民俗みんぞく文化財ぶんかざい

民俗みんぞく文化財ぶんかざい（みんぞくぶんかざい）とは、民俗みんぞく資料しりょうのうち、特とくに資料しりょう性せいが高たかく、保存ほぞん措置そちが必要ひつようだったり、あるいは、保存ほぞんのための措置そちや施策しさくが功こうを奏そうすると期待きたいされる資料しりょうを、国くにや地方ちほう公共こうきょう団体だんたいが文化ぶんか遺産いさん保護ほご制度せいどの一環いっかんとして指定していした文化財ぶんかざいである。

本ほん項こうでは主おもに日本にっぽんにおける事例じれいについて述のべる。

種類しゅるい

日本にっぽんの民俗みんぞく文化財ぶんかざいは有形ゆうけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいと無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいに大別たいべつされる。

それぞれに重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい、重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいの指定してい制度せいどがあり、指定してい制度せいどを補完ほかんするものとして登録とうろく有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい、登録とうろく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいおよび記録きろく作成さくせい等とうの措置そちを講こうずべき無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいがある。

保護ほごの仕方しかたや取とり扱あつかいには違ちがいがある。

日本にっぽんにおける民俗みんぞく文化財ぶんかざい制度せいどの整備せいび

日本にっぽんにおいて、民俗みんぞく文化財ぶんかざいが文化財ぶんかざい保護ほごの対象たいしょうとなったのは、1950年ねん（昭和しょうわ25年ねん）の文化財ぶんかざい保護ほご法ほう制定せいていにおいてであった。このとき、現在げんざいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいは「民俗みんぞく資料しりょう」として「建造けんぞう物ぶつ」や「美術びじゅつ工芸こうげい品ひん」と並ならんだ有形ゆうけい文化財ぶんかざいのひとつとされた。1954年ねん（昭和しょうわ29年ねん）の文化財ぶんかざい保護ほご法ほう改正かいせい（通称つうしょう「第だい一いち次じ改正かいせい」）において、有形ゆうけいの民俗みんぞく資料しりょうの保護ほごに関かんする制度せいどを有形ゆうけい文化財ぶんかざいの指定してい制度せいどから切きり離はなし、「重要じゅうよう民俗みんぞく資料しりょう」の指定してい制度せいどが発足ほっそくした。あわせて、無形むけいの民俗みんぞく資料しりょうについて「記録きろく作成さくせい等とうの措置そちを講こうずべき無形むけいの民俗みんぞく資料しりょう」選択せんたく制度せいどが発足ほっそくした。1975年ねん（昭和しょうわ50年ねん）の同どう法ほう改正かいせい（通称つうしょう「第だい二に次じ改正かいせい」）では、従来じゅうらいの「民俗みんぞく資料しりょう」が「民俗みんぞく文化財ぶんかざい」と改称かいしょうされて、従来じゅうらいの重要じゅうよう民俗みんぞく資料しりょうは重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいと位置いちづけられ、また、新あらたに重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいの指定してい制度せいどが設もうけられるなど、民俗みんぞく文化財ぶんかざい制度せいどが整備せいびされた。2005年ねん（平成へいせい17年ねん）の同どう法ほう改正かいせい施行しこうにおいて、重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい指定してい制度せいどを補完ほかんする登録とうろく有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい制度せいどが発足ほっそくした。さらに、2021年ねん（令れい和わ3年ねん）の同どう法ほう改正かいせいによって、重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい指定してい制度せいどを補完ほかんする登録とうろく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい制度せいどが発足ほっそくした。

現行げんこうの文化財ぶんかざい保護ほご法ほうでは、民俗みんぞく文化財ぶんかざいについては、第だい2条じょう第だい1項こう第だい3号ごうで

• 衣食住いしょくじゅう、生業せいぎょう、信仰しんこう、年中ねんじゅう行事ぎょうじ等とうに関かんする風俗ふうぞく慣習かんしゅう、民俗みんぞく芸能げいのう、民俗みんぞく技術ぎじゅつ及およびこれらに用もちいられる衣服いふく、器具きぐ、家屋かおくその他たの物件ぶっけんで我わが国民こくみんの生活せいかつの推移すいいの理解りかいのため欠かくことのできないもの

