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ユートピア

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロバート・オウエン提案ていあんした米国べいこくインディアナしゅうニューハーモニー地域ちいき社会しゃかい1838ねん

ユートピアえい: utopia, 英語えいご発音はつおん: [juːˈtoʊpiə] ユートウピア)は、イギリス思想家しそうかトマス・モア1516ねんラテン語らてんご出版しゅっぱんした著作ちょさくユートピア』に登場とうじょうする架空かくう国家こっか名前なまえ。「理想郷りそうきょう」(和製わせい漢語かんご)、「なんゆうきょう」(なんゆうさととも、『そう逍遙しょうようゆうへんより)ともばれる。現実げんじつにはけっして存在そんざいしない理想りそうてき社会しゃかいとしてえがかれ、その意図いと現実げんじつ社会しゃかい対峙たいじさせることによって、現実げんじつへの批判ひはんをおこなうことであった。

ギリシアοおみくろん (ou, い、英語えいごの“no”), τόπος (topos, 場所ばしょ英語えいごの“place”) をわせ「どこにも場所ばしょ」を意図いととした地名ちめい説明せつめいされることがおおいが、記述きじゅつなかでは Eutopia としている部分ぶぶんもあることから、eu- (い)と接頭せっとうもかけて「素晴すばらしく場所ばしょであるがどこにもない場所ばしょ」を意味いみするものであったとみられている。

ただし、「ユートピア」という言葉ことばもちいるときにはとき注意ちゅうい必要ひつようである。現代げんだいじん素朴そぼくに「理想郷りそうきょう」としてイメージするユートピアとはちがい、トマス・モアらによる「ユートピア」には格差かくさがないわりに人間にんげん個性こせい否定ひていした人間にんげんてき管理かんり社会しゃかい色彩しきさいつよく、けっして自由じゆう主義しゅぎてき牧歌ぼっかてき理想郷りそうきょうアルカディア)ではないためである(だい3せつだい4せつ参照さんしょう[1]したがって、本来ほんらい意味いみからすると、社会しゃかい主義しゅぎ共産きょうさん主義しゅぎ文脈ぶんみゃくもちいられるべき言葉ことばである。

ユートピアの対義語たいぎごディストピアである。ユートピア文学ぶんがくおよびディストピア文学ぶんがくいまでも人気にんきのジャンルとなっている。ユートピアという言葉ことばには空想くうそうてきなイメージがあるが、実在じつざいするジャンルや概念がいねん着想ちゃくそうつつ、同時どうじ現実げんじつ実践じっせん着想ちゃくそうあたえてきた。その対象たいしょう建築けんちくやファイルシェアリング、ホスピタリティ交換こうかんサービス英語えいごばんベーシックインカム、コミューン、国境こっきょう開放かいほう海賊かいぞく基地きちなど多岐たきにわたる。

モアの『ユートピア』[編集へんしゅう]

モアの『ユートピア』

モアの著作ちょさく正式せいしき名称めいしょうは、Libellus vere aureus, nec minus salutaris quam festivus, de optimo rei publicae statu deque nova insula Utopia (『社会しゃかい最善さいぜん政体せいたいとユートピア新島にいじまについてのたのしく有益ゆうえきしょうちょ』)という。

その内容ないようは、

  1. だい1かん
  2. だい2かん
  3. 手紙てがみ

の3構成こうせいされ、「だい1かん」はユートピアにったおとこはなし、「だい2かん」は作者さくしゃによるユートピアの様子ようすのまとめ、そして「手紙てがみ」は作者さくしゃがある友人ゆうじんおくった私信ししんという体裁ていさいる。「手紙てがみ」では、ユートピアについて作者さくしゃがこれまでまとめたことへの違和感いわかんともに、友人ゆうじんたいしユートピアへったおとこ連絡れんらくして真意しんいいただしてしいと依頼いらいしてわっている[注釈ちゅうしゃく 1]

