鉢木はちのき

鉢木はちのきの一いち場面ばめん（『能楽のうがく図絵ずえ』、国立こくりつ国会図書館こっかいとしょかんデジタルコレクション）
舞台ぶたいは前半ぜんはんが上野うえの国こく、後半こうはんが鎌倉かまくらとある。

鉢木はちのきの一いち場面ばめん（東京とうきょう都立とりつ図書館としょかん蔵ぞう）
上うえの筋書すじがきに「下野しもの佐野さの」と見みえる。

雪ゆき道どうを行いく最明寺さいみょうじ時じ頼よりゆき入道にゅうどうこと北条きたじょう時じ頼よりゆき（『大だい日本にっぽん名将めいしょう鑑かん』）

鉢木はちのきを手折たおるのを時とき頼よりゆきが見みている場面ばめん。月岡つきおか芳年よしとし作さく。

鉢木はちのき（はちのき）は、能のうの一いち曲きょく。観阿弥かんあみ・世阿弥ぜあみ作さくともいわれるが不ふ詳しょう。

概要がいよう

増ぞう鏡きょうや太平たいへい記きに記しるされた、北条ほうじょう時じ頼よりゆきが執権しっけんを退しりぞいた晩年ばんねんに諸国しょこくを遊行ゆぎょうした伝説でんせつから派生はせいした筋書すじがきだが、原典げんてんにはこの話はなしの記述きじゅつはない。早はやくから人形にんぎょう浄瑠璃じょうるりや義太夫ぎだゆうに翻案ほんあんされ、元禄げんろく時代じだいには近松ちかまつ門左衛門もんざえもんが題材だいざいにして「最明寺さいみょうじ殿どの百ひゃく人にん上じょう﨟」を書かき、享とおる保ほ期きには「北条ほうじょう時じ頼よりゆき記き」が大当おおあたりをとっている。歌舞伎かぶきでは中村なかむら座ざの「女おんな鉢木はちのき三さん鱗うろこ」、江戸えど市村いちむら座ざの「鉢木はちのき大鑑たいかん」等々とうとうの演目えんもくに取とり入いれられて人気にんきを呼よんだ。また大正たいしょう期きから昭和しょうわ初期しょきにかけて使用しようされた尋常じんじょう小学しょうがく国語こくご読本とくほん・巻まき十じゅうにも「鉢はちの木き」が掲載けいさいされた。

栃木とちぎ県けんの小学校しょうがっこうでは現代げんだいでも道徳どうとく教育きょういくの題材だいざいとして用もちいられており、相手あいての立場たちばに立たった考かんがえ方かたや、親切心しんせつしん、思おもいやりの心しんを育はぐくむことをねらいとしている。

内容ないよう

ある大雪おおゆきのふる夕暮ゆうぐれ、佐野さのの里さとの外はずれにあるあばら家やに、旅たびの僧そうが現あらわれて一夜いちやの宿やどを求もとめる。住人じゅうにんの武士ぶしは、貧まずしさゆえ接待せったいも致いたされぬといったん断ことわるが、雪ゆき道どうに悩なやむ僧そうを見みかねて招まねきいれ、なけなしの粟あわ飯めしを出だし、自分じぶんは佐野さの源みなもと左衛門さえもん常世とこよといい、以前いぜんは三さん十じゅう余あまり郷きょうの所領しょりょうを持もつ身分みぶんであったが、一族いちぞくの横領おうりょうですべて奪うばわれ、このように落おちぶれたと身みの上うえを語かたる。噺はなしのうちにいろりの薪たきぎが尽つきて火ひが消きえかかったが、継つぎ足たす薪たきぎもろくに無ないのであった。常世とこよは松まつ・梅うめ・桜さくらのみごとな三さん鉢はちの盆栽ぼんさいを出だしてきて、栄さかえた昔むかしに集あつめた自慢じまんの品しなだが、今いまとなっては無用むようのもの、これを薪たきぎにして、せめてものお持じてなしに致いたしましょうと折おって火ひにくべた。そして今いまはすべてを失うしなった身みの上うえだが、あのように鎧よろいとなぎなたと馬うまだけは残のこしてあり、一旦いったん鎌倉かまくらより召集しょうしゅうがあれば、馬うまに鞭打むちうっていち早はやく鎌倉かまくらに駆かけ付つけ、命いのちがけで戦たたかうと決意けついを語かたる。

