利子りし率りつ（読よみ）リシリツ（英語えいご表記ひょうき）rate of interest

資金しきんの提供ていきょう者しゃに対たいする報酬ほうしゅうである利子りしの元本がんぽんに対たいする割合わりあい。

利子りし率りつ決定けっていの理論りろん

利子りし率りつ決定けっていの理論りろんは二ふたつの基本きほん的てきに異ことなる学説がくせつに大別たいべつされる。一ひとつは実物じつぶつ利子りし理論りろんと呼よばれる学説がくせつであり，利子りし率りつ決定けっていのメカニズムを貨幣かへいを含ふくまない経済けいざいの実物じつぶつ的てき構造こうぞうによって説明せつめいしようとするものである。他たの一ひとつは貨幣かへい利子りし理論りろんと呼よばれる学説がくせつであり，この学説がくせつによれば利子りし率りつの決定けっていは経済けいざいにおける貨幣かへいの需要じゅよう，供給きょうきゅうの関係かんけいと本質ほんしつ的てきにかかわっているのである。

　まず，実物じつぶつ利子りし理論りろんはベーム・バウェルクやI.フィッシャーなどによって体系たいけいづけられる学説がくせつである。この理論りろんは利子りし率りつが異い時点じてんにわたる所得しょとくや消費しょうひの選択せんたくにかかわっている点てんを強調きょうちょうする。つまり，現在げんざいの消費しょうひを犠牲ぎせいにして（貯蓄ちょちくして），どれだけの将来しょうらいの消費しょうひの増加ぞうかを望のぞむかについての人々ひとびとの選好せんこう（これは時間じかん選好せんこうという概念がいねんで表現ひょうげんされる）が一方いっぽうに存在そんざいし，他方たほうに，貯蓄ちょちくされた財ざいが資本しほんとして追加ついかされることによって将来しょうらいの財ざいの生産せいさんがどれだけ増加ぞうかするかを規定きていする技術ぎじゅつ的てきな条件じょうけん（これは投資とうしの限界げんかい効率こうりつという概念がいねんで表現ひょうげんされる）が存在そんざいする。実物じつぶつ利子りし理論りろんに従したがえば，これら二ふたつの要因よういんが経済けいざいの均衡きんこうにおける利子りし率りつを決定けっていするのである。つまり経済けいざいの貯蓄ちょちくと投資とうしとを一致いっちさせるように利子りし率りつは調整ちょうせい機能きのうを果はたすのである。このような利子りし率りつ決定けっていのメカニズムは古典こてん派は経済けいざい学がくの体系たいけいを形成けいせいする一ひとつの重要じゅうような構成こうせい要素ようそであった。

　次つぎに利子りし率りつに関かんする貨幣かへい利子りし理論りろんはJ.M.ケインズの流動りゅうどう性せい選好せんこう理論りろんによって代表だいひょうされるものであり，金融きんゆう資産しさん市場いちばの均衡きんこうが利子りし率りつを決定けっていするものと考かんがえる理論りろんである。ケインズの理論りろんでは貨幣かへいは安全あんぜんでしかも便利べんりな価値かち貯蔵ちょぞう手段しゅだんとして人々ひとびとによって需要じゅようされる。そして利子りし率りつはそのような貨幣かへいの便利べんりさを享受きょうじゅするために，利子りしを生うむその他たの金融きんゆう資産しさんを保有ほゆうすることを断念だんねんするという形かたちで支払しはらわなければならない対価たいかとみなされる。貨幣かへい保有ほゆうの対価たいかとみなされる利子りし率りつの上昇じょうしょう（低下ていか）は人々ひとびとの貨幣かへい需要じゅようを減少げんしょう（増加ぞうか）させると考かんがえられるので，中央ちゅうおう銀行ぎんこうによって決定けっていされる貨幣かへい供給きょうきゅう量りょうにちょうど需要じゅようが一致いっちするように利子りし率りつが変化へんかしなければならない。このようにして決定けっていされる利子りし率りつが企業きぎょうの投資とうしなどの支出ししゅつ活動かつどうに影響えいきょうを及およぼすのであり，投資とうしと貯蓄ちょちくの均等きんとう化かを達成たっせいする調整ちょうせい因子いんしとして利子りし率りつはなんらの役割やくわりも果はたさない。

　このような貨幣かへい利子りし理論りろんは，トービンJames Tobin（1918-2002）の理論りろんなどより複雑ふくざつな分析ぶんせき枠組わくぐみへと拡張かくちょうされることによって，今日きょうでは正統せいとう的てきな理論りろんとして一般いっぱんに受うけ入いれられている。

