混合こんごう政体せいたい

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混合こんごうせいから転送てんそう

混合こんごう政体せいたい(こんごうせいたい、えい: mixed government)とは、君主くんしゅせい貴族きぞくせい民主みんしゅせい混合こんごうした政体せいたいのこと[1]

政体せいたい混合こんごう形態けいたいについては、プラトンアリストテレスもそれぞれ言及げんきゅうしているが、古代こだいギリシャの歴史れきしであるポリュビオスが、政体せいたい循環じゅんかんろんたいになるかたちで、共和きょうわせいローマいにしながらこの概念がいねん確立かくりつした[1]

近代きんだい権力けんりょく分立ぶんりつろんにも影響えいきょうあたえたとする見解けんかいもあるが[1]混合こんごう政体せいたいろんが「垂直すいちょくてき権力けんりょく分立ぶんりつ相互そうご牽制けんせい)」であるのにたいして、三権分立さんけんぶんりつ代表だいひょうされる近代きんだい国家こっか権力けんりょく分立ぶんりつろんは「水平すいへいてき権力けんりょく分立ぶんりつ相互そうご牽制けんせい)」なので、だいぶニュアンスがことなる。むしろ立憲りっけん君主くんしゅせい二院にいんせいほうが、混合こんごう政体せいたいろんてき抑制よくせい効果こうか意識いしきした制度せいどだとえる。

プラトン[編集へんしゅう]

プラトンは、中期ちゅうきの『国家こっか』においては、哲人てつじんおう支配しはいする「優秀ゆうしゅうしゃ支配しはいせい」を理想りそうとしていたが、後期こうきには現実げんじつてきな「次善じぜんくにせい」を模索もさくするようになり、最後さいご対話たいわへんである『法律ほうりつだい3かんにおいては、スパルタラケダイモン)の王家おうけ長老ちょうろうかい民選みんせん監督かんとくかんから混合こんごう政体せいたいを「適度てきど」なものとして、クレタくにせいとも評価ひょうかしつつ[2]他方たほうでその「適度てきど」にまることができず、民主みんしゅせいしたでの自由じゆう追及ついきゅうかたよってしまったアテナイと、君主くんしゅせいしたでの専制せんせいかたよってしまったペルシアを、失敗しっぱいれいとして言及げんきゅうしている[3]

アリストテレス[編集へんしゅう]

アリストテレスは、『政治せいじがくだい3かんにおいて、政体せいたい/くにせいを、「国民こくみん共通きょうつう公共こうきょう利益りえき」(国民こくみん全体ぜんたいを「最高さいこうぜん」へとみちびいてくこと)を目的もくてきとしたただしいくにせいとしての

と、あやまった逸脱いつだつてきこくせいとしての

  • 僭主せんしゅせい」(テュランニス) - 「独裁どくさいしゃ利益りえき」を目的もくてき
  • 寡頭せい」(オリガルキア[5]) - 「富裕ふゆうしゃ利益りえき」を目的もくてき
  • 民主みんしゅせい」(デモクラティア) - 「貧困ひんこんしゃ利益りえき」を目的もくてき

に6分類ぶんるいしている。

正常せいじょう 逸脱いつだつてき
単独たんどくしゃ支配しはい 王制おうせい 僭主せんしゅせい
(少数しょうすうしゃ支配しはい) 貴族きぞくせい 寡頭せい
(多数たすうしゃ支配しはい) 共和きょうわせい
(制限せいげん民主みんしゅせい/
立憲りっけん民主みんしゅせい)
民主みんしゅせい

つづいてアリストテレスはだい4かんで、大抵たいてい場合ばあい政体せいたい/くにせい支配しはいしゃ国民こくみんけんしゃ)の「かず」にもとづき、「少数しょうすうしゃ支配しはい」(貴族きぞくせい/寡頭せい)と「多数たすうしゃ支配しはい」(共和きょうわせい/民主みんしゅせい)の2つにおおまかに区別くべつされているが、政体せいたい/くにせい区別くべつ分類ぶんるいにおいて重要じゅうようなのは、支配しはいしゃ国民こくみんけんしゃ)の「かず」ではなく、「なに基準きじゅんとして支配しはいしゃ国民こくみんけんしゃ)が選抜せんばつ制限せいげんされているか」であることを指摘してきする。

そして「寡頭せい」と「民主みんしゅせい」の区別くべつ重要じゅうようなのは「とみ」という基準きじゅん有無うむであり、それらと「貴族きぞくせい」を区別くべつするじょう重要じゅうようなのが「とく/ぜん」という基準きじゅん(によって政体せいたい/くにせい逸脱いつだつすることが積極せっきょくてき防止ぼうしされていること)の有無うむであること、また「共和きょうわせい」(ポリテイア)は「寡頭せい」と「民主みんしゅせい」の混合こんごう相互そうご牽制けんせいによって政体せいたい/くにせいがそのどちらかの一方いっぽう両極端りょうきょくたん逸脱いつだつすることが消極しょうきょくてき防止ぼうしされているくにせいであることがべられる。

