国家こっか憲兵けんぺいたい (フランス)

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
小銃しょうじゅう携行けいこうして行進こうしんする憲兵けんぺい
 
雑踏ざっとう警備けいびにあたる憲兵けんぺい

国家こっか憲兵けんぺいたい(こっかけんぺいたい、フランス語ふらんすご: Gendarmerie nationale)は、フランスの警察けいさつ組織そしきの1つ。フランス軍事ぐんじしょうおよび内務省ないむしょう管轄かんかつにある国家こっか憲兵けんぺいとして、しゅとして地方ちほうけんでの警察けいさつ活動かつどう担当たんとうする[1]。また警察けいさつ組織そしきであると同時どうじに、陸軍りくぐん海軍かいぐん空軍くうぐんとともにフランスぐん一部いちぶ構成こうせいしている[2]

たんジャンダルムリ (Gendarmerie) ともしょうされる[3]。また日本語にほんごでは、警察けいさつぐんぐん警察けいさつともやくされる。隊員たいいんフランス語ふらんすごgens d’armes武装ぶそうしたものたち)に語源ごげんつジャンダルム (gendarme) とばれる。

来歴らいれき[編集へんしゅう]

ジャンダルムリの起源きげんには諸説しょせつあり、中世ちゅうせい1190ねん守衛しゅえいかんSergent d'arme)の創設そうせつまでさかのぼるというせつもある。またあきらかな起源きげんとしては、ひゃくねん戦争せんそうなか創設そうせつされた近衛このえ騎兵隊きへいたいconnétableおよびmaréchaussée)がある[4]

この時期じき常備じょうびぐん制度せいど発達はったつであり、戦争せんそうはじまると君主くんしゅ貴族きぞく契約けいやくして兵士へいしやとうという傭兵ようへい制度せいどであったが、戦争せんそうわると給料きゅうりょうはらわれなくなった兵隊へいたいたちが農村のうそんらすのがつねであり、とくイタリア戦争せんそうのちには農村のうそん略奪りゃくだつ問題もんだいになった[5]都市としにおいては自治じち運動うんどう一環いっかんとして警察けいさつ機構きこう整備せいびされつつあったのにたいし、農村のうそん等閑なおざりされていたことから、このようにとうした兵隊へいたい対応たいおうするためにも憲兵けんぺい組織そしき整備せいびされていくことになった[5]。1373ねん6がつ22にちみことのりれいにより、シャルル5せいは、パリに軍事ぐんじ法廷ほうていくことおよび軍隊ぐんたいやその野営やえいにおける軍事ぐんじ警察けいさつ業務ぎょうむおこなうことを規定きていした[5]

当初とうしょ軍事ぐんじ警察けいさつ組織そしき管轄かんかつけん国王こくおうりょう限定げんていされていたが、1536ねん1がつ25にち布告ふこくによって民間みんかん地域ちいきにも拡大かくだいされた[6]。またその対象たいしょうも、のちには軍人ぐんじんだけでなく、農村のうそんにおいてとう強盗ごうとうはたらいた民間みんかんじんにも拡大かくだいされ、1549ねんには、農村のうそんにおける警察けいさつ業務ぎょうむ憲兵けんぺいたい管轄かんかつすることが法制ほうせいされた[5]

18世紀せいきはいって、ジャンダルムリは全国ぜんこく規模きぼ警察けいさつ組織そしきとして再編さいへんされることになった。1720ねんにはだい規模きぼ改編かいへんによる組織そしき効率こうりつおこなわれ、1779ねんにはさら増強ぞうきょうされた。フランス革命かくめい前夜ぜんやには、4,114めい兵力へいりょく確保かくほされていた。革命かくめいには、民衆みんしゅう弾圧だんあつつながるとしていち解体かいたいされたが、1791ねん2がつ16にち現在げんざい体制たいせいさい編成へんせいされた[6]

所掌しょしょう[編集へんしゅう]

一般いっぱん警察けいさつ業務ぎょうむについては、おおむね、地方ちほう国家こっか憲兵けんぺいたい都市としけん国家こっか警察けいさつ分担ぶんたんしているが、おおくのてんんでおり、治安ちあん出動しゅつどうなどの緊急きんきゅう活動かつどうについては、明確めいかく区分くぶんはほとんどないのが実情じつじょうである。1941ねん以降いこう県庁けんちょう所在地しょざいちおよび人口じんこう1まんにん以上いじょうコミューンには国家こっか警察けいさつ地方ちほうささえぶん部局ぶきょく設置せっちされてこれを担当たんとうし、それにたないコミューンは国家こっか憲兵けんぺいたい担当たんとうするものとされていた[1]。その、1995ねん1がつ21にち法律ほうりつにもとづき、1996ねん9がつ19にちから基準きじゅん変更へんこうされ、人口じんこう2まんにん境界きょうかいせんとなった[7]