ユートピアは500マイル×200マイルの巨大きょだい三日月みかづきがたしまにある。もと大陸たいりくにつながっていたが、建国けんこくしゃユートパス1せいによって切断せつだんされ、孤島ことうとなった。しまなかがわはすべて改造かいぞうされまっすぐな水路すいろとされしま一周いっしゅうしており、そのなかにさらにしまがある。この、うみかわじゅう外界がいかいからまもられたしまがユートピア本土ほんどである。ユートピアには54の都市としがあり、かく都市としは1にちける距離きょり建設けんせつされている。都市としには6せん所属しょぞくし、計画けいかくてきまち田舎いなか住民じゅうみんえがおこなわれる。首都しゅとアーモロートという。

ユートピアでの生活せいかつは、モアよりすう世紀せいき概念がいねんである共産きょうさん主義しゅぎ思想しそう提示ていじした理想りそうぞう想起そうきさせる。住民じゅうみんはみなうつくしい清潔せいけつ衣装いしょうけ、財産ざいさん私有しゆうせず(貴金属ききんぞくとくきむ軽蔑けいべつされ、後述こうじゅつする奴隷どれいあし使用しようされている)、必要ひつようなものがあるときには共同きょうどう倉庫そうこのものを使つかう。人々ひとびと勤労きんろう義務ぎむゆうし、日頃ひごろ農業のうぎょうにいそしみ(労働ろうどう時間じかんは6あいだ)、いた時間じかん芸術げいじゅつ科学かがく研究けんきゅうをおこなうとしている。

モアの『ユートピア』の実践じっせん[編集へんしゅう]

モアの『ユートピア』はユートピアの完成かんせいがたしめされているだけで、そこにいたるプロセスはしめされておらず、現実げんじつ社会しゃかい実現じつげんするのは困難こんなんである。しかし、16世紀せいきスペイン帝国ていこく新大陸しんたいりく入植にゅうしょくしたさいに、広域こういき国家こっか崩壊ほうかいした中央ちゅうおうみなみアメリカ原住民げんじゅうみん文化ぶんか秩序ちつじょ白紙はくし状態じょうたいもどして、知識ちしきじん宣教師せんきょうしおもいつきを実行じっこううつせるチャンスを[2]イエズスかい入植にゅうしょく開始かいしからパラグアイグアラニーじん使つかって、モアの『ユートピア』にしるされているとおりの生活せいかつ実現じつげんさせる実験じっけんをイエズスかい追放ついほうされる1767ねんまでった[2]

また、初代しょだいミチョアカン司教しきょうになるフランシスコかい修道しゅうどうバスコ・デ・キロガは、モアの『ユートピア』に影響えいきょう[2]メキシコ郊外こうがいに「サンタ・フェのオスピタル」とばれる実験じっけんてきセツルメント構築こうちくした。

ユートピア文学ぶんがく[編集へんしゅう]

ユートピアというかたりはその一般いっぱんてきとなり、理想郷りそうきょう意味いみする一般いっぱん名詞めいしにもなった。そこから架空かくう社会しゃかい題材だいざいとした文学ぶんがく作品さくひんユートピア文学ぶんがくばれる。マルクス主義まるくすしゅぎからは「空想くうそうてき」「科学かがくてき」と批判ひはんされたユートピア思想しそうであるが、理想りそう社会しゃかいえがくことで現実げんじつ世界せかい欠点けってんらすかがみとしての意義いぎっている[1]

トマス・モア以降いこうイタリアトンマーゾ・カンパネッラは『太陽たいよう』(1602ねん)という、ルネサンスのユートピア文学ぶんがくとして『ユートピア』に匹敵ひってきする重要じゅうよう作品さくひんいている。ジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行りょこう』(1726ねん)もさまざまな空想くうそう都市としえがいたユートピア小説しょうせつともとれる(たとえば、音楽おんがく数学すうがく愛好あいこうする空中くうちゅう都市としラピュータなど)。