そして一般いっぱんろんとして、そうした「極端きょくたん民主みんしゅせい」「極端きょくたんな寡頭せい」という両極端りょうきょくたんはしるのを防止ぼうし政体せいたい/くにせい安定あんていさせることができる、「中間なかまそうによって支配しはいされた混合こんごう政体せいたい」こそが、「現実げんじつてき最善さいぜんくにせい」であると指摘してきしている。

ポリュビオス[編集へんしゅう]

古代こだいギリシャの歴史れきしポリュビオスは、著書ちょしょ歴史れきし』において、共和きょうわせいローマ執政しっせいかん元老げんろういんみんかいから混合こんごう政体せいたいを、くにせい安定あんていさせ、政体せいたい循環じゅんかんろんてき事態じたいおちいるのをふせいでいるとして評価ひょうかしている。ただ、ポリュビオスはあるとき貴族きぞくが、あるとき元老げんろういん実権じっけんにぎっているとしており、自身じしん表現ひょうげんまさしくローマの政体せいたいあらわしているのかどうか、確信かくしんてていないのではないかとも指摘してきされている[6]

歴史れきしてき実際じっさい[編集へんしゅう]

現実げんじつ歴史れきしにおいては、こうした混合こんごう政体せいたい形成けいせい維持いじするのは容易よういではなく、アテナイやローマでもられたように、ひとたび民衆みんしゅうみんかい)に不満ふまんしょうじ、おう/皇帝こうてい長老ちょうろうかい/元老げんろういんるい先鋭せんえいてき対立たいりつする事態じたい環境かんきょうしょうじると、民衆みんしゅうみんかい)のそくすうちから)にものわせて格好かっこうになってしまう。こうした事態じたいは、近代きんだいにおいてもフランス革命かくめいロシア革命かくめいをはじめとする市民しみん革命かくめい社会しゃかい主義しゅぎ革命かくめいとして反復はんぷくされた。

きん現代げんだい政体せいたいにおいては、おおむ民衆みんしゅうみんかい)が権力けんりょくにぎることになる(民主みんしゅせい民主みんしゅ主義しゅぎ)というてんでは共通きょうつうしているが、立憲りっけん君主くんしゅせい二院にいんせい議会ぎかいのように、混合こんごう政体せいたい意識いしきした穏健おんけん政体せいたいから、一院制いちいんせい共和きょうわせいのような比較的ひかくてき先鋭せんえい政体せいたいまで様々さまざまかれる。

またさらに、プラトンの時代じだいから指摘してきされている(『国家こっか』)ように、そして実際じっさいアテナイ(さんじゅうにん政権せいけん)やローマ(帝政ていせいローマ)などもそうだったように、国内外こくないがい混乱こんらん対立たいりつじょうきょう背景はいけいとして、民主みんしゅせい民主みんしゅ主義しゅぎまれずに(個人こじんとうによる)独裁どくさいまねいてしまったれいも、近代きんだいにおいてはフランス革命かくめいロベスピエールナポレオンきゅう社会しゃかい主義しゅぎこくソ連それん中国ちゅうごく北朝鮮きたちょうせんなど)やきゅう枢軸すうじくこくにちどくとうをはじめとしてられる。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c 混合こんごう政体せいたいとは - コトバンク/大辞林だいじりん/ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてん
  2. ^ 法律ほうりつ』691C-692B, 693E
  3. ^ 法律ほうりつ』701E
  4. ^ Πολιτεία」(Politeia、ポリテイア)というかたりは、くにせい全般ぜんぱんあらわすと同時どうじに、「共和きょうわせい」「立憲りっけん民主みんしゅせい」の通称つうしょうとしてももちいられており、「財産ざいさん政治せいじ/制限せいげん民主みんしゅせい」を意味いみする「ティモクラティア」の同義語どうぎごとしてももちいられていた。『ニコマコス倫理りんりがく』8かん1160a
  5. ^ アリストテレスは、『国家こっか』のプラトンとおなじく、この言葉ことばを「富裕ふゆうしゃによる支配しはい体制たいせい」の意味いみ使用しようしている。
  6. ^ Burckhardt, p. 91.

参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • L. A. Burckhardt (1990). “The Political Elite of the Roman Republic: Comments on Recent Discussion of the Concepts "Nobilitas and Homo Novus"”. Historia (Franz Steiner Verlag) 39 (1): 77-99. JSTOR 4436138. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]