町野まちの氏し

町野まちの氏し（まちのし）は姓氏せいしの一ひとつ。三善みよし氏しの末裔まつえいとされている。

鎌倉かまくら幕府ばくふ問とい注ちゅう所しょ初代しょだい執事しつじの三善みよし康信やすのぶの子孫しそんが問とい注ちゅう所しょ執事しつじや評定ひょうじょう衆しゅを務つとめていたが、町野まちの氏しの祖そとされる孫まごの三善みよし康やすし持じは宮みや騒動そうどうに連座れんざして没落ぼつらくし、その子こである政せい康やすし・宗そう康やすしの兄弟きょうだいは六ろく波は羅ら探題たんだいの評定ひょうじょう衆しゅとなった。政せい康やすしの系統けいとうは当主とうしゅの町野まちの康世やすよらが六ろく波は羅ら探題たんだいと共ともに滅亡めつぼうしたが、宗そう康やすしの系統けいとうは建たて武たけし政権せいけんの雑ざつ訴決断けつだん所しょに出仕しゅっししてその後ご室町むろまち幕府ばくふの評定ひょうじょう衆しゅとなった。ただし、永和えいわ年間ねんかんを最後さいごに理由りゆう不明ふめいのまま記録きろくから姿すがたを消けして、鎌倉かまくらから召めされた同おなじ三善みよし氏しの系統けいとうである太田おおた長ちょう康やすしがその地位ちいを占しめている。一方いっぽう、政せい康やすし流りゅうでも鎌倉かまくらにいた者ものは生いき延のびたらしく、鎌倉かまくら府ふの奉行ぶぎょう人じんとなった町野まちの浄きよし善ぜん・町野まちの康久やすひさ・町野まちの満みつる康やすしは町野まちの康世やすよの親族しんぞくとみられる（木下きのした聡さとしは浄きよし善ぜんを康世やすよの末弟ばっていもしくは末子まっしと推定すいていし、浄きよし善ぜんー康久やすひさー満まん康やすしの系譜けいふを想定そうていする）。

その後ご、足利あしかが義教よしのりの勘気かんきを受うけて評定ひょうじょう衆しゅの太田おおた康雄やすお（前述ぜんじゅつの長ちょう康やすしの子こ）が失脚しっきゃくすると、代かわりに町野まちの康久やすひさの後身こうしんとみられる町野まちの増ぞう悦えつが京都きょうとの幕府ばくふに召めし出だされて評定ひょうじょう衆しゅを務つとめ、嘉吉よしきち2年ねん（1442年ねん）に75歳さいで没ぼっしている。前述ぜんじゅつのように町野まちの康久やすひさの子こと見みられる満まん康やすしはそのまま鎌倉かまくら府ふに仕つかえてその子孫しそんとみられる町野まちの氏しが古河ふるかわ公方くぼうや小しょう弓ゆみ公方くぼうに仕つかえていたのが確認かくにんされる。町野まちの成康なりやすは足利あしかが成氏しげうじから偏へん諱いみなを与あたえられ、戦国せんごく時代じだいの町まち野義のぎ俊しゅんは後こう北条ほうじょう氏しと争あらそって没落ぼつらくした簗やな田でん氏しに代かわって一色いっしき氏久うじひさとともに足利あしかが義よし氏し・氏し姫ひめの筆頭ひっとう重臣じゅうしん格かくとなった。康久やすひさが増ぞう悦えつと同どう一人物いちじんぶつとする見解けんかいに従したがえば、増ぞう悦えつの子こである町野まちの淳あつし康やすしは満まん康やすしの弟おとうととみられ、室町むろまち幕府ばくふ管領かんりょうである斯波しば義よし淳あつしの偏へん諱いみなを得えた可能かのう性せいが高たかい。淳あつし康やすしは幕府ばくふ評定ひょうじょう衆しゅ・神宮じんぐう方かた頭あたま人じんを務つとめたが、寛ひろし正ただし2年ねん6月23日にち（1461年ねん7月がつ30日にち）に奉行ぶぎょう衆しゅの飯尾いいお之の清きよしの邸宅ていたくで行おこなわれた酒席しゅせきで之これ清きよしと口論こうろんとなって斬きられ、帰宅きたく後ごに死去しきょした。神宮じんぐう方かた頭あたま人じんは淳じゅん康やすしの殺害さつがい後ごに摂津せっつ之の親おやに任にんじられたために淳じゅん康やすしの後のちを継ついだ息子むすこの町野まちの敏さとし康やすしは応仁おうにんの乱らんをきっかけに所領しょりょうのある加賀かが国こくに下くだった。乱らんの終了しゅうりょう後ごに帰京ききょうして足利あしかが義尚よしなおに仕つかえて延徳えんとく3年ねん1月がつ24日にち（1491年ねん3月4日にち）に死去しきょした。その後ご、息子むすこの町野まちの元康もとやす、その子この町野まちの康かん定じょうが継まましいだことが知しられるが、天文てんもん15年ねん（1546年ねん）康かん定じょうが近江おうみ国こくで行おこなわれた足利あしかが義輝よしてるの元服げんぷく後ごの吉きち書しょ始はじめの硯すずり役やくを務つとめて以降いこう幕府ばくふの記録きろくからは姿すがたを消けす。木下きのした聡さとしは近江おうみ国こく六角ろっかく氏しの重臣じゅうしんである蒲生がもう氏しに仕つかえた町野まちの氏しが蒲生がもう氏し関係かんけいの記録きろくに登場とうじょうするのが元もと亀かめ年間ねんかんであることに着目ちゃくもくし、摂津せっつ氏しとの政治せいじ的てき競争きょうそうに敗やぶれた町野まちの康やすし定ていもしくはその一族いちぞくが近江おうみに留とどまって蒲生がもう氏しに仕つかえた可能かのう性せいを指摘してきしている。その説せつが正ただしければ、蒲生がもう氏し郷きょうの片腕かたうでであった町野まちの繁しげる仍や幕末ばくまつの会津あいづ藩はん家臣かしん町野まちの重安しげやすは評定ひょうじょう衆しゅ町野まちの氏しの後裔こうえいということになる。

参考さんこう文献ぶんけん

• 　木下きのした聡さとし「室町むろまち幕府ばくふ・関東かんとう足利あしかが氏しにおける町野まちの氏し」（初出しょしゅつ:佐藤さとう博信ひろのぶ 編へん『関東かんとう足利あしかが氏しと東国とうごく社会しゃかい 中世ちゅうせい東国とうごく論ろん:5』（岩田いわた書院しょいん、2012年ねん） ISBN 978-4-87294-740-3/所収しょしゅう:木下きのした聡さとし『室町むろまち幕府ばくふの外様とざま衆しゅと奉公ほうこう衆しゅ』（同どう成なり社しゃ、2018年ねん） ISBN 978-4-88621-790-5） 2018年ねん、P291-312.