リーゼント

リーゼントまたはリーゼント・スタイル（英語えいご: Regent style）とは、ヘアワックスやポマードなどの整髪せいはつ料りょうを利用りようし、両側りょうがわ頭部とうぶから髪かみを撫なで付つけ後頭部こうとうぶでIの字じ型がたにぴったりと合あわせる髪型かみがた（ダックテール）と、前髪まえがみを前方ぜんぽうと上方かみがたに膨ふくらませてボリュームを持もたせる髪型かみがた（ポンパドール）の組くみ合あわせのことである。

本来ほんらいのリーゼントは、ポンパドールともダックテールとも関係かんけいのない独自どくじの髪型かみがただったが、のちにポンパドールとダックテールの組くみ合あわせが流行りゅうこうしたときに混同こんどうされるようになった。現在げんざいでは、リーゼントと言いえばボリュームのある特徴とくちょう的てきな前髪まえがみだけを指さすことも多おおい。

概要がいよう[編集へんしゅう]

リーゼントは、20世紀せいき初頭しょとうにイギリスで生うまれた髪型かみがたである。当初とうしょは、襟足えりあしをバリカンでV字じ型がたに整ととのえ、整髪せいはつ料りょうを使つかって前髪まえがみを横よこ分わけにして、左右さゆうの側がわ頭部とうぶの髪かみを後うしろに流ながして後頭部こうとうぶで合あわせたものだった^[1]。

日本にっぽんでは、イギリス人じんのポール・グラウスという人物じんぶつが、1933年ねん6月がつと1936年ねん3月がつの二に回かいにわたり、大だい日本にっぽん美び髪かみ会かいの機関きかん誌し『美よし髪かみ』上じょうにおいて「リーゼント・スタイル」を紹介しょうかいしたとされる^[2]。「リージェント街がいの紳士しんしの髪型かみがた」として一時いちじ的てきに流行りゅうこうしたが、日にち中ちゅう戦争せんそうの長期ちょうき化かとともにポマードが贅沢ぜいたく品ひんとみなされるようになり退潮たいちょうした。

一方いっぽう、世界せかい的てきには1940年代ねんだいからダックテールとポンパドールを合あわせた髪型かみがたが若者わかものの間あいだで見みられるようになり、1950年代ねんだい半なかばにエルヴィス・プレスリーらの影響えいきょうで大だい流行りゅうこうとなった。そうしたスタイルが日本にっぽんにも輸入ゆにゅうされて広ひろまっていく過程かていで「リーゼント」と同一どういつ視しされるようになっていった。

不良ふりょうの髪型かみがた

本来ほんらいは紳士しんしの髪型かみがたであったが、日本にっぽんでは不良ふりょうやヤンキーの代名詞だいめいしとしてリーゼントが認識にんしきされている。

終戦しゅうせん直後ちょくごに現あらわれた「アプレ族ぞく」と呼よばれる不良ふりょう少年しょうねんたちのあいだでは、駐ちゅう日にちアメリカ兵へいのカジュアルな服装ふくそうを真似まねた「リーゼントとアロハシャツ」という格好かっこうが一時いちじ的てきに流行りゅうこうした^[3]。

1950年代ねんだいのアメリカやイギリスでも、ロカビリーの音楽おんがくやファッションは不良ふりょうの好このみであるという世間せけんの認識にんしきであった^[4]^[5]^[6]。戦後せんごとはいえ、冷戦れいせんムードの最中さいちゅうでいまだ社会しゃかいの保守ほしゅ性せいの残のこっていた50年代ねんだいでは、親おやや教師きょうしの多おおくはスポーツ刈がりやレギュラー・カット (Regular haircut)を好このんでいたが^[7]、多おおくの若者わかものは反抗はんこう的てきなこの髪型かみがたに飛とびついた^[8]。

1970年代ねんだいになると、ハンブルク時代じだいのビートルズのスタイルを真似まねたキャロルや、その後ごに結成けっせいされたクールスによって、日本にっぽんでもあらためて「不良ふりょうといえばリーゼント」という認識にんしきが定着ていちゃくした。

名称めいしょうの由来ゆらい[編集へんしゅう]

リーゼントという名称めいしょうの由来ゆらいには、諸説しょせつある：

イギリスの首都しゅとロンドンのウエストエンド地区ちくにある左右さゆう双子ふたごの大通おおどおり「リージェント・ストリート (Regent Street) 」に由来ゆらいするという説せつ。両りょうサイドの髪かみを撫なで付つけた髪型かみがたを頭上ずじょうから見みた流ながれが、膨ふくらんで合流ごうりゅうする（左右さゆう二に手てに分裂ぶんれつし中間ちゅうかんで膨ふくらみ再ふたたび合流ごうりゅうする）この大通おおどおりの軌道きどうに似にているからだという。

