェアは2台だいとなっていた。これは普通ふつう四よん輪りん乗用車じょうようしゃによる初はじめての横断おうだんであった。この冒険ぼうけんの様子ようすはジャム・ハンディ・プロダクションの映画えいがとAutomobile Quarterly誌しの記事きじに掲載けいさいされた。

全ぜん区間くかん自動車じどうしゃによる初はじめての横断おうだんはローレン・アプトンとパティ・マーシャーが1985～87年ねんにかけてCJ-5 ジープで行おこなったもので、741日間にちかんで201kmを走行そうこうした。この横断おうだん記録きろくは1992年ねんのギネスブックに記録きろくされている。エド・カルバーソンはダリエン地峡ちきょうのルート案あんを含ふくむパン・アメリカン・ハイウェイ全長ぜんちょうを、オートバイBMW R80G/Sによってたどった最初さいしょの人物じんぶつであった。

伝道でんどう者しゃアーサー・ブレシットは1979年ねん、12フィート（3.65m）の木製もくせいの十字架じゅうじかを背負せおって地峡ちきょうを横断おうだんし、キリスト教きょうの「世界せかいで最もっとも長ながい巡礼じゅんれい」の1つとしてギネス世界せかい記録きろくに認みとめられた。ブレシットはマチェテとリュックサック1つ――中なかには水筒すいとう・ハンモック・聖書せいしょ・メモ帳ちょう・レモンドロップと、イエスが「Smile! God Loves you」と言いっているブレシット直筆じきひつのステッカーが入はいっていた――を携たずさえて旅行りょこうした。彼かれの冒険ぼうけん譚たんは、自著じちょのThe Crossおよび同名どうめいの全編ぜんぺん映画えいがの中なかで語かたられている。

コロンビア側がわ、パナマ国境こっきょう近ちかくのジャングルの小径しょうけい

ダリエン地峡ちきょうのほとんどの横断おうだん記録きろくは、パナマからコロンビアへ向むかうものであった。1961年ねん7月がつ、カール・アドラー、ジェームズ・ワース、ジョセフ・ベリーナの3人にんの大学生だいがくせいが、サン・ミゲル湾わんからパリタ湾わん側がわのプエルト・オバルディア（コロンビア国境こっきょう付近ふきん）に渡わたり、最終さいしゅう的てきにサン・ブラス県けん（現在げんざいのクナ・ヤラ自治じち県けん）のムラトゥプに向むかった。この横断おうだん旅行りょこうはトゥイラ川がわ・チュクナケ川がわ・トゥケサ川がわとダリエン山脈さんみゃくを通とおって、バナナボートとピラクア、徒歩とほによって行おこなわれた。

1985年ねんには、慈善じぜん団体だんたいラレー・プロジェクト（1989年ねんにラレー・インターナショナルに発展はってん）が、地峡ちきょうを海岸かいがん伝づたいに越こえる遠征えんせいを後援こうえんした。彼かれらのルートは上述じょうじゅつの1961年ねんの経路けいろに似にていたが、反対はんたいであった。遠征えんせいは、ダリエン山脈さんみゃくのカレドニア湾わんに始はじまり、メンブリージョ川がわ・チュクナケ川がわを通とおってヤビサに至いたるもので、概おおむね1513年ねんのバルボアによる遠征えんせいルートをたどるものであった。

2013年ねん現在げんざい、ダリエン地峡ちきょうの東岸とうがん側がわのルートは比較的ひかくてき安全あんぜんになっている。これは、ウラバ湾わんのトゥルボ～カプルガナ間あいだを船ふねで渡わたり、海岸かいがんをサプスロへ進すすんだのち、そこからパナマのラ・ミエルまで歩あるくルートである。 地峡ちきょう内陸ないりく部ぶのルートはいずれも多大ただいな危険きけんを伴ともなう。CBSのジャーナリスト、アダム・ヤマグチは2017年ねん6月がつ、コロンビアからダリエン地峡ちきょうを経へてパナマへの9日間にちかんにわたって難民なんみんを案内あんないする越境えっきょう請負うけおい業者ぎょうしゃを撮影さつえいした。

