官僚かんりょう制せい

本ほん記事きじでは官僚かんりょう制せい（かんりょうせい、英えい: bureaucracy）について解説かいせつする。

概説がいせつ

広辞苑こうじえんでは、官僚かんりょう制せい bureaucracyは「専門せんもん化か・階かい統みつる化かされた職務しょくむ体系たいけい、明確めいかくな権限けんげんの委任いにん、文書ぶんしょによる事務じむ処理しょり、規則きそくによる職務しょくむの配分はいぶんといった諸しょ原則げんそくを特色とくしょくとする組織そしき・管理かんりの体系たいけい」と説明せつめいされている。

スーパー・ニッポニカの解説かいせつでは、今日きょうにおいて「官僚かんりょう制せい」という用語ようご・概念がいねんは次つぎの3つの意味合いみあいを含ふくんでいる、とされている。

• 1.行政ぎょうせい官僚かんりょうによる政治せいじの支配しはい
• 2.分業ぶんぎょうと協業きょうぎょうの原理げんりによって合理ごうり的てきに組くみ立たてられた組織そしき形態けいたいである階かい統制とうせい
• 3.上記じょうき2つに付随ふずいしがちな意識いしきや行動こうどう＝官僚かんりょう主義しゅぎ　→マートンによる指摘してき

官僚かんりょう制せいの研究けんきゅう

官僚かんりょう制せいについての本格ほんかく的てきな研究けんきゅうは、ドイツの社会しゃかい学者がくしゃ、マックス・ヴェーバーに始はじまる。ヴェーバーは、近代きんだい社会しゃかいにおける特徴とくちょう的てきな合理ごうり的てき支配しはいシステムとしての近代きんだい官僚かんりょう制せいに着目ちゃくもくし、その特質とくしつを詳細しょうさいに分析ぶんせきした。上うえに記しるした官僚かんりょう制せいの基本きほん的てきな特徴とくちょうもヴェーバーの定義ていぎに基もとづいている。

ヴェーバーによって指摘してきされた合理ごうり的てき組織そしきとしての官僚かんりょう制せいの特徴とくちょう

近代きんだい官僚かんりょう制せいは、前ぜん近代きんだいに見みられる家父長制かふちょうせい的てきな支配しはいに基もとづく家産かさん型がた官僚かんりょう制せい とは異ことなり、組織そしきを構成こうせいする人間にんげんの関係かんけいは、制定せいていされた規則きそくを順守じゅんしゅする非ひ人格じんかく的てき（非ひ人間にんげん的てきではない）な結むすびつきによって成なり立たっているとされる。つまり、血縁けつえんによるつながりや感情かんじょう的てきな結むすびつきなどではなく、合理ごうり的てきな規則きそくに基もとづいて体系たいけい的てきに配分はいぶんされた役割やくわりにしたがって人間にんげんの関係かんけいが形成けいせいされているということである。なお近代きんだい官僚かんりょう制せいは、以下いかのような特質とくしつを備そなえていることがヴェーバーによって指摘してきされている。

• 権限けんげんの原則げんそく
• 階層かいそうの原則げんそく
• 専門せんもん性せいの原則げんそく
• 文書ぶんしょ主義しゅぎ

ヴェーバーは、近代きんだい官僚かんりょう制せいのもつ合理ごうり的てき機能きのうを指摘してきし、官僚かんりょう制せいは優すぐれた機械きかいのような技術ぎじゅつ的てき卓越たくえつ性せいがあると主張しゅちょうした。ただし、官僚かんりょう制せい支配しはいの浸透しんとうによって個人こじんの自由じゆうが抑圧よくあつされる可能かのう性せいや、官僚かんりょう組織そしきの巨大きょだい化かによって統制とうせいが困難こんなんになっていくといった、近代きんだい官僚かんりょう制せいのマイナス面めんについては予見よけんしている。

　ヴェーバーの近代きんだい官僚かんりょう制せいに関かんする最もっとも重要じゅうような組織そしき論ろん的てきな問題もんだい提起ていきは，組織そしきの「形式けいしき合理ごうり性せい」と「実質じっしつ合理ごうり性せい」との矛盾むじゅん過程かていの認識にんしきである．「形式けいしき合理ごうり性せい」は，制定せいていされた一般いっぱん的てき規則きそくが個々ここのケースに適用てきようされ，すべての意思いし決定けっていと行動こうどうが制定せいていされた規則きそくに従したがうこと，「実質じっしつ合理ごうり性せい」は，個別こべつケースで，制定せいていされた規則きそくの枠わくを超こえ，特定とくていの価値かちや倫理りんり，組織そしき目的もくてきを意識いしき的てきに実現じつげんする度合どあいであり，定さだめられた規則きそくを超こえ，あるいは超ちょう法規ほうき的てきに意思いし決定けってい者しゃの主体しゅたい的てきな洞察どうさつと責任せきにんが要請ようせいされる．そのような意思いし決定けっていは結果けっかに対たいする責任せきにんが問とわれる(村上むらかみ, 2018:62-63)．たとえば，国籍こくせき国こくの外そとにいる「難民なんみん」をUNHCRは救援きゅうえんできるが，法ほうの形式けいしき合理ごうり性せいを貫徹かんてつさせれば，国境こっきょうを越こえていない「国内こくない避難ひなん民みん」を救援きゅうえんできない．なぜなら国際こくさい法ほう上じょう，国境こっきょうを越こえなければ「難民なんみん」ではなく，UNHCRの管轄かんかつ外がいだからである．しかし国内こくない避難ひなん民みんであっても，実質じっしつ合理ごうり的てきな視点してんから，救援きゅうえんが要請ようせいされる．

