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移動いどう水素すいそ

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移動いどう水素すいそ(英語えいご:Transfer hydrogenation)は無機むき化学かがくあるいは有機ゆうき金属きんぞく化学かがくにおいて2水素すいそ原子げんし分子ぶんし付加ふかする反応はんのうのうち水素すいそげんとして気体きたい水素すいそ分子ぶんし(H2)をもちいないはんおうである。有機ゆうき合成ごうせい化学かがくでは、気体きたい水素すいそ高価こうかあつかいづらいため、工業こうぎょうてきひろ利用りようされている。移動いどう水素すいそおおきなスケールで利用りようしているれいとしてテトラリンのようなドナー溶媒ようばいもちいた石炭せきたん液化えきかがある[1][2]

有機ゆうき金属きんぞく触媒しょくばい[編集へんしゅう]

有機ゆうき合成ごうせいにおいてはルテニウムロジウムなどを中心ちゅうしん金属きんぞくとし、ジアミンホスフィンはいとするなど様々さまざま水素すいそ移動いどう触媒しょくばい開発かいはつされている[3]。この代表だいひょうてきなものがジクロロ(シメン)ルテニウムダイマートシルされたジフェニルエチレンジアミン英語えいごばんである。これらの触媒しょくばいおもケトンイミンアルコールアミン還元かんげんする有機ゆうき酸化さんか還元かんげん反応はんのうもちいられる。これらの水素すいそげん典型てんけいてきにはイソプロパノールもちいられる。イソプロパノールは反応はんのうアセトン変化へんかする。移動いどう水素すいそ出発しゅっぱつ物質ぶっしつプロキラル場合ばあいたかエナンチオ選択せんたくせい進行しんこうする。

RR'C=O + Me2CHOH → RR'C*H-OH + Me2C=O (RR'C*H-OHはキラル化合かごうぶつ)

よくもちいられる触媒しょくばいは(シメン)R,R-HNCHPhCHPhNTs(Ts=SO2C6H4MeR,Rひとし中心ちゅうしん炭素たんそたいする絶対ぜったい配置はいち英語えいごばんしめす。ひとし水素すいそは2001ねん野依のより良治よしはるノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょう対象たいしょうとなった。[4]

そのほかの移動いどう水素すいそ試薬しやくとしてメールワイン・ポンドルフ・バーレー還元かんげんもちいられるアルミニウムアルコキシドるいアルミニウムイソプロポキシド)がある。しかし遷移せんい金属きんぞく触媒しょくばいくらべて活性かっせいちる。

遷移せんい金属きんぞく触媒しょくばいによって触媒しょくばいされる移動いどう水素すいそそとけん電子でんし移動いどう英語えいごばん進行しんこうしている)

金属きんぞく触媒しょくばいもちいないはんおう[編集へんしゅう]

触媒しょくばいてき水素すいそ開発かいはつされるよりもまえに、飽和ほうわ化合かごうぶつ水素すいそひろ研究けんきゅうされてきた。これらの手法しゅほうおおくは歴史れきしてきあるいは教育きょういくてきにのみ研究けんきゅうされている。よく使つかわれる水素すいそ移動いどう試薬しやくとしてジアゼン((NH)2)がある。この化合かごうぶつ酸化さんかされ非常ひじょう安定あんていN2へと変化へんかする。

移動水素化
移動いどう水素すいそ

ジイミドはヒドラジンより合成ごうせいされる。水素すいそげんとなる2つの炭化たんか水素すいそシクロヘキセンあるいは1,3-シクロヘキサジエンである。このときベンゼンアルカン生成せいせいする。芳香ほうこうぞくになることにより安定あんていされるためこの反応はんのう進行しんこうする。この反応はんのうPd触媒しょくばいとなり、100°Cおこなわれる。ほかにも以下いかのような反応はんのう報告ほうこくされている。

移動水素化
移動いどう水素すいそ

おおくの反応はんのうではプロトンげんとしてアルコールやアミンが、電子でんしげんとしてアルカリ金属きんぞく利用りようされる。このなかには金属きんぞくナトリウムでアレーン(芳香ほうこうぞく炭化たんか水素すいそ別名べつめい)を還元かんげんするバーチ還元かんげんふくまれる。またエステルブーボー・ブラン還元かんげんもこれに該当がいとうする。マグネシウムメタノールわせることでアルケンを還元かんげんすることができる。この反応はんのうアセナピン英語えいごばん合成ごうせい利用りようされる[5]

アセナピン合成におけるマグネシウムとメタノールによる還元
アセナピン合成ごうせいにおけるマグネシウムとメタノールによる還元かんげん

有機ゆうき触媒しょくばいてき移動いどう水素すいそ[編集へんしゅう]

有機ゆうき触媒しょくばいてき移動いどう水素すいそは、2004ねんにリストによりハンチュのエステルヒドリドみなもとおよびアミン触媒しょくばいとしてはたら反応はんのう報告ほうこくされているれいがある[6]ヤンによって2004年に報告された移動水素化反応