年としがあけて春はるになり、突然とつぜん鎌倉かまくらから緊急きんきゅう召集しょうしゅうの触ふれが出でた。常世とこよも古こ鎧よろいに身みをかため、錆さび薙刀なぎなたを背負せおい、痩やせ馬ばに乗のって駆かけつけるが、鎌倉かまくらにつくと、常世とこよは北条ほうじょう時じ頼よりゆきの御前ごぜんに呼よび出だされた。諸しょ将しょうの居並いならぶ中なか、破やぶれ鎧よろいで平伏ひれふした常世とこよに時とき頼よりゆきは「あの雪ゆきの夜よるの旅僧たびそうは、実じつはこの自分じぶんである。言葉ことばに偽いつわりなく、馳はせ参さんじてきたことをうれしく思おもう」と語かたりかけ、失うしなった領地りょうちを返かえした上うえ、あの晩ばんの鉢はちの木きにちなむ三さん箇所かしょの領地りょうち（加賀かが国こく梅うめ田た庄しょう、越えつ中国ちゅうごく桜さくら井い庄しょう、上野うえの国こく松まつ井田いだ庄しょうの領土りょうど）を新あらたに恩賞おんしょうとして与あたえる。常世とこよは感謝かんしゃして引ひきさがり、はればれと佐野さの荘そうへと帰かえっていった。

史跡しせき・名所めいしょ

長野ながの県けん

• 浅間山あさまやま - 作中さくちゅうの「浅間あさまの岳たけ（嶽たけ）」のこと。山麓さんろくの北佐久きたさく郡ぐん軽井沢かるいざわ町まち追分おいわけには浅間あさま山さんを神体しんたいとする「遠近えんきん宮みや」がある。
• 平尾ひらお山さん - 作中さくちゅうの「大井おおい山さん」のこと。
• 伴野ともの荘そう - 作中さくちゅうの「友ともの里さと」のこと。
• 入山にゅうざん峠とうげ - 作中さくちゅうの「離はなれ坂ざか」はこの峠とうげ付近ふきんにある登のぼり坂ざかのこと。

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  浅間山あさまやま
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  平尾ひらお山さん
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  伴野ともの城しろ

群馬ぐんま県けん

• 碓氷川うすいがわ
• 安中あんなか市し板鼻いたはな - 板鼻いたはな宿やども参照さんしょう。
• 高崎たかさき市し上佐野かみさの町まち - 作中さくちゅうの「佐野さののわたり」のこと。「わたり」という語かたりは「渡わたし船ぶね」を指さす場合ばあいもあるが、ここでは「里さと」（佐野さのの辺あたり［あた］り）を指さす。常世とこよ邸てい、常世とこよ神社じんじゃがある。
• 山本やまもと宿やど - 作中さくちゅうの「山本やまもとの里さと」のこと。
• 松井田まついだ - 作中さくちゅう、常世とこよが賜たまわったという「松枝まつえだ」のこと。現在げんざいの安中あんなか市し（旧きゅう・碓氷うすい郡ぐん松井田まついだ町まち）。松井田まついだ町まち松井田まついだも参照さんしょう。

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  碓氷川うすいがわ（磯部いそべ温泉おんせん）
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  板鼻いたはな宿やど（渓けい斎とき英えい泉いずみ画が）
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  常世とこよ神社じんじゃ

栃木とちぎ県けん

• 佐野さの市し鉢木はちのき町まち - 願成寺がんじょうじに常世とこよのものとされる墓はかがある。
• 安蘇あそ郡ぐん葛生かずろう町まち - 作中さくちゅうの「山本やまもとの里さと」のこと。現在げんざいの佐野さの市し。

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  佐野さの源みなもと左衛門さえもんの墓はか（願成寺がんじょうじ）