18世紀せいきフランス啓蒙けいもう主義しゅぎ時代じだいにはルイ・セバスティアン・メルシエの未来みらいのパリをえがく『よんよんねん』ほか、ヴォルテールなどさまざまな作家さっか思想家しそうかがユートピア文学ぶんがく執筆しっぴつした。『ソドムのひゃくじゅう日間にちかん』のマルキ・ド・サドや、『あいしん世界せかい』のシャルル・フーリエなどユートピアとは異質いしつおもわれる作家さっかも、ユートピアてき世界せかいかん・ユートピア文学ぶんがく手法しゅほう使つかい、ざされた世界せかいなか地獄じごく絵図えずや、くところまでいた理想りそう社会しゃかいえがいた[1]

19世紀せいき資本しほん主義しゅぎ勃興ぼっこう時代じだいであり、その修正しゅうせいのための社会しゃかい改良かいりょうあん社会しゃかい主義しゅぎ共産きょうさん主義しゅぎまれるなど、現実げんじつ社会しゃかい加速かそくてき繁栄はんえいをはじめ、その社会しゃかい現実げんじつ改造かいぞうするための各種かくしゅ思想しそうちからそそがれたためか、ユートピア文学ぶんがく非常ひじょうおおかれたがあまり収穫しゅうかくがない[1]。そのなかで、ウィリアム・モリスの『ユートピアだより』(1890ねん)は19世紀せいきすぐれたユートピア小説しょうせつで、ほかとはことなった中世ちゅうせいてき牧歌ぼっかてき理想郷りそうきょう構想こうそうしている。今日きょうまで記憶きおくされている作品さくひんとしてはサミュエル・バトラーの『エレホン』(1872ねん)、エドワード・ベラミーの『かえりみれば』(1880ねん)などがげられる。

ぎゃくユートピア(ディストピア)[編集へんしゅう]

20世紀せいきはいると、「理想郷りそうきょう」と宣伝せんでんされていた社会しゃかい主義しゅぎ国家こっか独裁どくさい国家こっか現実げんじつ存在そんざいとなったが、その理想りそう現実げんじつ落差らくさ批判ひはんしたり、科学かがくまけ側面そくめん強調きょうちょうした小説しょうせつえがかれた。転倒てんとうしたユートピア文学ぶんがくであることからこれらはぎゃくユートピア(ディストピア)とばれる。たとえばH・G・ウェルズの『モダン・ユートピア英語えいごばん』(1905ねん)、エヴゲーニイ・ザミャーチンの『われら』(1924ねん)、オルダス・ハックスレーの『すばらしいしん世界せかい』(1932ねん)、ジョージ・オーウェルの『1984ねん』(1949ねん)や、エルンスト・ユンガーの『ヘリオーポリス』、レイ・ブラッドベリの『華氏かし451』、ほし新一しんいちの『しろふくおとこ』などの小説しょうせつによって管理かんり社会しゃかい全体ぜんたい主義しゅぎ体制たいせい恐怖きょうふえがかれた。また、手塚てづか治虫おさむの『とり未来みらいへん』は『1984ねん』を粉本ふんぽんにしているとみられている。これらにえがかれた国家こっかは、一見いっけんすると平和へいわ秩序ちつじょただしい理想りそうてき社会しゃかいであるが、徹底的てっていてき管理かんりにより人間にんげん自由じゆううばわれている。当時とうじ共産きょうさんけん今日きょう管理かんり社会しゃかいたいする予見よけんであり、痛烈つうれつ批判ひはんである。またそれをした過去かこのユートピア思想しそうや、その背景はいけいとなった文明ぶんめい自体じたい攻撃こうげき対象たいしょうである[1]

ユートピアの特徴とくちょう[編集へんしゅう]

ディストピアをえがいた小説しょうせつ登場とうじょうするまえかれたユートピア小説しょうせつも、現在げんざいからるとディストピアではないかとおもわれるものがおおいというせつもある。これらの理想郷りそうきょうは、けっして「自然しぜんのなかの夢幻むげんきょう」ではない。それは人工じんこうてきで、規則正きそくただしく、とどこおることがなく、徹頭徹尾てっとうてつび合理ごうりてき」な場所ばしょである。西にしヨーロッパにおいてはこの模範もはんはギリシャ社会しゃかい厳格げんかく解釈かいしゃくしたものにもとめられる。こうしてまれた「ユートピア」自体じたいにディストピアのたね内包ないほうされていたのであるというせつもある[1]

