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山(ヤマ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

やまみ)ヤマ

デジタル大辞泉だいじせんやま」の意味いみみ・例文れいぶん類語るいご

やま【やま


陸地りくち表面ひょうめん周辺しゅうへん土地とちよりもたかがったところ日本にっぽんでは古来こらい草木くさきしげり、さまざまなめぐみをもたらす場所ばしょとしてとらえる。また、ふるくはかみ神聖しんせい地域ちいきとして、信仰しんこう対象たいしょう修行しゅぎょうとされた。「やまのぼる」「うみこうやまこう
鉱山こうざん鉱物こうぶつ資源しげん採掘さいくつするための施設しせつ。また、採掘さいくつぎょう。「やま閉鎖へいさする」

すな1地形ちけいしたもの。「ちくやま」「すなやま
祭礼さいれい山車だしだしで、1せてつくったかざものさんさんとがある。また、山鉾やまぼこやまぼこ総称そうしょう
のう歌舞伎かぶきで、たけわくったまくに、ささ枝葉えだはをかぶせたつくもの
たかがった状態じょうたいを、1になぞらえていうかたり
たかげたもの。「ほんやまくずれる」「洗濯せんたくぶつやま」「やままれた荷物にもつ
ぶつ一部いちぶ周辺しゅうへんよりも突出とっしゅつしているところ。「ねじのやまがつぶれる」「帽子ぼうしやま
振動しんどう波動はどうで、周囲しゅういよりも波形はけいたかいところ。「計測けいそくされた音波おんぱやま部分ぶぶん
たくさんあつまっていることやおおいことを、1になぞらえていうかたり。「見物人けんぶつにんやま」「宿題しゅくだいやま
進行しんこうする物事ものごとなかで、たかまって頂点ちょうてんたっする部分ぶぶん1にたとえていうかたり
ごときのうえで、それをどうのりこえるかで成否せいひまるという、重要じゅうよう部分ぶぶん。「病状びょうじょう今日きょう明日あしたやまだ」「仕事しごとやまえる」→とうげとうげ
文芸ぶんげいなどで、展開てんかいのうえでもっと重要じゅうよう部分ぶぶんもっともおもしろいところや、もっと関心かんしんをひく部分ぶぶん。「この小説しょうせつにはやまがない」
できることの上限じょうげんをいうかたり精一杯せいいっぱいせきやま
学問がくもん棄って…、ちょう浮気うわき妄想もうそう恋愛れんあい小説しょうせついてたいが―だから」〈魯庵社会しゃかい百面相ひゃくめんそう
見込みこみのうすさや不確ふたしかさを、鉱脈こうみゃくてるのがうんまかせだったことにたとえていうかたり
まんいち幸運こううんをあてにすること。
なんだか会社かいしゃはじめるとか、はじめたとかうことをいたが、そんな―をって」〈秋声しゅうせいあし迹〉
偶然ぐうぜん的中てきちゅうをあてにした予想よそう山勘やまかん。「試験しけんやまはずれる」
犯罪はんざい事件じけんおも警察けいさつやマスコミがもちいる。「おおきなやまがける」
10 売切うりきれ。品切しなぎれ。おも飲食いんしょくてんもちいる。
11おお山中さんちゅうにつくられたところから》陵墓りょうぼ山陵さんりょう
わがいもうとわぎもこりにし―を便びんよすかとそおもふ」〈まんよんはちいち
12 たかくてゆるぎないもの。たよりとなる崇高すうこうなもの。
笠取かさとりの―とたのみしきみをおきてなみだあめれつつぞく」〈こうせん離別りべつ
13 てら。また、境内けいだい
はるかならず―にたりきゅうへ。あたら妙音みょうおん菩薩ぼさつなり」〈読・春雨はるさめ・樊噲〉
14 遊女ゆうじょ女郎じょろう
「―も太夫たゆう根引ねびきにすべし」〈浮・好色こうしょく盛衰せいすい
15 動植物どうしょくぶつめいうえいて、山野さんやにすんでいたり自生じせいしていたりするあらわす。「やまさる」「やまもも
比叡山ひえいざんひえいざんしょう。また、そこにある延暦寺えんりゃくじえんりゃくじのこと。園城寺おんじょうじおんじょうじを「てら」というのにたいするかたり
接尾せつび助数詞じょすうし
けたものをかぞえるのにもちいる。「いちやま300えん
やまとく山林さんりん鉱山こうざんかぞえるのにもちいる。
[しもせっ]青山あおやまあきらあきやま秋山あきやまのちあとやま石山いしやまいもうといもやまはいらずやま岩山いわやま姨捨おばすてうばすてやま海山みやま裏山うらやま大山おおやま奥山おくやまやまかたやまきむかなやまやま黒山くろやま小山こやま先山さきやま死出しでやま芝山しばやましばしばやま島山しまやまやましんしんやますそすそやま砂山すなやませきやま背山はいざんそでそでやまそまそまやまたからやまやま手向たむけたむやまきずけつきやまけんつるぎやま遠山とおやまゆかとこやまとめやまそとやま夏山なつやま螺子ねじねじやま野山のやま禿かぶろはげやまはだかやまはしやまはりやま針山はりやま春山はるやまやまさん一山ひとやま人山ひとやま冬山ふゆやま坊主山ぼうずやまぼたやまふかやまやまやせやま山山やまやまゆうやま雪山ゆきやま四方しほうよもやま
[類語るいご](1山岳さんがく高山たかやま小山こやま山山やまやま山並やまな連山れんざん連峰れんぽう山脈さんみゃく山塊さんかい山系さんけい山地さんち山岳さんがく地帯ちたい名山めいざん秀峰しゅうほう高峰こうほう最高峰さいこうほう高嶺たかね大山おおやま巨峰きょほう主峰しゅほう霊山れいざん霊峰れいほう/(2鉱山こうざん炭鉱たんこう金山かなやま銀山ぎんざん銅山どうざん炭坑たんこう/(6頂上ちょうじょう頂点ちょうてん絶頂ぜっちょう最高潮さいこうちょう山場やまばとうげピーククライマックス