他たの説せつとしては、実際じっさいに1930年代ねんだいのリージェント街がいで流行はやっていたからだという説せつ。

さらには、1930年代ねんだいにイギリスの摂政せっしょう皇太子こうたいし（英語えいごでプリンス・リーゼント）だったエドワード8世せいに由来ゆらいしているという説せつもある。

歴史れきし[編集へんしゅう]

エルヴィス・プレスリー（1954年ねん）。後頭部こうとうぶをダックテール、前髪まえがみをポンパドールにしている

ダックテールとポンパドールの歴史れきしについて述のべる。

ダックテールは、フィラデルフィアの理髪りはつ師し Joe Cirello が「Duck's Ass」として1939年ねんに考案こうあんしたものが初期しょきの記録きろくとして残のこっている^[9]。また、男性だんせいのポンパドールも1930年代ねんだいから見みられるようになっている（#考案こうあん者しゃの節ふしを参照さんしょう）。

1950年代ねんだい、アメリカでは頭頂とうちょう部ぶを短みじかく平たいらに刈かり込こんだスタイル「フラットトップ（角刈かくがり）」にし、後頭部こうとうぶを「ダックテール」にするというような手ての込こんだ形状けいじょうのデザイナーズスタイルが流行りゅうこうした（ザ・デトロイトと呼よばれた）。

また、ロックンローラーやロカビリアン達いたるの間あいだでも、後頭部こうとうぶをダックテールにし、前髪まえがみを「ポンパドール」にした合あわせ技わざに人気にんきがあった。これは、80年代ねんだいのパンクの影響えいきょうを受うけたサイコビリーのクイッフのような直線ちょくせん的てきなものと異ことなり、櫛くしでいかに美うつくしく色気いろけのある曲線きょくせんに梳とかし立たてるかを競きそった芸術げいじゅつ的てきなものであった（1955年ねん頃ころのエルヴィス・プレスリーのポンパドールは美うつくしい'曲線きょくせん'である）。曲線きょくせん的てきなものをロカビリー・ポンプ、直線ちょくせん的てきなものをサイコビリー・ポンプと呼よび分わける場合ばあいもある。

カリフォルニアでは、後髪うしろがみのダックテールに加くわえて長ながめの前髪まえがみをウェーブのかかったポンパドールにする「ブレーカー (Breaker)」と呼よばれる髪型かみがたが流行はやった。

同どう時期じきのイギリスでは、後髪うしろがみをダックテールにし、ボリュームのある前髪まえがみを頭頂とうちょう部ぶに集あつめる「クィッフ」にするスタイルが、テッズやロッカーズと呼よばれる若者わかものの間あいだで流行りゅうこうとなった。前髪まえがみの一部いちぶを額がくの前方ぜんぽうに垂たらす場合ばあいは、「Elephant's trunk（象ぞうの鼻はな）」と呼よばれる^[10]。

日本にっぽんでも戦後せんごのアメリカの影響えいきょう下かで、1950年代ねんだいにリーゼント（ダックテール＋ポンパドール）はロカビリーと共ともに流行りゅうこうしたが、面倒めんどうなダックテールは数すう年ねんで廃すたれる事こととなった。

その後ご1980年代ねんだいに入はいり、ロンドンの50'sリバイバル、プレスリーなどのロカビリーブーム、パンクの要素ようそを取とり込こんだサイコビリーの誕生たんじょうとともに流行りゅうこうは東京とうきょうに飛とび火ひし、竹下たけした通どおりにたむろするロックンローラー族ぞく（ローラー族ぞく）の若者わかものたちなどはこぞってポンパドールやクイッフを併あわせ持もったリーゼントスタイルを愛好あいこうした^[11]。70年代ねんだい後半こうはんのロンドンのテッズのリーゼント（ポンプ、クイッフ）のトサカは、80年代ねんだいの日本にっぽんのヤンキー漫画まんがばりに非常ひじょうに巨大きょだい化かしている^[12]^[13]。80年代ねんだいの日本にっぽんでは、リーゼント（ポンパドール＋ダックテール）はヤンキーの髪型かみがたとして流行りゅうこうしたが、1990年代ねんだいには衰退すいたいした。現在げんざいでは一部いちぶの愛好あいこう家かの間あいだで見みられるのみとなっている。

考案こうあん者しゃ[編集へんしゅう]