また国家こっか憲兵けんぺいたい固有こゆう任務にんむとして、裁判所さいばんしょ政府せいふ機関きかん在外ざいがい公館こうかん空港くうこう警備けいび沿岸えんがん警備けいびにもあたっている[8]

指揮しき系統けいとう[編集へんしゅう]

国家こっか憲兵けんぺいたいは、元来がんらい国防こくぼう大臣だいじん指揮しきけていたが、平時へいじ警察けいさつ活動かつどうかんしては、機動きどう憲兵けんぺいたい内務ないむ大臣だいじん指揮しきを、けん憲兵けんぺいたい県知事けんちじ指揮しきけていた。また、ぐんしゅ省庁しょうちょうへの配属はいぞく部隊ぶたいは、それぞれの配属はいぞくさき指揮しきけていた。その、2009ねん1がつ1にちより、内部ないぶ部局ぶきょく実施じっし部隊ぶたい指揮しきけん全面ぜんめんてき内務ないむ大臣だいじん移管いかんされた。ただし軍政ぐんせいめん管理かんりけん教育きょういく機関きかん指揮しきけんつづ国防こくぼう大臣だいじん所掌しょしょうしており、また隊員たいいん軍人ぐんじんとしての資格しかく維持いじされる[9]

なおフランスの司法しほう制度せいど規程きていじょう国家こっか警察けいさつ同様どうよう国家こっか憲兵けんぺいたいにおいても、司法しほう警察けいさつ刑事けいじ警察けいさつ活動かつどうは、予審よしん判事はんじJuge d'instruction)の指揮しき監督かんとくける必要ひつようがある。

編制へんせい[編集へんしゅう]

国家こっか憲兵けんぺい総局そうきょく[編集へんしゅう]

内部ないぶ部局ぶきょくとして、オー=ド=セーヌけんイシー=レ=ムリノー国家こっか憲兵けんぺい総局そうきょくDirection générale de la Gendarmerie nationale; DGGN)が設置せっちされている[10]

DGGNは、3つのきょくと、それを補完ほかんする2つのによって構成こうせいされている[10]

  • 財務ざいむ支援しえんきょく(DSF)
  • 人事じんじきょく(DPMGN) - 憲兵けんぺい訓練くんれん憲兵けんぺいふくめたぜん職員しょくいん人事じんじ管理かんり所掌しょしょうする。
  • 作戦さくせん役務えきむきょく (DOE)
  • 調達ちょうたつ装備そうび兵站へいたんSAELSI
  • 情報じょうほう技術ぎじゅつ国土こくど防衛ぼうえいST (SI) ²) - 国家こっか警察けいさつとの共同きょうどう機関きかん

実施じっし部隊ぶたい[編集へんしゅう]

海上かいじょう憲兵けんぺいたい巡視じゅんしてい
 
山岳さんがく小隊しょうたい連携れんけいして救助きゅうじょにあたる航空こうくう憲兵けんぺいたいヘリコプター

DGGNの隷下れいかには、下記かきのように3つのしゅたる実施じっし部隊ぶたい設置せっちされている。またこのほか、DGGN直轄ちょっかつ部隊ぶたいとしてたいテロ作戦さくせん部隊ぶたい特殊とくしゅ部隊ぶたい)である治安ちあん介入かいにゅう部隊ぶたい(GIGN)、原子力げんしりょく発電はつでんしょ警備けいび担当たんとうする特殊とくしゅ防護ぼうご小隊しょうたいPSPG)が編成へんせいされている。

また、ぐんしゅ省庁しょうちょう指揮しき分遣ぶんけんされている部隊ぶたいとして、下記かきのような部隊ぶたいがある。

人材じんざい[編集へんしゅう]

機動きどう憲兵けんぺいたいけん憲兵けんぺいたい大佐たいさ以下いか階級かいきゅうあきら肩章けんしょうはいっているせんいろ黄色おうしょく機動きどう憲兵けんぺいたい)、白色はくしょくけん憲兵けんぺいたい)とことなる。

正規せいき憲兵けんぺいかんは、将校しょうこうd'officiers)および下士官かしかんsous-officiers)で構成こうせいされる。また兵士へいしとしては、任期にんきせいだい1任期にんき2ねんさらに3ねん延長えんちょう可能かのう)の憲兵けんぺい助手じょしゅ当初とうしょGA、1998ねん以降いこうGAV)の制度せいどがある。

