エル・ドラード

エル・ドラード（西にし：El Dorado）とは、南みなみアメリカに伝つたわる黄金おうごん郷きょう（おうごんきょう）にまつわる伝説でんせつである。転てんじて、黄金おうごん郷きょう自体じたいや理想郷りそうきょうを指さす言葉ことばとしても使用しようされる。大だい航海こうかい時代じだいのヨーロッパ、特とくにスペイン人じんの間あいだで広ひろまり、新大陸しんたいりく進出しんしゅつの動機どうきの一ひとつとなった。

概要がいよう

エル・ドラードとはスペイン語ごで「金箔きんぱくをかぶせた」、または「黄金おうごんの人ひと」を意味いみし、16世紀せいき頃ころまでアンデス地方ちほうに存在そんざいしたチブチャ文化ぶんか（スペイン語ご版ばん）（ムイスカ文化ぶんか）の儀式ぎしきが基もとになっている^[1]。

この地方ちほうでは金きむの採掘さいくつと装飾そうしょく技術ぎじゅつが発達はったつし、コロンビアの首都しゅとボゴタより北きたに57キロメートルの所ところに、山やまに囲かこまれたきれいな円形えんけいの湖みずうみがある^[2]。このグアタビータ湖こでは、その土地とちの首長しゅちょうが全身ぜんしんに金粉きんぷんを塗ぬり儀式ぎしきを行おこなう風習ふうしゅうをもっていた^{[† 1]}^[3]。

大だい航海こうかい時代じだいにスペインのコンキスタドール達いたるがこの噂うわさを聞きき、この話はなしに尾おひれがついて、アマゾンの奥地おくちには黄金おうごん郷きょうがあるという伝説でんせつとなった。また、スペイン人じんたちは当時とうじ黄金おうごん並なみに価値かちがあったシナモンの木きがエルドラードの土地とちに自生じせいしているとも信しんじていた^[4]。

エルドラード発見はっけんを目指めざした探検たんけん家かたちは、死亡しぼう、飢うえ、共食ともぐい、発狂はっきょう、破産はさんなどの状況じょうきょうに陥おちいった^[5]。

歴史れきし

1541年ねんゴンサロ・ピサロによって初はじめてエルドラード探索たんさくが行おこなわれた^[6]。彼かれは首長しゅちょうやスペイン人じんから聴取ちょうしゅした話はなしに触発しょくはつされ、200人にんの武装ぶそう兵へいからなる隊たいを率ひきいてキトから東ひがしに向むけて出発しゅっぱつした^[6]。アンデスを越こえてアマゾン盆地ぼんちに到着とうちゃくし、ジャングルを切きり開ひらいていったところシナモンの木きを発見はっけんしたが伝説でんせつとは程遠ほどとおい量りょうだった^[6]。ピサロは森もりの中なかで出会であった先住民せんじゅうみんがエルドラードの情報じょうほうを持もっていなかったので拷問ごうもんにかけたり犬いぬに食くわせたりした^[6]。

大河たいがに辿たどり着ついたピサロは隊たいを探検たんけんを続行ぞっこうする組くみと川かわを下くだっていく組くみに分わけた。ピサロの副官ふっかんフランシスコ・デ・オレリャーナは川かわを下くだるグループを率ひきいて史上しじょう初はじめてアマゾン川あまぞんがわを横断おうだんする偉業いぎょうを達成たっせいした^[6]。その事実じじつを反逆はんぎゃくと判断はんだんしたピサロはアンデスを越こえてキトに戻もどったが、間まも無なく家いえに引ひきこもってしまった^[6]。

1545年ねんにはオレリャーナが全ぜん財産ざいさんを使つかって探検たんけん隊たいを組織そしきしエルドラード発見はっけんに挑戦ちょうせんした^[7]。スペイン当局とうきょくはオレリャーナ隊たいに航海こうかいの許可きょかを与あたえ無なかったが、出港しゅっこうを強行きょうこうしてアマゾン川あまぞんがわ河口かこうに辿たどり着ついた^[7]。隊たいは川かわを進すすみ続つづけたが、病気びょうきや飢うえ、先住民せんじゅうみんの攻撃こうげきなどに苦くるしめられ、オレリャーナも熱病ねつびょうに罹かかったことから退却たいきゃくを決定けっていしたが、オレリャーナは熱病ねつびょうに侵おかされて命いのちを落おとした^[7]。

