定常ていじょう宇宙うちゅうろん

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定常ていじょう宇宙うちゅうろん(ていじょううちゅうろん、steady-state cosmology)とは、1948ねんフレッド・ホイルトーマス・ゴールドヘルマン・ボンディらによって提唱ていしょうされた宇宙うちゅうろんのモデルであり、(宇宙うちゅう膨張ぼうちょうしているが)からの物質ぶっしつそうせいにより、任意にんい空間くうかん質量しつりょう大雑把おおざっぱえば宇宙うちゅう空間くうかん分布ぶんぷする銀河ぎんがかず)はつね一定いっていたもたれ、宇宙うちゅう基本きほんてき構造こうぞう時間じかんによって変化へんかすることはない、とするものである。

2005ねん現在げんざいビッグバン理論りろん(ビッグバン仮説かせつ)が有力ゆうりょくかんがえられることがおおく、支持しじするおおくの科学かがくしゃらから「標準ひょうじゅんてき宇宙うちゅうろんモデル」とばれており、このような立場たちばからは定常ていじょう宇宙うちゅうろんは「標準ひょうじゅんてき宇宙うちゅうろん (non-standard cosmology)」のひとつとなされている。

定常ていじょう宇宙うちゅうろんにおける宇宙うちゅう[編集へんしゅう]

定常ていじょう宇宙うちゅうろん時空じくうたてじく時間じかんよこじく空間くうかん)。定常ていじょう宇宙うちゅうろんでは空間くうかんインフレーション宇宙うちゅうのように指数しすう関数かんすうてき急速きゅうそく拡大かくだいしており、空間くうかんあいだから物質ぶっしつあらたにまれているのだとかんがえた。このとき、湾曲わんきょくしたひかり円錐えんすい黄色おうしょく)に沿って無限むげん過去かこから地球ちきゅう太古たいこほしひかりがやってくることになるが、この見方みかた宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃをうまく説明せつめいできなかった。

定常ていじょう宇宙うちゅうろんは、一般いっぱん相対性理論そうたいせいりろんしたでは静的せいてき宇宙うちゅう存在そんざいできないという理論りろんてき計算けいさんや、宇宙うちゅう膨張ぼうちょうしていることをしめエドウィン・ハッブル観測かんそくけてかんがされた。定常ていじょう宇宙うちゅうろんでは、宇宙うちゅう膨張ぼうちょうしているにもかかわらず時間じかんとともに変化へんかしないと主張しゅちょうする。この主張しゅちょうつためには、宇宙うちゅう密度みつど不変ふへんたもつためにあらたな物質ぶっしつ時間じかんとともにえず生成せいせいされている必要ひつようがある。

この理論りろん必要ひつよう物質ぶっしつ生成せいせい速度そくどは、1年間ねんかんに1km3あたりおよそ水素すいそ原子げんし1個いっこ程度ていどという非常ひじょうちいさな割合わりあい十分じゅうぶんなため、このような物質ぶっしつ生成せいせい直接ちょくせつ観測かんそくされていないことはこの理論りろん問題もんだいにはならない。あらたに物質ぶっしつまれるということからエネルギー保存ほぞん法則ほうそくやぶってはいるものの、定常ていじょう宇宙うちゅうろんにはおおくの魅力みりょくてき特徴とくちょうがある。もっと特筆とくひつすべき性質せいしつは、この理論りろんでは宇宙うちゅうはじまりを必要ひつようとしないてんである。

銀河ぎんが生成せいせい[編集へんしゅう]

ビッグバン理論りろんでは、宇宙うちゅう爆発ばくはつてき膨張ぼうちょうともなって中性ちゅうせい水素すいそ大量たいりょう生成せいせいし、それが現在げんざいられる銀河ぎんが形成けいせいしたとくが、定常ていじょう宇宙うちゅう空間くうかんにおいては銀河ぎんがはどのように形成けいせいされるのか。

かく銀河ぎんが宇宙うちゅう空間くうかん膨張ぼうちょうともなうごきと同時どうじ固有こゆう運動うんどうおこなっているが、その空間くうかんなかには希薄きはく中性ちゅうせい水素すいそガスがあり、銀河ぎんがふね水面すいめんくように水素すいそガスのなか運動うんどうしている。かりやすいように、銀河ぎんが停止ていしして水素すいそおおきなながれとなって銀河ぎんが周辺しゅうへん移動いどうしているとかんがえてもよい。銀河ぎんがよこながれる水素すいそ銀河ぎんが引力いんりょくによってりゅうげられ、銀河ぎんが後方こうほう密度みつどたか部分ぶぶん形成けいせいする。質量しつりょうおおきな銀河ぎんが引力いんりょくつよいのでおおきな質量しつりょう水素すいそガスのかたまりができ、ちいさな銀河ぎんが場合ばあいしょう質量しつりょうのものになる。こうしてできた様々さまざま質量しつりょう水素すいそガスのかたまり恒星こうせい次々つぎつぎみ、銀河ぎんが形作かたちづくって、宇宙うちゅう定常ていじょうてき維持いじされるとかんがえる。

定常ていじょう宇宙うちゅうろん衰退すいたい[編集へんしゅう]

