ハウスコム田村たむら社長しゃちょうに聞きく--「ひと昔むかし前まえよりはいい」ではだめ、風通かぜとおしの良よい職場しょくばが顧客こきゃく満足まんぞく度どを高たかめる

　ハウスコムが「従業じゅうぎょう員いんファースト宣言せんげん」を打うち出だした。「多様たような従業じゅうぎょう員いん一いち人にん一人ひとりが働はたらきがいを感かんじることができる企業きぎょうへ」という想おもいの下取したどり組くむ従業じゅうぎょう員いん第だい一いち主義しゅぎは、どのような背景はいけいから生うまれ、何なにをもたらすのか。顧客こきゃくの体験たいけん価値かち向上こうじょうに取とり組くむ一方いっぽう、掲かかげた従業じゅうぎょう員いんファーストについて、ハウスコム 代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう執行しっこう役員やくいんの田村たむら穂みのる氏しに聞きいた。

ハウスコム 代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょう執行しっこう役員やくいんの田村たむら穂みのる氏し

働はたらきやすくするための制度せいどを作つくってもその効果こうかがわかりづらかった

――「お客様きゃくさまファースト」を掲かかげる企業きぎょうは多おおいですが、今回こんかい「従業じゅうぎょう員いんファースト」宣言せんげんを打うち出だした背景はいけいを教おしえて下ください。

　お客様きゃくさまの体験たいけんを良よくしようという取とり組くみはもちろんあり、その一方いっぽうで従業じゅうぎょう員いんの体験たいけんをよくする施策しさくも推進すいしんしてきました。ただ、従業じゅうぎょう員いんに働はたらきやすさをより感かんじてもらうための制度せいどを作つくっても、エンゲージメント向上こうじょうにつながっているかどうかはわかりづらいという思おもいがありました。

　一方いっぽうで、これは不動産ふどうさん業界ぎょうかい全体ぜんたいの課題かだいだと思おもいますが、離職りしょく率りつが大幅おおはばに減へったという話はなしも聞きこえてきません。制度せいどを作つくったり、変かえたりするだけではなく、もっと根本こんぽん的てきに従業じゅうぎょう員いんの体験たいけんを良よくしていく必要ひつようがあるなと。それがお客様きゃくさまの満足まんぞく度どにもつながると考かんがえました。従業じゅうぎょう員いんファーストという考かんがえを持もって取とり組くまないとお客様きゃくさまの体験たいけんは良よくならないことに気きづいたのです。

　では、従業じゅうぎょう員いんファーストとは何なにか？これは働はたらく上うえでの満足まんぞく度どではなく、従業じゅうぎょう員いん一いち人にんひとりの成長せいちょうやエンゲージメントに近ちかいものだと思おもいます。そのために環境かんきょうを整ととのえることが重要じゅうようだと思おもいました。

――従業じゅうぎょう員いんの体験たいけん価値かちが上あがるとお客様きゃくさまの満足まんぞく度ども上あがると。具体ぐたい的てきにはどんな取とり組くみをしているのですか。

　お客様きゃくさまの満足まんぞく度どを上あげるために、店舗てんぽの美化びかや従業じゅうぎょう員いんの適切てきせつな言葉ことば遣づかいなどを徹底てっていすることは当あたり前まえですよね。こうした配慮はいりょが従業じゅうぎょう員いん同士どうしでも必要ひつようと考かんがえました。例たとえばお客様きゃくさまからのご指摘してきなどの中なかには、強つよい言葉ことばが使つかわれていることもあり、場合ばあいによっては、店舗てんぽスタッフが対応たいおうに困惑こんわくしてストレスを抱かかえてしまうケースもあるかもしれません。

　そこで、こうしたケースでは、お客様きゃくさまの声こえを本社ほんしゃのお客様きゃくさま相談そうだん室しつでも対応たいおうできる形かたちに変かえました。こうすることで店舗てんぽのスタッフに直接ちょくせつ話はなしがいく場合ばあいもありますが、なるべく店舗てんぽのスタッフをストレスから救すくいたい。