　近代きんだい的てきな大だい規模きぼ組織そしきでは，ルーティン的てきな業務ぎょうむの一般いっぱん的てきケースでは，すべての意思いし決定けっていが制定せいていされた規則きそくに従したがう形式けいしき合理ごうり的てきな処理しょりが採用さいようされる．一般いっぱん的てきな問題もんだい状況じょうきょうでは，その問題もんだいへの処方箋しょほうせんが，すでに規則きそくに定さだめられており，規則きそくを順守じゅんしゅし，個々ここのケースに適用てきようすれば，試行錯誤しこうさくごする必要ひつようなく問題もんだいを処理しょりできる．しかし規則きそくの制定せいてい過程かていで想定そうていされていない，新あらたな特殊とくしゅな問題もんだい状況じょうきょうで，イノベーションが要請ようせいされるケースでの規則きそくの順守じゅんしゅは，むしろ問題もんだいを解決かいけつせず，組織そしき目標もくひょうの達成たっせいを妨さまたげる．このような特殊とくしゅケースでは，規則きそくの枠わくを超こえ，ケース・バイ・ケースでの個別こべつケースに適合てきごうする実質じっしつ合理ごうり的てきな意思いし決定けっていが要請ようせいされる．ヴェーバーの「官僚かんりょう制せい」の概念がいねんは，「合法ごうほう的てきな支配しはいの純粋じゅんすい型がた」(Weber, 1976:128)であり，合理ごうり性せいの矛盾むじゅん過程かていの問題もんだいは『法ほう社会しゃかい学がく』で議論ぎろんされている(Weber, 1976:469)．この問題もんだい提起ていきは，R.ベンディックスによって，次じのように指摘してきされている．ヴェーバーにとって「近代きんだい」は調停ちょうてい不能ふのうな形式けいしきと実質じっしつの合理ごうり性せいとの二律背反にりつはいはんのうえに成立せいりつする(Bendix, 1977:485; 村上むらかみ, 2018:67)．官僚かんりょう制せい組織そしきのマイナス面めんの指摘してきも，プラス面めんの指摘してきも，官僚かんりょう制せいの問題もんだいの本質ほんしつを捉とらえているとは言いえない．官僚かんりょう制せいの問題もんだいは，近代きんだいの合法ごうほう的てき支配しはいの合理ごうり性せいの二ふたつのサブカテゴリーの矛盾むじゅん関係かんけいの認識にんしきにある．制定せいていされた規則きそく（法ほう）は順守じゅんしゅされねばならない．しかし規則きそく（法ほう）を順守じゅんしゅするだけでは，何なにも問題もんだいは解決かいけつしない．イノベーションが要請ようせいされるなら，組織そしきの事業じぎょう運営うんえいでの規則きそくの順守じゅんしゅは無力むりょくである(村上むらかみ, 2018:88)．

用語ようご

代表だいひょう的てき官僚かんりょう制せい

行政ぎょうせい官僚かんりょう制せいの職員しょくいん構成こうせいに、社会しゃかいの構成こうせいを反映はんえいさせる制度せいど。社会しゃかいを構成こうせいする人ひとたちの属性ぞくせいと官僚かんりょう・公務員こうむいんの属性ぞくせいを近ちかいものとすることで、公共こうきょうサービスがより民主みんしゅ的てきで公正こうせいさを保たもつものになるという考かんがえ方かたで、人種じんしゅ、性別せいべつ、社会しゃかい階級かいきゅう、宗教しゅうきょう、教育きょういくレベル、地域ちいき等とうの属性ぞくせいに注目ちゅうもくする

参考さんこう文献ぶんけん

• マックス・ヴェーバー『支配しはいの社会しゃかい学がくI』世良せら晃あきら志郎しろう訳わけ、創そう文ぶん社しゃ、1960年ねん。
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• 村松むらまつ岐夫『戦後せんご日本にっぽんの官僚かんりょう制せい』東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、1981年ねん。
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• 村上むらかみ綱つな実み 『非ひ営利えいりと営利えいりの組織そしき理論りろん：非ひ営利えいり組織そしきと日本にっぽん型がた経営けいえいシステムの信頼しんらい形成けいせいの組織そしき論ろん的てき解明かいめい（第だい三さん版はん）』 絢あや文ぶん社しゃ、2018年ねん。
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関連かんれん項目こうもく

• 官僚かんりょう
• 家産かさん官僚かんりょう制せい
• 依よ法ほう官僚かんりょう制せい
• 律令制りつりょうせい
• 村社そんしゃ会かい
• 党とう官僚かんりょう
• 官かん主ぬし主義しゅぎ
• 大だい企業きぎょう病びょう
• 官製かんせい談合だんごう

外部がいぶリンク

• 『官僚かんりょう制せい』 - コトバンク