くん

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くん(ぎくん)とは、訓読くんよ一種いっしゅであり、漢字かんじ固定こていしたくんではなく、文脈ぶんみゃくわせて個人こじんてきあるいはそれにちかせま領域りょういきにおいてそのかぎりのくんてることをいう。2文字もじ以上いじょう漢字かんじわせにたいするくん固定こていされひろもちいられるとじゅく字訓じくんとなる。

上代じょうだい日本語にほんご[編集へんしゅう]

日本語にほんご最古さいこ記録きろくである上代じょうだい日本語にほんご時代じだいからくんもちいられている。とくに『万葉集まんようしゅう』など上代じょうだい文献ぶんけんでの漢字かんじ使つかかたすことがおおい。「だん(はる)」「かん(ふゆ)」「きむ(あき)」「つうおんな(おとめ)」「数多すうた(あまねし)」「あいだおけ而(へだたりて)」[1]など。

中古ちゅうこ日本語にほんご近世きんせい日本語にほんご[編集へんしゅう]

明治めいじ大正たいしょう[編集へんしゅう]

明治めいじ時代じだい明治めいじもとわけ聖書せいしょでは、漢文かんぶん調ちょう文章ぶんしょうなか多数たすうくんもちいられている。れいげると以下いかのようなものがある[2]

  • 集合しゅうごうあつまれる、生命せいめいいのち美麗びれいうつくし
  • 穹蒼おおぞら定型ていけいかたち灌木
  • かみきよしきよめ、くさくさ服従ふくじゅうしたがわせ、天象てんしょうしるし
  • 天空てんくうそらじつたね創造そうぞうつくり羽翼うよくつばさ
  • 時節じせつとき元始げんしはじめ光明こうみょうひかり曠空むなし
  • 安息あんそくやすみくろくらやみこうわざ

また、明治めいじからはじまる言文げんぶん一致いっち文明開化ぶんめいかいかによる西洋せいよう文化ぶんか流入りゅうにゅうによって、欧文おうぶんおんうつした片仮名かたかなにその意味いみから漢字かんじてる形式けいしきくんえた。借用しゃくよう和語わごとしてあつかい、じゅく字訓じくんかずたましい洋才ようさいしたものともえる。たとえば大正たいしょうにおいては、

  • 接吻せっぷんキッスくりやおっとコック背景はいけいバック覇王樹はおうじゅサボテンぺーじページ骨牌こっぱいカルタ[3]
  • 憂鬱ゆううつしょうヒステリィ情調じょうちょうムウド憂鬱ゆううつメランコリイ郷愁きょうしゅうノスタルヂャア衝撃しょうげきショック異国いこく趣味しゅみエキゾチック[3]
  • 麦酒びーるビイル火酒かしゅウォッカしょう酒杯しゅはいリキュグラス(リキュールグラス)[3]
  • そとろうヴェランダ露台ろだいバルコン(バルコニー)傾斜けいしゃめんスロウプ食卓しょくたくぬのテエブルクロースとばりカーテン喞筒ポムプ[3]
  • 緑玉りょくぎょくエメラルド白金はっきんプラチナ石鹸せっけんシャボン[3]
  • 珈琲こーひーてんカフェ牛乳ぎゅうにゅうミルク[3]
  • 短艇たんていボート円弧えんことうアークとうようとうランプ裁縫さいほう機械きかい/裁縫さいほうミシン[3]
  • 西洋せいよう手拭てぬぐいタヲルきぬぼうシルクハット羽毛うもう頚巻くびまきボアようつえステッキ[3]
  • 声楽せいがくデュエット小歌こうたリイド愁夜きょくノクチュルノ[3]

などのくん使つかわれている。

くんとしてべつ漢語かんごおとてることもある。たとえば以下いかのようなものがある。

  • 大切たいせつだいじ雁来紅がんらいこうけいとう奇異きいふしぎもうたばこきんぽうげ凌雲りょううんかくじふにかい内密ないみつないしよ容量ようりょうごきりやう洋書ようしょほん[3]

現代げんだいくん[編集へんしゅう]

現代げんだいにおいても小説しょうせつ漫画まんが音楽おんがく歌詞かし、ゲームなどをはじめとしておおくのメディアでくん使用しようされている。たとえば「宇宙うちゅう」といて「そら」、「地球ちきゅう」といて「ここ」、「本気ほんき」といて「マジ」と仮名がなをつけるなど。

漫画まんがにおけるルビ[編集へんしゅう]

ヤンキー漫画まんがにおけるルビ[編集へんしゅう]

