損金そんきん

損金そんきん（そんきん）とは、法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こうにおいて定さだめられた法人ほうじん税法ぜいほうにおいて課税かぜい所得しょとくを導出どうしゅつするための基礎きそとなる法人ほうじん税法ぜいほう上じょうの固有こゆうの概念がいねんである。

概要がいよう

損金そんきんは、資本しほん等ひとしの取引とりひきによるものを除のぞいた法人ほうじんの資産しさんの減少げんしょうをきたす原価げんか・費用ひよう・損失そんしつの額がくとされる。損金そんきんとは、原則げんそくとしてすべての原価げんか、費用ひようと損失そんしつを含ふくむ広ひろい概念がいねんとして捉とらえられるものである。

法人ほうじん税法ぜいほうにおける法人ほうじんの課税かぜい所得しょとくに関かんする基本きほん構造こうぞうは、法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう（各かく事業じぎょう年度ねんどの所得しょとくの金額きんがくの計算けいさん）第だい1項こうにおいて、「内国ないこく法人ほうじんの各かく事業じぎょう年度ねんどの所得しょとくの金額きんがくは、当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの益金えききんの額がくから当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの損金そんきんの額がくを控除こうじょした金額きんがくとする。」と規定きていされている。つまり、法人ほうじん税法ぜいほうにおける法人ほうじんの課税かぜい所得しょとくは、益金えききんの額がくから損金そんきんの額がくを差さし引ひいた結果けっかの額がくである。益金えききん及および損金そんきんという法的ほうてき概念がいねんを意義いぎ付つけることによって、演繹えんえき的てきに法人ほうじん税法ぜいほうにおける法人ほうじんの課税かぜい所得しょとくの意義いぎを明確めいかくにすることができる点てんから、これらの概念がいねんは特とくに重要じゅうようである。

意義いぎ

法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こうでは、損金そんきんの額がくの所得しょとく金額きんがく計算けいさん上じょうの事業じぎょう年度ねんどへの法的ほうてきな帰属きぞく時期じきと損金そんきんの額がくの内容ないように関かんする事項じこうを規定きていしている。この規定きていでは損金そんきんについて、「別段べつだんの定さだめ」を除のぞくほかは、当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの損金そんきんに算入さんにゅうすべきものとして、原価げんか・費用ひよう・損失そんしつの次つぎの3つを挙あげている。損金そんきんの額がくは、これら原価げんか・費用ひよう・損失そんしつの額がくの全部ぜんぶの合計ごうけいとしての総称そうしょうの意味いみを持もつ。

第だい一いち号ごう　当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの収益しゅうえきに係かかる売上うりあげ原価げんか、完成かんせい工事こうじ原価げんかその他たこれらに準じゅんずる原価げんかの額がく
この規定きていにおいて原価げんかの額がくとは、収益しゅうえきと個別こべつに対応たいおうして計算けいさんすることのできる費用ひよう収益しゅうえき対応たいおうの原則げんそくによって関係付かんけいづけられた収益しゅうえきの直接ちょくせつの犠牲ぎせいとなった支出ししゅつをいう。例示れいじすれば、たな卸おろし資産しさんの売上うりあげ原価げんか、製造せいぞう原価げんか、完成かんせい工事こうじ原価げんか、固定こてい資産しさんの譲渡じょうと原価げんか等とうである。

第だい二に号ごう　当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの販売はんばい費ひ、一般いっぱん管理かんり費ひその他たの費用ひよう（償却しょうきゃく費ひ以外いがいの費用ひようで当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに債務さいむの確定かくていしないものを除のぞく。）の額がく
この規定きていにおける費用ひようとは、個別こべつ的てきに費用ひよう収益しゅうえきを対応たいおうさせることができない費用ひようとしての期間きかん対応たいおうの原則げんそくによる費用ひようの額がくをいう。「その他たの費用ひよう」には、割引わりびき料りょう、支払しはらい利息りそく等とうのいわゆる営業えいぎょう外がい費用ひようが含ふくまれる。

なお、この規定きていにおいて「償却しょうきゃく費ひ以外いがいの費用ひようで当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに債務さいむの確定かくていしないものを除のぞく。」として、償却しょうきゃく費ひを除外じょがいしているのは、減価げんか償却しょうきゃく費ひは債務さいむの確定かくていという問題もんだいが生しょうじないためで、それ以外いがいの費用ひようは「債務さいむの確定かくてい」という法的ほうてきな判定はんてい基準きじゅんが必要ひつようとなるからである。