　また、従業じゅうぎょう員いんファーストと聞きくと給与きゅうよアップを考かんがえてしまいがちですが、それだけではない。働はたらく時間じかんを短みじかくする取とり組くみも必要ひつようです。ハウスコムではPCを使用しようする業務ぎょうむを19時半じはんに終おわらせると決きめています。中なかにはそれ以降いこうもPCを使つかって仕事しごとをしたいスタッフもいますが、残業ざんぎょうを減へらす取とり組くみは必要ひつようと考かんがえており、それが生いき生いきと働はたらける環境かんきょう作づくりの第一歩だいいっぽになると考かんがえています。

――お客様きゃくさまの満足まんぞく度どを上あげるためには夜よる遅おそくまで対応たいおうするのが当あたり前まえという考かんがえ方かたもありそうですが。

　そういう時代じだいもありましたが、時代じだいは変かわりました。従業じゅうぎょう員いんが生いき生いきと働はたらける環境かんきょうを作つくると、お客様きゃくさまにも良よい体験たいけんを提供ていきょうできる。それが今いまの時代じだいなのです。

数字すうじだけでは見みえてこない行動こうどう評価ひょうかを評価ひょうか軸じくに据すえる

――ハウスコムでは、今いままでも子育こそだてサポート企業きぎょうとして「くるみん」を取得しゅとくしたり、「健康けんこう経営けいえい」を推進すいしんしたりと、かなり積極せっきょく的てきな従業じゅうぎょう員いんファースト施策しさくを打うち出だされていたと思おもいます。

　子育こそだて支援しえんや奨学しょうがく金きん返済へんさい支援しえん制度せいどなどを用意よういしたり、休暇きゅうかを増ふやしたりなどは以前いぜんから取とり組くんでいました。しかし、これはもう当あたり前まえなのではないかと。すでに問題もんだいは次つぎに移うつっています。それは、子育こそだて支援しえんや奨学しょうがく金きん返済へんさい支援しえんなどを受うけられる一部いちぶの従業じゅうぎょう員いん以外いがいの人ひとにも、従業じゅうぎょう員いんファーストを感かんじてほしいという思おもいです。ダイバーシティ＆インクルージョンが重視じゅうしされる今いま、働はたらきやすい環境かんきょうを追求ついきゅうしながら、あらゆる従業じゅうぎょう員いんが働はたらきがいを見みつけられると考かんがえています。

――従業じゅうぎょう員いんの方ほうの評価ひょうか軸じくなども変かわってきそうですね。

　その1つとして始はじめたのが「ありがとうキャンペーン」です。従業じゅうぎょう員いんのパフォーマンスを評価ひょうかする時とき、不動産ふどうさんの営業えいぎょうでは、成約せいやく件数けんすうなどの数字すうじが対象たいしょうになりがちです。しかし、数字すうじだけでは見みえてこない努力どりょくや成果せいかがある。困こまっているお客様きゃくさまに対たいして丁寧ていねいに対応たいおうしたり、一緒いっしょに働はたらくスタッフを気遣きづかったりと、数字すうじには現あらわれない部分ぶぶんを評価ひょうかする新あらたな取とり組くみになります。

　各かく店舗てんぽの店長てんちょうに選えらばれた店舗てんぽスタッフは、店長てんちょうが選えらんだ賞品しょうひんを受うけ取とります。チョコレートの詰つめ合あわせだったり、暑あつさ対策たいさくグッズだったりとさまざまあり、それを見みているだけでもちょっと楽たのしい（笑）。賞品しょうひん授与じゅよの様子ようすは社内しゃない掲示板けいじばんに掲載けいさいされるので、全ぜん従業じゅうぎょう員いんが見みられます。

　結果けっかを出だすことは大切たいせつですが、努力どりょくしている過程かていを評価ひょうかすることも大事だいじだと思おもっています。また従業じゅうぎょう員いんにとっても、誰だれかが自分じぶんの行動こうどうを見みてくれているという思おもいが、会社かいしゃへのエンゲージメント向上こうじょうにつながっていく。数字すうじには現あらわれにくい、素晴すばらしい行動こうどうを取とっているスタッフはたくさんいる。そういう部分ぶぶんを社内しゃないで共有きょうゆうできる仕組しくみとして整ととのえました。

