海賊かいぞく放送ほうそう

海賊かいぞく放送ほうそう（かいぞくほうそう、Pirate radio）とは、正式せいしきな放送ほうそう免許めんきょを持もたず放送ほうそう（ラジオが多おおい）を行おこなうものである。

概要がいよう[編集へんしゅう]

この場合ばあいの「海賊かいぞく」の意味いみは、「海賊版かいぞくばん」と同義どうぎの「正規せいきの流通りゅうつうルートを経へない」「法律ほうりつを無視むしするもの」と考かんがえてよいが、船ふねに送信そうしん機きとアンテナを積つんで出航しゅっこうし、どこの政府せいふの規制きせいも受うけない公海こうかい上うえから放送ほうそうを行おこなう、という文字通もじどおりの形式けいしきが「海賊かいぞく放送ほうそう」と呼よばれた歴史れきし上じょう最初さいしょの事例じれいであり、また多おおく見みられる。

取とり締しまりを行おこなう側がわの当局とうきょくは、海賊かいぞく放送ほうそう局きょくの放送ほうそうに対たいしジャミングを行おこなうことがある。

なお、正規せいき免許めんきょを受うけた無線むせん局きょくが既すでに存在そんざいする帯域たいいきに、より強つよい電波でんぱで強引ごういんに割わり込こむ行為こういについては電波でんぱジャックを参照さんしょうされたい。

国際こくさい法ほう上じょうの立場たちば[編集へんしゅう]

公海こうかい上じょうからの海賊かいぞく放送ほうそうについて、海洋かいよう法ほうに関かんする国際こくさい連合れんごう条約じょうやく（国連こくれん海洋かいよう法ほう条約じょうやく）は、「すべての国くには、公海こうかいからの許可きょかを得えていない放送ほうそうの防止ぼうしに協力きょうりょくする」と定さだめており（第だい109条じょう1）、旗はた国こく以外いがいの国くにも海上かいじょう警察けいさつ権けんを行使こうしできる。

船舶せんぱくの旗はた国こく・施設しせつの登録とうろく国こく・従事じゅうじしている者ものが国民こくみんである国くに・放送ほうそうを受信じゅしんすることができる国くに・許可きょかを得えている無線むせん通信つうしんが妨害ぼうがいされる国くには、従事じゅうじしている者ものを逮捕たいほし、船舶せんぱくを拿捕だほし、放送ほうそう機器ききを押収おうしゅうし、訴追そついすることができる（第だい109条じょう3・4）。また当該とうがい国こくの軍艦ぐんかん・軍用ぐんよう航空機こうくうき、又または政府せいふの公務こうむに使用しようされている船舶せんぱく・航空機こうくうき（沿岸えんがん警備けいび隊たいの巡視じゅんし船せん）は、疑うたがうに足たりる十分じゅうぶんな根拠こんきょがあり、自国じこくに第だい109条じょうに基もとづく管轄かんかつ権けんがある場合ばあいには、対象たいしょう船舶せんぱくの旗はた国こくにかかわらず、臨検りんけんすることができる（第だい110条じょう）。故ゆえに海賊かいぞく局きょくは、どこの国くににも使用しようされていない周波数しゅうはすうを、取締とりしまり回避かいひのために使用しようする。

歴史れきし[編集へんしゅう]

かつてのヨーロッパでは、国営こくえい放送ほうそうしか放送ほうそう免許めんきょが認可にんかされない、という国家こっかが多おおかった。そのため市民しみんの中なかには不満ふまんがたまり、アメリカ式しきの音楽おんがく番組ばんぐみやアメリカで流行りゅうこうするロックやポップスなどの曲きょくを聴ききたい欲求よっきゅうが高たかまった。

1960年ねんから14年ねんの間あいだ、北海ほっかい上うえからオランダに向むけて放送ほうそうを続つづけたラジオ・ベロニカ（Radio Veronica）が最初さいしょの海賊かいぞく放送ほうそう局きょくである^{[注ちゅう 1]}。

1960年代ねんだいには、同様どうようの送信そうしん形式けいしきによる海賊かいぞく局きょくが盛さかんになり、北海ほっかいの海上かいじょうには沿岸えんがん諸国しょこくに向むけて放送ほうそうを行おこなう船舶せんぱくが多数たすう投錨とうびょうしていた。有名ゆうめいなものに、1964年ねんから1967年ねんにかけて放送ほうそうを続つづけたラジオ・ロンドン（Radio London）、1964年ねんから北海ほっかいで放送ほうそうを続つづけるラジオ・キャロライン（Radio Caroline, [1]）がある。

これらに対たいして政府せいふは取とり締しまりを行おこなったが、いたちごっこで効果こうかは上あがらなかった。結果けっか、現在げんざいでも多数たすう存在そんざいする。運営うんえい費ひを稼かせぐために広告こうこくを受うけてコマーシャルを流ながす、事実じじつ上じょうの民間みんかん放送ほうそうとなっている局きょくも多おおい。

また、フランスなどでは、海賊かいぞく局きょくを法ほう管理かんり下かに置おき、国内こくないで送信そうしんするための免許めんきょも与あたえ、合法ごうほう化かした。これらの局きょくは今いまでは定義ていぎに当あてはまらないが、昔むかしの名残なごりで今いまでも「海賊かいぞく放送ほうそう」と呼よばれることがある。イギリスでも、BBCが1967年ねんにポップミュージック専門せんもん局きょく「BBCラジオ1」を開局かいきょくする際さい、ジョン・ピールら海賊かいぞく放送ほうそう局きょくの人気にんきDJを多数たすう起用きようした。

