集約しゅうやく分散ぶんさん式しき冷房れいぼう装置そうち

集約しゅうやく分散ぶんさん式しきを採用さいようした車両しゃりょう（小田急おだきゅう5000形かたち電車でんしゃ (初代しょだい)）

集約しゅうやく分散ぶんさん式しき冷房れいぼう装置そうち（しゅうやくぶんさんしきれいぼうそうち）は、鉄道てつどう車両しゃりょうの冷房れいぼう装置そうちの設置せっち方式ほうしきの一ひとつである。

概説がいせつ

鉄道てつどう車両しゃりょうの冷房れいぼう装置そうちとしては、小型こがたの冷房れいぼう装置そうちを6 - 8台だい搭載とうさいする方法ほうほう（分散ぶんさん式しき）と、大型おおがたの冷房れいぼう装置そうちを1台だいだけ搭載とうさいする方法ほうほう（集中しゅうちゅう式しき）があった。それぞれの得失とくしつは以下いかのようになる。

車体しゃたい強度きょうど : 車体しゃたいの補強ほきょうなどが大掛おおがかりになる集中しゅうちゅう式しきよりも、軽微けいびな補強ほきょうで済すむ分散ぶんさん式しきが有利ゆうり。
保守ほしゅコスト : 機器きき数すうが多おおいため保守ほしゅコストが増大ぞうだいする分散ぶんさん式しきよりも、機器ききが1台だいだけの集中しゅうちゅう式しきが有利ゆうり。
冗長じょうちょう性せい : 故障こしょうしてしまった場合ばあいはその車両しゃりょうでは冷房れいぼうが使用しよう不能ふのうになる集中しゅうちゅう式しきよりも、他たの機器ききで継続けいぞくして冷房れいぼう使用しようが可能かのうな分散ぶんさん式しきが有利ゆうり。

本ほん方式ほうしきは、1970年ねんに京阪神けいはんしん急行きゅうこう電鉄でんてつ（現げん・阪急電鉄はんきゅうでんてつ）が5200系けいを新しん製せいするに当あたって、上記じょうきで述のべた分散ぶんさん式しきと集中しゅうちゅう式しきのそれぞれの利点りてんを生いかそうと考案こうあんした方式ほうしきである（同社どうしゃの装置そうちは東芝とうしば製せい、型式けいしきRPU2202）。中型ちゅうがたの冷房れいぼう装置そうちを分散ぶんさん式しきより台数だいすうを減へらして設置せっちするため、保守ほしゅコストは分散ぶんさん式しきより低減ていげんされる。また、簡易かんいなダクトを併用へいようして冷気れいきを導みちびく構造こうぞうとなっており、万まん一いち1台だいが故障こしょうした場合ばあいでも他たの冷房れいぼう装置そうちからダクトで冷気れいきが導みちびかれるため、ある程度ていど冷房れいぼう効果こうかを維持いじできる。また、冷房れいぼう化か改造かいぞうの際さいには車体しゃたいの補強ほきょうが集中しゅうちゅう式しきに比くらべて少すくなくて済すむ。なお、試作しさくとしては1968年ねんに小田急電鉄おだきゅうでんてつが三菱電機みつびしでんき製せいの装置そうちを2400形かたちクハ2478号ごうに搭載とうさいしたものが最初さいしょである。

電源でんげんは車両しゃりょうに装備そうびされている補助ほじょ電源でんげん装置そうちから給電きゅうでんされるが、直流ちょくりゅう電車でんしゃにおいて後のち付つけで設置せっちされたJRの一部いちぶの車両しゃりょうでは、補助ほじょ電源でんげん装置そうちの容量ようりょう増大ぞうだいに伴ともなう交換こうかんと冷房れいぼう用よう電源でんげんの引びき通どおし線せんを不要ふようにする為ため、架線かせんからパンタグラフを介かいして車両しゃりょうに引ひき込こまれた電源でんげんを床下ゆかしたに設置せっちされた専用せんようの静止せいし形がたインバータで交流こうりゅうに変換へんかん･降圧こうあつして各かく車両しゃりょうに給電きゅうでんする方式ほうしきと、DC-DCコンバータで直流ちょくりゅう600Vに降圧こうあつして給電きゅうでんする方式ほうしき、車両しゃりょう屋根やね上じょうの車くるま端はし寄よりにその車両しゃりょう専用せんようのインバータを設置せっちし、架線かせんからの電源でんげんを交流こうりゅうに変換へんかん･降圧こうあつして給電きゅうでんする方式ほうしきがある^[1]^[2]。

また、比較的ひかくてき大だい容量ようりょうの装置そうちを2基きだけ搭載とうさいする方式ほうしきは集中しゅうちゅう式しきに近ちかいため、これを「準じゅん集中しゅうちゅう式しき」^[3]^[4]または「セミ集中しゅうちゅう式しき」^[5]^[6]と称しょうする事業じぎょう者しゃもある。

