ドモヴォーイ

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ドモヴォーイ(イヴァン・ビリビン

ドモヴォーイ[1]ドモヴォイ[2]とも。ウクライナ: домовикロシア: домово́й, ラテン文字もじ転写てんしゃ:Domovoi[1]、Domovoj[1]) は、スラブじんいえせい。そのスラヴの「ドム (dom)」(いえ家庭かてい)から派生はせいしたとされる[1][2]

解説かいせつ[編集へんしゅう]

商人しょうにんつまとドモヴォーイ』(ボリス・クストーディエフ

ドモヴォーイはかく家庭かていにいるとされ、いえ家族かぞくまも精霊せいれいである。暖炉だんろした地下ちかしつ玄関げんかん[1]が、納屋なや家畜かちく小屋こやんで家畜かちく面倒めんどうをみるものもいる[2]

ドモヴォーイはおおむね、灰色はいいろまたはしろ体毛たいもうで、かみあごひげをもつ毛深けぶか老人ろうじん小人こどもとして表現ひょうげんされ[1][2]かくつともわれる[2][3]。さらに、家畜かちくくさ姿すがたあらわれることもある[3]人間にんげんがドモヴォーイの姿すがたることはとてもまれなことであるが、それは同時どうじにとても不幸ふこうなことである[3]人々ひとびとはドモヴォーイを本来ほんらい名前なまえばないようにし[4]、チェロヴィク(あのひと)やデドゥシュカデドゥコ(おじいさん)などの湾曲わんきょくした表現ひょうげん[1]。しかしドモヴォーイのすすりいたりうなったりするこえはよくかれるという[3]。また、よるいえがきしむおとがするのは、ドモヴォーイが家事かじなどを片付かたづけているためだとされている[1]

ドモヴォーイはあたたかさがきで、もしドモヴォーイをおこらせるとそのいえ火災かさい見舞みまわれるとされている。そのため人々ひとびとは、夕食ゆうしょく一部いちぶをドモヴォーイにそなえて機嫌きげんをとる。また、しのさいはドモヴォーイをれてくべく、暖炉だんろ持参じさんして転居てんきょさきあたらしい暖炉だんろうつしたり[1]ほうきなどの生活せいかつ用具ようぐ一部いちぶ持参じさんしたりする。もしドモヴォーイをふるいえいていくと転居てんきょさきでは凶事きょうじきるとわれている[2]一方いっぽうでドモヴォーイはながんだいえはなれるのをいやがることから、転居てんきょまえあたらしいいえ暖炉だんろしたにパンをいてドモヴォーイをせることもある[5]

ドモヴォーイは、家族かぞくまもるためわる精霊せいれい侵入しんにゅうしゃ殺害さつがいいとわない。家族かぞく危険きけんせまるとそれをらせ、未来みらいおしえることもある。よるにドモヴォーイのからだれたときあたたかければ幸運こううんがあり、つめたければ不運ふうんがあるとされている[6]。あるいは、就寝しゅうしんちゅうにドモヴォーイにけられたら吉凶きっきょうたずね、回答かいとうがあれば幸運こううんがあり、なければ不運ふうんがあるとされている[2]。ドモヴォーイのごえは、家族かぞくだれかの間近まぢからせだともされている[5]らない家族かぞくにはいたずらを仕掛しかけたり[7]きらいな家畜かちくいかけまわしたすええさくそえて餓死がしさせたりする[2]

ドモヴォーイにはドモヴィーハ[5](ドマニャー[5]、ドミーカ[1]とも)というつまがいるとされている[1][5]。ドモヴィーハは床下ゆかした地下ちかしつんでいるとされる[1][5]

起源きげん[編集へんしゅう]

ドモヴォーイは、ふる時代じだい先祖せんぞ精霊せいれいがその起源きげんだとかんがえられている[1]。それまで部族ぶぞくという単位たんいでまとまっていた人々ひとびと家族かぞくという単位たんい区別くべつされるようになったときに、ドモヴォーイの概念がいねんあらわれたという。それ以前いぜん部族ぶぞく単位たんい先祖せんぞ精霊せいれいとしてられていたのがロード英語えいごばんであった[5]

伝説でんせつ[編集へんしゅう]

ドモヴォーイおよび同種どうしゅ神秘しんぴてき存在そんざいについてはつぎのような伝説でんせつがある。かれらはかつては天国てんごくんでいたが、至高しこうしん天地てんち創造そうぞうしたさい反乱はんらんこしたため、至高しこうしんによって地上ちじょうとされたという。かれらの一部いちぶ人間にんげんいえやその周辺しゅうへんち、一部いちぶもりみずうみかわちた[3]いえなかちたのがドモヴォーイで、そのいえ人々ひとびとしたしくなった。人家じんか周囲しゅういちたのがドヴォロヴォイバーンニクオヴィンニクフレヴニクで、人間にんげん警戒けいかいしている。そして自然しぜんかいちたのがポレヴィークレーシーヴォジャノーイルサールカで、人間にんげん危害きがいくわえるという[7]

類似るいじする存在そんざい[編集へんしゅう]

ドモヴォーイはウクライナではドモヴィークばれる。イングランドにはドモヴォーイとよく性質せいしつ精霊せいれいブラウニーがいる[1]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • アレグザンスキー, G. ちょ「スラヴの神話しんわ」、ギラン,フェリックスへん へん『ロシアの神話しんわ小海こかい永二えいじわけ新版しんぱん)、青土おうづちしゃ〈シリーズ世界せかい神話しんわ〉、1993ねん10がつ、pp.5-92ぺーじISBN 978-4-7917-5276-8 
  • 中堀なかほり正洋まさひろ ちょ「ドモヴォイ」、松村まつむら一男かずおほかへん へんかみ文化ぶんか事典じてん白水しろみずしゃ、2013ねん2がつ、p. 362ぺーじISBN 978-4-560-08265-2 
  • ローズ, キャロル「ドモヴォーイ」『世界せかい妖精ようせい妖怪ようかい事典じてん松村まつむら一男かずお監訳かんやくはら書房しょぼう〈シリーズ・ファンタジー百科ひゃっか〉、2003ねん12月、pp. 250-251ぺーじISBN 978-4-562-03712-4 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]