修道しゅうどう士しのガスパール・デ・カルバハル（英語えいご版ばん）は隊たいを率ひきいてエルドラード発見はっけんに赴おもむいたが、ジャングルには食たべ物ものがなく革かわやベルトを香こう草そうで調理ちょうりして飢うえを凌しのいだ^[8]。最終さいしゅう的てきに隊たいは病やめ、飢うえ、先住民せんじゅうみんの攻撃こうげきに晒さらされて4000人にんの死者ししゃを出だした^[8]。

1561年ねんロペ・デ・アギーレ（英語えいご版ばん）は探検たんけんを続つづけた結果けっか「報告ほうこくは誤あやまりだからだ。あの川かわには絶望ぜつぼうしかない」という言葉ことばを残のこした^[8]。

エル・ドラード伝説でんせつの噂うわさはドイツにまでおよび、噂うわさから端はしを発はっした推測すいそくから、1500 年代ねんだい後半こうはんにはパリメ湖みずうみまたはパリマ湖このほとりにあるマノアと呼よばれる都市としがエル・ドラードと解釈かいしゃくされた地図ちずが作成さくせいされ、数々かずかずの探検たんけん隊たいが黄金おうごんを求もとめて南米なんべい大陸たいりくへと渡わたった。

アウクスブルクの豪商ごうしょうヴェルザー家かはアンブローズ・オルフィンジャー（英語えいご版ばん）なる人物じんぶつを南米なんべいに送おくり込こんだ。彼かれはコロンビアのマグダレナ河かわを一いち年間ねんかんに渡わたって探索たんさくしたがエルドラードを発見はっけんすることはできず、新あらたにコロに向むかったがそこで先住民せんじゅうみんに殺害さつがいされてしまった。ドイツ人じんのゲオルク・フォン・シュパイヤー（英語えいご版ばん）は黄金おうごん郷きょうを発見はっけんするために南米なんべい大陸たいりくを1500マイルに渡わたって探査たんさした。1541年ねんフォン・シュパイアーの部下ぶかで騎士きしのフィリップ・フォン・フッテン（英語えいご版ばん）は黄金おうごんの像ぞうを求もとめてグアレビータ河かわに近ちかいオマグア・インディアンの町まちを襲撃しゅうげきしたが反撃はんげきを受うけて重傷じゅうしょうを負おった。フォン・フッテン以降いこうドイツ人じんによる黄金おうごん郷きょう探索たんさくは下火したびになった^[9]。

イギリス人じんでは1617年ねんウォルター・ローリーが探検たんけんに向むかったが、成果せいかを上あげられず、1618年ねんにジェームズ1世せいによって斬首ざんしゅ刑けいに処しょされた^[10]。

最後さいごの儀式ぎしきは16世紀せいき初頭しょとうに行おこなわれたが、この伝説でんせつはその後ごも約やく300年間ねんかん、ヨーロッパ人じんの間あいだで語かたられた。18世紀せいき後半こうはんまで世界せかい地図ちずにも描えがかれ、実在じつざいが信しんじられていた。しかし19世紀せいき初頭しょとう、アレクサンダー・フォン・フンボルトによってアンデスやアマゾンが調査ちょうさされ、地図ちず上じょうからは消けし去さられた。

1801年ねん、アレクサンダー・フォン・フンボルトもこの湖みずうみに立たち寄より、ムイスカ族ぞくとグアタビータ湖こに関かんする記録きろくを残のこしている^[11]。

湖みずうみの現在げんざい

現在げんざい、グアタビータ湖この黄金おうごん探査たんさは政府せいふにより禁止きんしされている^[12]。この湖みずうみは標高ひょうこう3100メートルという高地こうちに位置いちし、多おおくの珍めずらしい動植物どうしょくぶつを観察かんさつできる。しかし、余あまりに多おおくの人ひとがハイキングやキャンプに訪おとずれ、環境かんきょう破壊はかいが深刻しんこく化かした。そのためにクンデナマル県けんの地域ちいき自治じち団体だんたいは2002年ねんに湖みずうみ周辺しゅうへんへの立たち入いりを禁止きんしした。 3年ねん後ごの2005年ねん、状況じょうきょうの改善かいぜんに伴ともない一定いっていの条件じょうけんの下したで観光かんこう客きゃくの受うけ入いれを再開さいかいした^{[† 2]}^[13]。 2006年ねん5月がつ、地域ちいき自治じち団体だんたいの職員しょくいんが、観光かんこう道どうの補修ほしゅうをしていた時とき、地表ちひょうからわずか15センチメートル下かから素焼すやきの器うつわに入はいった黄金おうごん製品せいひんを見みつけたというニュースが報ほうじられた^[13]。

