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有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい(ゆうきぶんししょくばい、organocatalyst)は、金属きんぞく元素げんそふくまず、炭素たんそ水素すいそ酸素さんそ窒素ちっそ硫黄いおうなどの元素げんそからる、触媒しょくばい作用さようてい分子ぶんし化合かごうぶつのことである。たんに「有機ゆうき触媒しょくばい」とばれることもある。2000ねんデイヴィッド・マクミランによって提唱ていしょうされた。

この定義ていぎでは、たとえばアシル反応はんのうもちいるDMAPのような単純たんじゅん化合かごうぶつ有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい範疇はんちゅうはいることになるが、一般いっぱんには精密せいみつ分子ぶんしデザインによって、エナンチオ選択せんたくてき反応はんのうなど高度こうど反応はんのう制御せいぎょおこな触媒しょくばいすケースがおおい。

概要がいよう

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20世紀せいき後半こうはん急速きゅうそく発達はったつしたひとし触媒しょくばいは、そのほとんどが金属きんぞく元素げんそひとし要素ようそったはいはい結合けつごうさせたものであった。しかし2000ねんにマクミランは金属きんぞく元素げんそたないきゅうアミン誘導体ゆうどうたいによってひとしディールス・アルダー反応はんのうおこなえることをしめ[1]マクミラン触媒しょくばい)、「有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい」の概念がいねん提唱ていしょうした。それ以前いぜんにもこうした分子ぶんしはなかったわけではないが、とく同年どうねんベンジャミン・リストらがプロリンアルドール反応はんのう触媒しょくばいのう報告ほうこくした[2]ことから一挙いっきょおおきな注目ちゅうもくけることとなった。

有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばいはそれまでもちいられてきた金属きんぞく含有がんゆう触媒しょくばいくらべて一般いっぱん安価あんかである。廃棄はいきぶつ毒性どくせいひくいなど環境かんきょう負荷ふかちいさいとられるものがおおくあるが選択せんたくてき毒性どくせい反応はんのうせいがある場合ばあい廃棄はいきした場合ばあい自然しぜん分解ぶんかいせいひくいものもあり、グリーンケミストリー観点かんてんからたか有用ゆうようせい期待きたいされながら普及ふきゅうすすまない現状げんじょうがある。またみず空気くうきたいして安定あんていであるため、実験じっけん技術ぎじゅつてきめんからもおおきなメリットをゆうする。現在げんざい世界せかいてき問題もんだいとなっている、レアメタル不足ふそく高騰こうとう解決かいけつする技術ぎじゅつひとつとしても注目ちゅうもくあつめている。

有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばいのいろいろ

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プロリンおよびその誘導体ゆうどうたい

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L-プロリンの構造こうぞうしき

1970年代ねんだい初頭しょとうに、プロリン触媒しょくばいとしてひとしロビンソンたまき反応はんのうおこな手法しゅほう複数ふくすうのグループから報告ほうこくされていたが(ヘイオス-パリッシュ反応はんのう[3]、しばらくこの反応はんのう原理げんりおおきく発展はってんすることはなかった。

ヘイオス-パリッシュ反応

ところが2000ねん、リスト、バルバス、ラーナーらにより、プロリンによるアルドール反応はんのう非常ひじょう一般いっぱんせいたかいものであり、おおくの単純たんじゅんなカルボニル化合かごうぶつ分子ぶんしあいだ反応はんのうたいして適用てきよう可能かのうであることがしめされた。この反応はんのうでは、たんケトンアルデヒド触媒しょくばいりょうのプロリンをDMSOなか撹拌かくはんするというきわめて単純たんじゅん操作そうさにより、こうおさむりつこうエナンチオ選択せんたくてき目的もくてきのアルドール付加ふかたいあたえる。このことは世界せかい化学かがくしゃおおきな衝撃しょうげきあたえ、急速きゅうそくにプロリン触媒しょくばい化学かがく開花かいかすることとなった[4]

プロリン触媒しょくばいアルドール反応はんのうのメカニズムは以下いかのようであるとかんがえられている。まずプロリンとカルボニル化合かごうぶつさん触媒しょくばいによってイミニウムカチオンを生成せいせいし、エナミンへと異性いせいする。ここにもういち分子ぶんしのカルボニル化合かごうぶつ付加ふかするが、このさいプロリンのカルボキシルもととのあいだ水素すいそ結合けつごうかいした環状かんじょう遷移せんい状態じょうたい経由けいゆし、立体りったい選択せんたくてき反応はんのうすすむ。プロリンは付加ふかたいはなれ、ふたた触媒しょくばいサイクルにもどる。