人員じんいん構成こうせい[編集へんしゅう]

  • 憲兵けんぺい幹部かんぶ:6,450にん
  • 憲兵けんぺい:7まん4,050にん
  • 技術ぎじゅつ士官しかん:4,300にん
  • 補助ほじょ憲兵けんぺい:1まん4,400にん
  • 事務じむかん:2000にん文民ぶんみんスタッフ)- 国家こっか公務員こうむいん契約けいやく職員しょくいん構成こうせいされる。
  • 予備よびやく:3まんにんわくうち、1754にん予備よび憲兵けんぺい登録とうろくされている。

装備そうび[編集へんしゅう]

火器かき[編集へんしゅう]

だい世界せかい大戦たいせん国家こっか憲兵けんぺい装備そうび火器かきは、連合れんごうこくのものやナチス・ドイツによるフランス占領せんりょうしたまれたり生産せいさんされたりしたドイツせいのものなどが混在こんざいし、非常ひじょう多彩たさいになっていた。拳銃けんじゅうとしては、ドイツせいルガーP08ワルサーP38多用たようされていたが、フランスせいSACM 35MAS 35もちいられていた。またたん機関きかんじゅうについても、フランスせいMAS 38のほか、ドイツせいMP40、イギリスせいステン、アメリカせいトンプソンもちいられていた[12]

1950年代ねんだいはいってフランスの兵器へいき生産せいさん能力のうりょく復旧ふっきゅうするのにともない、整理せいりはじまった。おおむねフランスぐんじゅんじた装備そうび体系たいけい採用さいようされており、じゅん軍事ぐんじてき任務にんむそなえて、MAS 36小銃しょうじゅうおよびはん自動じどうしきMAS 49小銃しょうじゅう導入どうにゅうされるとともに、たん機関きかんじゅうMAT 49統一とういつされた。拳銃けんじゅうについては、1957ねん以降いこうぐん同様どうようMAS 50への統一とういつすすめられていった。国家こっか警察けいさつ主力しゅりょく装備そうびとされていたマニューリン MR 73回転かいてんしき拳銃けんじゅうは、装弾そうだんすうすくなさがきらわれて、国家こっか憲兵けんぺいではごく少数しょうすう導入どうにゅうとどまったとされている[12]

1980年代ねんだいからは、やはりぐん同様どうように、PAMAS G1ベレッタM92G)の導入どうにゅう開始かいしされた。また1986ねんより、機動きどう憲兵けんぺいたいにおいては、ヴィジピラート計画けいかくフランス語ふらんすごばんのような非常ひじょう配備はいびそなえた装備そうびとして、FA-MAS小銃しょうじゅう導入どうにゅうされた。これにともなってたん機関きかんじゅう装備そうびはいったん廃止はいしされたものの、そのたいテロ作戦さくせん部隊ぶたい中心ちゅうしんとして、H&K MP5配備はいびされた[12]。また2000年代ねんだいはいると、国家こっか警察けいさつ歩調ほちょうをあわせて、制式せいしき拳銃けんじゅうはおおむねSIG SAUER SP2022統一とういつされている[13]

なお国家こっか憲兵けんぺい武器ぶき使用しよう基準きじゅんについては、国家こっか警察けいさつよりも自由じゆう裁量さいりょうゆるしたものとなっている。国家こっか警察けいさつでは、警察官けいさつかん武装ぶそう警察官けいさつかんあるいはその保護ほごにあるものをまもるためにのみ使用しよう可能かのうであり、とく危害きがい射撃しゃげきひとまもるためにのみゆるされるのにたいし、国家こっか憲兵けんぺいでは、もの部署ぶしょまも場合ばあいにも危害きがい射撃しゃげき可能かのうとされる[12]

車両しゃりょう[編集へんしゅう]

機動きどう憲兵けんぺいたいVBRG装甲車そうこうしゃ
 
高速こうそく道路どうろ警備けいびたいのパトカー

2005ねん12月、フランス国家こっか憲兵けんぺいたい高速こうそく道路どうろ警備けいびたいまり車両しゃりょうとして使用しようされているプジョー・306時期じきせまったことから、その代替だいたいしゃとしてはつ日本にっぽんしゃスバル・インプレッサWRXを150だい購入こうにゅう準備じゅんび配備はいびされるというニュースがつたえられた。フランスではプジョー306は「われてもれるパトカー」としてられており、そのドイツしゃをはじめとする高速こうそくしゃ速度そくど違反いはん多数たすうがしていたことから、それらをつかまえるためでもあるとわれる。2010ねんからはルノー・メガーヌのスポーツバージョンである「メガーヌ ルノー・スポール」をベースとした車両しゃりょう導入どうにゅうされている[14]