ただし、ヨーロッパ人じんが想像そうぞうしたエル・ドラードではなかったが、コロンビアには前述ぜんじゅつのチブチャ文化ぶんか以外いがいにもかつてはキンバヤ文明ぶんめい（スペイン語ご版ばん、英語えいご版ばん）、タイロナ文化ぶんか、シヌー文化ぶんかが繁栄はんえいし、またペルーにはチャビン文化ぶんかを継承けいしょうした北きた海岸かいがんのモチェ文化ぶんか、シカン王国おうこく、チムー王国おうこくに見事みごとな金きむ製品せいひんを生うみ出だした技術ぎじゅつが存在そんざいしていたことが明あきらかになっている。

脚注きゃくちゅう

[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

^ この地方ちほうにはムイスカ族ぞくが住すんでいた。その新あらたに族長ぞくちょうになった者ものが即位そくい式しきで体からだに松脂まつやにを塗ぬり金粉きんぷんをまぶし「黄金おうごんの人ひと（エルドラド）」となった。そして、族長ぞくちょうは神官しんかんと共ともに筏いかだで湖みずうみの中心ちゅうしんに進すすみ奉納ほうのう品ひんを湖みずうみの底そこに沈しずめ、その後ごで自みずからも水中すいちゅうに入はいり、浮うかび上あがってくるという儀礼ぎれいを行おこなっていた。この儀礼ぎれいの様子ようすが1636年ねんにボゴタ生うまれのスペイン人じんファン・ロドリゲス・フレイレによって記録きろくされている。
^ 少しょう人数にんずうごとに地域ちいき自治じち団体だんたいのガイドが同行どうこうするグループツアーのみとなり、出発しゅっぱつ前まえに環境かんきょう保全ほぜんの為ための説明せつめいが行おこなわれるようになった。また、観光かんこうインフラの整備せいび、駐車ちゅうしゃ場じょう施設しせつ、受付うけつけ、トイレやムスイカ族ぞくが儀礼ぎれいを行おこなった建物たてものも建設けんせつされた。

出典しゅってん

^ ダグラス・プレストン『猿さる神しんのロスト・シティ地上ちじょう最後さいごの秘境ひきょうに眠ねむる謎なぞの文明ぶんめいを探さがせ』NHK出版しゅっぱん、2017年ねん、235頁ぺーじ。ISBN 978-4-14-081716-2。
^ 二村にむら久則ひさのり編集へんしゅう『コロンビアを知しるための60章しょう』明石書店あかししょてん <エリアスタディーズ90> 2011年ねん　76ページ
^ 二村にむら久則ひさのり編集へんしゅう『コロンビアを知しるための60章しょう』明石書店あかししょてん <エリアスタディーズ90> 2011年ねん　76-77ページ
^ グラン（2010年ねん）p.164
^ グラン（2010年ねん）16,167ページ
^ ^a ^b ^c ^d ^e ^f グラン（2010年ねん）p.164～p.166
^ ^a ^b ^c グラン（2010年ねん）p.166
^ ^a ^b ^c グラン（2010年ねん）p.16
^ ボイス・ペンローズ(1985)、p.138
^ グラン（2010年ねん）p.167
^ 二村にむら久則ひさのり編集へんしゅう『コロンビアを知しるための60章しょう』明石書店あかししょてん <エリアスタディーズ90> 2011年ねん　77ページ
^ 二村にむら久則ひさのり編集へんしゅう『コロンビアを知しるための60章しょう』明石書店あかししょてん <エリアスタディーズ90> 2011年ねん　78ページ
^ ^a ^b 二村にむら久則ひさのり編集へんしゅう『コロンビアを知しるための60章しょう』明石書店あかししょてん <エリアスタディーズ90> 2011年ねん　79ページ

参考さんこう文献ぶんけん

ペンローズ, ボイス『大だい航海こうかい時代じだい』荒尾あらお克己かつみ訳やく、筑摩書房ちくましょぼう、1985年ねん9月がつ。新版しんぱん・ちくま学芸がくげい文庫ぶんこ、2020年ねん12月
グラン, デイヴィッド『ロスト・シティZ』近藤こんどう隆文たかふみ訳やく、NHK出版しゅっぱん、2010年ねん6月がつ。

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