以下いかに、過去かこのユートピア文学ぶんがく表現ひょうげんされてきた「理想郷りそうきょう」にしばしば共通きょうつうする特徴とくちょうげる。

  • 周囲しゅうい大陸たいりく隔絶かくぜつした孤島ことうである。
  • 科学かがく土木どぼくによってその自然しぜん無害むがいかつ幾何きかがくてき改造かいぞうされ、幾何きかがくてき建設けんせつされた城塞じょうさい都市とし中心ちゅうしんとなる。
  • 生活せいかつ理性りせいにより厳格げんかくりっせられ、質素しっそ規則きそくてき一糸いっしみだれぬ画一かくいつてき社会しゃかいである。ふしだらで豪奢ごうしゃ要素ようそ徹底的てっていてきにそぎとされている。住民じゅうみんいちにちのスケジュールは労働ろうどう食事しょくじ睡眠すいみん時刻じこくなどが厳密げんみつめられている。長時間ちょうじかん労働ろうどうはせず、あまった時間じかん科学かがく芸術げいじゅつのために使つかう。
  • 人間にんげん機能きのう職能しょくのう分類ぶんるいされる。個々人ここじん立場たちば男女だんじょふく完全かんぜん平等びょうどうだが、同時どうじ個性こせいはない。なお、一般いっぱん市民しみんした奴隷どれい囚人しゅうじん想定そうていし、困難こんなん危険きけん仕事しごとをさせている場合ばあいがある。
  • 物理ぶつりてきにも社会しゃかいてきにも衛生えいせいてき場所ばしょである。黴菌ばいきんなどは駆除くじょされ、社会しゃかいのあらゆるところに監視かんしがいきわたり犯罪はんざいこる余地よちはない。
  • 変更へんこうすべきところがもはやない理想りそう社会しゃかい完成かんせいしたので、歴史れきしまっている。ユートピアは、ユークロニア(えい: uchronia, 時間じかんのないくに)でもある。

以上いじょうのような、時計とけいのように正確せいかくで、蜜蜂みつばちのように規則きそくてき社会しゃかいぞうは、古代こだいギリシアの哲学てつがくしゃプラトンの『国家こっか[注釈ちゅうしゃく 2]、『ティマイオス[注釈ちゅうしゃく 3]以来いらい、ルネサンス啓蒙けいもう主義しゅぎ流行りゅうこうした『ユートピア』などの理想りそう都市としあんから20世紀せいきのディストピア小説しょうせつ現実げんじつ共産きょうさん主義しゅぎ国家こっかのありかたまでに共通きょうつうするものがある[1]

このような社会しゃかい理想りそうとしてあげられるのは、西にしヨーロッパにおいてはかれらによってさい解釈かいしゃくされた「古代こだいギリシャ」である。一説いっせつによればプラトンの時代じだいペルシアなどの脅威きょういによりギリシア諸国しょこくらいだ時期じきだったが、おそらくかれ理性りせいを「ギリシャてき」なものとめつけ理想りそうし、それに対立たいりつする非理ひりせいてき欲望よくぼうちあふれたもうひとつの世界せかいアトランティスをおもえがいたのであろうとしている。

こうした理性りせい中心ちゅうしんとしたユートピアてき理想りそう社会しゃかいたいし、バロックマニエリスムシュルレアリスムなど反発はんぱつする思想しそうてきうごきが相次あいついだ。現在げんざい先進せんしんこくでは、ともすれば資本しほん効率こうりつてき利用りよう社会しゃかい安全あんぜん健康けんこう増進ぞうしん効率こうりつ名目めいもくに、事実じじつじょう管理かんり社会しゃかい実現じつげんされることもあるが、一方いっぽうではたとえば『ユートピア』てき都市とし国土こくど計画けいかくよりは、いいかげんでヒューマンスケールの迷路めいろてききゅう市街しがいや、曲線きょくせんてき街路がいろった商業しょうぎょう住宅じゅうたく混在こんざい見直みなおされてもいる。またフィクションの世界せかいでも『ブレードランナーてき一見いっけん悪夢あくむのような混沌こんとんとした未来みらいが、ぎゃく人間にんげんてき世界せかいとして評価ひょうかされることがある。

