東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ

東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃのバス車両しゃりょう

東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ（とうきょうゆうらんのりあいじどうしゃ）は、かつて日本にっぽんに存在そんざいしたバス運行うんこう会社かいしゃ。1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）に東京とうきょう市内しないの定期ていき観光かんこうバスの営業えいぎょうを最初さいしょに始はじめた。これは別府べっぷ温泉おんせんの亀かめの井いバスに先行せんこうして始はじまったものであった。一般いっぱんには渡辺わたなべ滋しげるの発案はつあん、東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃの後援こうえんで実施じっしが始はじまったとされる。戦時せんじ体制たいせい下かの交通こうつう事業じぎょう整理せいりの名目めいもくで営業えいぎょう休止きゅうしとなる。太平洋戦争たいへいようせんそう後ご、東京とうきょう都となどの出資しゅっしを得えて、新しん日本にっぽん観光かんこうとして再さい出発しゅっぱつ。1963年ねん（昭和しょうわ38年ねん）9月1日にち、新しん日本にっぽん観光かんこうは、はとバスと改名かいめいした。

設立せつりつ背景はいけい

遊覧ゆうらんバスはヨーロッパが発祥はっしょうである。第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんの後のち、ヨーロッパでは戦跡せんせき見学けんがくが盛さかんに行おこなわれるようになったが、これに注目ちゅうもくしたバス会社かいしゃがガイドを添乗てんじょうした戦跡せんせき巡めぐりバスが営業えいぎょうさせるようになった。その後ご、ロンドンやパリなどで都市とし案内あんないをする遊覧ゆうらんバスが出現しゅつげんした。

一方いっぽう、大正たいしょう期きには人力車じんりきしゃや馬車ばしゃによる東京とうきょう見物けんぶつが行おこなわれていた。このころの主おもな東京とうきょうの主おもな名所めいしょは、亀戸かめいどの臥竜がりょう梅うめ、四谷よつや新町しんまちの梅林ばいりん、上野公園うえのこうえんの桜さくら、大久保おおくぼのつつじ、鬼子母神きしもじんの朝顔あさがお市し、両国りょうこくの川開かわびらき、神田かんだ神社じんじゃの祭まつり、酉とりの市いちなどであった。

社しゃ史し

設立せつりつ

帝都ていと高速度こうそくど交通こうつう営団えいだんの総裁そうさいであった鈴木すずき清秀きよひでは、はとバスの広報こうほうの取材しゅざいに対たいし、以下いかのように語かたっている。

私わたしが鉄道てつどう省しょうの旅客りょかく課長かちょうとして国内こくない観光かんこうの仕事しごとにたずさわっていた頃ころ、私立しりつ大学だいがくの渡辺わたなべ滋しげる氏しが訪たずねて来きたられ、「サイト・シーイング・カーを東京とうきょう市内しないで経営けいえいしたい」という構想こうそうを述のべられた。私わたしも非常ひじょうに興味きょうみを持もってこの話はなしを聞きいたが、氏しは独力どくりょくで資本しほんもないので、当時とうじ堀内ほりうち良平りょうへい氏しの経営けいえいする青あおバスと共同きょうどう経営けいえいすることになった。

— 鈴木すずき清秀きよひで、『はとニュース』昭和しょうわ34年ねん1月がつ1日にち号ごう

渡辺わたなべ滋しげるは、広島ひろしま県けん出身しゅっしんで専修大学せんしゅうだいがくで交通こうつう学がくを専門せんもんとした教授きょうじゅであったこと、東京瓦斯とうきょうがす電気でんき工業こうぎょうの虎ノ門とらのもん営業えいぎょう所しょの所長しょちょうの経歴けいれきがあったことが伝つたえられている。おそらく渡辺わたなべ滋しげるは、この頃ころにヨーロッパの遊覧ゆうらんバス事業じぎょうを知しり、東京とうきょうでの実現じつげんを画策かくさくしたものと想像そうぞうされる。