さん【やま】[漢字かんじ項目こうもく

おとサンかん) セン() [くんやま
学習がくしゅう漢字かんじ]1ねん
〈サン〉
やま。「山河さんが山岳さんがく山脈さんみゃく山麓さんろくさんろく火山かざん高山たかやま登山とざん氷山ひょうざん満山みつやま遊山ゆさんゆさん
鉱山こうざん。「銅山どうざん廃山はいざん
寺院じいん。「山号さんごう開山かいさん本山もとやま
比叡山ひえいざん。「山門さんもん
〈セン〉やま。「須弥山しゅみせんしゅみせん
〈やま〉「山道さんどう裏山うらやま野山のやま雪山ゆきやま
のり]たか・たかし・のぶ
難読なんどく山梔子くちなしくちなし山茶花さざんかさざんかやま茱萸ぐみさんしゅゆ山車だしだしやまちゃつばき山毛欅ぶなぶな山羊やぎやぎ山桜桃ゆすらうめゆすらうめ山葵わさびわさび

さん【やま

接尾せつび《「ざん」とも》
やまけていう。「富士ふじやま」「六甲ろっこうやま
仏寺ぶつじ称号しょうごうえていう。山号さんごう。「比叡ひえいやま延暦寺えんりゃくじ」「きむりゅうやま浅草寺せんそうじ

むれ【やま×れい

古代こだい朝鮮ちょうせんから》やま
今城いましろいまきなるしょう―がうえに」〈ひとし明紀あきのり

せん【やま】[漢字かんじ項目こうもく

さん

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精選せいせんばん 日本にっぽん国語こくごだい辞典じてんやま」の意味いみみ・例文れいぶん類語るいご

