渋川しぶかわ一流いちりゅう

澁川しぶかわ一流いちりゅう しぶかわいちりゅう
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発生はっせい国こく	日本にっぽん
発生はっせい年ねん	江戸えど時代じだい
創始そうし者しゃ	首藤しゅどう藏ぞう之の進すすむ満まん時とき
源流げんりゅう	渋川しぶかわ流りゅう、難波なんば一いち甫はじめ流りゅう、浅山あさやま流りゅう
主要しゅよう技術ぎじゅつ	柔術じゅうじゅつ、棒術ぼうじゅつ、十じゅう手術しゅじゅつ
伝承でんしょう地ち	広島ひろしま、山梨やまなし、愛知あいちなど

澁川しぶかわ一流いちりゅう（しぶかわいちりゅう）とは、 日本にっぽんの伝統でんとう武術ぶじゅつである柔術じゅうじゅつを中心ちゅうしんとし、武器ぶき術じゅつとして淺山あさやま一流いちりゅうの棒術ぼうじゅつなども併伝する流派りゅうはである。

概略がいりゃく

実技じつぎと伝書でんしょは伝つたえられているが、流ながれ祖そ首藤しゅどう蔵ぞう之の進すすむ満まん時とき（1809年ねん（文化ぶんか6年ねん）～1897年ねん（明治めいじ 30年ねん））の没後ぼつご、子孫しそんの家いえが火災かさいに遭あい江戸えど時代じだいの文献ぶんけんが残のこっていないため、流ながれ祖そや流派りゅうはの成立せいりつ過程かていについての詳細しょうさいは分わかっていない。

伝承でんしょうによれば、首藤しゅどう蔵ぞう之の進すすむ満まん時じは宮崎みやざき儀ただし右みぎ衛門えもん満義みつよしに連つれられ、広島ひろしま藩はん安芸あき郡ぐん坂さか村むらに移うつり住すみ、難波なんば一いち甫はじめ流りゅうや浅山あさやま一いち伝つて流りゅうを習ならった後のち、「柔術じゅうじゅつ澁川しぶかわ一流いちりゅう」を創始そうしした。1839年ねん（天保てんぽう10年ねん）頃ごろ、松山まつやま藩はんに仕つかえたとされるが、明治維新めいじいしん以後いごは親族しんぞくのいる広島ひろしま県けん安芸あき郡ぐん坂村さかむらにたびたび帰かえり、広島ひろしまの門弟もんていにも 武術ぶじゅつを教授きょうじゅした。澁川しぶかわ一流いちりゅうはいわゆる宗家そうけ制せいをとっておらず、自分じぶんの親族しんぞくには完全かんぜん相伝そうでん制せいをしたため、独立どくりつして師範しはんとなった方ほうが複数ふくすう人じんいたとされる。

流ながれ名めいについて

流ながれ名めいについては、主おもなものに以下いかの二に説せつがある。

一ひとつは、西日本にしにほんにおいては流儀りゅうぎ名めいに○○一流いちりゅうと名乗なのる慣習かんしゅうがあり（兵法ひょうほう二に天てん一流いちりゅう、扱心一流いちりゅうなど）、それに宮崎みやざきが広島ひろしま藩はんで習得しゅうとくした澁川しぶかわ流りゅうの名義めいぎを冠かんして「澁川しぶかわ一流いちりゅう」と命名めいめいされたとするもの、もう一ひとつは、渋川しぶかわ流りゅう、難波なんば一いち甫はじめ流りゅう、浅山あさやま一いち伝つて流りゅうを合ごうすると、渋川しぶかわ一いち甫はじめ一いち伝つて流りゅうとなり、このことから渋川しぶかわ一流いちりゅうとしたとするものである。

しかしながら、前記ぜんき2説せつのうち、西日本にしにほんの慣習かんしゅうによるとの説せつは、あくまで推測すいそくにすぎず、もう一方いっぽうの渋川しぶかわ流りゅうなど三流さんりゅうを合あわしたとの説せつも同様どうようで、現時点げんじてんで流ながれ名めいの由来ゆらいは不ふ詳しょうである。