ユートピアとは、結局けっきょくのところ、唯一ゆいいつ価値かちかん唯一ゆいいつ基準きじゅん唯一ゆいいつ思想しそうによる全体ぜんたいとみ共有きょうゆうは、たしかにはんするものが存在そんざいしないという意味いみ平和へいわ理想りそうであるというかんがえもあり、一方いっぽうでは、その実現じつげんには人間にんげんてきなものや自由じゆうをすべて完全かんぜん圧殺あっさつしなければ実現じつげんしえないことを明確めいかくあらわしたものであり、理性りせい以外いがいのすべてをそぎとしたてにあるものの機械きかいてき冷酷れいこくさをあらわしたものというかんがえもある[よう出典しゅってん]

現代げんだいのユートピア[編集へんしゅう]

カナダブリティッシュコロンビアしゅうにあるソイントゥラ。フィンランドからの移民いみんつくったユートピアむら

21世紀せいきになると、ユートピアをめぐる議論ぎろんにはだつ希少きしょうせい経済けいざい後期こうき資本しほん主義しゅぎベーシックインカムなどの論点ろんてんくわわってくる。ルトガー・ブレグマンは2016ねん著書ちょしょ隷属れいぞくなきみち』(原題げんだい:Utopia for Realists / リアリストのためのユートピア)で「人的じんてき資本しほん主義しゅぎ」ユートピアをえがき、ベーシックインカムやしゅう15あいだ労働ろうどう国境こっきょう開放かいほうについてろんじた[3]

北欧ほくおう諸国しょこくは2019ねん時点じてん世界せかい幸福こうふくランキングのさい上位じょういめ、現代げんだいのユートピアとばれることもある。ただし英国えいこくのジャーナリストであるマイケル・ブース著書ちょしょかぎりなく完璧かんぺきちか人々ひとびと』(2014ねん)で、北欧ほくおうらしがそれほど完璧かんぺきではないと指摘してきする[4]

政治せいじ経済けいざい[編集へんしゅう]

19世紀せいき初頭しょとう商業しょうぎょう主義しゅぎ資本しほん主義しゅぎ進展しんてん社会しゃかい混乱こんらんおとしいれるとの危機ききかんから、数々かずかずのユートピア思想しそう台頭たいとうしてきた。これらはおおきくは空想くうそうてき社会しゃかい主義しゅぎながれにぞくする。共通きょうつう特徴とくちょうとして平等びょうどう主義しゅぎてき資源しげん分配ぶんぱいげられ、金銭きんせんのやりとりを一切いっさいはいすることもおおい。人々ひとびと公共こうきょう福祉ふくしのために自分じぶんきな仕事しごとをし、豊富ほうふ余暇よかにはアートや科学かがく教養きょうようふかめる。そうしたユートピアの古典こてんてきれいエドワード・ベラミー小説しょうせつかえりみれば』にえがかれている。ウィリアム・モリスが『ユートピアだより』でえがいたのはすこことなる社会しゃかい主義しゅぎユートピアで、ベラミーのトップダウンがた官僚かんりょう主義しゅぎ)ユートピアへの批判ひはんてき応答おうとうにもなっている。ただし社会しゃかい主義しゅぎ運動うんどうはやがてユートピア思想しそうからはなれていき、なかでもマルクスはユートピアてき社会しゃかい主義しゅぎ思想しそうきびしく批判ひはんした。唯物ゆいぶつろんてきなユートピア社会しゃかい特徴とくちょうづけるのは完璧かんぺき経済けいざいであり、そこでは物価ぶっかはつねに安定あんていし、経済けいざいてきにも社会しゃかいてきにもみな平等びょうどうになるとかんがえられる。

