江口えぐちきち

江口えぐちきち（えぐちきち、1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）11月23日にち - 1938年ねん（昭和しょうわ13年ねん）12月2日にち）は、大正たいしょう時代じだいから昭和しょうわ時代じだい前期ぜんきにかけての女流じょりゅう歌人かじん。

河井酔茗かわいすいめいと島本しまもと久恵ひさえに師事しじし、貧困ひんこんの中なかで多おおくの歌うたを詠よんだが最期さいごは自殺じさつした。「薄幸はっこうの天才てんさい歌人かじん」「女おんな啄木たくぼく」と呼よばれた。ただし作風さくふうは啄木たくぼくとは大おおきく異ことなり万葉まんよう調ちょうであった。

生涯しょうがい[編集へんしゅう]

群馬ぐんま県けん利根とね郡ぐん川場かわば村むら大字だいじ谷地やちに、1913年ねん（大正たいしょう2年ねん）11月23日にちに父ちち熊吉くまきち、母ははユワの長女ちょうじょとして生うまれる^[1]。父ちちは博徒ばくとで生活せいかつ能力のうりょくがなく、兄あに廣こう寿ことぶきは幼時ようじの脳膜炎のうまくえんの後遺症こういしょうで知的ちてき障害しょうがいがあった。母ははが飲食いんしょく店てんを切きり盛もりして三さん人にんの子こどもを育そだてた。川場かわば村むら尋常じんじょう高等こうとう小学校しょうがっこうでの学業がくぎょう成績せいせきは優秀ゆうしゅうだったが進学しんがくは諦あきらめた。

1930年ねん（昭和しょうわ5年ねん）2月がつから沼田ぬまたの郵便ゆうびん局きょくに勤つとめるが、6月3日にちに母ははが急逝きゅうせいしたため帰郷ききょうし家族かぞくの世話せわのために家業かぎょうを継つぐ^[2]。

1931年ねん（昭和しょうわ6年ねん）、小学校しょうがっこうの教師きょうしのすすめで『女性じょせい時代じだい』の社友しゃゆうとなり、双そう木き恵めぐみ、飯田いいだ章子あきこ、涼子りょうこなどの筆名ひつめいで短歌たんかを発表はっぴょう^[3]。1937年ねん、群馬ぐんま県けん歌人かじん協会きょうかいへ入会にゅうかいする。1938年ねん、女性じょせい時代じだい社しゃの例会れいかいに出席しゅっせき、群馬ぐんま県けん歌人かじん協会きょうかい刊かん『昭和しょうわ13年版ねんばん年刊ねんかん歌集かしゅう』に投句とうくする。同年どうねん12月がつ2日にち午前ごぜん2時じ頃ごろ、生活苦せいかつくにより兄あにを道連みちづれにして服毒ふくどく自殺じさつする^[4]。

辞世じせいの句くは「睡ねむ（ね）たらひて　夜よるは明あけにけり　うつそみに　聴ききをさめなる　雀すずめ鳴なき初はつむ」「大おおいなる　この寂さび（しず）けさや　天地てんちの　時刻じこく（とき）あやまたず　夜よるは明あけにけり」^[5]。

1939年ねん（昭和しょうわ14年ねん）4月がつ、河井酔茗かわいすいめいの選せんによる『武たけ尊たかしの麓ふもと』が刊行かんこうされ^[6]、同年どうねん肉筆にくひつ覆刻ふっこく本ほん『江口えぐちきち歌集かしゅう』が刊行かんこうされた^[7]。

生誕せいたん地ち・川場かわば村むら
江口えぐちきち資料しりょう室しつ（川場かわば村むら歴史れきし民俗みんぞく資料しりょう館内かんない）

作品さくひん[編集へんしゅう]

たらちねの　拙つたなき文字もじに　記しるされし　家計かけい覚さとしを　みいだしにけり

昭和しょうわ10年ねんの作さく。改造かいぞう社しゃの『新しん万葉集まんようしゅう』に唯一ゆいいつ掲載けいさいされた歌うた。

瀬せの色いろの　目めだたぬほどの　青あお濁にごり　雪ゆきしろのはや　交まじりくるらし

昭和しょうわ11年ねんの作さく。歌うたに詠よまれた薄根川うすねがわ河畔かはんに歌碑かひが建立こんりゅうされた。

生いきの世よの　現あらわし歩あゆみに　背せは向むけて　人ひとを思おもふは　かなしかりけり

昭和しょうわ11年ねんの作さく。同年どうねんから死去しきょする直前ちょくぜんまで、きちは18歳さい年上としうえの妻子さいしある男性だんせいへの思慕しぼの念ねんを歌うたにしている^[8]。

受うけつぎし　流離りゅうりの血ちかも　ふるさとへ　かへるなかれと　言げんひし餞はなむけけ

昭和しょうわ13年ねんの作さく。妹いもうとたきに宛あてた歌うた。

主おもな著書ちょしょ[編集へんしゅう]

「武たけ尊たかしの麓ふもと」
「江口えぐちきち歌集かしゅう」