伝つて系けい

• 首藤しゅどう藏ぞう之の進すすむ満まん時じ－

首藤しゅどう以降いこう、現存げんそんしている主おもな伝つて系けいを以下いかに記しるす。

• 宮田みやた友吉ゆうきち國こく嗣 - 車地くるまじ國松くにまつ政まさし嗣 - 畝うね重實しげざね嗣昭 - 森本もりもと邦生くにお嗣時
• 宮田みやた友吉ゆうきち國こく嗣 - 車地くるまじ國松くにまつ政まさし嗣 - 畝うね重實しげざね嗣昭 - 西にし清きよし一政かずまさ純じゅん
• 宮田みやた友吉ゆうきち國こく嗣 - 小しょう末まつ繁太郎しげたろう國時くにとき - 谷田たにだ重一しげかず嗣時 - 谷田たにだ朝雄あさお時じ信しん - 小佐野おさの淳あつし信しん常つね
• 宮田みやた友吉ゆうきち國こく嗣 - 車地くるまじ國松くにまつ政まさし嗣 - 金子かねこ定行さだゆき秀しゅう國こく -車地くるまじ善光ぜんこう成なり嗣

戦後せんご、宮田みやた友吉ゆうきちの実弟じっていである宮田みやた玉吉たまきちの流ながれを汲くむ者ものが、地元じもとで渋川しぶかわ一流いちりゅうを教授きょうじゅしていたことから、現在げんざいもその教おしえを受うけた者ものが現存げんそんする。

奉納ほうのう額がく

坂さか町まちに所在しょざいする坂さか八幡宮はちまんぐうに1891年ねん（明治めいじ24年ねん）に首藤しゅどう蔵ぞう之これ進しんの門人もんじん宮田みやた玉吉たまきちが奉納ほうのうした額がくと、1895年ねん（明治めいじ28年ねん）に河野こうの（川野かわの）幸こう八はちが奉納ほうのうした額がくが残のこっている。

このうち、前述ぜんじゅつの宮田みやた玉吉たまきちが掲かかげた奉納ほうのう額がくでは、宮田みやた家かに伝つたわる柔術じゅうじゅつの伝来でんらいの過程かていを次つぎのように記載きさいしている。

難波なんば流りゅう

宮崎みやざき儀ただし右みぎ衛門えもん満義みつよし　承うけたまわ伝つて　首藤しゅどう蔵ぞう之の進すすむ満まん時とき

渋川しぶかわ流りゅう　　

承うけたまわ伝つて　宮田みやた多四郎たしろう国時くにとき　 承うけたまわ伝つて　宮田みやた玉吉たまきち時正ときまさ　承うけたまわ伝つて　宮田みやた友吉ゆうきち国治くにはる

首藤しゅどう蔵ぞう之の進すすむ満まん時じ　

渋川しぶかわ一流いちりゅう　承うけたまわ伝つて　宮田みやた玉吉たまきち時正ときまさ

これによれば、難波なんば流りゅうと渋川しぶかわ流りゅうを学まなんだ宮崎みやざき儀ただし右みぎ衛門えもんが、宮田みやた家かの宮田みやた多四郎たしろうとその弟おとうとである首藤しゅどう蔵ぞう之これ進しんに武術ぶじゅつを伝つたえ、宮田みやた多四郎たしろうの子息しそくである宮田みやた友吉ゆうきちと宮田みやた玉吉たまきち兄弟きょうだいに武術ぶじゅつが伝つたわったと記しるした上うえで、首藤しゅどう蔵ぞう之これ進しんの門弟もんていである宮田みやた玉吉たまきちは渋川しぶかわ一流いちりゅうを教授きょうじゅしているのだと記載きさいしている。