英国えいこく政治せいじエドワード・ギボン・ウェイクフィールドは19世紀せいき初頭しょとう植民しょくみん政策せいさくについてのユートピアてき理論りろん提唱ていしょうした。これも経済けいざいがくてき考察こうさつ主眼しゅがんくものだが、階級かいきゅう格差かくさ温存おんぞんする意図いとふくまれている[5]。ウェイクフィールドの理論りろんニュージーランドオーストラリアふくむいくつかの植民しょくみん政策せいさく影響えいきょうあたえた。

H・G・ウェルズの『モダン・ユートピア』(1905ねん)はひろまれ、おおくの議論ぎろんこした。エリック・フランク・ラッセルは『おおいなる爆発ばくはつ』(1963ねん)のさい終章しゅうしょう経済けいざいてき社会しゃかいてきユートピアを詳細しょうさいえがいている。地域ちいき交換こうかん取引とりひき制度せいど(LETS)はじめて言及げんきゅうしたのもこの作品さくひんである。

ソ連それんではフルシチョフ政権せいけん雪融ゆきど時代じだい[6]作家さっかイワン・エフレーモフが『アンドロメダ星雲せいうん』(1957ねん)というSF小説しょうせつ宇宙うちゅう規模きぼの「雪融ゆきどけ」をえがいた。人類じんるい銀河ぎんが規模きぼ集団しゅうだん交流こうりゅうし、ことなる哲学てつがく活発かっぱつにぶつかり社会しゃかいてき枠組わくぐみのなかで科学かがく技術ぎじゅつ文化ぶんか発展はってんさせていくという設定せっていである。

イギリスの政治せいじ哲学てつがくしゃジェームズ・ハリントンが1656ねんいたユートピアてき共和きょうわ国論こくろん『オセアナ』は英国えいこく土着どちゃく政党せいとう(Country Party)の共和きょうわ主義しゅぎ触発しょくはつし、アメリカ大陸あめりかたいりく植民しょくみん経営けいえいにも影響えいきょうあたえた。ハリントンの思想しそうはやがてアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこく建国けんこくしゃらの理想りそうとなる。英国えいこく植民しょくみんのなかでカロライナペンシルベニアジョージアの3つの植民しょくみんがユートピア社会しゃかいとして設計せっけいされた。ジョージアではとくに「農業のうぎょうてき平等びょうどう」を重視じゅうしして農地のうち平等びょうどうてられ、追加ついか農地のうち購入こうにゅうしたり相続そうぞくしたりすることはきんじられていた。これはのちにトーマス・ジェファーソンおもえがいた「自作農じさくのう」(ヨーマン)を基礎きそとする民主みんしゅ主義しゅぎ初期しょきこころみとえる。

米国べいこくでは1960年代ねんだいコミューンさかんになり、よりよいかた目指めざ共同きょうどう生活せいかつひろまった。「大地だいちかえれ」運動うんどうやヒッピーたちに刺激しげきされて、おおくのひと都会とかいはなれて自然しぜんゆたかな土地とち移住いじゅうし、やすらかで調和ちょうわしたらしとあらたな共同きょうどう生活せいかつ運営うんえい模索もさくした[7]。たとえば1967ねんから1973ねんまで存続そんぞくしたカリフラワー・コミューン英語えいごばんでは、既存きそん社会しゃかい規範きはんからの脱却だっきゃく理想りそう共同きょうどうたい自治じちこころみられた[8][9]

そのように共同きょうどうでよりよい生活せいかつ実現じつげんするためのインテンショナル・コミュニティきずこころみは世界中せかいじゅう存在そんざいする。失敗しっぱいわったものもおおいが、なかには発展はってんつづけているコミュニティもある。たとえば1972ねん米国べいこく発足ほっそくしたじゅう支族しぞく教団きょうだんは、世界せかい各地かくち現在げんざい活動かつどうつづけている。

環境かんきょう[編集へんしゅう]