やま【やま

  1. [ 1 ] 名詞めいし
    1. 火山かざん作用さよう浸食しんしょく作用さよう造山つくりやま作用さようによって地表ちひょうにいちじるしく突起とっきした部分ぶぶんたかくそびえたつ地形ちけい。また、それのおおあつまっている地帯ちたい山岳さんがく日本にっぽんでは古来こらいかみ神聖しんせい地域ちいきとされ、信仰しんこう対象たいしょうとされたり、仏道ぶつどうなどの修行しゅぎょうとされたりもした。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「いのちぜんけむじんたたみこも(たたみこも) 平群へぐりよるあさ(ヤマ)くましろ(くまかし)髻華うず(うず)に挿(さ)せ その」(出典しゅってん古事記こじき(712)ちゅう歌謡かよう)
    2. とく植林しょくりん伐採ばっさいとしての山林さんりん種々しゅじゅ産物さんぶつたり、狩猟しゅりょうしたりするための山林さんりん
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「板葺いたぶき黒木くろき屋根やねやま(やま)ちか明日あした日取ひどりてちてまゐらいむ」(出典しゅってん万葉集まんようしゅう(8Cよんななななきゅう)
      2. 阿彌陀あみだみねとてきこりするやまあり」(出典しゅってん随筆ずいひつ北越ほくえつゆき(1836‐42)はつ)
    3. 鉱石こうせき石炭せきたんなどを採掘さいくつする場所ばしょしょ施設しせつ鉱山こうざん
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「わきさしなりどもなまりのつきたる道具どうぐをとめおかれ、やまへは法度はっとこうあいだ」(出典しゅってん梅津うめづ政景まさかげ日記にっき慶長けいちょういちななねん(1612)さんがつはちにち)
      2. 「このこめみな鉱山こうざん(ヤマ)はいるんだせ」(出典しゅってん:あらくれ(1915)〈徳田とくた秋声しゅうせいよんはち)
    4. ( 墓地ぼちが、おお山中さんちゅう山麓さんろくいとなまれたところからいう ) 墓場はかば墳墓ふんぼ山陵さんりょう葬送そうそう。みやま。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「御山おやままいはべるを。言伝ことづてやときこきゅうふに」(出典しゅってん源氏物語げんじものがたり(1001‐14ごろ須磨すま)
    5. り、いしんでしてつくったもの。築山つきやま
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「もとの木立こだちやまのたたずまひ、おもしろきところなりけるを、いけしんひろくしなして、めでたくつくりののしる」(出典しゅってん源氏物語げんじものがたり(1001‐14ごろきりつぼ)
    6. たかがった状態じょうたい、またはそのものになぞらえていうかたり
      1. (イ) 種々しゅじゅのものを多数たすうまたは大量たいりょうげ、あるいはかさねた様子ようす。また、比喩ひゆてきにきわめてりょうおお様子ようすをいう。うずたかいかたち
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「やまとつもれる しきたへの まくらちりも」(出典しゅってん蜻蛉とんぼ日記にっき(974ごろじょう)
        2. 「そのこめは、蔵々ぞうぞうにやまをかさね」(出典しゅってん浮世草子うきよぞうし日本にっぽん永代えいたいぞう(1688)いち)
      2. (ロ) ものとつおこした状態じょうたい。また、その部分ぶぶん
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「鼈甲べっこうくしさ〈りゃくやま(ヤマ)恰好かっこうからなにから今風いまふうで」(出典しゅってん滑稽本こっけいぼん浮世うきよ風呂ふろ(1809‐13)さん)
      3. (ハ) かぶと(かぶと)はち(はち)
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「わがぶんをかぶとのやましたばりに」(出典しゅってん雑俳ざっぱいなますずき(1704))
      4. (ニ) やいと(きゅう)のあとのはれているところ。
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「かんぜなさ泣てにちやまをみる」(出典しゅってん雑俳ざっぱいやなぎ多留たるななきゅう(1824))
      5. (ホ) 吉原よしはら細見さいけんで、遊女ゆうじょ格付かくづけにしるす記号きごう入山にゅうざんがた(いりやまがた)
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「やまだのほしだのがおやじげせぬなり」(出典しゅってん雑俳ざっぱい川柳せんりゅうひょうまん句合くあわせ安永やすながよん(1775)さとしよん)
    7. 物事ものごと程度ていどがはなはだしいことのたとえ。程度ていどたか様子ようす
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「罪障ざいしょうやまにはいつとなく煩悩ぼんのうくもあつうして」(出典しゅってん光悦こうえつほん謡曲ようきょく東岸とうがん居士こじ(1423ごろ))
    8. 継続けいぞくまたは連続れんぞくしている物事ものごと頂点ちょうてんたっしたのを、頂上ちょうじょうにたとえていう。
      1. (イ) 文章ぶんしょう演芸えんげいなどで、そのおもしろさが最高潮さいこうちょうとなるところ。また、一般いっぱん物事ものごとがいちばんよいとかんぜられるところ。絶頂ぜっちょう。クライマックス。
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「わかりもせぬ狂言きょうげんを、あそこがやまだの爰がはらだのと」(出典しゅってん滑稽本こっけいぼんきゃくしゃ評判ひょうばん(1811)じょう)
      2. (ロ) ことりゆきにおいて、もっとも重大じゅうだいなところ。こと成否せいひがきまるところ。山場やまば
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「《経歴けいれきしょ》の作成さくせい手続てつづきのヤマだとあなたはいった」(出典しゅってん:パルタイ(1960)〈倉橋くらはし由美子ゆみこ〉)
      3. (ハ) 病気びょうきのもっとも危険きけん段階だんかいとうげ近世きんせいには、とく疱瘡ほうそう(ほうそう)についていう。→やまがるやまげる
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「れともやまはまたはるか也 みしかにおほしめすなよ此もかさ〈一正かずまさ〉」(出典しゅってん俳諧はいかいいぬしゅう(1633)いち)
      4. (ニ) 可能かのうなかぎり。せいいっぱいのところ。せきやま
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「『はらのうへを、めのじにしてくんなんし』『いんや。はらがやまだ』」(出典しゅってん洒落本しゃれぼんちぎりじょうかいとらまき(1778)いち)
    9. ( たかくゆるがないところから ) あおぎみるもの、たよりとするもの、または、目標もくひょうとするもののたとえ。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「かさとりのやまとたのみしきみをおきてなみだあめにぬれつつぞく〈閑院大君おおきみ〉」(出典しゅってんこうせん和歌集わかしゅう(951‐953ごろ離別りべついちさんろく)
    10. 祭礼さいれい山車だし(だし)で、かたちつくったかざもの京都きょうと祇園祭ぎおんまつりでは、ほこ(ほこ)よりもおおむね小型こがたで、真木まき(しんぎ)てず、構造こうぞう簡単かんたんなものをいう。そのおおくはうえまつて、根元ねもとをかたどったものをつくる。舁(か)さんと曳(ひ)さんとの種類しゅるいがある。また、山鉾やまぼこ総称そうしょう
