忉利天てん

図上ずじょう部ぶ、須弥山しゅみせんの上うえに位置いちするのが忉利天てん。

忉利天てん（とうりてん、サンスクリット: त्रायस्त्रिंश Trāyastriṃśa；パーリ語ご: Tāvatiṃsa）は、仏教ぶっきょうの世界せかい観かんにおいて、欲界よくかいにおける六ろく欲よく天たかしの第だい2の天てんである。「とう」はりっしんべん+刀かたな。意訳いやくして三さん十じゅう三さん天てんともいう。

仏教ぶっきょうにおいては一般いっぱんに須弥山しゅみせんの頂上ちょうじょうにあるとされ、帝釈天たいしゃくてんをはじめ、33の天てん部ぶや神かみ々が住すむとされる。また、伝説でんせつにおいて、釈迦しゃかの生母せいぼである摩耶まや夫人ふじんは死後しごここに転生てんせいしたとされ、また、悟さとりを開ひらいた釈迦しゃかがこの地ちに登のぼって摩耶まや夫人ふじんや天てん部ぶに説法せっぽうし、三さん道みち宝たから階かいと呼よばれる階段かいだんによって、地上ちじょうの僧そう伽とぎ施ほどこせ国こく（サンカーシャ）に戻もどったとされる。

概略がいりゃく

三さん道みち宝たから階かいによって忉利天てんからサンカーシャへと降ふる釈迦しゃか　19世紀せいき　タイ王国おうこく　メトロポリタン美術館びじゅつかん蔵ぞう

中国ちゅうごく語ご、および漢かん訳やくにおいて「三さん十じゅう三さん天てん」という場合ばあい、三さん十じゅう三さん天てん自体じたいとそこに住すむ住人じゅうにんの両方りょうほうを指さすが（後述こうじゅつ）、サンスクリット語ごにおいて、前者ぜんしゃはTrāyastriṃśa、後者こうしゃはTrāyastriṃśatと区別くべつされる。

『一切経いっさいきょう音義おんぎ』によれば、須弥山しゅみせんの頂上ちょうじょう、閻浮提ひさげの上うえ、80,000由旬ゆじゅんの処しょにあり、中央ちゅうおうに善ぜん見み（喜き見み）宮みやがある。四面しめんそれぞれ80,000由旬ゆじゅんの大おおきな城しろがあり、そこに帝釈天たいしゃくてんが住じゅうし、四方しほうには各かく8つの城しろがあり、その所属しょぞくを支配しはいする天てん部ぶの衆徒しゅとや神かみ々が住すんでいる。ゆえにこれに善ぜん見城けんじょうを加くわえて計けい33天てんとなるので、三さん十じゅう三さん天てんと称しょうされる。須弥山しゅみせんの頂上ちょうじょうの中央ちゅうおうには、建物たてものは金きむ、地面じめんは戸と羅ら綿めんでできた善ぜん見城けんじょうがあり、その内部ないぶの殊勝しゅしょう殿どのがある。この建物たてものにはインドラ（帝釈天たいしゃくてん）が住すんでいる。殊勝しゅしょう殿どのは、一辺いっぺんの長ながさが250由旬ゆじゅんで、さまざまな宝石ほうせきで建物たてものが荘厳しょうごんされており、その豪華ごうかさは他たの楼閣ろうかくの追随ついずいを許ゆるさない。善ぜん見城けんじょうは、殊勝しゅしょう殿どのの他ほかにも飲食いんしょく市し、衣服いふく市し、戯おどけ女おんな市し、米穀べいこく市しといった市場いちばを持もつほか、四よん辺へんそれぞれに、東ひがしに衆しゅう車しゃ、南みなみに麤悪、西にしに相あい雑ざつ、北きたに歓喜かんきという遊ゆう苑えん地ちを備そなえている。善ぜん見城けんじょうの周囲しゅういに作つくられた四よっつの庭園ていえんは、それぞれの四方しほう、20由旬ゆじゅん離はなれた場所ばしょにひとつずつ遊あそび場ばが置おかれている。さらに、都との外そと、北東ほくとうの隅すみには円えん生せい樹じゅが、南西なんせいの隅すみには善ぜん法ほう堂どうがある。33天てんは、半月はんつきの三さん斎とき日びには善ぜん法ほう堂どうに集会しゅうかいして、如法にょほう・不ふ如法にょほうを論評ろんぴょうするという。

この天てんの有情うじょうが婬いん欲よくを行ぎょうずる時ときは、形かたちを変かえて人間にんげんの如ごとくなるが、ただ、風気かざけを泄し終おわれば熱ねつ悩がたちまち除のぞかれるという。身長しんちょうは1由旬ゆじゅん、衣ころもの重おもさは6銖、寿命じゅみょうは1000歳さいにして、その一昼夜いっちゅうやは人間にんげん界かいの100年ねんに相当そうとうするといわれる。また初生しょせいの時ときは、人間にんげんの6歳さいの如ごとく色しょく円満えんまんし自みずから衣服いふくがあるという。

釈迦しゃかを生うんだ摩耶まや夫人ふじんはその7日にち後ごに死去しきょしたが、この天てんに転生てんせいしたとされる。『摩ま訶摩耶経』などには、釈迦しゃかはかつてこの天てんに昇のぼり、実母じつぼの摩耶まや夫人ふじんのために3ヶ月かげつ間あいだ説法せっぽうし、三さん道みち宝たから階かいに依よって僧そう伽とぎ施ほどこせ国こく（サンカーシャ）の地ちに降ふり給たまうたと記しるされている。また『地蔵じぞう菩薩ぼさつ本願ほんがん経けい』によれば、釈迦しゃかは忉利天てんでこの経典きょうてんに記しるされた内容ないようを摩耶まや夫人ふじん、菩薩ぼさつ、天人てんにんたちを相手あいてに説法せっぽうしたとされる。