――数字すうじだけでは見みえない部分ぶぶんの評価ひょうかを汲くみ取とれる、素晴すばらしい仕組しくみですね。

　実際じっさい始はじめてみて、いろいろな気きづきがありました。当初とうしょは賞品しょうひんを本社ほんしゃから送おくるようにしていたのですが、身近みぢかにいる店長てんちょうの方ほうがその人ひとの好このみを理解りかいして合あったものを選えらべるだろうとやり方かたを変かえました。従来じゅうらい、全社ぜんしゃ的てきに名前なまえがあがるのは売上うりあげ上位じょうい者しゃのみだったのですが、ありがとうキャンペーンではより多おおくの従業じゅうぎょう員いんにそうしたチャンスを提供ていきょうでき、良よかったと思おもっています。

　今回こんかいはトライアルでやってみましたが、今後こんごは、外部がいぶツールを使つかって運用うんよう方法ほうほうを整ととのえていきたいと思おもいます。前回ぜんかいの取とり組くみでは、評価ひょうかするのは店舗てんぽ内ないに限かぎられていましたが、今後こんごは近隣きんりん店舗てんぽや本社ほんしゃなど、店舗てんぽを超こえて実施じっししていく予定よていです。

不動産ふどうさん業界ぎょうかいは離職りしょく率りつの高たかさに課題かだいを感かんじている

――従業じゅうぎょう員いんファーストの取とり組くみを進すすめる背景はいけいには、エンゲージメントを高たかめる狙ねらいが大おおきいのでしょうか。

　従業じゅうぎょう員いんのエンゲージメントを高たかめていくとやはり、離職りしょく率りつは低ひくくなりますよね。賃貸ちんたい仲介ちゅうかい、不動産ふどうさん業界ぎょうかいはどうしても転職てんしょく志向しこうの人ひとが多おおい。従業じゅうぎょう員いんファーストを打うち出だしたからといって、離職りしょく率りつが急激きゅうげきに下さがるわけではないと思おもいますが、常つねにこうした思おもいを打うち出だしていくことは大事だいじだなと思おもっています。

――ありがとうキャンペーンは社長しゃちょう自みずからの発案はつあんで始はじめられたのですか。新あたらしい施策しさくを取とり入いれる上うえで参考さんこうにされている企業きぎょうなどはありますか。

　従業じゅうぎょう員いんから提案ていあんされたアイデアを採用さいようしました。以前いぜんはトップダウンが当あたり前まえでしたが、今いまはもうそういう時代じだいではない。

　従業じゅうぎょう員いんファーストの取とり組くみ自体じたいは、福井ふくい県けんが人口じんこう減げんを阻止そしするために実施じっしした「ふくい創そう生せい・人口じんこう減少げんしょう対策たいさく戦略せんりゃく」を参考さんこうにしました。民間みんかんのサービスを導入どうにゅうしながら取とり組くんだ事例じれいなのですが、自治体じちたいにおける人ひとの流出りゅうしゅつは企業きぎょうにおける退職たいしょくと結果けっかとしては同おなじですよね。具体ぐたい的てきな施策しさくを参考さんこうにしたというよりも、取とり組くみ全体ぜんたいのエッセンスのようなものを、独自どくじに解釈かいしゃくして取とり入いれました。