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「祭礼さいれいおこなふへしとて、神輿しんよ造立ぞうりゅうしたてまつる〈りゃくやまをつくり、桙をかさる」(出典しゅってん御伽草子おとぎぞうしづけ喪神そうしん室町むろまち時代じだい小説しょうせつしゅう所収しょしゅう)(室町むろまちちゅう))
    11. 能楽のうがく歌舞伎かぶきなどのつくもの一種いっしゅたけんだわく引回ひきまわしとしょうするむらさき濃緑こみどりしょくまくり、そのうえささ枝葉えだはをかぶせて、さんづかあらわすもの。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「やま(ヤマ)造物ぞうぶつ四本柱しほんばしらかみこしらえへし蜘のさんぽういちめんにかかりある」(出典しゅってん歌舞伎かぶき蜘(1881))
    12. 紋所もんどころやまかたち、または漢字かんじの「やま」を図案ずあんしたもの。みっさんまる遠山とおやまなどがある。
      1. 三つ山@丸に遠山
        みっやま@まる遠山とおやま
    13. てら。また、境内けいだい
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「いちじはじ、じはよんじ、ひゃくじはせんじと、さとらせたまへば、やまいちばんの、がくしゃうとぞ、きこえたまふ」(出典しゅってん説経節せっきょうぶし・をくり(御物ぎょぶつ絵巻えまき)(17Cなか)
      2. (イ) とくに、江戸えどしば増上寺ぞうじょうじ寺内てらうちおも品川しながわ遊里ゆうりでいったかたり
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「やまうみへ寐にくだり面白おもしろさ」(出典しゅってん雑俳ざっぱいやなぎ多留たるいちよん(1837))
      3. (ロ) 江戸えど深川ふかがわ富岡八幡宮とみおかはちまんぐう別当べっとう永代えいたいてら)の境内けいだいとくに、そこにあった二軒茶屋にけんちゃや
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「ひさしうお出会であいいたさぬ。やまでのんだままかな」(出典しゅってん洒落本しゃれぼん辰巳たつみえん(1770))
      4. (ハ) 江戸えど浅草寺せんそうじ山内やまうち
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「てめえこのころぢゃアさん(ヤマ)おんなにかかって、ため親方おやかたほうらねえさうだが」(出典しゅってん歌舞伎かぶき東海道とうかいどう四谷よつや怪談かいだん(1825)序幕じょまく)
    14. いのしし鹿しかなどをとらえるために仕掛しかけるとしあな。〔にち葡辞しょ(1603‐04)〕
    15. 山伏やまぶししょう
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「気鬱きうつやまのひたいも談合だんごう」(出典しゅってん雑俳ざっぱいじゅうはちおおやけ(1729))
    16. 遊女ゆうじょ女郎じょろう
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「こう明日あしたから、祇薗ななにちつづけて、やま太夫たゆう根引ねびきにすべし」(出典しゅってん浮世草子うきよぞうし好色こうしょく盛衰せいすい(1688)さん)
    17. ( 鉱脈こうみゃくさがてることが、投機とうきてき仕事しごとであるところから、からてんじて )
      1. (イ) おもいがけない幸運こううんをあてにすること。万一まんいち幸運こううんをねらってことおこなうこと。投機とうきてき仕事しごと。また、その対象たいしょうとなる物事ものごと。やまごと。→さんちゅう(あた)るやまかる
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「おほきにくは、まったくやまがそんじてのこととみへたり」(出典しゅってん洒落本しゃれぼんとろけ筌枉かい(1770)怨情)
      2. (ロ) たしかな根拠こんきょがなく、偶然ぐうぜん的中てきちゅうをあてにしてする予想よそうとくに、学生がくせいなどが試験しけん出題しゅつだいされる箇所かしょ予想よそうすること。また、その箇所かしょ。→やまける
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「過去かこがかうであるから未来みらいもかうであらうぞと臆測おくそくするのは、〈りゃく一種いっしゅやま(ヤマ)である」(出典しゅってんひゃくじゅうにち(1906)〈夏目なつめ漱石そうせきいちいち)
      3. (ハ) せかけや誇張こちょうなどで他人たにんをあざむくこと。いんちき。はったり。〔俚言りげんしゅうらん(1797ごろ)〕
        1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「かねぬすみをしてげたとせてひゃくりょう持出もちだしたのがこっちのやま(ヤマ)」(出典しゅってん歌舞伎かぶき早苗さなえとり伊達だて聞書ききがき実録じつろく先代せんだいはぎ)(1876)ろくまく)
    18. 売切うりきれ。品切しなぎれ。おも飲食いんしょくぶつについていう。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「綿めんたかいの。ぜにやすいの手代てだいども寄合よりあいて、勘定かんじょうごうぬの引のやまの、そんなことそら吹風」(出典しゅってん浄瑠璃じょうるりなつさい浪花なにわあきら(1745)いち)
    19. 犯罪はんざい事件じけんをいう俗語ぞくご
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「事件じけん(ヤマ)迷宮めいきゅうりくさいな」(出典しゅってんくろい穽(1961)〈水上みずかみつとむいち)
  2. [ 2 ]
    1. [ いち ] 比叡山ひえいざん延暦寺えんりゃくじしょう天台てんだい霊場れいじょうとしての比叡山ひえいざん
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「やま法師ほうしのもとへつかはしける をすててやまにいるひとやまにてもなおうきときはいづちゆくらん〈凡河内躬恒おおしこうちのみつね〉」(出典しゅってん古今ここん和歌集わかしゅう(905‐914)ざつきゅうろく)
    2. [ ] ( やま地区ちくであるところから ) 江戸えど遊里ゆうり新宿しんじゅく異称いしょう
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「深川ふかがわ(かは)さんねん吉原よしはら(さと)さんとせ、新宿しんじゅく(ヤマ)さんねん」(出典しゅってん洒落本しゃれぼん愚人ぐじんぜいかん居続いつづけ借金しゃっきん(1783)じょ)
  3. [ 3 ] 接尾せつび
    1. やまとく山林さんりん鉱山こうざんかぞえるのにもちいる。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「一山ひとやまやまさん山越やまごおくいたるはちじゅう椿つばき」(出典しゅってん俚謡りよう選炭せんたんぶし大正たいしょうごろ福岡ふくおか日本にっぽん民謡みんようしゅう所収しょしゅう))
    2. けたものをかぞえるのにもちいる。「みかんいちやまひゃくえん
  4. [ 4 ] 造語ぞうご要素ようそ
    1. 動植物どうしょくぶつうえにつけて、それがどう種類しゅるいまたは類似るいじのものにして、野性やせいのもの、あるいは山地さんちさんするものであることをあらわす。「やますげ(山菅やますが)」「やまどり(山鳥やまどり)」「やまもも(山桃やまもも)」など。
    2. 動詞どうし形容詞けいようしなどにえて、しゃれていうかたりとく意味いみはない。近世きんせい通人つうじんあいだもちいられた。
      1. [初出しょしゅつ実例じつれい]「どふぞしてめしいちっはいはたらけやまは、出来できまいかの」(出典しゅってん洒落本しゃれぼんみなみねや雑話ざつわ(1773)こわつとむからだ)

