人工じんこう心臓しんぞう弁べん

人工じんこう心臓しんぞう弁べん （じんこうしんぞうべん、英えい: Artificial heart valve）または人工じんこう弁べん とは、心臓しんぞう弁膜べんまく症しょう患者かんじゃの心臓しんぞうに移植いしょくされる医療いりょう機器ききである ^[1]^[2]。

心臓しんぞう弁べんは心臓しんぞうの一ひとつの心しん腔^{[注釈ちゅうしゃく 1]}から他たの心しん腔へ一方向いちほうこうに血液けつえきを流ながし逆流ぎゃくりゅうを防ふせぐことにより、心臓しんぞうの生理学せいりがく的てき機能きのうに重要じゅうような役割やくわりを果はたしている。人工じんこう弁べんはこの心臓しんぞう弁べんの持もつ機能きのうを代替だいたいするものである。

種類しゅるい[編集へんしゅう]

人工じんこう弁べん置換ちかん術じゅつに臨床りんしょう的てきに使用しようされる人工じんこう弁べんは、耐久たいきゅう性せいの優すぐれた人工じんこう材料ざいりょうを用もちいた機械きかい弁べん、化学かがく的てきに処理しょりされた生体せいたい材料ざいりょうを用もちいた生体せいたい弁べん、および死体したいから大動脈だいどうみゃく弁べん、肺はい動脈どうみゃく弁べんを採取さいしゅし凍結とうけつ保存ほぞんされたホモグラフトが挙あげられる。また、人工じんこう弁べんの持もつ種々しゅじゅの問題もんだい点てんを克服こくふくするために生体せいたい適合てきごう性せいを持もった人工じんこう弁べんの開発かいはつが行おこなわれており、ティッシュエンジニアリングの技術ぎじゅつを用もちいた組織そしき工学こうがく弁べんとして、一部いちぶの国くにでは臨床りんしょう応用おうように入はいっている。^[3]

機械きかい弁べん
- 開ひらき胸むね移植いしょく
  - ボール弁べん、ディスク弁べん
  - 傾斜けいしゃ型がたディスク弁べん（一葉いちよう弁べん）
  - 傾斜けいしゃ型がたディスク弁べん（二葉ふたば弁べん）
- 経けい皮がわ的てき移植いしょく（Percutaneous aortic valve replacement）
  - ステント付つき
  - ステントなし
生体せいたい弁べん
- 同種どうしゅ生体せいたい弁べん
- 異種いしゅ生体せいたい弁べん
ホモグラフト
組織そしき工学こうがく弁べん

機械きかい弁べん[編集へんしゅう]

人工じんこう材料ざいりょうを用もちいた機械きかい弁べんは、人工じんこう心肺しんぱいを使用しようした開ひらき心術しんじゅつが始はじまった1952年ねんから使用しようされ^[4]、当初とうしょはボール弁べんが使用しようされた。1967年ねんに一いち葉ようの傾斜けいしゃ型がたディスク弁べんが登場とうじょうし、さらに材質ざいしつに炭素たんそ樹脂じゅし（パイロライティックカーボン（英語えいご版ばん））が使つかわれるようになり耐久たいきゅう性せいと抗こう血栓けっせん性せいが著いちじるしく向上こうじょうした。1977年ねんには二に葉ようの傾斜けいしゃ型がたディスク弁べんが登場とうじょうし、弁べんを通過つうかする血ち流りゅうの中心ちゅうしん流りゅうが得えられ、挿入そうにゅうしやすいことから広ひろく用もちいられ、2010年代ねんだい現在げんざいにおいても主流しゅりゅうとして使用しようされている^[5]。

生体せいたい弁べん[編集へんしゅう]

生体せいたい弁べんは移植いしょくに適てきするように化学かがく的てきな処理しょりを施ほどこされた、ブタに代表だいひょうされる動物どうぶつの心臓しんぞう弁べんである。1968年ねんにブタ大動脈だいどうみゃく弁べんが開発かいはつされ、1971年ねんより商業しょうぎょうベースでの生産せいさんが始はじまった^[5]。ブタの心臓しんぞうは最もっともヒトの心臓しんぞうに似にており、解剖かいぼう学がく的てきな適性てきせいがある。もう一ひとつの生体せいたい弁べんは弁わきまえ状じょうに整形せいけいした生体せいたい組織そしきを金属きんぞくの枠わくに縫ぬい付つけたものである。この生体せいたい組織そしきには典型てんけい的てきにはウシ、またはウマの心こころ膜まくが用もちいられる。心こころ膜まくは非常ひじょうに強度きょうどが高たかいため、心臓しんぞう弁べんの用途ようとに適てきしている。

機械きかい弁べんと比較ひかくした生体せいたい弁べんの最大さいだいの利点りてんは、長期ちょうきにわたってワーファリン (血液けつえきの抗こう凝固ぎょうこ剤ざい) を服用ふくようする必要ひつようが無ないことである。その他た心房しんぼう細ほそ動どうや高血圧こうけつあつ、心しん機能きのう低下ていかなどがなければ術後じゅつごの内服薬ないふくやくも少すくなく、通院つういんも年とし1～2回かい程度ていどで済すみ、術後じゅつごのQOLは非常ひじょうに良好りょうこうである。一方いっぽう耐久たいきゅう性せいの点てんでは機械きかい弁べんに劣おとり、若年じゃくねん者しゃに埋うめ込こんだ場合ばあいは長年ながねんの間あいだには再さい手術しゅじゅつが必要ひつようとなる^[5]。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

^ 心こころ腔（しんくう，英えい: Heart chamber）とは、心臓しんぞうを構成こうせいする区画くかく（心房しんぼうや心室しんしつ）を表あらわす解剖かいぼう学がく用語ようごである。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

^ Bertazzo, Sergio; Gentleman, Eileen; Cloyd, Kristy L.; Chester, Adrian H.; Yacoub, Magdi H.; Stevens, Molly M. (2013). “Nano-analytical electron microscopy reveals fundamental insights into human cardiovascular tissue calcification”. Nature Materials 12 (6): 576–83. doi:10.1038/nmat3627. PMID 23603848.
^ Miller, Jordan D. (2013). “Cardiovascular calcification: Orbicular origins”. Nature Materials 12 (6): 476–8. doi:10.1038/nmat3663. PMID 23695741.
^ 弁膜べんまく症しょう外科げかの要点ようてんと盲点もうてん．pp95-96．
^ Hufnagel CA, Conrad PW. A new approach to aortic valve replacement. Ann Surg. May 1968; 167(5): 791–795.
^ ^a ^b ^c 心臓しんぞう血管けっかん外科げかテキスト，pp280-283

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

高本たかもと眞一しんいち・四津よつ良平りょうへい．『弁膜べんまく症しょう外科げかの要点ようてんと盲点もうてん』. 文光ぶんこう堂どう. ISBN 978-4-8306-2320-2
龍野たつの勝彦かつひこ他た．『心臓しんぞう血管けっかん外科げかテキスト』．中外ちゅうがい医学いがく社しゃ．ISBN 978-4-498-03910-0