フェニアン


ジョン・オマホニー		ジェームズ・スティーブンス

フェニアン（Fenian）は、19世紀せいきから20世紀せいきにかけてアイルランドの独立どくりつと共和きょうわ国こく樹立じゅりつに傾注けいちゅうした友愛ゆうあい団体だんたいである、フェニアン団だん並ならびにアイルランド共和きょうわ主義しゅぎ団だん（IRB）の隠語いんご。1831年ねんにアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくで設立せつりつされたアイルランド共和きょうわ主義しゅぎ団体だんたいに対たいして、ケルト語ご学者がくしゃのジョン・オマホニーが「フィアナ」（Fianna、アイルランド・スコットランド神話しんわに見みられる騎士きし団だんの意い）にちなんで初はじめて用もちいた^[1]^[2]^[3]^[4]^[5]。

今日きょうでも使用しようされてはいるが、もっぱら北きたアイルランド及およびスコットランドにおけるアイルランド民族みんぞく主義しゅぎの支持しじ者しゃを指さす語かたりとなっている。また、カトリックを奉ほうじるアイルランド人じんに対たいする蔑称べっしょうとしても用もちいられてきた^[6]^[7]。こうした経緯けいいがあるため、19世紀せいきのフェニアンに敬意けいいを表あらわしつつも、自みずからを「民族みんぞく主義しゅぎ者しゃ」なり「共和きょうわ主義しゅぎ者しゃ」と形容けいようするアイルランド民族みんぞく主義しゅぎ者しゃは多おおい。

フェニアン主義しゅぎ

オマホニーによると、フェニアン主義しゅぎとはアイルランドが独立どくりつのための自然しぜん権けんを有ゆうしており、この権利けんりは武装ぶそう革命かくめいによってのみ達成たっせい可能かのうという、2つの原理げんりに象徴しょうちょうされるという^[8]。

なお、フェニアン主義しゅぎという語かたり自体じたいは、イギリスの支配しはい階層かいそうが1860年代ねんだい、労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうやアイルランド民族みんぞく主義しゅぎのシンパを動員どういんする行為こういを指さして使つかうことがあった程度ていどである。それも既存きそんの社会しゃかい秩序ちつじょが労働ろうどう組合くみあい主義しゅぎによって置おき換かえられるような、文明ぶんめい社会しゃかいを転換てんかんさせる恐おそれを懸念けねんする文脈ぶんみゃくにおいてであった^[9]。

アイルランド

1848年ねんに発生はっせいした青年せいねんアイルランド党とうによる蜂起ほうきの参加さんか者しゃであったジェームズ・スティーブンスはパリで名なを馳はせた後のち、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでジョン・オマホニーと連携れんけいした他ほか、国内外こくないがいの急進きゅうしん的てきな民族みんぞく主義しゅぎ者しゃとも共闘きょうとう。

後のちにジェレミア・オドノバン・ロッサとして知しられるジェレミア・オドノバンとは、スキバリーンにて「フェニックス民族みんぞく文芸ぶんげい協会きょうかい」を設立せつりつすることとなる。また、1858年ねん 5月17日にちにはトマス・クラーク・ルビーやジョン・オリアリー (フェニアン)、チャールズ・キッカムと、ダブリンのロンバード通どおりでアイルランド共和きょうわ主義しゅぎ団だんを立たち上あげた。

アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく

アイルランド共和きょうわ主義しゅぎ団だんのアメリカ支部しぶであるフェニアン団だんが、ジョン・オマホニーやマイケル・ドヘニーにより結成けっせい（両者りょうしゃは何いずれも1848年ねんの青年せいねんアイルランド党とう蜂起ほうきに参加さんか）。当初とうしょはオマホニーがアメリカで活動かつどうを行おこなう傍かたわら、スティーブンスやIRBへ資金しきん提供ていきょうしていたが、1865年ねんに反はんオマホニー派はが2つのフェニアン団だんを立たち上あげることとなった。なお、フェニアン襲撃しゅうげき以後いごはクラン・ナ・ゲールが台頭たいとう。