さん【やま

  1. [ 1 ] 名詞めいし 袞龍(こんりょう)御衣おんぞ天子てんしもちいる礼服れいふく)の模様もようひとつ。
  2. [ 2 ] 接尾せつび ( 「ざん」とも )
    1. やまにつけていうかたり。「富士山ふじさん」「磐梯山ばんだいさん」「六甲山ろっこうざん」「大雪山たいせつざん」など。
    2. 仏寺ぶつじ称号しょうごうえていうかたり山号さんごう(さんごう)。「比叡山ひえいざん」「高野たかのさん」など。

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改訂かいてい新版しんぱん 世界せかいだい百科ひゃっか事典じてんやま」の意味いみ・わかりやすい解説かいせつ

やま (やま)

地表ちひょう個々ここ突起とっきをいい,山地さんち地表ちひょうのうち複雑ふくざつ起伏きふくひろがっているやま集合しゅうごうする部分ぶぶんをいう。標高ひょうこう最高さいこうはヒマラヤのエベレスト(8848m)である。やまとはかならずしもたかさの大小だいしょうだけではなく,相対そうたいてきたかみをし,かつ山頂さんちょうかこ斜面しゃめんとの組合くみあわせでできている地形ちけいをいう。

 標高ひょうこうだけで高山たかやま(3000m以上いじょう),中山なかやま(1000~2000m),ていやま(1000m以下いか)とする区分くぶんもあるが,主要しゅよう山稜さんりょうとそれに付随ふずいする主要しゅようたにとのあいだ高度こうどしめされる起伏きふくりょう大小だいしょうしたがって,山地さんちだい起伏きふく山地さんち起伏きふくりょう1800m以上いじょう),ちゅう起伏きふく山地さんち(900~1800m),しょう起伏きふく山地さんち(600~900m),丘陵きゅうりょう(150~600m)とする区分くぶんがある(アメリカの地理ちり学者がくしゃトレワーサによる)。これは世界せかい山地さんち対象たいしょうにした区分くぶんなので,日本にっぽん山地さんちたいしては上記じょうき区分くぶん基準きじゅんげ,だい起伏きふく(1000m以上いじょう),ちゅう起伏きふく(500~1000m),しょう起伏きふく(150~500m),丘陵きゅうりょう(50~150m)のようにしたほうてはめやすい。後者こうしゃによるとたとえば赤石あかし山地さんちだい起伏きふく鈴鹿すずか山地さんちちゅう起伏きふく阿武隈あぶくま山地さんち西にしはんしょう起伏きふく比企ひき丘陵きゅうりょう丘陵きゅうりょうといったようにあらわされる。

