執行しっこう停止ていし

執行しっこう停止ていし（しっこうていし）とは、強制きょうせい執行しっこう手続てつづきまたは行政ぎょうせい処分しょぶんの効力こうりょくなどを一時いちじ的てきに停止ていしさせること。

処分しょぶんの効力こうりょく、処分しょぶんの執行しっこう又または手続てつづきの続行ぞっこうの全部ぜんぶ又または一部いちぶの停止ていしをいう。

行政ぎょうせい法ほう

概要がいよう

執行しっこう不ふ停止ていしが行政ぎょうせいの円滑えんかつな運営上うんえいじょうの原則げんそくであるが、私人しじんの権利けんり利益りえきを終局しゅうきょく判決はんけつが出でる前まえに保全ほぜんするための例外れいがい的てきな制度せいどが執行しっこう停止ていしである。
要件ようけん
- 積極せっきょく的てき要件ようけん
  - 本案ほんあんの審理しんりが、適法てきほうに係属けいぞくしていること。
  - 対象たいしょうとなる処分しょぶんが完了かんりょうしていないこと。
  - 重大じゅうだいな損害そんがいを避さけるため緊急きんきゅうの必要ひつようがあること。
- 消極しょうきょく的てき要件ようけん
  - 公共こうきょうの福祉ふくしに重大じゅうだいな影響えいきょうを及およぼすおそれのないこと。
  - 本案ほんあんについて理由りゆうがないとみえないこと。
内容ないよう
- 効力こうりょくの停止ていし
- 執行しっこうの停止ていし
- 手続てつづきの停止ていし
効果こうか
- 第三者だいさんしゃ効こう

個別こべつ法ほうによる修正しゅうせい: 国税こくぜい通則つうそく法ほう第だい105条じょう（不服ふふく申立もうしたてと国税こくぜいの徴収ちょうしゅうとの関係かんけい）

行政ぎょうせい不服ふふく審査しんさ法ほう

この節ふしでは、行政ぎょうせい不服ふふく審査しんさ法ほうは条じょう数すうのみ記載きさいする。

執行しっこう不ふ停止ていしの原則げんそく（25条じょう1項こう）
執行しっこう不ふ停止ていしの例外れいがい
- 処分しょぶん庁ちょうの上級じょうきゅう行政ぎょうせい庁ちょう又または処分しょぶん庁ちょうである審査しんさ庁ちょうは、必要ひつようがあると認みとめるときは、審査しんさ請求せいきゅう人じんの申立もうしたてにより又または職権しょっけんで、執行しっこう停止ていしその他たの措置そちをすることができる（25条じょう2項こう）。
- 処分しょぶん庁ちょうの上級じょうきゅう行政ぎょうせい庁ちょう又または処分しょぶん庁ちょうのいずれでもない審査しんさ庁ちょうは、必要ひつようがあると認みとめるときは、審査しんさ請求せいきゅう人じんの申立もうしたてにより、処分しょぶん庁ちょうの意見いけんを聴取ちょうしゅしたうえ、執行しっこう停止ていしをすることができる。ただし、執行しっこう停止ていし以外いがいの措置そちをすることはできない（25条じょう3項こう）。
- 審査しんさ請求せいきゅう人じんの申立もうしたてがあつた場合ばあいにおいて、処分しょぶん、処分しょぶんの執行しっこう又または手続てつづきの続行ぞっこうにより生しょうずる重大じゅうだいな損害そんがいを避さけるため緊急きんきゅうの必要ひつようがあると認みとめるときは、審査しんさ庁ちょうは、執行しっこう停止ていしをしなければならない。ただし、公共こうきょうの福祉ふくしに重大じゅうだいな影響えいきょうを及およぼすおそれがあるとき、処分しょぶんの執行しっこう若もしくは手続てつづきの続行ぞっこうができなくなるおそれがあるとき、又または本案ほんあんについて理由りゆうがないとみえるときは、この限かぎりでない（4項こう）。
執行しっこう停止ていしの取消とりけし（26条じょう）