21世紀せいきにおいてはインターネットが普及ふきゅうしたため、合法ごうほうなインターネットラジオ局きょくを開設かいせつする方ほうが遥はるかに容易よういでリスナーも集あつまりやすく、違法いほうな電波でんぱを使つかう必要ひつよう性せいは大幅おおはばに下さがっている。

世界せかいの事例じれい[編集へんしゅう]

欧州おうしゅう[編集へんしゅう]

イギリス軍ぐんが第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中なかに本土ほんど上空じょうくう防衛ぼうえいのため北海ほっかい沿岸えんがんに建設けんせつした海上かいじょう要塞ようさい群ぐん（マンセル要塞ようさい（英語えいご版ばん））は、戦後せんご放棄ほうきされ、公海こうかい上じょうにあるという条件じょうけんから、海賊かいぞく放送ほうそうの格好かっこうの拠点きょてんとして不法ふほう占拠せんきょされた。このうち、シヴァリング・サンズ（Shivering Sands / U7）はミュージシャンのスクリーミング・ロード・サッチらにより占拠せんきょされ、1960年代ねんだい半なかばの数すう年間ねんかん、海賊かいぞく放送ほうそうの拠点きょてんとなった。フォート・ラフス（Fort Roughs / U1）を占拠せんきょしたパディ・ロイ・ベーツは、のちに同地どうちで「シーランド公国こうこく」の建国けんこくを宣言せんげんした。

アイルランドの事例じれいについては、アイルランドの海賊かいぞく放送ほうそうを参照さんしょう。

崩壊ほうかい前まえのソビエト連邦れんぽうでは、テレビの海賊かいぞく放送ほうそう局きょくが存在そんざいしていた。ホームビデオがほとんど個人こじんに普及ふきゅうしていなかった（COCOMなどによる東側ひがしがわ諸国しょこくへの輸出ゆしゅつ規制きせいのため、非ひ正規せいきルートを通つうじて高額こうがくで購入こうにゅうするしかなかった）こともあり、ほとんど映像えいぞうは現存げんそんしていないが、旧きゅうソ連それん時代じだいを知しるロシアのインターネットユーザーによってしばしば話題わだいに上のぼることがあるという^[1]^[2]^[3]。彼かれらの回想かいそうによると、1970年代ねんだいから80年代ねんだい末まつまでの旧きゅうソ連それんでは国営こくえい放送ほうそう以外いがいの放送ほうそう局きょくが存在そんざいしなかったために、こうした非合法ひごうほうの海賊かいぞく放送ほうそうは国民こくみんの間あいだでも潜在せんざい需要じゅようが高たかかったという。海賊かいぞく放送ほうそう局きょくは独自どくじの放送ほうそう設備せつびを有ゆうしており、その出力しゅつりょくはソ連それん空軍くうぐん機きの空中くうちゅう無線むせん中継ちゅうけいシステムよりも強力きょうりょくであった。そのため、海賊かいぞく放送ほうそう局きょくは所在地しょざいちを知しられるリスクを抱かかえており、また共産党きょうさんとうの報告ほうこく書しょにも、防衛ぼうえい上じょうの重大じゅうだいな問題もんだいとしてしばしば取とり上あげられていたという。

日本にっぽん[編集へんしゅう]

「ミニFM」も参照さんしょう

電波でんぱ法ほう令れいに規定きていする電界でんかい強度きょうど以下いかであれば微弱びじゃく無線むせん局きょくとして免許めんきょは不要ふようであるが、一部いちぶにはこれを超過ちょうかして送信そうしんする局きょくがあり、不法ふほう無線むせん局きょくとして摘発てきはつされる。事例じれいとしては、次つぎのものがある。「局きょく名めい」は全すべて自称じしょう。

1979年ねん（昭和しょうわ54年ねん）2月がつ - 八王子はちおうじ市しの「FM西東京にしとうきょう」^{[注ちゅう 2]}
1985年ねん（昭和しょうわ60年ねん）9月がつ - 東京とうきょう都と港みなと区くの「KYFM」^[4]
2011年ねん（平成へいせい23年ねん）7月がつ - 日野ひの市しの「JOUT-FM百ひゃく草くさ」（もぐさ）^[5]^[6]^[4]^{[注ちゅう 3]}

類似るいじの放送ほうそう[編集へんしゅう]

運営うんえいにあたって、対立たいりつ国こく政府せいふや組織そしきから支援しえんを受うけて行おこなうもの、放送ほうそう団体だんたいや送信そうしん所しょの所在地しょざいちを偽装ぎそうしているものは地下ちか放送ほうそうと呼よぶ。

ある国くにの政府せいふや軍ぐんが、敵対てきたいする国くにや地域ちいきに対たいして行おこなう放送ほうそうは、その地域ちいき内ないの反はん体制たいせい派はを装よそおって政治せいじ的てき主張しゅちょうを行おこなう目的もくてきのものや（プロパガンダ#ラジオの手法しゅほうを参照さんしょう）、暗号あんごう通信つうしんなどの目的もくてきのもの（乱数らんすう放送ほうそうを参照さんしょう）があり、政治せいじ的てき混乱こんらんや対立たいりつのある地域ちいきでみられる。また、戦争せんそうにおける戦術せんじゅつの一ひとつとして、航空機こうくうきを使つかって放送ほうそうを行おこない、敵てき兵へいに投降とうこうを促うながす手法しゅほうがある（声こえの爆ばく弾だん）。