採用さいよう例れい

山陽電気鉄道さんようでんきてつどう・西武鉄道せいぶてつどうなどの一部いちぶの車両しゃりょうで採用さいようされたほか、小田急電鉄おだきゅうでんてつでは2000形かたちまでこの方式ほうしきを採用さいようしていた。また先述せんじゅつの阪急電鉄はんきゅうでんてつをはじめ、東武鉄道とうぶてつどう、名古屋鉄道なごやてつどう、近畿日本鉄道きんきにほんてつどう、西日本鉄道にしにっぽんてつどうなどでも1990年代ねんだいまで長期ちょうきに亘わたって採用さいようされた。東急とうきゅう8500系けい電車でんしゃ、京成けいせい3500形かたち電車でんしゃ、富士急行ふじきゅうこう5000形かたち電車でんしゃなどの装置そうちは能力のうりょく的てきには集約しゅうやく分散ぶんさん式しきであるが、ダクトがないため構造こうぞう的てきには分散ぶんさん式しきとみなされる。

1基き当あたりの能力のうりょくは当初とうしょの8,000 - 8,500kcal/hから10,500 - 15,000kcal/hが主流しゅりゅうとなり、1車両しゃりょう当あたりの搭載とうさい台数だいすうは8,000 - 10,500kcal/hのものを3 - 5台だい搭載とうさいする形かたち（前述ぜんじゅつの私鉄してつ各社かくしゃ）から、15,000 - 20,000kcal/hのものを2 - 3台だい搭載とうさいする形かたちに減少げんしょうする傾向けいこうにあった。

西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう（JR西日本にしにほん）の221系けいや223系けい（9000番台ばんだいを除のぞく）、207系けい、キハ187系けいではこの方式ほうしきが採用さいようされた。JR東日本ひがしにっぽんの特急とっきゅう形がた車両しゃりょうにもこの方式ほうしきが採用さいようされているものが多おおい。さらに、日本にっぽん国有こくゆう鉄道てつどう時代じだいに製造せいぞうされた寝台しんだい客車きゃくしゃ14系けいや24系けいに搭載とうさいされているAUえーゆー76・AUえーゆー77もこの方式ほうしきに近ちかいともいえる。

なお、関東かんとう地方ちほうで集約しゅうやく分散ぶんさん式しき冷房れいぼう装置そうちを主体しゅたいとしていた私鉄してつでは、2000年ねん頃ごろからの一般いっぱん・通勤つうきん用よう新車しんしゃについては、集中しゅうちゅう式しき冷房れいぼう装置そうちへ移行いこうする傾向けいこうにある（名古屋なごや鉄道てつどう・西日本にしにほん鉄道てつどうも同様どうよう）。一方いっぽうで、JR西日本にしにほん・JR東海とうかい・関西かんさい地方ちほうの私鉄してつでは20,000kcal/hクラスの冷房れいぼう装置そうちを2基き搭載とうさいする集約しゅうやく分散ぶんさん式しきが主流しゅりゅうとなっている（山陽電気鉄道さんようでんきてつどうも、3000系けいの一部いちぶと5000系けい・5030系けいでは集中しゅうちゅう式しきを採用さいようしたが、6000系けいで再ふたたび集約しゅうやく分散ぶんさん式しきが採用さいようされた）。

床下ゆかした搭載とうさい方式ほうしき

高速こうそく走行そうこうする新幹線しんかんせん車両しゃりょうでは、床下ゆかしたに空調くうちょう装置そうちを搭載とうさいすることは重心じゅうしん位置いちを下さげることに有利ゆうりであるため、1969年ねん（昭和しょうわ44年ねん）に新しん製せいした951形かたち試験しけん電車でんしゃで床下ゆかした分散ぶんさん式しき空調くうちょう（各車かくしゃ2台だい）が採用さいようされたが、当時とうじは実用じつよう化かには至いたらなかった。営業えいぎょう用よう車両しゃりょうでは東海旅客鉄道とうかいりょかくてつどう（JR東海とうかい）の300系けい新幹線しんかんせんで初はじめて床下ゆかした空調くうちょう方式ほうしき採用さいようされたが、これは1台だい搭載とうさいのため集中しゅうちゅう式しきに該当がいとうする。700系けい新幹線しんかんせん以降いこうやE2系けい新幹線しんかんせん・E3系けい新幹線しんかんせん以降いこう（2階かい建だてのE4系けい新幹線しんかんせんを除のぞく）では床下ゆかした分散ぶんさん式しき空調くうちょう（各車かくしゃ2台だい）が使用しようされている^[7]^[8]^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。

在来ざいらい線せん車両しゃりょうでもハイデッカー構造こうぞうの車両しゃりょうは床下ゆかしたや屋根やね上じょうに冷房れいぼう装置そうちの搭載とうさいスペースが確保かくほできないことから、一いち例れいとして小田急電鉄おだきゅうでんてつ 10000形かたちではこの方式ほうしきが採用さいようされた^[9]。