行政ぎょうせい事件じけん訴訟そしょう法ほう

この節ふしでは、行政ぎょうせい事件じけん訴訟そしょう法ほうは条じょう数すうのみ記載きさいする。

執行しっこう不ふ停止ていしの原則げんそく（25条じょう1項こう）
執行しっこう不ふ停止ていしの例外れいがい（25条じょう2項こう）
- 処分しょぶんの取消とりけしの訴うったえの提起ていきがあつた場合ばあいにおいて、処分しょぶん、処分しょぶんの執行しっこう又または手続てつづきの続行ぞっこうにより生しょうずる重大じゅうだいな損害そんがいを避さけるため緊急きんきゅうの必要ひつようがあるときは、裁判所さいばんしょは、申立もうしたてにより^{[脚注きゃくちゅう 1]}、決定けっていをもつて、処分しょぶんの効力こうりょく、処分しょぶんの執行しっこう又または手続てつづきの続行ぞっこうの全部ぜんぶ又または一部いちぶの停止ていしをすることができる。
  - 処分しょぶんの効力こうりょくの停止ていし
    - 処分しょぶんによって生しょうじる効力こうりょくを、将来しょうらいに向むかって処分しょぶんが無なかったに等ひとしい状態じょうたいに一時いちじ停止ていしさせること。
    - 処分しょぶんの執行しっこう、手続てつづきの続行ぞっこうの停止ていしで目的もくてきを達成たっせいできる場合ばあいはできない。
  - 処分しょぶんの執行しっこうの停止ていし
    - 処分しょぶんの内容ないようを実現じつげんするために行おこなわれる行政ぎょうせい権けんによる実力じつりょく行使こうしを停止ていしさせること。
  - 手続てつづきの続行ぞっこうの停止ていし
    - 処分しょぶんの効力こうりょくを維持いじしながら、処分しょぶんの存在そんざいを前提ぜんていに行おこなわれる後続こうぞく処分しょぶんを停止ていしさせること。
事情じじょう変更へんこうによる取消とりけし
- 決定けっていが確定かくていした後のちに、その理由りゆうが消滅しょうめつし、その他た事情じじょうが変更へんこうしたときは、裁判所さいばんしょは、相手方あいてがたの申立もうしたてにより、決定けっていをもつて、執行しっこう停止ていしの決定けっていを取とり消けすことができる（26条じょう1項こう）。
内閣ないかく総理そうり大臣だいじんの異議いぎ（27条じょう）
- 異議いぎには、理由りゆうを附ふさなければならず（2項こう）、その理由りゆうには、処分しょぶんの効力こうりょくを存続そんぞくし、処分しょぶんを執行しっこうし、または手続てつづきを続行ぞっこうしなければ、公共こうきょうの福祉ふくしに重大じゅうだいな影響えいきょうを及およぼすおそれのある事情じじょうを示しめすものとする（3項こう）。
- 異議いぎがあつたときは、裁判所さいばんしょは、執行しっこう停止ていしをすることができず、また、すでに執行しっこう停止ていしの決定けっていをしているときは、これを取とり消けさなければならない（4項こう）。
- 異議いぎを述のべたときは、次つぎの常会じょうかいにおいて国会こっかいにこれを報告ほうこくしなければならない（6項こう）。
執行しっこう停止ていし等とうの管轄かんかつ裁判所さいばんしょ（28条じょう）
無効むこう等とう確認かくにんの訴うったえへの準用じゅんよう（38条じょう）
- 第だい25条じょうから第だい28条じょうまで準用じゅんようされる。

民事みんじ訴訟そしょう法ほう

強制きょうせい執行しっこう停止ていし決定けっていを参照さんしょう。

刑事けいじ訴訟そしょう法ほう

刑事けいじ訴訟そしょう法ほう第だい480条じょうでは心神喪失しんしんそうしつの状態じょうたいに在あるときは、その状態じょうたいが回復かいふくするまで刑けいの執行しっこうを停止ていしすることが規定きていされている。