ポンパドールとダックテールを組くみ合あわせた髪型かみがたは、1950年代ねんだいになって突如とつじょとしてエルヴィス・プレスリーが始はじめたわけではなく、その前兆ぜんちょうはロサンゼルス、ロンドン、東京とうきょうなど流行りゅうこうに敏感びんかんな都市としではすでに1930年代ねんだいから見みられていた。1930年代ねんだいに流行りゅうこうしていた、ポマードで前髪まえがみと横よこの髪かみを後うしろになでつけるオールバックが徐々じょじょに発展はってんし、1950年代ねんだいの洗練せんれんされた後頭部こうとうぶでIの字じに揃そろえるダックテールと、前髪まえがみは一いち度ど前まえに膨ふくらませてから後うしろに持もっていくポンパドールに行いき着ついたと考かんがえられる^[14]^[15]。そもそも、女性じょせいの髪型かみがたではポンパドールや日本髪にほんがみの高島田たかしまだのような前髪まえがみの造形ぞうけいは以前いぜんから行おこなわれていた^[16]。

日本にっぽん

日本にっぽんでリーゼントの考案こうあんを主張しゅちょうしている者ものに、銀座ぎんざユタカ調髪ちょうはつ所しょの理容りよう師しである増田ますだ英吉えいきちがいる^[17]。彼かれは1933年ねん頃ごろに、欧米おうべいを中心ちゅうしんに流行りゅうこうしていたオールバックをアレンジして、日本人にっぽんじんの頭部とうぶの形かたちに適てきするよう一いち度ど前まえに膨ふくらませてから後うしろに撫なでつけるリーゼントを考案こうあんしたと語かたっている^[18]。1936年ねん10月がつ刊かんの雑誌ざっし『スタア』にはユタカ調髪ちょうはつ所しょの広告こうこくが掲載けいさいされており、「ゲーブル・トーンに英國えいこく風ふうカッティングを加かへた銀座ぎんざユタカ調髪ちょうはつ所しょ創案そうあんのリーゼントスタイルをお薦すすめします」と文章ぶんしょうが添そえられている^[19]。この髪型かみがたは、1936年ねんの「日本にっぽん理容りよう通信つうしん」にも時ときのイギリス摂政せっしょう皇太子こうたいし（プリンス・リーゼント）だったエドワード8世せいの写真しゃしんとともに紹介しょうかいされているという^[20]。

RCC中国ちゅうごく放送ほうそうの調査ちょうさでは、現在げんざいの日本にっぽんで見みられるリーゼントスタイル^[どれ?]は、戦後せんごに尾道おのみち市しの理容りよう師し・小田原おだわら俊幸としゆき（1922年ねん -2011年ねん8月がつ18日にち^[21]）によって確立かくりつされたものだという^[22]。

アメリカ

1925年ねんの小説しょうせつグレート・ギャッツビーの主人公しゅじんこうジェイ・ギャッツビーは、10代の頃ころは（当時とうじは女性じょせいの髪型かみがただった）ポンパドールにしていたという記述きじゅつがある。

1930年代ねんだい半なかばから40年代ねんだいを通つうじて、ロサンゼルスのメキシコ系けいアメリカ人じんのパチューコ (Pachuco) ／女性じょせいはパチューカと呼よばれた不良ふりょうグループは、すでにポンパドールの髪型かみがたを始はじめており、40年代ねんだい半なかばにはダックテールとポンパドールを組くみ合あわせた髪型かみがたも始はじめている^[23]。ズート・スーツ (Zoot suit) を着きて、ポンパドールにセットするのが彼かれらのファッションだった^[24]。

また白人はくじんの映画えいが俳優はいゆうの間あいだでも、1930年代ねんだいから当時とうじ流行りゅうこうのオールバックに前髪まえがみを長ながめにしてボリュームを持もたせるスタイルが始はじまっており（クラーク・ゲーブルなど）、1940年代ねんだいにはさらにボリュームのある前髪まえがみも見みられる^[25]。1940年代ねんだいのアメリカでは、すでに多おおくの若者わかものがポンパドールの髪型かみがたをしている写真しゃしんの記録きろくが残のこっている^[26]。

1940年代ねんだいのグリーサーズ (Greaser) と呼よばれた不良ふりょうの若者わかものたちも、ポマードでガチガチに固かためた髪型かみがたをしていた（グリーサーの名前なまえの通とおり、グリース（潤滑油じゅんかつゆ）を塗ぬったようなテカテカの頭あたまをしていた）。彼かれらの中なかにはダックテールにしているものもいた。

なお、アメリカではリーゼントと言いっても通つうじず、Greaser Hairが一般いっぱん的てきである。