利子りし率りつの期間きかん構造こうぞう

利子りし率りつはさまざまの金融きんゆう資産しさんから獲得かくとくできる金銭きんせん的てきな収益しゅうえきを計はかる尺度しゃくどとみることができる。しかし，現実げんじつには満期まんきの非常ひじょうに短みじかいものからきわめて長ながいものまで金融きんゆう資産しさんは千差万別せんさばんべつである。短期たんき金融きんゆう資産しさんがもたらす短期たんき利子りし率りつと長期ちょうきの金融きんゆう資産しさんがもたらす長期ちょうき利子りし率りつとの間あいだにはほぼ次つぎのような関係かんけいが成立せいりつするものと考かんがえられる。投資とうし家かたちは資金しきんを長期間ちょうきかん運用うんようするために，長期ちょうき金融きんゆう資産しさんを保有ほゆうすることもできるし，短期たんき金融きんゆう資産しさんを順次じゅんじ買かい替かえつづけることもできる。前者ぜんしゃの場合ばあいに投資とうし家かの獲得かくとくする収益しゅうえき率りつは長期ちょうき利子りし率りつで表現ひょうげんされ，後者こうしゃの場合ばあいに予想よそうされる収益しゅうえき率りつは現在げんざいから将来しょうらいにかけての短期たんき利子りし率りつの予想よそう系列けいれつの平均へいきん値ちで近似きんじできる。もし，投資とうし家かにとって，それら二ふたつの投資とうし形態けいたいが同値どうちであるならば，金融きんゆう市場いちばの均衡きんこうにおいては，それらの収益しゅうえき率りつは一致いっちしていなければならない。したがって均衡きんこうにおける長期ちょうき利子りし率りつは，現在げんざいから将来しょうらいにかけての短期たんき利子りし率りつの予想よそう平均へいきん値ちにほぼ等ひとしくなるであろう。これは，利子りし率りつの期間きかん構造こうぞうに関かんする期待きたい仮説かせつと呼よばれる考かんがえ方かたである。

　この考かんがえ方かたに従したがえば，現時点げんじてんにおける長期ちょうき利子りし率りつと短期たんき利子りし率りつとの相対そうたい的てき関係かんけいは投資とうし家かたちによって予想よそうされる将来しょうらいの短期たんき利子りし率りつの系列けいれつに依存いぞんする。たとえば，将来しょうらい，短期たんき利子りし率りつが下落げらくするであろうという予想よそうが一般いっぱん的てきである場合ばあいには，現時点げんじてんにおける長期ちょうき利子りし率りつは相対そうたい的てきに短期たんき利子りし率りつよりも低ひくくなるであろう。もちろん，以上いじょうの説明せつめいは金融きんゆう市場いちばで必要ひつようなさまざまの取引とりひき費用ひようを無視むししているし，投資とうし家かが長期ちょうき金融きんゆう資産しさんの保有ほゆうに伴ともなう危険きけんを考慮こうりょしないと仮定かていされている。これらの要因よういんを認みとめると，長期ちょうき利子りし率りつと短期たんき利子りし率りつとの関係かんけいに関かんする仮説かせつは若干じゃっかん修正しゅうせいされなければならない。たとえば，短期間たんきかんだけ資金しきんを運用うんようしようとする投資とうし家かにとって，長期ちょうき資産しさんを保有ほゆうする場合ばあいには，それをいずれ市場いちばで売却ばいきゃくしなければならない。それがどのような価格かかくで売却ばいきゃくしうるかは，現時点げんじてんでは不確ふたしかである。確実かくじつな資産しさん運用うんようを望のぞむ投資とうし家かたちは，その場合ばあい，短期たんき資産しさんを保有ほゆうしようとする傾向けいこうがあるだろうから，彼かれらの長期ちょうき資産しさん保有ほゆうを誘引ゆういんするためには長期ちょうき利子りし率りつよりも高たかくなければならないであろう。長期ちょうき利子りし率りつと短期たんき利子りし率りつとのこの較差かくさは危険きけんプレミアムと呼よばれる。

実質じっしつ利子りし率りつと名目めいもく利子りし率りつ

物価ぶっか上昇じょうしょう，すなわちインフレーションは利子りし率りつにも影響えいきょうを与あたえる。ほとんどの金融きんゆう資産しさんの利子りし率りつや償還しょうかん額がく等とうの条件じょうけんは貨幣かへい単位たんいで定さだめられる。その場合ばあい，利子りし率りつは名目めいもく利子りし率りつと呼よばれる。ところで，インフレによって貨幣かへいの購買こうばい力りょくが減耗げんもうする場合ばあいには，そのような金融きんゆう資産しさんの保有ほゆう者しゃは損失そんしつをこうむり，他方たほうそれを債務さいむとして発行はっこうする債務さいむ者しゃは利益りえきを得えることになる。金融きんゆう取引とりひきに参加さんかする主体しゅたいが貨幣かへい単位たんいではなく実物じつぶつの財ざい単位たんいで取引とりひき条件じょうけんを考慮こうりょするという意味いみで〈合理ごうり的てき〉であるとすれば，利子りし率りつは予想よそうされる物価ぶっか上昇じょうしょうを織おり込こんで決定けっていされるであろう。すなわち，物価ぶっか上昇じょうしょうが予想よそうされる場合ばあいには，名目めいもく利子りし率りつが引ひき上あげられ，貨幣かへいの購買こうばい力りょく減耗げんもうの効果こうかが減殺げんさいされる。実際じっさい，インフレが進行しんこうしている時期じきには，名目めいもく利子りし率りつは高たかい水準すいじゅんへ上昇じょうしょうする一般いっぱん的てき傾向けいこうがみられる。名目めいもく利子りし率りつから予想よそうされる物価ぶっか上昇じょうしょう率りつを差さし引ひいた値ねを実質じっしつ利子りし率りつと呼よぶ。もし，予想よそう物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの変化へんかが速すみやかに名目めいもく利子りし率りつの変化へんかに反映はんえいされるならば，実質じっしつ利子りし率りつは一定いっていの水準すいじゅんにとどまるであろう。予想よそう物価ぶっか上昇じょうしょう率りつの変化へんかが完全かんぜんに名目めいもく利子りし率りつの変化へんかに反映はんえいされるか否ひかは，これまでのところ決着けっちゃくのついていない問題もんだいである。なお利子りし率りつについては〈貸付かしつけ資金しきん説せつ〉〈節ふし欲ほっ説せつ〉〈待まち忍にん説せつ〉の項こうも参照さんしょうされたい。
執筆しっぴつ者しゃ：堀内ほりうち 昭義あきよし