神奈川かながわ県けん

• 鎌倉かまくら - 若宮わかみや大路おおじ幕府ばくふも参照さんしょう。

石川いしかわ県けん

• 金沢かなざわ市し梅田うめだ町まち（旧きゅう・河北かほく郡ぐん森本もりもと村むら→森本もりもと町まち） - 作中さくちゅう、常世とこよが賜たまわったという加賀かが国こくの「梅田うめだ」のこと。『三さん州しゅう志こころざし』や『久ひさ教きょう軒のき道中どうちゅう記き』にもそうした記載きさいがある。
  • 異説いせつとして加賀かが市し南郷なんごう町まち（旧きゅう・江沼えぬま郡ぐん南郷なんごう村むら）の梅田うめだとも。

富山とやま県けん

• 黒部くろべ市し三日みっか市し - 作中さくちゅう、常世とこよが賜たまわったという越えつ中国ちゅうごくの「桜井さくらい」のこと。黒部くろべ市立しりつ三さん日にち市し公民館こうみんかんに石碑せきひが建たつ。

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  黒部くろべ市立しりつ桜井さくらい中学校ちゅうがっこう

参考さんこう文献ぶんけん

• 木本きもと誠二せいじ著ちょ『謡曲ようきょくのふる里さと』鹿島かしま出版しゅっぱん会かい、1968年ねん。
• 耕こう漁りょう画が『能樂のうがく圖繪ずえ 前編ぜんぺん 上じょう』松木まつき平吉へいきち、1901年ねん。
• 『「教おしえ育そだてる道徳どうとく教育きょういく」指導しどう資料しりょう　ふるさと　とちぎの心しん　栃木とちぎ県けん道徳どうとく教育きょういく郷土きょうど資料集しりょうしゅう（小学校しょうがっこう高学年こうがくねん編へん）教師きょうし用よう指導しどう書しょ』栃木とちぎ県けん教育きょういく委員いいん会かい事務じむ局きょく学校がっこう教育きょういく課か、2015年ねん。
• 『石川いしかわ県けん河北かほく郡ぐん誌し』石川いしかわ県けん河北かほく郡ぐん、1920年ねん。

関連かんれん文献ぶんけん

• 芳賀はが矢一やいち訂てい『謡曲ようきょく二に百ひゃく番ばん 四よん流りゅう対照たいしょう 下巻げかん』金港きんこう堂どう、1908年ねん - 1909年ねん、88 - 103ページ。
• 文部省もんぶしょう著ちょ『尋常じんじょう小學しょうがく國語こくご讀本とくほん 卷まき10』日本にっぽん書籍しょせき、1929年ねん、59 - 72ページ。

関連かんれん項目こうもく

• 鎌倉かまくら街道かいどう
• 佐野さののわたし駅えき
• 北条ほうじょう時宗じしゅう (NHK大河たいがドラマ) - 第だい5話わにて本ほん作さくのエピソードが映像えいぞう化かされ、常世とこよ夫妻ふさいを宇崎竜童うざきりゅうどう・柏木かしわぎ由紀子ゆきこが演えんじた。

外部がいぶリンク

• 『鉢木はちのき』 - コトバンク
• NHK for School 鉢ばちの木き物語ものがたり
• 佐野さの市し仏教ぶっきょう会かい 願成寺がんじょうじ
• 佐野さの市し さのキッズ 鉢ばちの木き物語ものがたり
• 産経さんけいニュース 佐野さの源みなもと左衛門さえもん　「いざ鎌倉かまくら」知しりたくなかった結末けつまつ　驚愕きょうがく「鉢木はちのき物語ものがたり」
• 「「尋常じんじょう小学しょうがく修身しゅうしん書しょ」に載のっていた「鉢はちの木き」の全文ぜんぶんが見みたい。（注ちゅう：埼玉県立久喜図書館さいたまけんりつくきとしょかんの調査ちょうさでは修身しゅうしん教科書きょうかしょでの採用さいようは確認かくにんできず）」 - レファレンス協同きょうどうデータベース
• 黒部くろべまちづくり協議きょうぎ会かい 黒部くろべの自然しぜんと歴史れきし 「桜井さくらいの荘そう」はいつごろから呼よばれるようになったか？（八木やぎ均ひとし）