インド、ブータン、ブリヤート共和きょうわ国こく、チベットなどのチベット仏教ぶっきょう圏けんにおいては、チベット暦れき9月22日にちに釈迦しゃかの「三さん道みち宝たから階かい降下こうか」を祝いわうラバブ・ドゥーチェン（降臨こうりん大祭たいさい）が催もよおされる。

三さん十じゅう三さん天てん

須弥山しゅみせんの頂上ちょうじょう、忉利天てん（三さん十じゅう三さん天てん）で説法せっぽうする釈迦しゃか（中央ちゅうおう）。 中央ちゅうおうから上方かみがたにかけて、それぞれ地ち居きょ天てん、空そら居きょ天てん、上うえ界かい天てんが表現ひょうげんされている。18世紀せいき頃ころ、チベット　アジア美術館びじゅつかん蔵ぞう

須弥山しゅみせん図ず　1860年代ねんだい　日本にっぽん 図ずの下部かぶに描えがかれた須弥山しゅみせんの上うえに、忉利天てんと見みえる。

1. 善ぜん法ほう堂どう天てん
2. 山やま峯みね天たかし
3. 山頂さんちょう天てん
4. 善ぜん見城けんじょう天たかし
5. 鉢はち私わたし地ち天てん
6. 倶吒天てん
7. 雑ざつ殿どの天てん
8. 歓喜かんき園えん天てん
9. 光明こうみょう天たかし
10. 波なみ利り耶多天てん
11. 離はなれ険けん岸きし天たかし
12. 谷たに崖がけ岸きし天たかし
13. 摩ま尼あま蔵ぞう天てん
14. 旋行天てん
15. 金きむ殿どの天てん
16. 鬘かずら影かげ天てん
17. 柔軟じゅうなん天てん
18. 雑ざつ荘厳しょうごん天てん
19. 如意にょい天てん
20. 微細びさい行ぎょう天てん
21. 歌うた音おん喜き楽天らくてん
22. 威徳いとく輪はなわ天たかし
23. 月つき行ぎょう天てん
24. 閻摩那な娑しゃば羅ら天たかし
25. 速はや行ぎょう天てん
26. 影かげ照あきら天てん
27. 智慧ちえ行ぎょう天てん
28. 衆しゅう分ぶん天てん
29. 曼陀羅まんだら天てん
30. 上うえ行こう天てん
31. 威徳いとく顔がお天てん
32. 威徳いとく燄輪光こう天てん
33. 清浄せいじょう天てん

ギャラリー

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  サーンチーのストゥーパ、北門きたもん（トラナ）
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  前ぜん1世紀せいき　バールフット出土しゅつど　コルカタ、インド博物館はくぶつかん蔵ぞう　仏塔ぶっとうを荘厳しょうごんしていたレリーフ。三さん道みち宝たから階かいを降ふる釈迦しゃかが、仏ふつ足あしによって象徴しょうちょう的てきに表現ひょうげんされている。
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  忉利天てんから降ふる釈迦しゃか　8世紀せいきから12世紀せいき　貝かい葉は　ビハール州しゅう、ナーランダ―
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  タンカ　18世紀せいき　モンゴル
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  タンカ　19世紀せいき　チベット
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  壁画へきが　タイ王国おうこく、プッタモントン公園こうえん

参考さんこう文献ぶんけん

• 大正たいしょう新しん脩おさむ大藏經だいぞうきょうテキストデータベース （SAT）
• 定方さだかた晟あきら『須弥山しゅみせんと極楽ごくらく　仏教ぶっきょうの宇宙うちゅう観かん』（3版はん）講談社こうだんしゃ、1975年ねん7月がつ20日はつか。ISBN 9784061157309。 
• 岡本おかもと健けん資し (2017). “Dhammapada-Aṭṭhakathā における 「三さん道みち宝たから階かい降下こうか」について”. パーリ学がく仏教ぶっきょう文化ぶんか学がく 31. ISSN 09148604. https://doi.org/10.20769/jpbs.31.0_51 2021年ねん11月21日にち閲覧えつらん。. 
• 肥塚こいづか隆たかし (1978). “「従したがえ三さん十じゅう三さん天てん降下こうか」図ずの図像ずぞう”. 待兼山まちかねやま論叢ろんそう. 美学びがく篇へん 11. ISSN 03874818. https://hdl.handle.net/11094/48124 2021年ねん11月21日にち閲覧えつらん。. 
• 林はやし鳴な宇 (2011-03). “『重じゅう編へん諸しょ天てん伝でん』訳やく注記ちゅうき (4)”. 駒澤大学こまざわだいがく仏教ぶっきょう学部がくぶ研究けんきゅう紀要きよう 69: 143-159. http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/30227/ 2021年ねん11月21日にち閲覧えつらん。. 

関連かんれん項目こうもく

• 三神みかみ一体いったい
• 33神かみ - 『リグ・ヴェーダ』に登場とうじょうするパンテオン
• 禅定ぜんじょう
• 天国てんごく - 極楽ごくらく - 浄土じょうど