と規定きていしている。これは、1954年ねん改正かいせい時じの条文じょうぶんに「民俗みんぞく芸能げいのう」（1975年ねん改正かいせい時じ追加ついか）と「民俗みんぞく技術ぎじゅつ」（2004年ねん改正かいせい時じ追加ついか）を付つけ加くわえたものである。民俗みんぞく技術ぎじゅつとは、生活せいかつや生産せいさんのための用具ようぐ・用品ようひんなどの製作せいさく技術ぎじゅつのことである。

有形ゆうけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざい

重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい

日本にっぽんでは、有形ゆうけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいのうち特とくに重要じゅうようなものを重要じゅうよう有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいとして国くにが指定していし、保護ほご措置そちを講こうじている。2023年ねん3月がつ22日にち現在げんざい、次つぎの226件けんが指定していされている。

• 衣食住いしょくじゅうに用もちいられるもの （29件けん）
• 生産せいさん、生業せいぎょうに用もちいられるもの （99件けん）
• 交通こうつう・運輸うんゆ・通信つうしんに用もちいられるもの （19件けん）
• 交易こうえきに用もちいられるもの （1件けん）
• 社会しゃかい生活せいかつに用もちいられるもの （1件けん）
• 信仰しんこうに用もちいられるもの （41件けん）
• 民俗みんぞく知識ちしきに関かんして用もちいられるもの （7件けん）
• 民俗みんぞく芸能げいのう、娯楽ごらく、遊戯ゆうぎに用もちいられるもの （23件けん）
• 人ひとの一生いっしょうに関かんして用もちいられるもの （3件けん）
• 年中ねんじゅう行事ぎょうじに用もちいられるもの（3件けん）

登録とうろく有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい

2004年ねんの文化財ぶんかざい保護ほご法ほう改正かいせいによって民俗みんぞく文化財ぶんかざいの登録とうろく制度せいどが発足ほっそくし、国くにまたは地方ちほう公共こうきょう団体だんたいの指定していを受うけていない有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいのうち、保存ほぞんと活用かつようが特とくに必要ひつようなものを登録とうろく有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいとして登録とうろくすることになった。2023年ねん3月がつ22日にち現在げんざい、次つぎの49件けんが登録とうろくされている。

• 衣食住いしょくじゅうに用もちいられるもの （4件けん）
• 生産せいさん、生業せいぎょうに用もちいられるもの （37件けん）
• 交易こうえきに用もちいられるもの （1件けん）
• 信仰しんこうに用もちいられるもの （1件けん）
• 民俗みんぞく芸能げいのう、娯楽ごらく、遊戯ゆうぎに用もちいられるもの（5件けん）
• 人ひとの一生いっしょうに関かんして用もちいられるもの（1件けん）

地方ちほう公共こうきょう団体だんたい指定してい等とう

都道府県とどうふけんや市区しく町村ちょうそんも、同様どうように「有形ゆうけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の指定してい、登録とうろくをおこなっている。

無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざい

重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい

日本にっぽんでは、無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいのうち特とくに重要じゅうようなものを重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいとして国くにが指定していし保存ほぞん措置そちを講こうじている。2022年ねん3月がつ22日にち現在げんざい、次つぎの329件けんが指定していされている。

