歌人かじん

歌人かじん（かじん）とは、和歌わかまたは短歌たんかを詠よむ人物じんぶつのことをいう。歌詠うたよみ（うたよみ）ともいう。

解説かいせつ

現代げんだいにおいて歌人かじんというのは日常にちじょう的てきに和歌わか・短歌たんかを作つくり、何なんらかの手段しゅだんでそれを発表はっぴょうしている人ひとを指さす場合ばあいが普通ふつうである。しかし、近代きんだい以前いぜんには歌人かじんというのが歌うたを詠よむことだけを生業せいぎょうとしている人々ひとびとだったわけではない。古代こだいや中古ちゅうこ以降いこうにおいて「歌詠うたよみ」と呼よばれる人々ひとびとは、皇族こうぞくや出家しゅっけし僧侶そうりょの身分みぶんになった者ものは別べつとして、朝廷ちょうていより官位かんいを得えている官かん人じんや朝廷ちょうていや幕府ばくふなどに仕つかえる武家ぶけでありその妻つまや娘むすめたちであった。柿本人麻呂かきのもとのひとまろは「宮廷きゅうてい歌人かじん」であったなどといわれるが、俗称ぞくしょうであり「宮廷きゅうてい歌人かじん」なる官職かんしょくは無なかった。人ひと麻呂まろもその詳細しょうさいについては不明ふめいながら、朝廷ちょうていより何なんらかの官位かんいを得えていた官かん人じんであったと見みられ、紀貫之きのつらゆきについても同様どうように官位かんいを得え、普段ふだんはその職務しょくむに従したがう官かん人じんであった。つまりは当時とうじはいかに和歌わかにおいて高名こうみょうをなそうとも、職業しょくぎょうとしての「歌人かじん」というものはありえなかったのである。

古ふるくはそれら歌人かじんの中なかでも、特とくに和歌わかに優すぐれた人物じんぶつのことを歌聖かせい（かせい）と呼よんだ。それは単たんなる敬意けいいや尊称そんしょうをあらわすのみならず、歌道かどうにおいて神かみとしてあがめられる歌人かじんを指さしており、具体ぐたい的てきには『古今ここん和歌集わかしゅう』の仮名かめい序じょの記述きじゅつから柿本人麻呂かきのもとのひとまろと山部赤人やまべのあかひとを指さす。歌道かどうにおいて神かみとされるのは人ひと麻呂まろや赤あか人じんのほかに住吉すみよし明神みょうじんや衣通姫そとおりひめなどいくつかあり、それらから三みっつを撰えらんで和歌わか三さん神かみ（わかさんじん）と称しょうすることがあった。近代きんだい短歌たんかでは歌聖かせいに斎藤さいとう茂吉しげよしを挙あげることもある。

ただし『古今ここん和歌集わかしゅう』仮名かめい序じょの解釈かいしゃくでは、「歌聖かせい」は柿本人麻呂かきのもとのひとまろただ一人ひとりとする説せつもある。その場合ばあい、山部赤人やまべのあかひとは「歌仙かせん」とされる。根拠こんきょは人ひと麻呂まろの記述きじゅつ「正せい三さん位い柿本人麿かきのもとのひとまろなむ歌うたの聖ひじりなりける」に対たいし、赤あか人じんの記述きじゅつ「また山やまの辺あたり赤あか人じんといふ人ひとありけり」と記述きじゅつに切きり替かえがあることと、「なりける」と「ありけり」の解釈かいしゃくが「聖ひじりだった」と「人ひとがいた」とすることによる。しかし、その後ごに「人ひと麿まろは赤あか人じんが上うえに立たたむことかたく　赤あか人じんは人ひと麿まろが下したに立たたむことかたくなむありける」との記述きじゅつから、歌人かじんとしては同列どうれつと見み做し、赤あか人じんも歌聖かせいであるとする説せつもある。

近代きんだい以降いこうの歌人かじんの多おおくは短歌たんか結社けっしゃに所属しょぞくし、その結社けっしゃの雑誌ざっしに作品さくひんを発表はっぴょうしている。特とくに、その短歌たんか、歌論かろん、歌集かしゅう書評しょひょうに対たいして稿料こうりょう・印税いんぜいなどが発生はっせいしたり、歌うたに関かんする講演こうえん・批評ひひょう・教育きょういく・啓蒙けいもう・選歌せんか活動かつどうに対たいして報酬ほうしゅうが発生はっせいしたりすることが日常にちじょう的てきになった場合ばあい、「専門せんもん歌人かじん」という。ただし、多おおくの高名こうみょうな「専門せんもん歌人かじん」でも歌人かじんとしての活動かつどうだけで生活せいかつするのが困難こんなんであるため、「プロ歌人かじん」という呼称こしょうは使つかわれていない。「専門せんもん歌人かじん」に対たいし、もっぱら新聞しんぶんなどの投稿とうこう欄らんに作品さくひんを寄よせている歌人かじんも多おおく、その場合ばあいは「投稿とうこう歌人かじん」「新聞しんぶん歌人かじん」などという。また、インターネットのホームページやブログに作品さくひんを発表はっぴょうする「ネット歌人かじん」も現あらわれてきている。

歌人かじんたちにおける社会しゃかいを歌壇かだん（かだん）ということがある。また公的こうてきな機関きかんでは皇族こうぞくへ短歌たんかを指南しなんする宮内庁くないちょう御用ごよう掛かけという役職やくしょくが存在そんざいしており、宮中きゅうちゅう歌会うたかい始はじめで宮内庁くないちょうへ応募おうぼされてきた作品さくひんを選考せんこうする選者せんじゃも存在そんざいする。

補記ほき

六歌仙ろっかせんから百人一首ひゃくにんいっしゅに選えらばれているのは5人にん、三さん十じゅう六歌仙ろっかせんからは15人にんである。

関連かんれん項目こうもく

• 和歌わか
• 短歌たんか
• 歌人かじん一覧いちらん