エコロジカル・ユートピアは、自然しぜんとのあらたなかかわりかた志向しこうするユートピアである。アーネスト・カレンバックの著書ちょしょエコトピア』(1975ねん)はエコロジカル・ユートピアをえがいた最初さいしょ小説しょうせつで、エコロジカル・ユートピア思想しそうおおきな影響えいきょうあたえた[10]。リチャード・グローブは著書ちょしょ『Green Imperialism』(1995ねん)で、エコロジカル・ユートピア思想しそう歴史れきしてきルーツをさぐっている[11]。それによると、西洋せいようのデータ中心ちゅうしん科学かがくしゃらがユートピアてき熱帯ねったいしま出会であったときの衝撃しょうげきから、初期しょき環境かんきょう主義しゅぎまれたという[12]。エコロジカル・ユートピアは自然しぜん破壊はかいによって西洋せいよう現代げんだいじん生活せいかつ[13]工業こうぎょう以前いぜん伝統でんとうてきらしかたからおおきくはなれてしまったことを問題もんだいにする[14]。より持続じぞく可能かのう社会しゃかいのありかた目指めざ運動うんどうってもよいだろう。オランダの哲学てつがくしゃ Marius de Geus によると、エコロジカル・ユートピアはグリーンポリティクスふく社会しゃかい政治せいじてき運動うんどう推進すいしんするちからになりうる[15]

フェミニズム[編集へんしゅう]

ユートピアはジェンダーの問題もんだいにもふか関心かんしんいてきた。性別せいべつ社会しゃかいてき構築こうちくされたものか、それとも生物せいぶつがくてきひとまれたものなのか、あるいはそれらがわさったものなのか[16]。ユートピア思想しそうおおくは社会しゃかいてき経済けいざいてき女性じょせい地位ちい関心かんしんち、なんらかのジェンダー平等びょうどう思想しそうよういている。その具体ぐたいてきなビジョンは女性じょせい嫌悪けんお解消かいしょう性別せいべつによるけ、男女だんじょ差異さいがない中性ちゅうせいてき平等びょうどうなど様々さまざまである。エドワード・ベラミーは1887ねん小説しょうせつかえりみれば』のなかに、女性じょせい参政さんせいけんなど当時とうじのフェミニスト運動うんどう論点ろんてんれた。かれえがいたユートピア社会しゃかいでは、体力たいりょくちがいを考慮こうりょして女性じょせい軽工業けいこうぎょうかせたり、どもをんでもらうための様々さまざま例外れいがい規定きていはあるが、基本きほんてきには男女だんじょ平等びょうどうである。またフェミニストのユートピアの古典こてんとして有名ゆうめい作品さくひんに、シャーロット・パーキンス・ギルマンの『フェミニジア英語えいごばん』(原題げんだい:Herland, 1915ねん)がある。

サイエンス・フィクションおよびスペキュレイティブ・フィクションでは、社会しゃかいだけでなく生物せいぶつがくてき水準すいじゅんでもジェンダーの概念がいねん再考さいこうされる。マージ・ピアシー英語えいごばん の『どき飛翔ひしょうするおんな英語えいごばん』(1976ねん)にえがかれる社会しゃかいではジェンダーだけでなくセクシュアリティも(相手あいてのジェンダーがなにであれ)平等びょうどうである。女性じょせい権利けんりかたじょうでしばしばけがたいかべとなる妊娠にんしん出産しゅっさん問題もんだいについても、人工じんこう子宮しきゅうなどの技術ぎじゅつによってえられている。まれたどもはほとんどの時間じかんおやではなくほかどもたちと一緒いっしょごす。1人ひとりどもにつき「母親ははおや」は3にんいるのが普通ふつうで、母親ははおやはジェンダーではなく経験けいけん能力のうりょくによってえらばれる(男性だんせい女性じょせい母親ははおやになる)。そうした科学かがく技術ぎじゅつによる出産しゅっさん育児いくじからの解放かいほうシュラミス・ファイアストーンの『せい弁証法べんしょうほう英語えいごばん』(1970ねん)でもろんじられている。Mary Gentle の『Golden Witchbreed』(1984ねん)にてくるほしじん思春期ししゅんきむかえるまでジェンダーの区別くべつがなく、ジェンダーで社会しゃかいてき役割やくわりかれることもない。それにたいして、ドリス・レッシング小説しょうせつ『The Marriages Between Zones Three, Four and Five』(1980ねん)では男性だんせい女性じょせいには本質ほんしつてきことなる価値かちがあり、両者りょうしゃあゆりが重要じゅうようであることが示唆しさされる。Elisabeth Mann Borgese が『My Own Utopia』(1961ねん)でえがいた社会しゃかいにはジェンダーは存在そんざいするが、生物せいぶつがくてきせいしばられてはいない。ジェンダーのないどもたちがやがて女性じょせいになり、そのうち一部いちぶひとがやがて男性だんせいになる[16]。またウィリアム・モールトン・マーストン原作げんさくのコミック『ワンダーウーマン』(1941ねん -)にはパラダイスとうらすおんなだけの一族いちぞく「アマゾンぞく」の母権ぼけん社会しゃかいえがかれている。