カナダ

カナダでも、急進きゅうしん的てきなアイルランド人じんから成なるフェニアン団だんを指さすのに用もちいられる。フェニアン団だんは、当時とうじイギリスの自治領じちりょうであった複数ふくすうの州しゅう（オンタリオ州しゅう南部なんぶ及およびケベック州しゅうミシスコイ郡ぐん^[10]）に数すう回かい侵入しんにゅう（1866年ねん、1870年ねんなど）。目的もくてきはやはりカナダを人質ひとじちに取とり、イギリスにアイルランド独立どくりつを認みとめさせることにあった。襲撃しゅうげき事件じけんにより、カナダでアイルランド独どく立派りっぱを支持しじないし協力きょうりょくする者ものは、アイルランド人じんの間あいだでさえ極きわめて稀まれとなる。

なお、1868年ねんにアイルランド系けいカナダ人じんの政治せいじ家かであるトマス・ダーシー・マクギー（1840年代ねんだいはアイルランド同盟どうめい員いんであった）を暗殺あんさつしたパトリック・J・フェランは、オタワで絞首刑こうしゅけいに処しょせられた。

フェニアン襲撃しゅうげきによってもたらされた危機ききは、イギリスの北米ほくべい植民しょくみん地ちにカナダ同盟どうめいを通とおして現実げんじつのものとなった、集団しゅうだん的てき自衛じえい権けんを考かんがえさせる契機けいきとなる。

イギリス

イギリス並ならびにイギリス帝国ていこくのフェニアンは、政治せいじ的てき安定あんていに対たいして大おおきな脅威きょういであった。1860年代ねんだい末まつIRBの中央ちゅうおう本部ほんぶがランカシャーに置おかれ、1868年ねんにはアイルランドの臨時りんじ政府せいふであるIRB最高さいこう評議ひょうぎ会かいが成立せいりつ。その他た、コノート、レンスター、アルスターそしてマンスターのアイルランド4地方ちほうやスコットランド、ロンドンを含ふくむイングランドの地方ちほう議会ぎかいに議員ぎいんを擁ようするようになる。イングランドの各かく主要しゅよう都市としにはIRBのサークルがあった^[11]。

現在げんざいの用法ようほう

北きたアイルランド

北きたアイルランドではカトリック教徒きょうとに対たいする侮蔑ぶべつ語ごとして使つかわれる^[6]^[7]。

スコットランド

スコットランドでサッカーの試合しあいが行おこなわれる場合ばあい、セルティックFCのサポーターに対たいして「フェニアン」の語かたりが用もちいられることが多おおい^[12]。というのも、セルティックFCはグラスゴーのカトリック系けいアイルランド人じん移民いみんに起源きげんを持もっており、アイルランド民族みんぞく主義しゅぎと関係かんけいが深ふかいためである。

しかし、ハイバーニアンFCやダンディー・ユナイテッドFCといった、スコットランドにある他ほかのアイルランド系けいチームに対たいしては用もちいられない^[13]。あくまでセルティックFCとグラスゴー・レンジャーズFCとの間あいだの、オールドファームにおける競合きょうごう関係かんけいに依拠いきょしていることに注意ちゅうい（グラスゴー・レンジャーズFCはプロテスタント系けいの長老ちょうろう派はの支持しじが厚あつい）^[14]。

オーストラリア

オーストラリア共和きょうわ主義しゅぎを党是とうぜに掲かかげるオーストラリア労働党ろうどうとう員いんを表あらわす侮蔑ぶべつ語ごとして用もちいられる。マイケル・アトキンソン南みなみオーストラリア州しゅう司法しほう長官ちょうかんは、2006年ねん 10月にアデレードで開ひらかれた労働党ろうどうとう大会たいかいで、勅みことのり選せん弁護士べんごしなどの廃止はいしを望のぞむ同どう党員とういんを「フェニアンやアカ共とも」と発言はつげん^[15]。なお、アイルランド系けいのカトリック教徒きょうとは伝統でんとう的てきに労働党ろうどうとうを支持しじしており、国内こくないの君主政体くんしゅせいたいに係かかる党とうの立場たちばにも影響えいきょうを与あたえてきたと言いわれている。

