〈文化財を保存し,且つ,その活用を図り,もつて国民の文化的向上に資するとともに,世界文化の進歩に貢献すること〉(1条)を目的とする法律(1950公布)。この法律にいう文化財は,有形文化財,無形文化財,民俗文化財,記念物および伝統的建造物群に分かれる(2条)。文部大臣は,〈有形文化財のうち重要なもの〉を重要文化財に,〈重要文化財のうち世界文化の見地から価値の高いもので,たぐいない国民の宝たるもの〉を国宝に指定することができる(27条)。また,文部大臣は,〈無形文化財のうち重要なもの〉を重要無形文化財に,〈有形の民俗文化財のうち特に重要なもの〉を重要有形民俗文化財に,〈無形の民俗文化財のうち特に重要なもの〉を重要無形民俗文化財に,〈記念物のうち重要なもの〉を史跡,名勝または天然記念物(〈史跡名勝天然記念物〉と総称する)に,かつ,〈史跡名勝天然記念物のうち特に重要なもの〉を特別史跡,特別名勝または特別天然記念物に,それぞれ指定することができる(特別史跡名勝天然記念物。56条の3,56条の10,69条)。なお,伝統的建造物群についても,文部大臣による重要伝統的建造物群保存地区の選定が行われる(83条の4)。
このようなそれぞれの指定が行われると,当該文化財等は,保存のための管理について規制を受けるとともに,種々の保護策の対象となる。たとえば,このことを重要文化財についてみると,文化庁長官は,重要文化財の所有者等に対し,重要文化財の管理に関し必要な指示ができ,その所有者等は,この法律,文部省令,文化庁長官の指示に従ってこれを管理しなければならない。重要文化財の所有者,管理責任者の変更,滅失・毀損,所在の変更,修理は届出を必要とし,また,特定の場合における公開の勧告または命令,現状変更等の許可制,輸出の禁止なども定められている。他方,重要文化財の必要な修理または管理については,国庫による補助が行われ,かつ,その公開に起因した損失についての補償が認められる(27条以下)。重要文化財の保存に必要があるときには,文化庁長官は調査をすることもできる(54,55条)。
さらに,〈文部大臣は,重要文化財以外の有形文化財で建築物であるもののうち,その文化財としての価値にかんがみ保存および活用のための措置が必要とされるもの〉を,関係地方公共団体の意見を聴いて,文化財登録原簿に登録することができる(56条の2)。この登録有形文化財についても,その管理等について一定の規制がある(56条の2の2~56条の2の11)。
文部大臣は,文化財の保存のために欠くことのできない伝統的技術または技能で保存の措置を講ずる必要があるものを選定保存技術として選定し,必要な援助等を行うものとされている(83条の7~83条の12)。
なお,文部大臣または文化庁長官の諮問に応じて文化財の保存および活用に関する重要事項を調査審議し,あるいはこれらの事項について文部大臣または文化庁長官に建議する諮問機関として,文部省に,5人の委員で組織する文化財保護審議会がおかれるが,文部大臣または文化庁長官は,国宝または重要文化財の指定とその解除等の特定の事務の処理については,あらかじめ,文化財保護審議会に諮問しなければならない(84条,84条の2)。
沿革
日本における明治時代以降の文化財保護法制は,1871年(明治4)の太政官布告〈古器旧物保存方〉に始まるが,文化財の保存と公開,そのための補助という文化財保護行政の基本的内容を一応もりこんだのは,97年の古社寺保存法が最初であり,さらにその後,史蹟名勝天然紀念物保存法(1919公布)が制定された。
昭和に入って,古社寺保存法に代わって古社寺所有の物件以外にまで対象を広げた国宝保存法(1929公布)が制定され,さらに美術品の海外流出を防ぎ,適正な保存を図るための〈重要美術品等の保存に関する法律〉(1933公布)が制定され,旧時代の文化財保護法制は格段の進展をみるに至った。
しかし,国宝保存法,重要美術品等の保存に関する法律,史跡(蹟)名勝天然紀念物保存法も,第2次大戦後の時代の推移の中で不備がめだつようになり,とくに1949年の法隆寺金堂の炎上による壁画の焼失を契機に,文化財保護行政の強化・充実が主張され,現行の文化財保護法の成立をみるに至ったのである。この法律は,文化財保護に関する包括的統一立法として,旧来に比べて保護の対象を広げ,たとえば埋蔵文化財をも含める(57条以下)などのほか,前述のような保存と公開およびそのための補助について詳細に定めたのである。この法律によって上述の三つの旧法および関係勅令・政令等が廃止されたことはいうまでもない。
執筆者:室井 力