この反応はんのうαあるふぁ,βべーた-飽和ほうわ化合かごうぶつ基質きしつとするものもある。プロトンげん酸化さんかされてピリジン変化へんかし、酵素こうそNADH構造こうぞうとなる。この反応はんのう触媒しょくばいサイクルはまずアミンとアルデヒドからイミニウムイオンができ、つぎにプロトンが移動いどうしてイミニウムの結合けつごう加水かすい分解ぶんかいし、触媒しょくばい再生さいせいする。キラルなイミダゾリジノンであるマックミラン触媒しょくばい使つかうことで81% ee目的もくてき立体りったい異性いせいたいられる。

ヤンによって2004年に不斉有機触媒移動水素化Asymmetric Organocatalytic Transfer Hydrogenation Yang 2004

マクミランの研究けんきゅうグループはそれにひとし反応はんのうを2005ねん報告ほうこくしている[7]

マクミランの不斉有機触媒移動水素化

立体りったい変換へんかんこるいちれいとしてE-からだとZ-からだ両方りょうほうから(S)-からだ生成せいせいする反応はんのうがある。

この反応はんのう基質きしつケトン(より正確せいかくにはエノン)やハンチュのエステルによって微妙びみょう触媒しょくばい調整ちょうせい必要ひつようになる(エノンの場合ばあいベンジルはじめをつけ、tert-ブチルもとフランえる。ハンチュのエステルの場合ばあい、よりかさたかいtert-ブチルもと追加ついかする) [8]

タトルが2006年に報告したエノンの有機触媒移動水素化

有機ゆうき触媒しょくばいもちいた場合ばあいイミン水素すいそすることができる。ある特定とくてい反応はんのうにはリンさんから合成ごうせいされるBINOLもちいられる。基質きしつキノリン目的もくてきぶつがテトラヒドロキノリンであるはんおうは、1,4-付加ふか異性いせい、1,2-付加ふか連続れんぞくてきこるカスケード反応はんのう英語えいごばんである[9]

Transfer hydrogenation Imine Reduction Rueping 2006

この反応はんのう最初さいしょのステップはキノリンの窒素ちっそ原子げんしがリンさんによってプロトンされ、キラルなイミニウムイオン生成せいせいする。金属きんぞく触媒しょくばいでは芳香ほうこうぞく化合かごうぶつあるいはヘテロ芳香ほうこうぞく化合かごうぶつのプロトン進行しんこうしない場合ばあいおおい。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ Speight, J. G. "The Chemistry and Technology of Coal" Marcel Dekker英語えいごばん; New York, 1983; p. 226 ff. ISBN 0-8247-1915-8.
  2. ^ Muñiz, Kilian (2005). “Bifunctional Metal-Ligand Catalysis: Hydrogenations and New Reactions within the Metal-(Di)amine Scaffold13”. Angewandte Chemie International Edition 44 (41): 6622–6627. doi:10.1002/anie.200501787. PMID 16187395. 
  3. ^ T. Ikariya, K. Murata, R. Noyori "Bifunctional Transition Metal-Based Molecular Catalysts for Asymmetric Syntheses" Organic and Biomolecular Chemistry英語えいごばん, 2006, volume 4, 393-406.
  4. ^ Shimizu, H., Nagasaki, I., Matsumura, K., Sayo, N., and Saito, T. "Developments in Asymmetric Hydrogenation from an Industrial Perspective" Acc. Chem. Res. 2007, vol. 40, pp. 1385-1393. doi:10.1021/ar700101x
  5. ^ Linden, M. V. D.; Roeters, T.; Harting, R.; Stokkingreef, E.; Gelpke, A. S.; Kemperman, G. (2008). “Debottlenecking the Synthesis Route of Asenapine”. Organic Process Research & Development英語えいごばん 12 (2): 196–201. doi:10.1021/op700240c. 
  6. ^ Yang; Hechavarria Fonseca, M.; List, B. (2004). “A metal-free transfer hydrogenation: organocatalytic conjugate reduction of alpha,beta-unsaturated aldehydes”. Angewandte Chemie International Edition in English 43 (48): 6660–6662. doi:10.1002/anie.200461816. PMID 15540245. 
  7. ^ Ouellet; Tuttle, J.; MacMillan, D. (2005). “Enantioselective organocatalytic hydride reduction”. Journal of the American Chemical Society 127 (1): 32–33. doi:10.1021/ja043834g. PMID 15631434. 
  8. ^ Tuttle; Ouellet, S.; MacMillan, D. (2006). “Organocatalytic transfer hydrogenation of cyclic enones”. Journal of the American Chemical Society 128 (39): 12662–12663. doi:10.1021/ja0653066. PMID 17002356. 
  9. ^ Rueping; Antonchick, A.; Theissmann, T. (2006). “A highly enantioselective Brønsted acid catalyzed cascade reaction: organocatalytic transfer hydrogenation of quinolines and their application in the synthesis of alkaloids”. Angewandte Chemie International Edition in English 45 (22): 3683–3686. doi:10.1002/anie.200600191. PMID 16639754. 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]