原作げんさくろう作画さくがところ十三じゅうざによる漫画まんが疾風しっぷう伝説でんせつ 特攻とっこうたく』(かぜでんせつ ぶっこみのたく)では「“事故じこ”るやつは‥‥”不運ふうん(ハードラック)”と“おどり(ダンス)”っちまったんだよ‥‥」「“B”突堤とってい(ビートツ)に‥い‥‥」「おれらー“狂乱きょうらんうららまい(キョーランレーブ)”の“おぼろわらわ幽霊ゆうれい(ロードスペクター)”だぜ!」など特殊とくしゅなルビをったセリフが多用たようされる。ライターの高畠たかはた正人まさとは、漢字かんじにルビをるという少年しょうねん慣習かんしゅうと、不良ふりょうコミュニティにおける隠語いんご専門せんもん用語ようご存在そんざい理由りゆうげている。れいとしてカタカナでデコスケといても読者どくしゃにはつうじないかもしれないが、警察けいさつ(デコスケ)と表記ひょうきすることで読者どくしゃにも説明せつめいする手法しゅほうしたのだと説明せつめいしている[4]

ギャグとしてのルビげい[編集へんしゅう]

ギャグ作品さくひんなどではまった無関係むかんけいだったり過剰かじょうだったりするルビを多用たようした作品さくひんがある。

ジェントルメン中村なかむら漫画まんがセレベスト織田おだ信長のぶなが』などのれいがある。「上等じょうとうだ!!(ハイ・クラス)」「贅沢ぜいたく(ラグジュアリー)」「小僧こぞう(ボーイ)」「東海とうかい独裁どくさいしゃ(トウカイテイオー)」「東海とうかい(ラテン)のさわぐ」「奥手おくて内気うちき(トゥーシャイシャイボーイ)」などシンプルなものから漢字かんじからはみがまった想像そうぞうできないものもある[5]

海外かいがい作品さくひん翻訳ほんやく[編集へんしゅう]

海外かいがい作品さくひん翻訳ほんやくでは独自どくじ造語ぞうごつくり、原文げんぶん沿うような仮名がなをふるといったものがある。

ウィリアム・ギブスンさく黒丸くろまるしょうわけの『ニューロマンサー』(1986)の電脳でんのう空間くうかん(サイバースペース)、没入ぼつにゅう(ジャック・イン)、なずらえけん(シム・スティム)といった独自どくじ文体ぶんたいサイバーパンク作品さくひんおおきな影響えいきょうあたえた。 [6]

グレッグ・ベアさく酒井さかい昭伸あきのぶわけの『鏖戦(おうせん)』では、ほどこせ禰倶ささえ(せねくし)、おもねよりゆきくりや(あらいず)、曼荼羅まんだら(まんでいと)、ひかり(すぺくとる)、ほどじょ(ぷろぐらむ)、のうりょう(えねるぎー)など、通常つうじょうならカタカナにされるであろう単語たんご仮名がなまで徹底てっていして漢字かんじとひらがなにすること原文げんぶんにはない雰囲気ふんいき演出えんしゅつする作品さくひんもある[7]

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

  1. ^ 井上いのうえ通泰みちやす(1928ねん)「相聞そうもん」『萬葉集まんようしゅうしんこう』(國民こくみん圖書としょ)2(4): 663、全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう 47020970
  2. ^ 明治めいじもとやく (1887ねん)
  3. ^ a b c d e f g h i j 白秋はくしゅう詩集ししゅう 北原きたはら白秋はくしゅう 1920ねん初版しょはん 1924ねんだい21はん
  4. ^ 「“不運ふうん(ハードラック)”と“おどり(ダンス)”っちまった」の起源きげん系譜けいふ――『特攻とっこうたく』は“文学ぶんがくてき”!? ヤンキーマンガ「ルビ」の“美学びがく”. サイゾー. 2020ねん1がつ13にち閲覧えつらん
  5. ^ 『セレベスト織田おだ信長のぶなが』がちょう面白おもしろいのにひとにオススメしづらいけん【WEBマンガそう選挙せんきょだい4”. ほんのひきだし. 2020ねん1がつ13にち閲覧えつらん
  6. ^ 『ニューロマンサー』(早川書房はやかわしょぼう)”. 大森おおもりのぞむ. allreviews. 2020ねん1がつ13にち閲覧えつらん
  7. ^ 大森おおもりのぞむ新編しんぺん SF翻訳ほんやく講座こうざ河出かわで書房しょぼう、2012ねんISBN 978-4-309-41171-2 

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]