1950年代ねんだいから1960年代ねんだいにかけては定常ていじょう宇宙うちゅうろん支持しじする研究けんきゅうしゃ数多かずおお存在そんざいしたが、1960年代ねんだいわりにはそのかずえて減少げんしょうした。これは、1965ねん発見はっけんされた宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃによるところおおきい。1960年代ねんだいわりになると、宇宙うちゅう実際じっさい時間じかんとともに変化へんかしているというかんがえを支持しじするとられる観測かんそく結果けっかられるようになり、定常ていじょう宇宙うちゅうろんには問題もんだいがあることがあきらかになってきた。観測かんそくでは、クエーサー電波でんぱ銀河ぎんが距離きょりとおい(あか方偏かたへんうつりおおきく、また光速こうそく有限ゆうげんゆえにとおさにおうじた「過去かこ」の)宇宙うちゅうでしかつからず、近距離きんきょり銀河ぎんがにはられないものであった。ホルトン・アープは1960年代ねんだい以来いらい、これらの観測かんそくデータをべつ視点してんから解釈かいしゃくし、クエーサーが我々われわれ近傍きんぼうにあるおとめ銀河ぎんがだんどう程度ていど近距離きんきょり存在そんざいすることをしめ観測かんそくてき証拠しょうこもあると主張しゅちょうしているが、支持しじしゃはわずかである。

ほとんどの宇宙うちゅうろん研究けんきゅうしゃは、ビッグバン理論りろん予言よげんされる宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃ発見はっけんされたことによって定常ていじょう宇宙うちゅうろん論駁ろんばくされたとかんがえている。定常ていじょう宇宙うちゅうろんでは、この背景はいけい放射ほうしゃ太古たいこむかし恒星こうせいから放出ほうしゅつされたひかり銀河ぎんがないちりによって散乱さんらんされたものであるとしている。しかしおおくの宇宙うちゅうろん研究けんきゅうしゃはこの説明せつめいには説得せっとくりょくがないとめている。なぜなら、宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃ方向ほうこうによる強度きょうどらぎがほとんどなく非常ひじょうなめらかで、てん光源こうげんからこのような分布ぶんぷつくられることを説明せつめいするのはむずかしいためである。また、散乱さんらんこう通常つうじょうられるはずのへんこうのような特徴とくちょう宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃにはまったられない。それにくわえて、宇宙うちゅう背景はいけい放射ほうしゃスペクトル理想りそうてきくろたい放射ほうしゃのスペクトルに非常ひじょうちかく、ことなる温度おんどことなるあか方偏かたへんうつりちりかたまり散乱さんらんこうかさわせてもこのようなスペクトルは到底とうていつくせない。スティーブン・ワインバーグ1972ねん著書ちょしょ以下いかのようにいている。

定常ていじょう宇宙うちゅうモデルは観測かんそくからられている光度こうど - あか方偏かたへんうつり関係かんけい光源こうげん計数けいすう観測かんそく一致いっちしていないようにえる。…ある意味いみでは、この不一致ふいっちこそが定常ていじょう宇宙うちゅうモデルの功績こうせきである。おおくの宇宙うちゅうろんなか定常ていじょうモデルは、我々われわれ自由じゆうになるかぎられた観測かんそくてき証拠しょうこのみによっても容易ようい反証はんしょうできるこのような明確めいかく予言よげんをしているためである。定常ていじょう宇宙うちゅうモデルは非常ひじょう魅力みりょくてきであるため、おおくの支持しじしゃたち依然いぜんとして、観測かんそく技術ぎじゅつ改良かいりょうされれば定常ていじょうモデルにはんする証拠しょうこるだろうというのぞみをつづけている。しかし、もしも宇宙うちゅうマイクロ背景はいけい放射ほうしゃが…本当ほんとうくろたい放射ほうしゃであるならば、宇宙うちゅう高温こうおん高密度こうみつど初期しょき段階だんかいから進化しんかしてきたというかんがえをうたがうことはむずかしくなるだろう。

現在げんざい定常ていじょう宇宙うちゅうろん[編集へんしゅう]

定常ていじょう宇宙うちゅうろんはその提唱ていしょうされたじゅん定常ていじょう宇宙うちゅうろん (quasi-steady state cosmology) とばれるべつ宇宙うちゅうろん基礎きそともなった。2005ねん現在げんざい、ビッグバン理論りろん宇宙うちゅう起源きげん記述きじゅつするもっと近似きんじ理論りろんであると天文学てんもんがくしゃ大半たいはんかんがえている。ほとんどの天体てんたい物理ぶつりがく出版しゅっぱんぶつではビッグバンは暗黙あんもくのうちにれられ、より完全かんぜん理論りろん基礎きそとしてもちいられている。一方いっぽうでそれと同時どうじに、1990年代ねんだいわりに宇宙うちゅう加速かそく膨張ぼうちょうという予想よそうがい観測かんそく結果けっかられたのちじゅん定常ていじょう宇宙うちゅうろん構築こうちくしようとする努力どりょくもいくつかなされている。この理論りろんではビッグバンは1かいではなく、時間じかんとともになん小規模しょうきぼなビッグバンが継続けいぞくてきこって物質ぶっしつ生成せいせいしているとしている。

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • Fred Hoyle, Geoffrey Burbidge, and Jayant V. Narlikar, A Different Approach to Cosmology, Cambridge University Press, 2000, ISBN 0521662230
  • Simon Mitton, Conflict in the Cosmos: Fred Hoyle's Life in Science, Joseph Henry Press, 2005, ISBN 0309093139 or, Fred Hoyle: a life in science, Aurum Press, 2005, ISBN 1854109618
  • Steven Weinberg, Gravitation and Cosmology (Wiley, New York, 1972), pp. 495–464.

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]