床ゆか中ちゅう搭載とうさい方式ほうしき

前述ぜんじゅつしたハイデッカー構造こうぞうの車両しゃりょうでは、台たい枠わく上面うわつら（床上ゆかうえと客室きゃくしつ床ゆかの空間くうかん）に搭載とうさいした床ゆか中ちゅう搭載とうさい方式ほうしきもある。この方式ほうしきは近畿日本鉄道きんきにほんてつどう 20000系けいや小田急電鉄おだきゅうでんてつ20000形かたちなどに採用さいようがある^[10]。

集中しゅうちゅう式しきから集約しゅうやく分散ぶんさん式しきへ

国鉄こくてつが標準ひょうじゅん採用さいようしていたAUえーゆー75形かたち集中しゅうちゅう式しき冷房れいぼう装置そうちは、装置そうち1台だいあたり750 kg程度ていどの重量じゅうりょうがあり、在来ざいらい車しゃ（非ひ冷房れいぼう車しゃ）の冷房れいぼう化かには2,000万まん - 3,000万まん円えん近ちかい改造かいぞう費用ひようと1.5 - 2.5か月げつ近ちかい工期こうきを要ようし、民営みんえい化かしたJRグループにとっては大おおきな負担ふたんとなっていた^[11]。このため、民営みんえい化か後ごは東海旅客鉄道とうかいりょかくてつどう（JR東海とうかい）を皮切かわきりに重量じゅうりょう軽減けいげんを図はかれる2台だいの分散ぶんさん式しき（集約しゅうやく分散ぶんさん式しき）とし、工期こうきと改造かいぞう費用ひようを約やく1/3に抑おさえた分散ぶんさん方式ほうしきが採用さいようされた^[11]^[12]。

東海旅客鉄道とうかいりょかくてつどう（JR東海とうかい）ではC-AUえーゆー711形がた（各かく車両しゃりょう2台だい搭載とうさい）として正式せいしきに採用さいようされ、東日本旅客鉄道ひがしにほんりょかくてつどう（JR東日本ひがしにっぽん）ではAUえーゆー712形がた（各かく車両しゃりょう2台だい搭載とうさい・三菱電機みつびしでんき製せい^[1]）として103系けい、113系けい、115系けいなどの非ひ冷房れいぼう車しゃの冷房れいぼう化かに採用さいようされた^[13]^[11]。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ 西日本旅客鉄道にしにほんりょかくてつどう（JR西日本にしにほん）が開発かいはつした500系けい新幹線しんかんせんは、室外しつがい機きと室内しつない機きが分離ぶんりされたセパレート形がたが使用しようされた。

出典しゅってん

^ ^a ^b 「車両しゃりょう用よう1,500V DA空調くうちょうシステム」 (PDF) 三菱電機みつびしでんき技わざ報ほう　1989年ねん1月がつ号ごう（1989年ねん）p.92、三菱電機みつびしでんき。
^ 三菱電機みつびしでんき『三菱電機みつびしでんき技わざ報ほう』1991年ねん6月がつ号ごう特集とくしゅう論文ろんぶん「車両しゃりょう空調くうちょう制御せいぎょシステムのエレクトロニクス化か」 (PDF) 」pp.49 - 52。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』2011年ねん4月がつ号ごう新車しんしゃガイド「JR東日本ひがしにっぽんE5系けい量産りょうさん車しゃpp.104 - 113。
^ 鉄道てつどう図書としょ刊行かんこう会かい『鉄道てつどうピクトリアル』2022年ねん6月がつ号ごうNew model「JR東海とうかい 315系けい」p.144。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1984年ねん5月がつ号ごう新車しんしゃガイド「横浜よこはま地下鉄ちかてつ2000形かたち」pp.57 - 63。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1984年ねん7月がつ号ごう新車しんしゃガイド1「大阪おおさか市し交20系けいデビュー」p.54。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1998年ねん3月がつ号ごう新車しんしゃガイド「700系けい新幹線しんかんせん電車でんしゃ」pp.56 - 57。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1995年ねん8月がつ号ごう新車しんしゃガイド「JR東日本ひがしにっぽん　E2系けい新幹線しんかんせん電車でんしゃ」pp.13 - 15。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1988年ねん2月がつ号ごう新車しんしゃガイドスペシャル1「HiSE10000形かたちデビュー」pp.20 - 21。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1991年ねん4月がつ号ごう新車しんしゃガイド2「小田急おだきゅう20000形かたち特急とっきゅう電車でんしゃ」pp.62 - 85。
^ ^a ^b ^c 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』2004年ねん4月がつ号ごう「AUえーゆー712形かたち搭載とうさい車しゃの現況げんきょう」pp.99 - 105。
^ 日立製作所ひたちせいさくしょ『日立ひたち評論ひょうろん』1988年ねん7月がつ号ごう「鉄道てつどう車しゃ両用りょうようの軽量けいりょう・薄うす形かたち・高こう効率こうりつ空調くうちょう装置そうち」 (PDF) 」。
^ 交友こうゆう社しゃ『鉄道てつどうファン』1989年ねん8月がつ号ごう特集とくしゅう「車両しゃりょう冷房れいぼう1989」p.39。