尾お流りゅう雲くも

尾お流りゅう雲くも
高こう積雲せきうんの尾お流りゅう雲くも
略記りゃっき号ごう	vir
副ふく変種へんしゅ	尾お流りゅう雲くも
特徴とくちょう	柱状ちゅうじょう、雲くもから下したに伸のびる
降水こうすいの有無うむ	あり（地上ちじょうには達たっしない）

乱層雲らんそううんの尾お流りゅう雲くも

尾お流りゅう雲くも（びりゅううん、ラテン語らてんご学術がくじゅつ名めい:virga、略号りゃくごう:vir）とは、雲くもの分類ぶんるいにおいて部分ぶぶん的てきに特徴とくちょうのある雲くも（副ふく変種へんしゅ）の1つ。雲くもから降水こうすいが落下らっかしているが途中とちゅうで蒸発じょうはつ・昇華しょうかし先端せんたんが地表ちひょうに到達とうたつしていないもの。降水こうすい条じょう（こうすいじょう, fall streaks）とも言いう。地上ちじょうに達たっすれば降水こうすい雲くもとなる。

尾お流りゅう雲くもの垂だれさがるすじは、垂直すいちょくなものもあるが、多おおくは斜ななめになっていて、途中とちゅうで曲まがったものもある。すじが曲まがるのは、主おもに雨粒あまつぶの蒸発じょうはつ（氷こおり晶あきらの昇華しょうか）により粒つぶ径みちが小ちいさくなり終端しゅうたん速度そくどが遅おそくなるためと考かんがえられる。鉛直えんちょくのウインドシア（上下じょうげでの風向ふうこう風速ふうそくの急変きゅうへん）によるものもある。

十じゅう種しゅ雲形くもがた（類るい、基本形きほんけい）のうち、主おもに巻積雲けんせきうん、高こう積雲せきうん、高こう層雲そううん、乱層雲らんそううん、層積雲そうせきうん、積雲せきうん、積乱雲せきらんうんに見みられる。高層こうそう雲くもや乱層雲らんそううんでは、ほとんどに尾お流りゅう雲くもがみられる。層積雲そうせきうんではかなりの低温ていおん下かで稀まれにみられる。

高こう層雲そううんの下部かぶと尾お流りゅう雲くもは区別くべつが難むずかしいことがあり、雪ゆきが一様いちように降ふるときに顕著けんちょになる。巻積雲けんせきうんでは小ちいさな尾お流りゅう雲くもがみられ、塔とう状じょう雲くもや房ぼう状じょう雲くもによくみられる。高こう積雲せきうんでは多おおくの雲くも種しゅに尾お流りゅう雲くもがみられ、特とくに房ぼう状じょう高だか積雲せきうんは広ひろがり消きえていく過程かていで氷こおり晶あきらでできた白しろい尾お流りゅう雲くもをつくり、やがて巻雲けんうんへと変化へんかすることがある。また、薄うすい雲くもでは尾お流りゅう雲くもが発生はっせいしたのち雲くもが消きえてしまうことがある。

部分ぶぶん的てきに特徴とくちょうのある雲くも（副ふく変種へんしゅ）の1つcavumはしばしば尾お流りゅう雲くもを伴ともなう。

尾お流りゅう雲くもの場合ばあいは、地上ちじょうで降水こうすいが観測かんそくされなくても、上空じょうくうを飛行ひこうする航空機こうくうきなどは降水こうすいを受うける可能かのう性せいがある。

尾お流りゅう雲くもは、降水こうすい雲くもと同様どうように、虹にじが見みられることがある。

特定とくていの条件下じょうけんかでは、尾お流りゅう雲くもで起おこる水滴すいてきの蒸発じょうはつが「乾かわいたダウンバースト（ドライ・ダウンバースト）」を引ひき起おこすことがある。湿度しつどの低ひくい乾燥かんそうした大気たいきの上うえに湿しめった大気たいきがあって降水こうすい（尾お流りゅう雲くも）のあるとき、蒸発じょうはつする水滴すいてきが大気たいきから熱ねつを奪うばい下降かこう気流きりゅうが発生はっせいする。地上ちじょうのレーダーでは高たかい高度こうどの尾お流りゅう雲くもを観測かんそくできない場合ばあいがあり、航空こうくうの安全あんぜんを脅おびやかすことがあるため注意ちゅういしなければならないとされる。アメリカ中西部ちゅうせいぶなど強つよい乾燥かんそうがある地域ちいきでは、急激きゅうげきな下降かこう気流きりゅうによって空気くうきが圧縮あっしゅくされて逆ぎゃくに温度おんどが上あがるヒートバースト(Heat burst)も観測かんそくされており、猛烈もうれつな突風とっぷうを発生はっせいさせることが知しられている。

ラテン語らてんご"virga"は棒ぼう、笏しゃく、杖つえ、枝えだなどを意味いみする。

元もと気象庁きしょうちょう長官ちょうかんの吉武よしたけ素もと二にによれば、"virga"の訳語やくごが「尾お流りゅう雲くも」となったのは以下いかの経緯けいいによる。終戦しゅうせん直後ちょくごに測候そっこう課長かちょうであった吉武よしたけが国際こくさい雲くも図ず帳ちょうの翻訳ほんやくに際さいしてvirgaの訳語やくごが必要ひつようになり、ビルガ→ビリュウ→尾お流りゅう雲くもと連想れんそうし、「尾お流りゅう雲くも」という訳語やくごが観測かんそく法ほう改訂かいてい委員いいん会かいにより認みとめられたので、中央ちゅうおう気象台きしょうだいが昭和しょうわ25年ねん1月がつに発刊はっかんした『地上ちじょう気象きしょう観測かんそく法ほう』（暫定ざんてい版ばん）において初はじめて使用しようされた。