1924年ねん（大正たいしょう13年ねん）7月がつ22日にち、渡辺わたなべ滋しげるが「東京とうきょう周遊しゅうゆう自動車じどうしゃ」の名称めいしょうで東京とうきょう市内しないの遊覧ゆうらんバス営業えいぎょうの許可きょかを警視庁けいしちょうに願ねがい出でた。警視庁けいしちょうは、東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃとの共同きょうどう経営けいえいを条件じょうけんとして約やく1年ねん後ごの1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）6月30日にちに許可きょかが降おりた。これを受うけて、渡辺わたなべ滋しげるは東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃに支援しえんを求もとめ、東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃ側がわも協力きょうりょく体制たいせいを取とることに同意どういした。

1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）11月26日にち、社名しゃめいを「東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ」に改名かいめいした。これは東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃの協力きょうりょくを受うける条件じょうけんであったと推察すいさつされる。また東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃは新しん会社かいしゃに30万まん円えんを出資しゅっしした。

運行うんこう開始かいし

東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃの新聞しんぶん広告こうこく（朝日新聞あさひしんぶん1925年ねん12月15日にち朝刊ちょうかん）

東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃによる東京とうきょう市内しないの遊覧ゆうらんバスの営業えいぎょうが始はじまったのは、1925年ねん（大正たいしょう14年ねん）12月15日にちからである。毎日まいにち運行うんこう。上野うえの営業えいぎょう所しょに午前ごぜん9時じ、または新橋しんばし営業えいぎょう所しょに午前ごぜん10時じに乗車じょうしゃする。宮城みやぎ（皇居こうきょ）、日比谷公園ひびやこうえん、芝公園しばこうえん、愛宕山あたごやま、泉岳寺せんがくじ、明治めいじ神宮じんぐう、東宮御所とうぐうごしょ、東京とうきょう招魂しょうこん社しゃ、上野公園うえのこうえん、浅草あさくさ観音かんのん、被服ひふく廠しょう跡あと、銀座ぎんざ通どおりなどを8時じ間あいだかけて回まわるコースであった。

出発しゅっぱつから一巡いちじゅんして営業えいぎょう所しょに戻もどるまで約やく8時じ間あいだ。そのうち乗車じょうしゃ時間じかんが約やく3時じ間あいだで下車げしゃして見学けんがくする時間じかんが約やく4時じ間あいだ半はん、残のこり30分ふんが昼食ちゅうしょく休憩きゅうけいであった。昼食ちゅうしょく休憩きゅうけいは、明治めいじ神宮前じんぐうまえで行おこない、ここに休憩きゅうけい所しょと食堂しょくどうが用意よういされていた。休憩きゅうけい所しょにはお茶ちゃの用意よういがあり、また食堂しょくどうには定食ていしょくが50銭ぜにで用意よういされていた。

乗車じょうしゃ料りょうは開業かいぎょう当初とうしょが大人おとな3円えん、12歳さい以下いか2円えんであった。翌年よくねんには大人おとな3円えん50銭せん、12歳さい以下いか2円えん50銭ぜにとなる。貸切かしきり運行うんこうは20人にん乗のり1台だいが60円えん。

遊覧ゆうらん運行うんこうには通常つうじょう、案内あんない人じんは2人ふたりがつく。また貸切かしきり営業えいぎょうも行おこなっており、この場合ばあい、発車はっしゃ時間じかんは随時ずいじ。貸切かしきりで乗客じょうきゃく数すうが多おおい場合ばあいは案内あんない人じんの数かずを増ふやして対応たいおうする場合ばあいもあった。

反対はんたい運動うんどう

定期ていき遊覧ゆうらん乗合のりあいバスの出現しゅつげんに、人力車じんりきしゃの車夫しゃふ組合くみあいや旅館りょかんの経営けいえい者しゃらが強つよく反発はんぱつしたと伝つたわっている。人力車じんりきしゃは遊覧ゆうらん乗合のりあいバスの直接ちょくせつ競合きょうごうして客きゃくが減へることを理由りゆうに反発はんぱつした。また旅館りょかん業者ぎょうしゃはそれまで東京とうきょう市内しない見物けんぶつに3泊はくの日程にっていが通常つうじょうだったものが、遊覧ゆうらん自動車じどうしゃができると1泊はくで帰かえってしまうと懸念けねんを示しめした。

