ヴァシリー・クリュチェフスキー

クリュチェフスキー1895年ねん頃ごろ

ヴァシリー・オシポヴィチ・クリュチェフスキー（ロシア語ご:Васи́лий О́сипович Ключе́вский：ラテン文字もじ表記ひょうきの例れい:Vasilij Osipovič Ključevskij、1841年ねん1月がつ28日にち - 1911年ねん5月25日にち）は、ロシア帝国ていこくの歴史れきし家かである。

生涯しょうがいと業績ぎょうせき

ヴォルガ川がわ流域りゅういき・ペンザ県けんに聖職せいしょく者しゃの子ことして生うまれる。父ちちの代だいに初はじめてクリュチェフスキーの姓せいを名乗なのっている。15歳さいでペンザ神学校しんがっこうに入学にゅうがく、卒業そつぎょう後ごは聖職せいしょく者しゃの道みちを拒否きょひして、モスクワ大学だいがくの歴史れきし・文学部ぶんがくぶに入学にゅうがく。

大学だいがく入学にゅうがく以前いぜんから歴史れきし家かをめざす堅かたい志こころざしを抱だいていた。歴史れきし学がく教授きょうじゅセルゲイ・ソロヴィヨフの影響えいきょうを受うける。1865年ねんに大学だいがく卒業そつぎょう後ご、1867年ねんより各種かくしゅの学校がっこうで教鞭きょうべんをとり、1872年ねんには出世しゅっせ作さくとなる論文ろんぶん《歴史れきし資料しりょうとしての古代こだいルーシ聖者せいじゃ伝でん》を発表はっぴょう。1879年ねんにモスクワ大学だいがくロシア史し担当たんとう助教授じょきょうじゅ、1882年ねんに同どう大学だいがく教授きょうじゅとなる。論文ろんぶん《モスクワ帝国ていこくに関かんする外国がいこく人じんの報告ほうこく，1886年ねん》によって、その地位ちいを確立かくりつした。1890年ねん科学かがくアカデミー会員かいいん、1908年ねん科学かがくアカデミー・美術びじゅつ文学部ぶんがくぶ名誉めいよ会員かいいんとなる。主著しゅちょ『ロシア史し講話こうわ』第だい五ご巻かんの補筆ほひつが未み完成かんせいのまま死しす。

クリュチェフスキーは政治せいじ的てきには専制せんせい反対はんたい論ろん者しゃであり、1905年ねん結成けっせいのカデット党とうの右派うはに近ちかい立場たちばにあった。第だい一いち回かい国会こっかいに立候補りっこうほしたが落選らくせん。大学だいがく自治じちが大幅おおはばに制限せいげんされ、多おおくの教授きょうじゅが職しょくから追おわれた1880年代ねんだいに壮年そうねん期き以降いこうを過すごし、晩年ばんねんには1905年ねんの第だい一いち次じロシア革命かくめいを見聞けんぶんしている。『ロシア史し講話こうわ』の第だい3巻かんでボリス・ゴドゥノフや17世紀せいきロシアの大だい動乱どうらんを扱あつかうさいにその体験たいけんは投影とうえいされているようにも思おもわれる。

宗教しゅうきょう組織そしき・経済けいざい・文化ぶんかが、社会しゃかいの中なかで相互そうごに作用さようするものとして包括ほうかつして考察こうさつし、国民こくみんの各かく階層かいそうによる闘争とうそうを史料しりょうによって跡あとづけた。当時とうじロシア史学しがくの主流しゅりゅうであった政治せいじ史し・法制ほうせい史し重視じゅうしの傾向けいこうの中なかで、地理ちり環境かんきょうと経済けいざい生活せいかつを歴史れきしの素材そざいとしてとりあげた姿勢しせいは注目ちゅうもくに値あたいした。1870年代ねんだいからの「農民のうみん問題もんだい」への関心かんしんは、クリュチェフスキーをその起源きげんである「農奴のうど制せい」の研究けんきゅうへと導みちびいた。その直接ちょくせつの弟子でしで名なが知しられているのはパーヴェル・ミリュコフだが、キエフ大学だいがくを追放ついほうされ謹慎きんしん中ちゅうだった若わかきレーニンも1880年代ねんだいに出版しゅっぱんされたクリュチェフスキー講義こうぎ録ろくの愛読あいどく者しゃだった。

1917年ねんのロシア革命かくめい以後いご、ミハイル・ポクロフスキーをはじめとする、マルクス主義まるくすしゅぎの唯物ゆいぶつ史観しかんをもとにした〈ソヴィエト史学しがく〉には「チチェーリンにソロヴィヨフを掛かけあわせた折衷せっちゅう理論りろん」「ブルジョワ史観しかん」としてまともな扱あつかいを受うけてこなかった。スターリン批判ひはん後のちに復権ふっけんされ、帝政ていせい期き歴史れきし家かでは最もっとも早はやく『著作ちょさく集しゅう』全ぜん8巻かん（1956-59年ねん）が刊行かんこうされた。

主要しゅよう論文ろんぶん

• 「白しろ海うみ地方ちほうにおけるソロヴェツキー修道院しゅうどういんの経済けいざい的てき活動かつどう」1866-67年ねん。以下いかは上記じょうき以外いがい
• 「古代こだいルーシの貴族きぞく会議かいぎ」 1878年ねん
• 「十じゅう六ろく～十じゅう八はち世紀せいきのロシアのルーブリと現在げんざいのそれとの関係かんけい」1884年ねん
• 「ロシア農奴のうど制せいの起源きげん」1885年ねん。（土肥どい恒ひさし之これ訳やく、未來社みらいしゃ）
• 「ロシアの人頭じんとう税ぜいと奴隷どれい層そうの廃止はいし」1886年ねん
• 「史料しりょう学がく講義こうぎ」「ロシア史しの術語じゅつご」「ロシアにおける諸しょ身分みぶんの歴史れきし」「ルーシ法典ほうてん」「プスコフ裁判さいばん法ほう」、各かく・1880-1890年代ねんだいの講義こうぎ
• 『ロシア史し講話こうわ　Курс русской истории　5巻かん』 1904-22年ねん。（八重樫やえがし喬任たかとう訳やく、恒文社こうぶんしゃ 全ぜん5巻かん）

評伝ひょうでん

• ロバート・F・バーンズ『ロシアの歴史れきし家か V・O・クリュチェフスキー』清水しみず昭雄あきお・加藤かとう史朗しろう・土肥どい恒ひさし之これ訳わけ（彩いろどり流りゅう社しゃ、2010年ねん）