ツール・ド・フランスのコースじょうにおける観衆かんしゅう整理せいりはしっている選手せんしゅ集団しゅうだん警護けいごあおとうきのしろバイ先導せんどうしている)、競技きょうぎ不正ふせいドーピングまりをおこなっているのもかれらである。

ICT[編集へんしゅう]

IT関連かんれん導入どうにゅう維持いじ管理かんり費用ひよう削減さくげんするため、オープンソースソフトウェア積極せっきょくてきれている。2013ねん現在げんざい、3まん7000だいコンピュータUbuntu使用しようしており、2014ねんなつには7まん2000だいまで台数だいすうやし、ほぼすべてのコンピュータにオープンソースのOSれる予定よてい[15]。フランス議会ぎかい上院じょういんウィーン政府せいふいて、単一たんいつ組織そしきとしては世界せかい最大さいだいのUbuntuユーザーとなる。

シンボル[編集へんしゅう]

シンボルは手榴弾しゅりゅうだん。これはイタリアカラビニエリイギリスグレナディアガーズおなじで、世界中せかいじゅう国家こっか憲兵けんぺい共通きょうつうしている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b 下條しもじょう 1999, p. 236.
  2. ^ Police-Nationale.net. “La Gendarmerie” (フランス語ふらんすご). 2016ねん1がつ27にち閲覧えつらん
  3. ^ れいトミカ No.44(2014ねん7がつ~) メガーヌ ルノー・スポール ジャンダルムリ。ちなみに上述じょうじゅつとおりこのパトカー実在じつざいする。
  4. ^ France Enseignement (2008ねん). “L'histoire de la Gendarmerie” (フランス語ふらんすご). 2016ねん1がつ24にち閲覧えつらん
  5. ^ a b c d 清水しみず 1973.
  6. ^ a b フランス内務省ないむしょう. “La gendarmerie, héritière des maréchaussées” (フランス語ふらんすご). 2016ねん1がつ24にち閲覧えつらん
  7. ^ Cour des comptes (2011ねん10がつ). “La redéfinition des zones de compétence de la police et la gendarmerie nationales”. 2016ねん1がつ22にち閲覧えつらん
  8. ^ フランス内務省ないむしょう. “Protection” (フランス語ふらんすご). 2016ねん1がつ24にち閲覧えつらん
  9. ^ Vie-publique.fr (2009ねん1がつ6にち). “Police-gendarmerie : le rapprochement officialisé” (フランス語ふらんすご). 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  10. ^ a b フランス内務省ないむしょう. “Gendarmerie nationale - Direction générale” (フランス語ふらんすご). 2016ねん2がつ3にち閲覧えつらん
  11. ^ フランス内務省ないむしょう (2015ねん10がつ30にち). “Présentation du Plan BAC-PSIG 2016 à Rouen le 30 octobre 2015” (フランス語ふらんすご). 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  12. ^ a b c d Société Nationale de l'Histoire et du Patrimoine de la Gendarmerie. “Du pistolet-revolver 1892 au Sig Sauer Pro, 1907-2003 (Armements - Équipements)” (フランス語ふらんすご). 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  13. ^ アメリカ議会ぎかい図書館としょかん (2015ねん6がつ9にち). “Police Weapons: France” (英語えいご). 2016ねん2がつ6にち閲覧えつらん
  14. ^ これはカッコイイけど20だい限定げんてい! フランス高速こうそく警備けいびたいふうの「メガーヌ ルノー・スポール ジャンダルムリ」【東京とうきょうオートサロン2014】 - Cliccar、2014ねん1がつ11にち配信はいしん
  15. ^ OSやソフトウェアをオープンソースしてそう保有ほゆうコストを40%削減さくげんできたふつ憲兵けんぺいたい Gigazine 2013ねん10がつ12にち

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • 清水しみず新太郎しんたろう「フランス警察けいさつ制度せいど概論がいろん-1-」『警察けいさつがく論集ろんしゅうだい26かんだい8ごう立花たちばな書房しょぼう、17-30ぺーじ、1973ねん8がつdoi:10.11501/2670303 
  • 下條しもじょうよし智彦ともひこ『フランスの行政ぎょうせい 新装しんそうばん早稲田大学わせだだいがく出版しゅっぱん、1999ねんISBN 978-4-657-99415-8 

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]