ユートピア作品さくひん登場とうじょうするシングルジェンダー社会しゃかいやシングルセックス社会しゃかいは、むかしからジェンダーの意味いみ差異さいについて考察こうさつする手段しゅだんでありつづけている。SF作品さくひん登場とうじょうする女性じょせいだけの世界せかいは、男性だんせい病気びょうきえ、技術ぎじゅつ進歩しんぽ女性じょせいによるたんため生殖せいしょく可能かのうになった結果けっかとしてえがかれることがおおい。ふるくは1915ねんの『フェミニジア』もそうであったが、1970年代ねんだいになってレズビアン分離ぶんり主義しゅぎ運動うんどう呼応こおうし、女性じょせいだけのユートピアがおお登場とうじょうした[17]ジョアンナ・ラスの『フィメール・マン』、Suzy McKee Charnas の『Walk to the End of the World』および『Motherlines』などが代表だいひょうてきである[17]。こうした女性じょせいだけの社会しゃかいは、家父長制かふちょうせいから解放かいほうされて自立じりつした女性じょせい姿すがた想像そうぞうするためのツールとなる。そこはレズビアン社会しゃかいとしてえがかれることもあれば(Katherine V. Forrest の『Daughters of a Coral Dawn』)、セクシュアルな関係かんけいせい存在そんざいしない場合ばあいもある(シャーロット・パーキンス・ギルマンの『フェミニジア』)[18]

SFによって未来みらいのジェンダー役割やくわり探求たんきゅうする作品さくひん欧州おうしゅうなどとくらべて米国べいこくでとくにおおいという指摘してきもあるが[16]、ノルウェーの作家さっか Gerd Brantenberg による『Egalias døtre』やドイツの作家さっかクリスタ・ヴォルフの『メディア-さまざまなこえ』など、各国かっこく作家さっか影響えいきょうりょくおおきな作品さくひん発表はっぴょうしている。

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

注釈ちゅうしゃく[編集へんしゅう]

  1. ^ 『ユートピア』岩波いわなみ文庫ぶんこはんISBN 4-00-322021-8)の解説かいせつによれば、このはなしがフィクションであることの強調きょうちょうとも現実げんじつ社会しゃかい批判ひはんやわらげる意図いとがあったという。
  2. ^ 理想りそう国家こっか概念がいねんえがいた。
  3. ^ 金銀きんぎん財宝ざいほうオリハルコンなど不思議ふしぎ技術ぎじゅつゆうした豪奢ごうしゃ専制せんせい王国おうこくアトランティスが、ギリシアを侵略しんりゃくしようとしてかみいかりに滅亡めつぼうする。

出典しゅってん[編集へんしゅう]

  1. ^ a b c d e f g 巖谷いわや2002 [ようページ番号ばんごう]
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参考さんこう文献ぶんけん[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]

研究けんきゅうしゃ
社会しゃかい運動うんどう
組織そしき

外部がいぶリンク[編集へんしゅう]