リチャード・ホフスタッター

リチャード・ホフスタッター（Richard Hofstadter、1916年ねん8月がつ6日にち - 1970年ねん10月24日にち）はアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの政治せいじ史家しか。

生涯しょうがいと経歴けいれき

ニューヨーク州しゅうのバッファローでユダヤ系けいの父ちちとドイツ系けいの母ははの間あいだに生うまれる。1933年ねんにバッファロー大学だいがくに入学にゅうがくし、哲学てつがくと歴史れきしを専攻せんこうする。この修業しゅうぎょう時代じだい、バッファローは大だい恐慌きょうこうの重苦おもくるしい影響えいきょう下かにあり、その環境かんきょうは若わかきホフスタッターの知的ちてき関心かんしんに寄与きよする。大学だいがくでは青年せいねん共産きょうさん主義しゅぎ同盟どうめい（The Young Communist League ）に入はいり、1936年ねんに結婚けっこんすることになる左翼さよくの女子じょし学生がくせいフェリス・スウェイドスに出会であう。コロンビア大学ころんびあだいがくで修士しゅうし、博士はかせ号ごうを取得しゅとく。

1938年ねんに「熱狂ねっきょうではなく、義務ぎむ感かん」から、アメリカ共産党きょうさんとうに入党にゅうとう。1939年ねんのソビエト社会しゃかい主義しゅぎ共和きょうわ国こく連邦れんぽうによる大だいドイツ国こくとの協定きょうていにより、ホフスタッターはアメリカ共産党きょうさんとうだけではなく、ソ連それん・マルクス主義まるくすしゅぎ全般ぜんぱんに対たいする共産きょうさん主義しゅぎの幻滅げんめつを経験けいけんした。しかし同時どうじに資本しほん主義しゅぎに対たいする嫌悪けんおは、生涯しょうがいに渡わたって保たもち続つづけられる。

ブルックリン大学だいがく・ニューヨーク市し大学だいがく・メアリーランド大学だいがくの教授きょうじゅ職しょくを歴任れきにんし、母校ぼこうコロンビア大学ころんびあだいがくではアメリカ史しを担当たんとうした。1956年ねんに『改革かいかくの時代じだい』で、1963年ねんに『アメリカの反はん知性ちせい主義しゅぎ』でピュリッツァー賞しょうを受賞じゅしょうする。その晩年ばんねんには18世紀せいき中葉ちゅうようから現代げんだいに至いたるアメリカ史し三さん巻かんを、18年ねんかけて書かくことを計画けいかくしていたが、ホフスタッターが白血病はっけつびょうで急逝きゅうせいしたことにより、幻まぼろしの大作たいさくとなった。

史学しがくの特徴とくちょう

ホフスタッターの方法ほうほうは、アメリカ歴史れきし学がくにおける与論よろん解釈かいしゃく（Consensus-approach）の最初さいしょの例れいとして紹介しょうかいされることがある。対照たいしょうとしてわかりやすいのは、当時とうじアメリカの進歩しんぽ的てきで急進きゅうしん的てきな歴史れきし解釈かいしゃくとして定着ていちゃくしつつあった、政治せいじ現象げんしょうを経済けいざい的てき利害りがいによって動機どうきづけるやり方かたである。チャールズ・ビアードの『合衆国がっしゅうこく憲法けんぽうの経済けいざい学がく的てき解釈かいしゃく（An Economic Interpretation of the Constitution of the United States, 1913）』に代表だいひょうされるような、マルクスの唯物ゆいぶつ史観しかんからドイツ哲学てつがくの背景はいけいを抜ぬき去さった単純たんじゅんな歴史れきし理解りかいにホフスタッターは反対はんたいしていた。たとえば彼かれは南北戦争なんぼくせんそうの原因げんいんとして、産業さんぎょう基盤きばんの相違そういよりは奴隷どれい解放かいほう論ろん者しゃたちの宗教しゅうきょう観かんを強調きょうちょうし、さらに北西ほくせい部ぶに「黒人こくじん恐怖きょうふ」が行いき渡わたっていたという逆説ぎゃくせつ的てきな状況じょうきょうも忘わすれずに書かく。ホフスタッターは、一人ひとりの人間にんげんに矛盾むじゅんした動機どうきが共存きょうぞんするように、民主みんしゅ主義しゅぎの伝統でんとうをもつアメリカ史しを動うごかしたといえる「与論よろん」は対立たいりつする諸しょ動機どうきによって形成けいせいされたと考かんがえた。しかし多数たすう派はの「与論よろん」からは斥しりぞけられた主張しゅちょうは、忘わすれ去さられるのでなければ「与論よろん」に反逆はんぎゃくして、マッカーシズムのような暴力ぼうりょく・言論げんろん弾圧だんあつのような病理びょうりとして現あらわれる。後年こうねんのホフスタッターは与論よろん史学しがく（Consensus-History）の限界げんかいを感かんじ、アメリカ史しを新あたらしい方法ほうほうで見直みなおそうとしていたと考かんがえられる。その一部いちぶが1970年ねんの論文ろんぶん「American Violence」や未完みかんのアメリカ史しにおいて発表はっぴょうされた。