また、同おなじく、明治めいじ期きに坂さか八幡宮はちまんぐうに奉納ほうのうされた川野かわの幸みゆき八はち正せい国こくの奉納ほうのう額がくでは、渋川しぶかわ一流元祖首藤蔵之進と記載きさいした上うえで、川野かわのの門弟もんていの氏名しめいを記載きさいしている。

系図けいず上じょうでは、川野かわの幸みゆき八はち、宮田みやた友吉ゆうきち及および宮田みやた玉吉たまきちは首藤しゅどう蔵ぞう之これ進しんの弟子でしであるが、このうち、川野かわの幸みゆき八はちや宮田みやた友吉ゆうきちは松山まつやまにいた首藤しゅどうからではなく、実際じっさいは、村むらに在住ざいじゅうしていた宮田みやた多四郎たしろうの門弟もんていであったと考かんがえられる（宮田みやた玉吉たまきちは、父ちちの宮田みやた多四郎たしろうが早はやく亡なくなったため、長ながく教おしえを受うけることができなかったことから叔父おじの首藤しゅどうから教おしえを受うけたと思おもわれる。）首藤しゅどうを元祖がんそとした理由りゆうについては、現時点げんじてん、判然はんぜんとしていないが、坂さか町まちでは首藤しゅどうが松山まつやま藩はん柔術じゅうじゅつ指南しなん役やくであったと伝つたえられており、いわば郷土きょうどの偉人いじんとされていること、川野かわのや宮田みやた友吉ゆうきちも、多四郎たしろう没ぼつ後ごも首藤しゅどうから教おしえを受うけており、終局しゅうきょく的てきには首藤しゅどうが自己じこの師匠ししょうとみなしていたからと思おもわれる。

なお、前述ぜんじゅつ宮田みやたと川野かわのの奉納ほうのう額がくに記載きさいされた門弟もんていを見みると、双方そうほうとも門弟もんていは坂町さかまち出身しゅっしん者しゃが多おおくを占しめるが、宮田みやたについては大阪おおさか府ふや奈良なら県けんなどの近畿きんき地方ちほう出身しゅっしんの門弟もんていがいることが認みとめられる。

これについては、坂町さかまち出身しゅっしん者しゃは、江戸えど期きから四国しこくの別べつ子こ銅山どうざんや河内かわち国こく・大和やまと国こくの山岳さんがく地帯ちたいへの出稼でかせぎに出でる者ものが多おおかったため、同どう地域ちいきと坂さか町民ちょうみんとつながりは深ふかく、武術ぶじゅつの修業しゅうぎょうを志こころざす者ものの中なかに宮田みやたに入門にゅうもんする者ものがいたものと思おもわれる。

流儀りゅうぎの特徴とくちょう

澁川しぶかわ一流いちりゅうの特徴とくちょうとして、形かたちがシンプルであること、形かたちが「受」の仕掛しかけ方かたによってグループ化かされていること、素手すでによる形かたちと六尺棒ろくしゃくぼうなどを用もちいる形かたちがあることが挙あげられる。技わざの体系たいけいとしては、素手すで対たい素手すでによる勝負しょうぶを主眼しゅがんとしたものではなく、懐剣かいけんや刀かたなに対たいして身みを護まもるように体系たいけい付つけられている。

形かたちは400ほどあるが、はじめに稽古けいこする履くつ形がた（受が中段ちゅうだんまたは下段げだんを突ついてくるのを制せいする形かたち）の35本ほんの形かたちがすべての形かたちの基本きほんとなっている。それぞれの形かたちのグループの多おおくには「礼式れいしき」があり、その中なかに受を制せいすることなく、押おし返かえすのみの動作どうさがある。これは澁川しぶかわ一流いちりゅう柔術じゅうじゅつの理念りねんが、人ひとと争あらそわないことにあるということを表あらわしている。

形かたちの稽古けいこのほかに、鍛錬たんれん法ほうとして棒ぼう抜ぬけや枕まくら引びきなども伝つたえられており、柔道じゅうどうの乱取らんどりに相当そうとうする意地いじ（治おさむ）稽古けいこも伝つたえられている。