史跡しせき（読よみ）シセキ

一般いっぱんには，遺跡いせきと同義どうぎで，明治めいじ時代じだい末期まっき以降いこう現在げんざいでもその意味いみで使用しようされていることが多おおいが，1919年ねんの〈史蹟しせき名勝めいしょう天然てんねん紀き念ねん物ぶつ保存ほぞん法ほう〉以降いこうは，遺跡いせきのうち，特とくに法律ほうりつにもとづいて指定してい保護ほごされているものを指さすようになり，現在げんざいでは狭義きょうぎの史跡しせきは，国宝こくほう，重要じゅうよう文化財ぶんかざい，名勝めいしょう，天然記念物てんねんきねんぶつなどとならぶ，文化財ぶんかざいの種別しゅべつの一ひとつとなっている。

　法律ほうりつによる史跡しせき保護ほごの制度せいどは，〈史蹟しせき名勝めいしょう天然てんねん紀き念ねん物ぶつ保存ほぞん法ほう〉により重要じゅうような遺跡いせきの史跡しせき指定していと，その破壊はかいや現状げんじょう変更へんこうに対たいする規制きせいその他たの制度せいどが定さだめられたのを初はじめとし，50年ねん，文化財ぶんかざい保護ほご法ほうに制度せいどの基本きほんが引ひき継つがれ，現在げんざいに至いたっている。それによると史跡しせきは，遺跡いせきのうち，規模きぼ，遺構いこうの状況じょうきょう，出土しゅつど遺物いぶつ等とうにおいて歴史れきし上じょう・学術がくじゅつ上じょうの価値かちが高たかく，日本にっぽんの歴史れきしの正ただしい理解りかいのために欠かくことのできないものについて，文部もんぶ大臣だいじんが文化財ぶんかざい保護ほご審議しんぎ会かいに諮問しもんし，対象たいしょう地域ちいきを特定とくていして官報かんぽうに告示こくじし，その土地とち等とうの所有しょゆう者しゃ，占有せんゆう者しゃに通知つうちして行おこなわれる。史跡しせきのうち特とくに価値かちが高たかく，日本にっぽんの文化ぶんかの象徴しょうちょうであるものは，同様どうようの手続てつづきにより特別とくべつ史跡しせきに指定していされる。84年ねん10月がつ末まつ現在げんざい，史跡しせきの数かずは1211件けん，うち56件けんが特別とくべつ史跡しせきである。指定してい理由りゆうの分類ぶんるいは9項こうにわたってなされている。その実例じつれいとともに表ひょうを参照さんしょうされたい。

　これら史跡しせきの現状げんじょうを変更へんこうし，またはその保存ほぞんに影響えいきょうを及およぼす行為こういをしようとするときは，文化庁ぶんかちょう長官ちょうかんの許可きょかを得えなければならない。無む許可きょかの現状げんじょう変更へんこう等とうについては，罰則ばっそくが適用てきようされ，原状げんじょう回復かいふくが命めいぜられることがある。許可きょかが得えられない場合ばあいには損失そんしつ補償ほしょうが行おこなわれることとされているが，実態じったい上じょうこのような場合ばあいを含ふくめて，規制きせいを受うけている土地とち等とうをおもに地方ちほう公共こうきょう団体だんたいが買かい取とる措置そちがとられる。さらに史跡しせきの所在しょざい，範囲はんい，意義いぎ等とうを明示めいじするための標識ひょうしき類るい，あるいは損壊そんかい，荒廃こうはいを予防よぼうする各種かくしゅ施設しせつの設置せっちが行おこなわれ，また損壊そんかい部分ぶぶんの修理しゅうり，永久えいきゅう保存ほぞんのための民有みんゆう地ちの買取かいとり等とうも実施じっしされ，ときにはその活用かつようをはかるために整備せいびし，史跡しせき公園こうえんなどとして公開こうかいすることも行おこなわれている。この種たねの事業じぎょうは，通常つうじょう，文化庁ぶんかちょう長官ちょうかんによって管理かんり団体だんたいとして指定していされている地方ちほう公共こうきょう団体だんたい等ひとしまたはその史跡しせきの所有しょゆう者しゃが実施じっしし，多おおくの場合ばあい国こくによる補助ほじょが行おこなわれている。なお史跡しせきと特別とくべつ史跡しせきの間あいだには，保護ほご上じょうの差異さいはほとんどない。

　国くにによる史跡しせき指定していのほかに，地方ちほう公共こうきょう団体だんたいにおいても，その地方ちほうとして重要じゅうような遺跡いせきにつき，文化財ぶんかざい保護ほごに関かんする条例じょうれいによって教育きょういく委員いいん会かいが史跡しせきの指定してい・保護ほごを図はかっている。

　遺跡いせきの保護ほごは，その原則げんそくからみると，日本にっぽんの史跡しせきのようにそのうち特とくに重要じゅうようなものについて特定とくていし，その厳正げんせい保存ほぞんを図はかろうとする方法ほうほうと，イギリスや北欧ほくおう諸国しょこくのように，すべての遺跡いせきを登録とうろくし，その保存ほぞんに影響えいきょうを及およぼす問題もんだいが発生はっせいするたびに，対処たいしょ・方途ほうとを検討けんとうする方法ほうほうとがある。しかし，史跡しせき指定してい方式ほうしきのみだと，史跡しせき以外いがいの遺跡いせきの軽視けいしにおちいりがちだし，登録とうろく方式ほうしきのみだと，すべての遺跡いせきの保存ほぞんが不可能ふかのうな現実げんじつのなかでは，遺跡いせき破壊はかいの歯止はどめがなくなることも少すくなくない。いずれにしても一長一短いっちょういったんがある。日本にっぽんの遺跡いせき保護ほごは，史跡しせき指定していと並行へいこうして，すべての遺跡いせきを登録とうろくすることも行おこなわれていて，両りょう方式ほうしきを折衷せっちゅうしたものといえる。
→遺跡いせき
執筆しっぴつ者しゃ：和田わだ 勝彦かつひこ＋田中たなか 琢