――ハウスコムの従業じゅうぎょう員いんファーストの取とり組くみは、不動産ふどうさん業界ぎょうかい内ないにも影響えいきょうがありそうですね。

　不動産ふどうさん業界ぎょうかいは離職りしょく率りつの高たかさに課題かだいを感かんじています。私わたしは賃貸ちんたい管理かんりリーシング推進すいしん事業じぎょう者しゃ協議きょうぎ会かいの会長かいちょうをしていますが、会員かいいん企業きぎょうの中なかでも従業じゅうぎょう員いんの定着ていちゃく率りつややりがいについて課題かだい感かんを持もっている人ひとは多おおい。賃貸ちんたい仲介ちゅうかいの仕事しごとは労働ろうどう集約しゅうやく型がたなので、無理むりをさせてしまうところがどうしてもでてきます。テクノロジーの活用かつようも期待きたいできますが、現時点げんじてんでは、人ひとの接客せっきゃくを補おぎなえるまでには届とどいていない。そういう意味いみでも同どう業者ぎょうしゃの方ほうは、今回こんかいの取とり組くみに共感きょうかんしてくれる方ほうと多おおいと思おもっています。

――1100人にん以上いじょうの従業じゅうぎょう員いんがいるハウスコムの規模きぼで、従業じゅうぎょう員いんファーストの取とり組くみを実現じつげんするのはかなり大変たいへんだったのではないでしょうか。

　確たしかにこの規模きぼで従業じゅうぎょう員いん同士どうしが顔かおをあわせるのは大変たいへんですが、大切たいせつなことだと思おもっています。5月には「第だい27期き経営けいえい計画けいかく発表はっぴょう説明せつめい会かい」を開催かいさいし、従業じゅうぎょう員いん全員ぜんいんが代々木よよぎ競技きょうぎ場じょう 第だい二に体育館たいいくかんに集結しゅうけつしました。

代々木よよぎ競技きょうぎ場じょう 第だい二に体育館たいいくかんで開催かいさいした「第だい27期き経営けいえい計画けいかく発表はっぴょう説明せつめい会かい」には全ぜん社員しゃいんが集あつまった

　コロナ禍かでリモートを使つかった入社にゅうしゃ面接めんせつや打うち合あわせが進すすみましたが、やはりリモートだけでは埋うめられない部分ぶぶんがどうしてもある。現状げんじょう、入社にゅうしゃ面接めんせつは対面たいめんに戻もどしていますし、研修けんしゅう合宿がっしゅくも実施じっししています。

「ひと昔むかし前まえよりはいい」ではだめ、風通かぜとおしの良よい職場しょくばが顧客こきゃく満足まんぞく度どを高たかめる

――リモートから対面たいめんに戻もどすという判断はんだんだったと思おもいますが、他ほかにも変かえた方ほうがいいと感かんじている部分ぶぶんはありますか。

　組織そしきの話はなしになりますが、今いままでのピラミッド型がたから事業じぎょう会社かいしゃ制せいによる文鎮ぶんちん型がたに変かえています。文鎮ぶんちん型がたに変かえることで、より現場げんばに近ちかい組織そしき形態けいたいに変かえられたと感かんじています。その一方いっぽうで従業じゅうぎょう員いん一いち人にんひとりがどう強つよみを発揮はっきし、どう会社かいしゃの成長せいちょうにつなげるかを考かんがえています。こうして向上こうじょうする従業じゅうぎょう員いんエンゲージメントは、顧客こきゃく満足まんぞく度どの向上こうじょうにも必かならずつながるのではないかと思おもいます。

　ひと昔むかし前まえよりはよくなった職場しょくば環境かんきょうですが、現場げんばで働はたらく若わかい世代せだいの人ひとたちは、ひと昔むかし前まえを知しらない。嫌いやな思おもいをしたら、その記憶きおくしか残のこらない。それを無なくすためにも必要ひつようなのは、社内しゃないの風通かぜとおしの良よさだと感かんじています。嫌いやな思おもいをしたときに社内しゃないから十分じゅうぶんなアドバイスや支援しえんが得えられると、働はたらきやすくなると思おもいます。

　賃貸ちんたい仲介ちゅうかいは人ひとの住すまいを探さがすというとても素敵すてきな仕事しごとです。しかし離職りしょく率りつが高たかいというのも現実げんじつです。この素敵すてきな仕事しごとを長ながく続つづけられる人ひとが増ふえる、そんな環境かんきょうを築きずいていきたいと思おもっています。