引用いんよう

フェニアンはアイルランド政治せいじにおける芸術げいじゅつ家かである。（リアム・オフラハーティ）
我々われわれフェニアンが死しに、アイルランドの墓はかに眠ねむるならば、奴隷どれい状態じょうたいのアイルランドには決けっして平和へいわが来こないであろう。（パトリック・ピアース）

その他た

2011年ねんのクリスマスに放送ほうそうされたテレビドラマ『ダウントン・アビー』にて、グランサム伯爵はくしゃくがアイルランド人じん革命かくめい家かと結婚けっこんした娘むすめのシビルの妊娠にんしんを知しるや、「じゃあ、我々われわれはフェニアンの孫まごを持もつことになるのか」と発言はつげん、伯爵はくしゃく夫人ふじんは「いいじゃないの、アイルランドにツテが出来できて。革命かくめいが起おこれば何なにかと好都合こうつごうかもしれないわよ」とやり返かえした。

脚注きゃくちゅう

参考さんこう文献ぶんけん

Sean Cronin, The McGarrity Papers, Anvil Books, Ireland, 1972
P. S. O'Hegarty, A History of Ireland Under the Union, Methuen & Co. (London 1952).
Robert Kee, The Bold Fenian Men, Quartet Books (London 1976), ISBN 0-7043-3096-2
M J Kelly, The Fenian Ideal and Irish Nationalism, 1882-1916, Boydell and Brewer, 2006,ISBN 1-84383-445-6
Michael Kenny, The Fenians, The National Museum of Ireland in association with Country House, Dublin, 1994, ISBN 0-946172-42-0
Owen McGee, The IRB: The Irish Republican Brotherhood from The Land League to Sinn Féin, Four Courts Press, 2005, ISBN 1-85182-972-5
Leon Ó Broin, Fenian Fever: An Anglo-American Dilemma, Chatto & Windus, London, 1971, ISBN 0-7011-1749-4.
Marta Ramón, A Provisional Dictator: James Stephens and the Fenian Movement, University College Dublin Press (2007), ISBN 978-1-904558-64-4
Mark F. Ryan, Fenian Memories, Edited by T.F. O'Sullivan, M. H. Gill & Son, LTD, Dublin, 1945
Desmond Ryan, The Fenian Chief: A Biography of James Stephens, Hely Thom LTD, Dublin, 1967
Mitchell Snay. Fenians, Freedmen, and Southern Whites: Race and Nationality in the Era of Reconstruction (2010)
Finini Mheiricea agus an Ghaeilge, Fionnuala Ui Fhlannagain (Dublin 2008), OCLC 305144100
Jane Stanford 'That Irishman The Life and Times of John O'Connor Power', The History Press Ireland, Dublin 2011, ISBN 978-1-84588-698-1
'The Fenians in Context Irish Politics & Society 1848-82', R.V.Comerford, Dublin,1985.
Quinlavin, Patrick and Paul Rose, 'The Fenians in England' (London, 1982).

外部がいぶリンク

[1] Ryan, p.317

[2] Leon Ó Broin (1971), p. 1

[3] Marta Ramón, p. 89

[4] P. S. O'Hegarty, 415

[5] Robert Kee, p. 14

[socwor-6] Socialist Worker

[tfd-7] The Free Dictionary

[8] Ryan, p. 318

[9] McGee, pp. 13-14

[10] For the sake of Ireland: The Fenian raids of Missisquoi County 1866 & 1870

[11] Stanford, Jane. That Irishman. History Press Ireland. p. 33. ISBN 978-1-84588-698-1

[12] “Ibrox chant ruling goes to appeal”. BBC News. (2006年ねん4月がつ18日にち)

[13] Bradley, Joseph. Fanatics!: power, identity, and fandom in football

[14] Tom Devine. Scotland in the twentieth century. "The divide between Orange and Green has been increasingly transformed into a divide between Blue and Green"

[15] ttp://www.independentweekly.com.au/news/local/news/political/rann-usurps-atkinson-over-queens-counsels/767469.aspx

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