旅館りょかん側がわは小型こがたタクシーを集あつめて類似るいじの遊覧ゆうらんツアーを行おこなうようなことも発生はっせいした。最終さいしゅう的てきには旅館りょかんや人力車じんりきしゃの車夫しゃふが遊覧ゆうらん客きゃくを案内あんないした場合ばあいは紹介しょうかい手数料てすうりょうを払はらうことで落着らくちゃくした。

定期ていき観光かんこう事業じぎょうの移譲いじょう

1926年ねん（大正たいしょう15年ねん）6月がつ、東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃの東京とうきょう市内しない観光かんこうを目的もくてきとする一般いっぱん乗合のりあいの定期ていき路線ろせんが、東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃに譲渡ゆずりわたされた。これは、東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃの経営けいえい基盤きばんが脆弱ぜいじゃくであったため、定期ていき運行うんこうが確実かくじつに実行じっこうできるよう東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃに協力きょうりょくを求もとめたのではないかと推測すいそくされる。

その後ごも、東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃと共同きょうどうで定期ていき遊覧ゆうらんバスを営業えいぎょうした。1936年ねん（昭和しょうわ11年ねん）の状況じょうきょうは、16人にん乗のり乗合のりあい自動車じどうしゃを5台だい、25人にん乗のり乗合のりあい自動車じどうしゃを1台だいを保有ほゆうしていた。また運転うんてん手しゅ3人にん、案内あんない人じん3人にんが所属しょぞくしていた。

戦時せんじ統合とうごうからはとバスへ

1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）、親会社おやがいしゃの東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃが東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どうの傘下さんかに入はいった。これにより社名しゃめいを「東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ」から「大だい東京とうきょう遊覧ゆうらん自動車じどうしゃ」に変更へんこう、社長しゃちょうに東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どうの創業そうぎょう者しゃでもあった、早川はやかわ徳次とくじが就任しゅうにんした。

遊覧ゆうらんバス事業じぎょうは、1940年ねん（昭和しょうわ15年ねん）10月がつ、戦時せんじ体制たいせい下かの交通こうつう事業じぎょう整理せいりの名目めいもくで営業えいぎょう休止きゅうしとなる。大だい東京とうきょう遊覧ゆうらん自動車じどうしゃは1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）12月1日にち東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どうに合併がっぺいされ、さらに1942年ねん（昭和しょうわ17年ねん）2月がつ1日にち東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どうのバス事業じぎょうが東京とうきょう市しに買収ばいしゅうされた。このため太平洋戦争たいへいようせんそう後ご、遊覧ゆうらんバス事業じぎょうの営業えいぎょう権けんは東京とうきょう都とが保有ほゆうしていた。元もと東京とうきょう地下鉄ちかてつ道どうの社員しゃいんであった山本やまもと龍男たつおが東京とうきょう都とに対たいして払はらい下さげを求もとめる運動うんどうを開始かいしした。山本やまもと龍男たつおは日本にっぽん観光かんこうを設立せつりつし、実績じっせき作づくりのため進駐軍しんちゅうぐん向むけの貸切かしきりバスの営業えいぎょうを開始かいしした。

1948年ねん（昭和しょうわ23年ねん）4月がつ、都議会とぎかいで東京とうきょう都とから代表だいひょう者しゃを送おくり運営うんえいするという付帯ふたい条件じょうけん付つきで、遊覧ゆうらんバス事業じぎょうの営業えいぎょう権けんが日本にっぽん観光かんこうに与あたえられることが決定けっていした。8月、帝都ていと高速度こうそくど交通こうつう営団えいだん、日本交通公社にほんこうつうこうしゃ、鉄道弘済会てつどうこうさいかい、東京とうきょう都となどの出資しゅっしを得えて、新しん日本にっぽん観光かんこうとして再さい出発しゅっぱつ。1963年ねん（昭和しょうわ38年ねん）9月がつ1日にち、新しん日本にっぽん観光かんこうは、はとバスと改名かいめいした。