第だい三さん号ごう　当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの損失そんしつの額がくで資本しほん等とう取引とりひき以外いがいの取引とりひきに係かかるもの
法人ほうじんが意図いとしないで不可避ふかひ的てきに生しょうじた支出ししゅつや法人ほうじんが事業じぎょう遂行すいこう上じょうの必要ひつよう上じょう生しょうじた資産しさんの損失そんしつをいう。例示れいじすれば、風水害ふうすいがい、盗難とうなん等とうの偶発ぐうはつ的てきな事故じこによって生しょうじた滅失めっしつ損そんやその他た貸かし倒たおせによる売掛金うりかけきんの喪失そうしつ、消滅しょうめつ時効じこうの完成かんせいによる債権さいけんの消滅しょうめつ等とうである。

費用ひよう計上けいじょうの帰属きぞく時期じきの法的ほうてき基準きじゅん（債務さいむ確定かくてい主義しゅぎ）

法人ほうじん税法ぜいほうでは、益金えききんにおける権利けんり確定かくてい主義しゅぎとともに、費用ひようの帰属きぞく事業じぎょう年度ねんどを決定けっていする法的ほうてき基準きじゅんとなる債務さいむ確定かくてい主義しゅぎが採用さいようされている。法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こう第だい2号ごうにいう「債務さいむの確定かくてい」とは、当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに費用ひように係かかわる債務さいむが成立せいりつし、金額きんがくが確定かくていしていること、あるいは当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに金額きんがくを合理ごうり的てきに算定さんていできることを要件ようけんとする。なお、債務さいむが成立せいりつするためには、かかる法律ほうりつ効果こうかの発生はっせい原因げんいんたる法律ほうりつ要件ようけん（契約けいやく等とう）の存在そんざいすることを要ようする。

なお、この概念がいねんに対たいして、会計かいけい学がく上じょうの発生はっせい主義しゅぎがある。

費用ひよう性せいの判定はんてい基準きじゅん

損金そんきんのうちの費用ひように該当がいとうするかどうかの判定はんてい基準きじゅんは、取引とりひき自体じたいの「費用ひよう性せい」にある。「費用ひよう性せい」を認みとめられるためには、所得しょとく税法ぜいほうの場合ばあいと同様どうように、通常つうじょう性せいの要件ようけんを満みたす必要ひつようは無なく、必要ひつよう性せいの要件ようけんを満みたしていれば十分じゅうぶんであると解ほぐされる。よって、「通常つうじょうかつ必要ひつような経費けいひ」である必要ひつようはなく、「必要ひつような経費けいひ」であれば、不法ふほう・違法いほうな支出ししゅつであってもそれが利益りえきを得えるために直接ちょくせつに必要ひつようなものである限かぎり費用ひようとして容認ようにんされるべきである。ただし、架空かくうな経費けいひを計上けいじょうして所得しょとくを秘匿ひとくするために要ようした支出ししゅつは、収益しゅうえきのための犠牲ぎせいとなった費用ひようとはいえず、これは損金そんきんには該当がいとうしない。

損金そんきん経理けいり

法人ほうじん税法ぜいほう及および租税そぜい特別とくべつ措置そち法ほうは、一定いっていの支出ししゅつ及および損失そんしつについて、損金そんきん経理けいりを条件じょうけんとして損金そんきんの額がくに算入さんにゅうすることができるとしている。損金そんきん経理けいりとは、法人ほうじんがその確定かくていした決算けっさんにおいて、原価げんか、費用ひようまたは損失そんしつとしてそれらの額がくを経理けいりすることをいう。

企業きぎょう会計かいけい等とうにおける費用ひよう・損失そんしつと損金そんきんのうちの費用ひよう・損失そんしつとの関係かんけい

いわゆる借用しゃくよう概念がいねんについては、租税そぜい法ほう自身じしんにおいて特別とくべつに文言もんごんの定義ていぎを定さだめない限かぎり、特とくに密接みっせつに関連かんれん・結合けつごうしている民法みんぽう・商法しょうほう等ひとしの取引とりひき法ほうを含ふくむその他たの法令ほうれいで用もちいた法文ほうぶんの意義いぎと同一どういつに解かいして、法ほう全体ぜんたいの秩序ちつじょと調和ちょうわするように解釈かいしゃくしなければならない。これに加くわえて、法ほうの根底こんていには、事実じじつたる慣習かんしゅうの尊重そんちょう、社会しゃかい通念つうねん、一般いっぱん常識じょうしきを基礎きそとする条理じょうりが存在そんざいしている。