研究けんきゅうテーマは限定げんていされ散漫さんまんであり、壮大そうだいで一貫いっかんした展望てんぼうをもたないホフスタッターの最大さいだいの貢献こうけんは、「アメリカ史しの複雑ふくざつさを再さい発見はっけんしたこと」である。彼かれは古文書こもんじょ・古典こてんではなく、当時とうじ一般いっぱんの読書どくしょ界かいに流通りゅうつうした出版しゅっぱん物ぶつを扱あつかい、歴史れきし上じょうの行為こうい者しゃへ感情かんじょう移入いにゅうしようとする。その長所ちょうしょや魅力みりょくは伝記でんきの分野ぶんやで発揮はっきされた。現代げんだいアメリカに対たいする分析ぶんせきは、政治せいじ家かのみならず知識ちしき人じん・右翼うよくの心理しんりにまでおよび、今いまでも重要じゅうよう性せいを失うしなわない。

著作ちょさく

単たん著ちょ

• Social Darwinism in American Thought, 1860-1915, (University of Pennsylvania Press, 1944).

後藤ごとう昭次しょうじ訳わけ『アメリカの社会しゃかい進化しんか思想しそう』（研究けんきゅう社しゃ出版しゅっぱん, 1973年ねん）

• The American Political Tradition and the Men Who Made It, (Knopf, 1948).

田口たぐち富久ふく治ち・泉いずみ昌一しょういち訳わけ『アメリカの政治せいじ的てき伝統でんとう――その形成けいせい者しゃたち（1-2）』（岩波書店いわなみしょてん, 1959年ねん／岩波いわなみモダンクラシックス, 2008年ねん）

• Academic Freedom in the Age of the College, (Columbia University Press, 1955).

井門いもん富とみ二に夫おっと・藤田ふじた文子ふみこ訳わけ『カレッジの時代じだい』（東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱん会かい, 1980年ねん）

• The Age of Reform: from Bryan to F.D.R., (Vintage Books, 1955).

斎藤さいとう眞しんほか訳やく『アメリカ現代げんだい史し――改革かいかくの時代じだい』（みすず書房しょぼう, 1967年ねん）

清水しみず知久ともひさほか訳やく『改革かいかくの時代じだい――農民のうみん神話しんわからニューディールへ』（みすず書房しょぼう, 1988年ねん）

• Anti-Intellectualism in American Life, (Knopf, 1963).

田村たむら哲夫てつお訳わけ『アメリカの反はん知性ちせい主義しゅぎ』（みすず書房しょぼう, 2003年ねん）

• The Paranoid Style in American Politics: and Other Essays, (Knopf, 1965).
• The Progressive Historians: Turner, Beard, Parrington, (Knopf, 1968).
• The Idea of a Party System: the Rise of Legitimate Opposition in the United States, 1780-1840, (University of California Press, 1969).
• America at 1750: A Social Portrait, (Knopf, 1971).

共著きょうちょ

• The Development and Scope of Higher Education in United States, with C. DeWitt Hardy, (Columbia University Press, 1952).
• The Development of Academic Freedom in the United States, with Walter P. Metzger, (Columbia University Press, 1955).
• The United States: the History of a Republic, with William Miller and Daniel Aaron, (Prentice-Hall, 1957).
• The Structure of American History, with William Miller and Daniel Aaron, (Prentice-Hall, 1964).
• A People and a Nation, with Clarence L. Ver Steeg, (Harper & Row, 1971).

編著へんちょ

• Great Issues in American History: A Documentary Record, 2 vols., (Vintage Books, 1958).
• The Progressive Movement, 1900-1915, (Prentice-Hall, 1963).

共編きょうへん著ちょ

• American Higher Education: A Documentary History, 2 vols., co-edited with Wilson Smith, (University of Chicago Press, 1961).
• Turner and the Sociology of the Frontier, co-edited with Seymour Martin Lipset, (Basic Books, 1968).
• American Violence: A Documentary History, co-edited with Micheael Wallace, (Vintage Books, 1970).

参考さんこう

• A・ケイジン『ニューヨークのユダヤ人じんたち』岩波書店いわなみしょてん　1987年ねん　ISBN 4000047957　ISBN 4000047965
• Jack Pole, "Richard Hofstadter," in Robert Allen Rutland, ed. "Clio's Favorites: Leading Historians of the United States, 1945-2000" U of Missouri Press. 2000年ねん
• Dane S. Claussen, Anti-Intellectualism in American Media," New York: Peter Lang Publishing 2004年ねん
• David S. Brown. Richard Hofstadter: An Intellectual Biography 2006年ねん