• 風俗ふうぞく慣習かんしゅう
  • 生産せいさん・生業せいぎょう （9件けん）
  • 人生じんせい・儀礼ぎれい （6件けん）
  • 娯楽ごらく・競技きょうぎ （10件けん）
  • 社会しゃかい生活せいかつ（民俗みんぞく知識ちしき） （2件けん）
  • 年中ねんじゅう行事ぎょうじ （34件けん）
  • 祭礼さいれい（信仰しんこう） （70件けん）
• 民俗みんぞく芸能げいのう
  • 神楽かぐら （41件けん）
  • 田楽でんがく （25件けん）
  • 風流ふうりゅう （44件けん）
  • 語かたり物もの・祝福しゅくふく芸げい （5件けん）
  • 延のべ年ねん・おこない （7件けん）
  • 渡来とらい芸げい・舞台ぶたい芸げい （40件けん）
  • その他た （17件けん）
• 民俗みんぞく技術ぎじゅつ
  • 生産せいさん・生業せいぎょう （17件けん）
  • 衣食住いしょくじゅう （2件けん）

登録とうろく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい

2021年ねんの文化財ぶんかざい保護ほご法ほう改正かいせいによって民俗みんぞく文化財ぶんかざいの登録とうろく制度せいどが拡充かくじゅうし、国くにまたは地方ちほう公共こうきょう団体だんたいの指定していを受うけていない無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいのうち、保存ほぞんと活用かつようが特とくに必要ひつようなものを登録とうろく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいとして登録とうろくすることになった。2023年ねん3月がつ22日にち現在げんざい、次つぎの4件けんが登録とうろくされている。

• 民俗みんぞく技術ぎじゅつ
  • 生産せいさん・生業せいぎょう （4件けん）

記録きろく作成さくせい等とうの措置そちを講こうずべき無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざい

重要じゅうよう無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいおよび登録とうろく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい以外いがいの無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざいのうち、特とくに必要ひつようのあるものを文化庁ぶんかちょう長官ちょうかんが「記録きろく作成さくせい等とうの措置そちを講こうずべき無形むけいの民俗みんぞく文化財ぶんかざい」（通称つうしょう：選択せんたく無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい）として選択せんたくし、地方ちほう公共こうきょう団体だんたいの行おこなう調査ちょうさ事業じぎょうや記録きろく作成さくせいの事業じぎょうに助成じょせいを行おこなっている。2023年ねん3月がつ22日にち現在げんざい、次つぎの654件けんが選択せんたくされている。

• 風俗ふうぞく慣習かんしゅう
  • 生産せいさん・生業せいぎょう （49件けん）
  • 人生じんせい・儀礼ぎれい （15件けん）
  • 娯楽ごらく・競技きょうぎ （15件けん）
  • 社会しゃかい生活せいかつ（民俗みんぞく知識ちしき）（12件けん）
  • 年中ねんじゅう行事ぎょうじ （63件けん）
  • 祭礼さいれい（信仰しんこう） （110件けん）
  • 衣食住いしょくじゅう（1件けん）
  • その他た （0件けん）
• 民俗みんぞく芸能げいのう
  • 神楽かぐら （67件けん）
  • 田楽でんがく （44件けん）
  • 風流ふうりゅう （124件けん）
  • 語かたり物もの・祝福しゅくふく芸げい （8件けん）
  • 延のべ年ねん・おこない （14件けん）
  • 渡来とらい芸げい・舞台ぶたい芸げい （81件けん）
  • その他た （38件けん）
• 民俗みんぞく技術ぎじゅつ
  • 生産せいさん・生業せいぎょう （11件けん）
  • 衣食住いしょくじゅう （1件けん）
  • その他た （0件けん）

地方ちほう公共こうきょう団体だんたい指定してい等とう

都道府県とどうふけんや市区しく町村ちょうそんも、同様どうように「無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の指定してい等とうをおこなっている。

補ほ説せつ

日本にっぽんの文化財ぶんかざい保護ほご法ほう第だい2条じょう第だい1項こう各号かくごうの規定きていによれば、文化財ぶんかざいは

• 有形ゆうけい文化財ぶんかざい
• 無形むけい文化財ぶんかざい
• 民俗みんぞく文化財ぶんかざい
• 記念きねん物ぶつ
• 伝統でんとう的てき建造けんぞう物ぶつ群ぐん
• 文化ぶんか的てき景観けいかん

