太ふとし布ぬの

太ふとし布ぬの（たふ）は、綿花めんか以外いがいの植物しょくぶつ繊維せんいで織おられた布ぬの全般ぜんぱんを指さす。現代げんだいでは、その一部いちぶの技法ぎほうが伝統でんとう工芸こうげいとして残のこったため、楮こうぞ（こうぞ）や藤蔓ふじづるから作つくられた布ぬののみを太たい布ぬのと呼よぶ場合ばあいもある。これについては木綿こわた (ゆう)の項目こうもく参照さんしょう。

概要がいよう

呼称こしょうが使つかわれ始はじめた時期じきは不明ふめい。由来ゆらいは、税ぜいとして納おさめる布ぬのに比ひして太ふとい糸いとを用もちいたためではないか、との説せつがある。また、日本人にっぽんじんの用もちいていた布ぬのに関かんする最古さいこの文献ぶんけんは『魏ぎ志こころざし倭人わじん伝でん』である。そこに紵麻と絹きぬ織物おりものを作つくっているとの記述きじゅつがある。ただ、世界せかい各地かくちの風俗ふうぞくとの比較ひかくや遺跡いせきの出土しゅつど品ひんなどから、布ぬの生産せいさんの初期しょきから太たい布ぬのは用もちいられていたのではないかと推測すいそくされている。

『魏ぎ志こころざし倭人わじん伝でん』では、紵麻が育そだてられていると記しるされ、苧麻からむしを意味いみする紵と麻あさを分わけるのか議論ぎろんが分わかれるが、『後こう漢書かんしょ』倭やまと伝でんでは、麻あさ紵と記しるされ一般いっぱんに分わけて読よまれる。

太ふとし布ぬのの材料ざいりょうの主おもなものは、麻あさ、苧麻からむし、藤ふじ、葛かずら、楮こうぞ、栲たえ、科か（シナ）、アッシが推測すいそくされている。苧麻からむしは、糸いとを引ひき出だす寸前すんぜんにまで加工かこうすると青あお苧からむし（アオソ）の名称めいしょうでよく言及げんきゅうされる。江戸えど時代じだいの越後えちご国こくの主力しゅりょく商品しょうひんである。

柳田やなぎだ國男くにおは『木綿もめん以前いぜんのこと』にて、木綿もめんの登場とうじょうにより、それ以前いぜんの衣料いりょう用ようの布ぬの（柳田やなぎだは麻あさと記述きじゅつしているが、他たの箇所かしょで藤ふじや楮こうぞを、木綿こわた登場とうじょう以前いぜんの衣料いりょう用ようの布ぬのの材料ざいりょうとして挙あげている）がほぼ駆逐くちくされたととれる記述きじゅつをしている。証拠しょうこを伴ともなわない散文さんぶん的てきな意見いけんであるが、他た書しょでしばしば引用いんようされている。昭和しょうわの初期しょきまで、特とくに地方ちほうの農村のうそんでは太ふとし布ぬのの衣服いふくが日常にちじょう着ぎだったという証言しょうげんもあり、前述ぜんじゅつのように現代げんだいでも伝統でんとう工芸こうげいとして残のこっている事例じれいもある。

現在げんざい、日本にっぽんで木綿もめんの太ふとし布ぬのを生産せいさんしているのは徳島とくしま県けん那賀なか郡ぐん那賀なか町まち木頭きとう（旧きゅう木頭きとう村むら）の阿波あわ太たい布ぬの製造せいぞう技法ぎほう保存ほぞん伝承でんしょう会かいだけである。

生産せいさん方法ほうほう

材料ざいりょうが異ことなっても、手順てじゅんは大体だいたいにおいて同おなじである。工程こうていにかかる時間じかんや、仕上しあがった糸いとの性質せいしつが異ことなる程度ていど。

1. 材料ざいりょうを採取さいしゅする：樹皮じゅひなら剥はぐ。草くさなら刈かり取とる。
2. 水みずにさらし、材料ざいりょうの柔軟じゅうなん性せいを増ます。
3. 蒸むして材料ざいりょうをほぐしやすくする。
4. 道具どうぐを使つかい、材料ざいりょうから繊維せんいを引ひき出だす。
5. 績うむ／紡つむぐ：引ひき出だした繊維せんいを撚ひねり合あわせ、つなぎ、糸いとを作つくる。
6. 機織はたおり機きで糸いとから布ぬのを織おる。

※材料ざいりょうや用途ようとにより、工程こうていの合間あいまや、布ぬのが仕上しあがった後のちに、木き槌づちなどで叩たたいて繊維せんいをしなやかにする（砧きぬた打うち）。

文化財ぶんかざい指定してい

徳島とくしま県けん那賀なか町まちにおける太ふとし布ぬのは阿波あわ太たい布ぬの（あわたふ）あるいは楮こうぞ布ぬの（こうぞふ）とよばれる。木綿もめんが普及ふきゅうする以前いぜんは、楮こうじ布ぬのを「木綿こわた（ゆう）」と呼よんでいたほど広ひろく使つかわれた。当とう地区ちくでは布袋ほていや畳たたみ縁えん用ように明治めいじ時代じだいまで盛さかんに作つくられ、受うけ継つがれてきた製造せいぞう技術ぎじゅつは徳島とくしま県けんの無形むけい文化財ぶんかざいに指定していされているほか、阿波あわの太ふとし布ぬの製造せいぞう技術ぎじゅつ（あわのたふせいぞうぎじゅつ）として、国くにの重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいに指定していされている。

参考さんこう文献ぶんけん

• 鈴木すずき庸夫みちお・高橋たかはし冬ふゆ・安やす延のべ尚文なおふみ『樹皮じゅひと冬芽とうが：四季しきを通つうじて樹木じゅもくを観察かんさつする 431種しゅ』誠まこと文ぶん堂どう新光しんこう社しゃ〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年ねん10月がつ10日とおか。ISBN 978-4-416-61438-9。 
• 竹内たけうち淳子じゅんこ『ものと人間にんげんの文化ぶんか史し78 草木くさき布ぬの』法政大学ほうせいだいがく出版しゅっぱん局きょく
• 河井かわい洋ひろし『麻あさと日本人にっぽんじん』竹林ちくりん館かん、2009年ねん6月がつ、ISBN 978-4-86000-168-1
• 永原ながはら慶けい二に『苧麻からむし・絹きぬ・木綿もめんの社会しゃかい史し』吉川弘文館よしかわこうぶんかん
• 『月刊げっかん 染織せんしょくαあるふぁ No.64（1986年ねん7月がつ号ごう）』染織せんしょくと生活せいかつ社しゃ