 山地さんちは,起伏きふく山稜さんりょう配列はいれつ平面へいめんがた特色とくしょくなどから山脈さんみゃく山系さんけい山塊さんかい高原こうげんなどとばれる場合ばあいがあるが,〈山地さんち〉はこれらを包括ほうかつする概念がいねんといってよい。また環境かんきょう要素ようそとして地形ちけいかんがえる場合ばあい平地ひらち平野へいや),盆地ぼんち相対そうたいする地形ちけい地域ちいきが〈山地さんち〉である。〈山地さんち〉をやや限定げんていしてもちいるときは,火山かざん高原こうげん丘陵きゅうりょうのぞかれる。火山かざん火山かざん活動かつどうによってしょうじた起伏きふくであり,高原こうげんひろ範囲はんいにわたってほぼ等量とうりょう地盤じばん隆起りゅうき運動うんどうつまりづくりりく運動うんどうこうむった結果けっかしょうじたたいじょう起伏きふくである。これにして山地さんちかぎられたせま範囲はんいはげしい差別さべつてき地盤じばん運動うんどう(これを造山つくりやま運動うんどうという)がくわえられ,さらにそぎ浸食しんしょくともなって起伏きふくいちじるしくなった部分ぶぶんである。また,山地さんち造山つくりやま運動うんどうによる断層だんそう褶曲しゅうきょくなどをうけて一般いっぱん地質ちしつ構造こうぞう複雑ふくざつである。すなわち狭義きょうぎには,山地さんちといった場合ばあい造山つくりやま運動うんどう結果けっかしょうじた地質ちしつ構造こうぞう複雑ふくざつ起伏きふくをいう。丘陵きゅうりょう起伏きふくりょうちいさく,そのため地形ちけい環境かんきょうことなるので一応いちおう区別くべつされる。

 アルプス,ヒマラヤをはじめ世界せかいだい山脈さんみゃくおおくは,地殻ちかく運動うんどうによるよこあつりょくによって地層ちそう褶曲しゅうきょくさせられ,さらにたわわきょく運動うんどうにより隆起りゅうきした〈褶曲しゅうきょく山脈さんみゃく〉である。日本にっぽん列島れっとう巨視的きょしてきには褶曲しゅうきょく山脈さんみゃくであるが,断層だんそう発達はったつ顕著けんちょで,局部きょくぶてきには断層だんそうがけによってさかいされた〈かたまり山地さんち〉のれいおおい。六甲山地ろっこうさんち兵庫ひょうご),木曾きそ山脈さんみゃく長野ながの),生駒山地いこまさんち大阪おおさか奈良なら)などがそのれいである。また奥羽おうう山脈さんみゃく知床しれとこ半島はんとうのように,造山つくりやま運動うんどうともな火山かざん活動かつどうにより,山地さんち主脈しゅみゃく沿って火山かざんれつじょうなら場合ばあいがある。さらに日光にっこう火山かざんぐん八ヶ岳やつがだけ火山かざんぐんなどのように,火山かざん群集ぐんしゅうしてひろ面積めんせきめたりするので,〈火山かざん山地さんち〉を区別くべつしてもちいる必要ひつようがあるわけである。

 山地さんちにはこれを構成こうせいするおもな地質ちしつ岩石がんせきによって区分くぶんする呼名よびながある。たとえば六甲山地ろっこうさんち木曾きそ山脈さんみゃくは〈はなコウがん山地さんち〉のれいで,はなコウがん特有とくゆう白色はくしょくやまたい塊状かいじょう山容さんよう特色とくしょくがある。また〈結晶けっしょう片岩かたいわ山地さんち〉はぼこ(みかぼ)山地さんち群馬ぐんま),大霧山おおぎりやま埼玉さいたま),四国しこく山地さんち北部ほくぶ徳島とくしま)などにみられ,特有とくゆう風化ふうか粘土ねんど起因きいんするすべりがみられる。北上ほくじょう山地さんち秩父山地ちちぶさんちなどは〈いにしえせいそう山地さんち〉,奥羽おうう山脈さんみゃく出羽山地でわさんちなどは〈だいさんそう山地さんち〉であり,それぞれ岩石がんせき硬軟こうなん反映はんえいして特色とくしょくのある山形やまがたしめしている。前者ぜんしゃぶしはおおまかではあるが稜線りょうせん一部いちぶが突兀(とつこつ)とし,後者こうしゃなる斜面しゃめん一方いっぽう小谷おたにきざまれやすく特徴とくちょうてきすべりがみられる。