に大別たいべつされる。

このうち、「無形むけい文化財ぶんかざい」と「無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の相違そういについて説明せつめいする。

無形むけい文化財ぶんかざいは、文化財ぶんかざい保護ほご法ほうによれば

• 演劇えんげき、音楽おんがく、工芸こうげい技術ぎじゅつその他たの無形むけいの文化ぶんか的てき所産しょさんで我わが国くににとつて歴史れきし上じょう又または芸術げいじゅつ上じょう価値かちの高たかいもの

と規定きていされており、具体ぐたい的てきには能楽のうがくや歌舞伎かぶき、浄瑠璃じょうるりなどの伝統でんとう芸能げいのうや陶磁器とうじき、漆器しっき製作せいさくなどの伝統でんとう工芸こうげいである。ここで文化財ぶんかざいと考かんがえられるのは無形むけいの「わざ（技術ぎじゅつ）」そのものであり、その「わざ」をもつ人ひとや団体だんたいを「保持ほじ者しゃ」として認定にんていしている。

それに対たいし、民俗みんぞく文化財ぶんかざいは前述ぜんじゅつの文化財ぶんかざい保護ほご法ほうにあるように

• 我わが国民こくみんの生活せいかつの推移すいいの理解りかいのため欠かくことのできないもの

と規定きていされており、歴史れきし資料しりょうないし史料しりょうとしての側面そくめんが重視じゅうしされる。

日本にっぽんの文化財ぶんかざい保護ほご法ほうにおいては、「無形むけい文化財ぶんかざい」は「高度こうどに洗練せんれんされた技術ぎじゅつ」「プロの技術ぎじゅつ」を指さし、その技術ぎじゅつをもつ特定とくていの個人こじんや団体だんたいが「保持ほじ者しゃ」として認定にんていされる。これに対たいし、「無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の指定してい対象たいしょうは風俗ふうぞく慣習かんしゅう、民俗みんぞく芸能げいのう、年中ねんじゅう行事ぎょうじなどの一般いっぱん庶民しょみんの生活せいかつ、慣習かんしゅう、行事ぎょうじそのものであって、特定とくていの個人こじんや団体だんたいを「保持ほじ者しゃ」として認定にんていすることはない。

それゆえ、日本にっぽんの文化財ぶんかざい保護ほご法ほうにおいては、無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざいはあくまでも「民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の範疇はんちゅうに含ふくまれるのであり、「無形むけい文化財ぶんかざい」には属ぞくさない。ただし、ユネスコの無形むけい文化ぶんか遺産いさんでは、日本にっぽんにおけるような「無形むけい文化財ぶんかざい」と「無形むけい民俗みんぞく文化財ぶんかざい」の区別くべつは設もうけていない。

参考さんこう文献ぶんけん

• 文化財ぶんかざい保護ほご法ほう研究けんきゅう会かい（編著へんちょ）『最新さいしん改正かいせい 文化財ぶんかざい保護ほご法ほう』ぎょうせい、2006年ねん5月がつ。ISBN 4-324-07873-4。 
• 文化庁ぶんかちょう内ない民俗みんぞく文化財ぶんかざい研究けんきゅう会かい（編著へんちょ）『民俗みんぞく文化財ぶんかざいの手引てびき―調査ちょうさ・収集しゅうしゅう・保存ほぞん・活用かつようのために―』第だい一いち法規ほうき、1979年ねん4月がつ。ISBN 4-474-06110-1。 

関連かんれん項目こうもく

• 文化財ぶんかざい保護ほご法ほう
• 民俗みんぞく資料しりょう
• 文化財ぶんかざい
• 無形むけい文化ぶんか遺産いさん

外部がいぶリンク

• 文化財ぶんかざい保護ほご法ほう
• 文化庁ぶんかちょうホームページ
  • 国くに指定してい文化財ぶんかざい等とうデータベース
  • 文化ぶんか遺産いさんオンライン
• 文化庁ぶんかちょう「文化財ぶんかざい指定してい等とうの件数けんすう」