アフリカからの移民いみんは、アメリカに移住いじゅうする手段しゅだんとしてダリエン地峡ちきょうを越境えっきょうすることが知しられている。このルートでは、エクアドル、中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこくのビザポリシーを活用かつようして入国にゅうこくし、徒歩とほで地峡ちきょうを横断おうだんすることになる。ジャーナリストのジェイソン・モトラフは、ダリエン地峡ちきょうを渡わたる移民いみんに関かんする彼かれの取材しゅざいについて、ナショナル・パブリック・ラジオの全国ぜんこくネット番組ばんぐみ「On Point」でインタビューを受うけた。

武力ぶりょく衝突しょうとつ・誘拐ゆうかい

FARCの武装ぶそう勢力せいりょく（1998）

ダリエン地峡ちきょうは、コロンビア政府せいふに対たいする数すう十じゅう年ねんもの反はん政府せいふ運動うんどうの中なかで暗殺あんさつや誘拐ゆうかい・人権じんけん侵害しんがいに与くみしてきたコロンビア革命かくめい軍ぐん（FARC）の根拠地こんきょち・活動かつどう地ちである。FARCの反はん政府せいふ勢力せいりょくは、国境こっきょうを挟はさんでパナマ・コロンビアの両側りょうがわに存在そんざいする。2000年ねんには、イギリスの2人ふたりの旅行りょこう者しゃトム・ハート・ダイクとポール・ウィンダーが、ダイクが情熱じょうねつを注そそいでいたランの採集さいしゅう中ちゅうに、ダリエン地峡ちきょうでFARCと思おもわれるゲリラに誘拐ゆうかいされた。 2人ふたりは9ヶ月かげつ間あいだ拘束こうそくされ、死しの恐怖きょうふに脅おびやかされ続つづけた末すえに、身代金みのしろきんの支払しはらいを待またずに無傷むきずで釈放しゃくほうされた。ダイクとウィンダーは、著作ちょさくThe Cloud Gardenと、テレビ番組ばんぐみLocked Up Abroadのエピソードの中なかで経験けいけんを語かたっている。

ダリエン地峡ちきょうの他ほかの政治せいじ的てき被害ひがいにあった人物じんぶつとしては、1993年ねんにパナマ側がわのプクロから姿すがたを消けした3人にんのニュー・トライブス・ミッションの宣教師せんきょうしが挙あげられる。

2003年ねんには、ナショナル・ジオグラフィック・アドベンチャー誌しの仕事しごとで来きていたロバート・ヤング・ペルトンと2人ふたりの随行ずいこう者しゃが、親おや政府せいふ系けいの準じゅん軍ぐん組織そしきコロンビア自衛じえい軍ぐん連合れんごうに拘束こうそくされ、大々的だいだいてきに報道ほうどうされた。

2013年ねん5月がつから、ダリエン地方ちほうのロス・カティオス国立こくりつ公園こうえんとカカリカ川がわ流域りゅういきの周辺しゅうへんでコロンビアの新しん準じゅん軍ぐん組織そしきの活動かつどうが非常ひじょうに活発かっぱつになっていると報告ほうこくされた。 2013年ねん、スウェーデンのバックパッカー、ヤン・フィリップ・ブラウニシュは、カカリカ川がわ流域りゅういきを経由けいゆしてパナマに徒歩とほで渡わたろうとコロンビアのリオスシオから出でた後のち、この地域ちいきで消息しょうそくを絶たった。 彼かれの遺骸いがいは2015年ねん6月がつに発見はっけんされ、頭部とうぶへの銃撃じゅうげきで死亡しぼうしたことが判明はんめいした。FARCは彼かれを外国がいこくのスパイと誤認ごにんして殺害さつがいしたことを認みとめた。

関連かんれん項目こうもく

• ダリエン計画けいかく - スコットランドによるアメリカ大陸あめりかたいりくの植民しょくみん地ち化か

外部がいぶリンク

• "Pan-American Highway and the Environment"
• "A State of Nature: Life, Death, and Tourism in the Darién Gap", 2013
• "Darien" . Encyclopædia Britannica (英語えいご) (11th ed.). 1911.