また刑事けいじ訴訟そしょう法ほう第だい482条じょうで自由じゆう刑けいを受うけた者ものに対たいし、以下いかの一定いってい条件じょうけんを満みたせば、検察官けんさつかんによる自由じゆう刑けいの裁量さいりょう的てき執行しっこう停止ていしが規定きていされている。

刑けいの執行しっこうによって、著いちじるしく健康けんこうを害がいするとき、又または生命せいめいを保たもつことのできない虞おそれがあるとき。
年齢ねんれい70年ねん以上いじょうであるとき。
受胎じゅたい後ご150日にち以上いじょうであるとき。
出産しゅっさん後ご60日にちを経過けいかしないとき。
刑けいの執行しっこうによつて回復かいふくすることのできない不利益ふりえきを生しょうずる虞おそれがあるとき。
祖父母そふぼ又または父母ちちははが年齢ねんれい70年ねん以上いじょう又または重病じゅうびょう若もしくは不具ふぐで、他たにこれを保護ほごする親族しんぞくがないとき。
子こ又または孫まごが幼年ようねんで、他たにこれを保護ほごする親族しんぞくがないとき。
その他た重大じゅうだいな事由じゆうがあるとき。

刑事けいじ訴訟そしょう法ほう第だい442条じょうで、再審さいしんの請求せいきゅうがあったときは、管轄かんかつ裁判所さいばんしょに対応たいおうする検察庁けんさつちょうの検察官けんさつかんは、再審さいしんの請求せいきゅうについての裁判さいばんがあるまで刑けいの執行しっこうを停止ていしすることができる。

脚注きゃくちゅう

^ 申立もうしたての時期じきについては、取消とりけしの訴うったえが係属けいぞく中ちゅうであれば特とくに制限せいげんはなく、控訴こうそ審しんで判決はんけつ言渡いいわたし後ごであっても申立もうしたてをすることを認みとめた例れいがある(八木はちぼく 2014, pp. 564–565)、(東京とうきょう高裁こうさい 2009)。申立もうしたての手数料てすうりょうは現在げんざいのところ2000円えんである。

判例はんれい

“執行しっこう停止ていし決定けっていに対たいする許可きょか抗告こうこく事件じけん, 決定けってい, 平成へいせい16年ねん(行くだりフ)3号ごう”, 最高裁判所さいこうさいばんしょ第だい一いち小しょう法廷ほうてい, (2004(平成へいせい16)-05-31), "退去たいきょ強制きょうせい令書れいしょの収容しゅうよう部分ぶぶんの執行しっこうにより被ひ収容しゅうよう者しゃが受うける損害そんがいは、当然とうぜんには行政ぎょうせい事件じけん訴訟そしょう法ほう25条じょう2項こうに規定きていする回復かいふくの困難こんなんな損害そんがいに当あたらない。" , 裁判所さいばんしょウェブサイト（控訴こうそ審しん中ちゅうに申立もうしたてがされた事例じれい）
“執行しっこう停止ていし申立もうしたて事件じけん, 決定けってい, 平成へいせい21(行くだりタ)5号ごう”, 東京とうきょう高等こうとう裁判所さいばんしょ, (2009(平成へいせい21)-02-06) , 判例はんれい時報じほう (327): 81.

引用いんよう文献ぶんけん

八木やぎ一洋かずひろ著ちょ「（執行しっこう停止ていし）第だい25条じょう」、南みなみ博ひろし方かた、高橋たかはし滋しげる; 市村いちむら陽典ようすけほか編へん『条じょう解かい行政ぎょうせい事件じけん訴訟そしょう法ほう』（第だい4版はん）弘文こうぶん堂どう〈条じょう解かいシリーズ〉、2014(平成へいせい26)-12-15、501 - 580頁ぺーじ。ISBN 978-4-335-35603-2。