参考さんこう文献ぶんけん

雑誌ざっし

• 「東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃの生贄いけにえ」『実業じつぎょう之の世界せかい』第だい23巻かん第だい4号ごう、実業じつぎょう之の世界せかい社しゃ、1926年ねん4月がつ1日にち、60-61頁ぺーじ、NAID 40000232409。 
• 佐久間さくま三郞さぶろう、都と河かわ辰夫たつお「春はるの都會とかい情調じょうちょう　東京とうきょう遊覽ゆうらん自動車じどうしゃの乘じょう心地ごこち」『婦女ふじょ界かい』第だい33巻かん第だい5号ごう、婦女ふじょ界かい出版しゅっぱん社しゃ、1926-051、72-76頁ぺーじ、NAID 40000232409。 

書籍しょせき

• 東京とうきょう市し電気でんき局きょく 編へん『東京とうきょう市し都市とし交通こうつう統計とうけい資料しりょう』 昭和しょうわ10年度ねんど、東京とうきょう市し電気でんき局きょく、1937年ねん。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:46065835。 
• 東京とうきょう市し電気でんき局きょく 編へん『東京とうきょう市し都市とし交通こうつう統計とうけい資料しりょう』 昭和しょうわ11年度ねんど、東京とうきょう市し電気でんき局きょく、1937年ねん。全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:46065835。 
• 東京とうきょう都と交通こうつう局きょく総務そうむ課か 編へん『東京とうきょう都と交通こうつう局きょく四よん十じゅう年ねん史し』東京とうきょう都と交通こうつう局きょく、1951年ねん。 NCID BN04226452。 
• バス事業じぎょう五ご十じゅう年ねん史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『バス事業じぎょう五ご十じゅう年ねん史し』日本にっぽん乗合のりあい自動車じどうしゃ協会きょうかい、1957年ねん。 NCID BN12543359。 
• 西川にしかわ由ゆかり造づくり『東京とうきょう交通こうつう史し』帝都ていと高速度こうそくど交通こうつう営団えいだん運輸うんゆ部ぶ、1960年ねん。 NCID BA58688201。 
• 富士急行ふじきゅうこう50年ねん史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『富士ふじ山麓さんろく史し』富士急行ふじきゅうこう株式会社かぶしきがいしゃ、1977年ねん。 NCID BN06494044。 
• はとバス社しゃ史し編纂へんさん委員いいん会かい 編へん『はとバス三さん十じゅう五ご年ねん史し』はとバス、1986年ねん。 NCID BN02021357。 
• 塩田しおだ道夫みちお『富士ふじを拓ひらく』堀内ほりうち良平りょうへい伝でん刊行かんこう委員いいん会かい、1994年ねん。 NCID BN11349951。 
• 小川おがわ 功いさお『企業きぎょう破綻はたんと金融きんゆう破綻はたん』九州大学きゅうしゅうだいがく出版しゅっぱん会かい、2002年ねん。ISBN 487378719X。 NCID BA56159662。 

新聞しんぶん

• “東京とうきょう見物けんぶつ八はち時じ間あいだ　御ご一いち人にん前金まえきん三さん円えん也の明日あしたから出でる乗合のりあい自動車じどうしゃ　試乗しじょう記き”. 東京とうきょう朝日新聞あさひしんぶん朝刊ちょうかん: p. 7. (1925年ねん12月14日にち) 
• “（広告こうこく）東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ”. 東京とうきょう朝日新聞あさひしんぶん朝刊ちょうかん: p. 4. (1925年ねん12月15日にち) 
• “東京とうきょう見物けんぶつの便法べんぽうは遊覧ゆうらん自動車じどうしゃが一番いちばん newspaper = 読売新聞よみうりしんぶん朝刊ちょうかん”. (1926年ねん2月がつ28日にち). p. 3 
• “（広告こうこく）東京とうきょう乗合のりあい自動車じどうしゃ株式会社かぶしきがいしゃ　東京とうきょう遊覧ゆうらん乗合のりあい自動車じどうしゃ　日赤にっせき線せんの実用じつよう自動車じどうしゃ”. 東京とうきょう朝日新聞あさひしんぶん朝刊ちょうかん: p. 7. (1926年ねん4月がつ9日にち)