 おもにその山地さんち構造こうぞうがつくられた造山ぞうざん時期じきによって山地さんち区分くぶんする場合ばあいもある。スコットランド山地さんちスカンジナビア山脈さんみゃく古生代こせいだい前半ぜんはんのカレドニア造山ぞうざんによってそのがいがたしょうじたので,これらをふくめてカレドニア山脈さんみゃくぶ。古生代こせいだいまつの〈ヘルシニア(バリスカン)造山ぞうざん〉によってしょうじたのはアパラチア山脈さんみゃく,ウラル山脈さんみゃくだいさんの〈アルプス造山つくりやま〉によってしょうじたのはアルプス,ヒマラヤなど現在げんざいみられるだい起伏きふく山地さんちのほとんどである。日本にっぽん山地さんち現在げんざいたかさにいたったのはアルプス造山つくりやまによるといってよい。奥羽おうう山脈さんみゃく出羽山地でわさんちなどを構成こうせいするだいさん紀中きちゅうしんみつるのグリーンタフそう海底かいていこうはす堆積たいせきぶつで,これがはげしい褶曲しゅうきょく深成岩しんせいがん貫入かんにゅうともな造山ぞうざん運動うんどうをうけたが,これを〈グリーンタフ造山つくりやま〉とぶ。この時期じき世界せかいてきなアルプス造山つくりやま時期じき一致いっちする。

 浸食しんしょく輪廻りんねせつにより,時間じかん経過けいかとともに山地さんち形態けいたい変化へんかするようすをひと年齢ねんれいにたとえ幼年ようねん山地さんち壮年そうねん山地さんち老年ろうねん山地さんちとする区分くぶんもある。ひらき析谷によってするどきざまれるがはら地形ちけいしょう起伏きふくめんおおきくのこしている山地さんち幼年ようねん山地さんちであり,大陸たいりく台地だいち高原こうげんがその極端きょくたんれいである。壮年そうねん山地さんち接頭せっとうとしてはやまんばんして細分さいぶんされる。壮年そうねん山地さんち谷間たにま斜面しゃめんきゅうであるが山稜さんりょうになおしょう起伏きふくめんのこすもの,まん壮年そうねん山地さんち山稜さんりょうたに高度こうど起伏きふく)が最大さいだいになったもの,ばん壮年そうねん山地さんち山稜さんりょう浸食しんしょくされて低下ていか骸骨がいこつじょうになり,たにはばひろくなったものである。老年ろうねん山地さんちそぎ剝がすす起伏きふくがさらにちいさくゆるやかになったものである。丹沢山地たんざわさんちはや壮年そうねん山脈さんみゃくまん壮年そうねん筑波つくば山地さんちばん壮年そうねん時期じきにあたるれいである。

 乾燥かんそう地域ちいき山地さんち山腹さんぷくにははだかがんだち,湿潤しつじゅん地域ちいき山地さんち山腹さんぷく森林しんりん植生しょくせいおおわれるが,高度こうどおおきくなり,樹木じゅもく限界げんかいせんえると高山たかやま草本そうほんたいからはだか岩地いわちとなり,まんねん雪田ゆきた氷河ひょうが着生ちゃくせいするようになる。山岳さんがく氷河ひょうが浸食しんしょくをうけたこおりしょく山地さんちゆき地帯ちたいゆき浸食しんしょくをうけやすいゆきしょく山地さんちはそれぞれかわしょく作用さようおもとする正規せいき浸食しんしょく山地さんちとはことなった地形ちけい特色とくしょくをもっている。
執筆しっぴつしゃ