損金そんきんを規定きていした法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こうは、その各号かくごうの規定きていにおいて会計かいけい上じょうの用語ようごを借用しゃくよう概念がいねんとして用もちいているが、これがすなわち、そのまま会計かいけい上じょうの費用ひようあるいは損失そんしつを意味いみするものではない。法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こうに定さだめられた損金そんきんたる原価げんか・費用ひよう・損失そんしつは、それらが租税そぜい法ほうとしての法人ほうじん税法ぜいほうに取とり込こまれた以上いじょうは、租税そぜい法律ほうりつ主義しゅぎの明確めいかく性せいの原則げんそくから、これを法的ほうてきな視角しかくから捉とらえなければならない。会計かいけい上じょうの費用ひようが直ただちに法人ほうじん税法ぜいほう上じょうの損金そんきんのうちの費用ひようとなるのではない。

従したがって、例たとえば支払しはらい利息りそくについても、法人ほうじん税法ぜいほう第だい22条じょう第だい3項こう第だい2号ごうにいう「債務さいむの確定かくてい」の要件ようけんたる「当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに費用ひように係かかわる債務さいむが成立せいりつし、金額きんがくが確定かくていしていること、あるいは当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに金額きんがくを合理ごうり的てきに算定さんていできること、そして、債務さいむが成立せいりつするための発生はっせい原因げんいんたる法律ほうりつ要件ようけん（契約けいやく等とう）が存在そんざいすること」という法的ほうてきな基準きじゅんを充足じゅうそくすることによって、この費用ひようを法的ほうてきな視点してんから客観きゃっかん的てきに把握はあくすることが可能かのうとなり、これを損金そんきんのうちの費用ひようとして計上けいじょうすることができるものと解かいすべきである。当該とうがい費用ひようが、会計かいけい上じょうにおいて支払しはらい利息りそくとして経理けいりされているという事実じじつをもって、これを損金そんきんのうちの費用ひようとして捉とらえてはならない。あくまでも、法的ほうてきな視角しかくから損金そんきんを構成こうせいする原価げんか・費用ひよう・損失そんしつを捉とらえるのである。つまり、会計かいけい上じょうの費用ひよう・損失そんしつの存在そんざいと法人ほうじん税法ぜいほう上じょうの損金そんきんたる費用ひよう・損失そんしつという概念がいねんは、それぞれ独立どくりつして別個べっこに存在そんざいするものである。よって、会計かいけい上じょうの費用ひよう・損失そんしつと法人ほうじん税法ぜいほう上じょうの損金そんきんたる費用ひよう・損失そんしつは、本質ほんしつ的てきに異ことなるものであるから、これら両者りょうしゃの差異さいを見みいだしてそれを意義いぎ付つけるという関係かんけいにはない。

参考さんこう条文じょうぶん

第だい二に十じゅう二に条じょう（各かく事業じぎょう年度ねんどの所得しょとくの金額きんがくの計算けいさん）第だい三さん項こう

　内国ないこく法人ほうじんの各かく事業じぎょう年度ねんどの所得しょとくの金額きんがくの計算けいさん上じょう当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの損金そんきんの額がくに算入さんにゅうすべき金額きんがくは、別段べつだんの定さだめがあるものを除のぞき、次つぎに掲かかげる額がくとする。

一いち　当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの収益しゅうえきに係かかる売上うりあげ原価げんか、完成かんせい工事こうじ原価げんかその他たこれらに準じゅんずる原価げんかの額がく

二に　前号ぜんごうに掲かかげるもののほか、当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの販売はんばい費ひ、一般いっぱん管理かんり費ひその他たの費用ひよう（償却しょうきゃく費ひ以外いがいの費用ひようで当該とうがい事業じぎょう年度ねんど終了しゅうりょうの日ひまでに債務さいむの確定かくていしないものを除のぞく。）の額がく

三さん　当該とうがい事業じぎょう年度ねんどの損失そんしつの額がくで資本しほん等とう取引とりひき以外いがいの取引とりひきに係かかるもの

参考さんこう文献ぶんけん

松沢まつざわ智さとし編著へんちょ　『租税そぜい実体じったい法ほうの解釈かいしゃくと適用てきよう』