このエナミンちゅうあいだたいはアルドール反応はんのう以外いがい反応はんのうにも有用ゆうようなかあいだたいとなりうる。そのアルドール反応はんのうほかにも、マンニッヒ反応はんのうマイケル反応はんのう、アルデヒドのαあるふぁくらい官能かんのうもとなど多数たすうひとし反応はんのうへと展開てんかいされ、プロリン触媒しょくばい化学かがくおおきな成果せいかげている。プロリンはきわめて安価あんか毒性どくせいもなく、反応はんのうにもむずかしい操作そうさ必要ひつようとしないため、理想りそうてき触媒しょくばいのひとつとなされている。また最近さいきんではプロリンを適当てきとう修飾しゅうしょくした誘導体ゆうどうたい触媒しょくばい反応はんのう検討けんとうされ、さらに応用おうよう範囲はんいひろがっている。

マクミラン触媒しょくばい

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きゅうアミンはαあるふぁ,βべーた-飽和ほうわカルボニル化合かごうぶつとイミニウムカチオン形成けいせいし、LUMOをげることによってディールス・アルダー反応はんのう促進そくしんする。このきゅうアミンとしてフェニルアラニン由来ゆらいのイミダゾリジノン化合かごうぶつもちい、ひとしディールス・アルダー反応はんのうおこなえるようにしたものをマクミラン触媒しょくばいぶ。有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい概念がいねん先駆さきがけとなった。

ひとしあいあいだ移動いどう触媒しょくばい

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キニーネ構造こうぞうしき

よんきゅうアンモニウムしお構造こうぞうあいあいだ移動いどう触媒しょくばいひとし要素ようそたせることにより、ひとしアルキル反応はんのうなどをおこなえる触媒しょくばい報告ほうこくされている。触媒しょくばいとしては丸岡まるおか啓二けいじらによって開発かいはつされたビナフチル骨格こっかくつもの、キニーネなどシンコナアルカロイドるいくわえたものなどがもちいられる[5]。ビナフチル骨格こっかくがあるひとしあいあいだ移動いどう触媒しょくばい丸岡まるおか触媒しょくばい登録とうろく商標しょうひょう)と命名めいめいされている。

環状かんじょうケトン誘導体ゆうどうたい

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とうから誘導ゆうどうしたケトンを触媒しょくばいとし、オキソンなどを酸化さんかざいとしてひとしエポキシおこなうもの。ジオキシラン活性かっせい中間なかまたいとなる。いちやすらが報告ほうこくした。ふみひとしエポキシばれ、近年きんねん進展しんてんいちじるしい[6]

Shi不斉エポキシ化
Shiひとしエポキシ

チオ尿素にょうそ

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チオ尿素にょうそ誘導体ゆうどうたいは、2つの窒素ちっそ結合けつごうしている水素すいそ原子げんし水素すいそ結合けつごうするさいキレートするようにカルボニル酸素さんそはさむため、よわルイスさんとして作用さようする。これを利用りようしてひとしディールス・アルダー反応はんのうなどを触媒しょくばいするチオ尿素にょうそ誘導体ゆうどうたい報告ほうこくされている。

N-ヘテロサイクリックカルベン

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チアゾリウムしお、イミダゾリウムしおなどにつよ塩基えんき作用さようさせて発生はっせいさせるN-ヘテロサイクリックカルベン誘導体ゆうどうたいによって、ひとしステッター反応はんのうひとしベンゾインちぢみあいなどがおこなえることが報告ほうこくされている[7]

その

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シンコナアルカロイドによるひとし森田もりた・ベイリス・ヒルマン反応はんのう4-ジメチルアミノピリジン誘導体ゆうどうたいによるひとしアシル反応はんのうなども研究けんきゅうされている。また最近さいきんでは分子ぶんしないにルイスさん・ルイス塩基えんき部分ぶぶんあわった分子ぶんしによって金属きんぞくもちいない触媒しょくばいてき水素すいそ反応はんのう達成たっせいされ[8]注目ちゅうもくあつめている。

ノーベル化学かがくしょう

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有機ゆうき分子ぶんし触媒しょくばい研究けんきゅうした功績こうせきとして、ベンジャミン・リストおよデイヴィッド・マクミランが2021ねんノーベル化学かがくしょう受賞じゅしょうした[9]

参考さんこう文献ぶんけん

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  1. ^ K. A. Ahrendt et al J. Am. Chem. Soc., 122, 4243 (2000)
  2. ^ B. List et al. J. Am. Chem. Soc., 122, 2395 (2000)
  3. ^ Z. G. Hajos et al. J. Org. Chem. , 39, 1615 (1974)
  4. ^ B. List Tetrahedron, 58, 5573 (2002)
  5. ^ K. Maruoka et al. Chem. Rev., 103, 3013 (2003)
  6. ^ Y. Shi 有機ゆうき合成ごうせい化学かがく協会きょうかい, 60, 342 (2002)
  7. ^ D. Enders et al. Chem. Rev., 107, 5606 (2007)
  8. ^ P. A. Chase et al. Angew. Chem. Int. Ed., 46, 8050 (2007)
  9. ^ ノーベル化学かがくしょうべいどく2ひとし有機ゆうき触媒しょくばい開発かいはつ”. 毎日新聞まいにちしんぶん. 2021ねん11月7にち閲覧えつらん

関連かんれん項目こうもく

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