古代こだいやまはそのだい部分ぶぶん太古たいこそのままの状態じょうたいにあった。当時とうじやまみんさとみん首長しゅちょう共同きょうどうたい支配しはいのもとで,鳥獣ちょうじゅう狩猟しゅりょう草木くさき果実かじつ採取さいしゅ焼畑やきばたなどの生業せいぎょうや,他郷たきょうとの往来おうらいのためにやまはいり,その生活せいかつけんひろげていたが,やまはなおかみ々とれい支配しはいする無主むしゅ世界せかいであった。律令りつりょう国家こっかも〈ざつれい国内こくないじょうで〈山川やまかわやぶさわは,公私こうしどもにせよ〉と規定きていしただけで,山地さんち一般いっぱんかんみん共同きょうどう利用りようまかせ,国家こっかてき用途ようと民業みんぎょうさまたげない範囲はんいで,おうしん社寺しゃじごうみんらの私的してきうらない用益ようえきみとめていた。そのうち聖地せいちとしてうらないされた山陵さんりょうはかさん神山かみやま寺山てらやま排他はいたてき独占どくせんせいつよく,入山にゅうざん狩猟しゅりょう伐木ばつぼくきんじられていた。また朝廷ちょうていかん鉱山こうざんなど公用こうよう山地さんちを〈きんしょ〉とした。山野さんやしょ産物さんぶつ採取さいしゅするための経済けいざいてきうらない場合ばあいは,杣山そまやま(そまやま)は木材もくざいまき(まき)は草地くさち狩場かりば鳥獣ちょうじゅうとその利用りよう目的もくてきかぎってゆるされ,それを理由りゆうやま独占どくせんして住民じゅうみんらの入山にゅうざん利用りようさまたげることはきんじられた。しかし,荘園しょうえんせいてきだい土地とち所有しょゆう発達はったつにともなって,官衙かんが権門けんもんだい社寺しゃじ富豪ふごうらは,ひろ山野さんやかこんでそままき御薗みその御厨みくりや(みくりや),などの領有りょうゆう拡大かくだいし,よんいたり(しいし)ないはいった住民じゅうみんおのかまなどを没収ぼっしゅうし,山手やまてそのところやく賦課ふかするようになった。こうして山野さんやとする原始げんししょ産業さんぎょうとそれに従事じゅうじする住民じゅうみん寄人よりうどそうみんとして,中世ちゅうせい所領しょりょう荘園しょうえん体制たいせい確立かくりつする。一方いっぽう古代こだいから中世ちゅうせいにかけて活躍かつやくした山林さんりん修行しゅぎょうしゃによって各地かくち霊山れいざんひらかれ,あらわみつ山岳さんがく寺院じいんとその末寺まつじ諸山しょざん組織そしき形成けいせいされ,深山ふかやま幽谷ゆうこく遍歴へんれき修行しゅぎょうしてけんりょくようとする修験しゅげん山伏やまぶしらが,大峰山おおみねさんをはじめとする諸国しょこく名山めいざん高峰こうほうに,神仏しんぶつ習合しゅうごう宗教しゅうきょうてき世界せかいひろげていった。
執筆しっぴつしゃ

近世きんせいむらおおくは山野さんや隣接りんせつし,農民のうみんにとっても,やま生活せいかつふかくかかわっていた。むら成立せいりつそのものも,平地ひらち農民のうみん山地さんち開拓かいたくすすめたれいのほか,山地さんち住民じゅうみん山野さんや耕地こうちして農民のうみんしていったれいがあるとかんがえられる。ただ,まくはん領主りょうしゅ年貢ねんぐおさむ中心ちゅうしんとする支配しはいは,耕地こうち経営けいえいする農民のうみんおも対象たいしょうとし,文献ぶんけんは,平地ひらち住民じゅうみん依拠いきょしたから,山地さんちみん由来ゆらいするむら証跡しょうせきは,明確めいかくにはつたわりにくい。〈ヤマワロ〉ということばが,《本草ほんぞう綱目こうもく》の狒狒ひひ(ひひ)にあてられてししぐうるい編入へんにゅうされたのをいちじるしいれいとし,木地屋きじやマタギ杣人そまびと炭焼すみやなど,平地ひらち住民じゅうみん交渉こうしょうをもった山地さんちみんも,程度ていどこそあれ,蔑視べっし対象たいしょうになり,かれらのがわからの記録きろくをまれにしかのこさない。

 平地ひらち住民じゅうみんにとっても,やま経済けいざいてきにごく有用ゆうようであった。近世きんせい初期しょき都市とし造営ぞうえい河川かせんいけつつみなどの土木どぼく工事こうじ盛行せいこうは,木材もくざい需要じゅよう急増きゅうぞうさせ,奥山おくやままでも樹木じゅもく伐採ばっさいすすんだのち,だい規模きぼ植林しょくりんさくがみられたれいおおい。農業のうぎょう経営けいえい自体じたいにとっても,肥料ひりょう牛馬ぎゅうばえさりょう供給きょうきゅうとしてやま不可欠ふかけつであり,その利用りようけんをめぐって,むら々があらそった記録きろくおおい。やま耕地こうちすすみ,18世紀せいき後半こうはん以後いごには桑畑くわばたけ拡大かくだいよくなどによる矛盾むじゅん紛争ふんそうむこともあったが,紛争ふんそうれいおお記録きろくされる反面はんめんそうせっして山野さんや利用りようするおおくのむら住民じゅうみんが,そこで相互そうご交流こうりゅう機会きかいをもったことものがせない。やまくちけは,しばしば村民そんみん共同きょうどう一種いっしゅ遊楽ゆうらくとしての印象いんしょうつたえている。やま肥料ひりょうえさりょう燃料ねんりょうしょ道具どうぐすほか,かわくさ,キノコるい渓流けいりゅうぎょ鳥獣ちょうじゅうなどをふくめて,食料しょくりょう供給きょうきゅうでもあり,飢饉ききんのおりは,とくにその意味いみおおきかった。農民のうみん領主りょうしゅたいする抵抗ていこうひとつとしての逃散(ちようさん)も,やま食料しょくりょうささえられためん注意ちゅういさるべきだし,山林さんりんかくむ〈うたがわしきもの〉のせんさくれいが,しばしば領主りょうしゅほうにみえ,博奕ばくえき(ばくち)も,山野さんやおこなわれることがあった。やまは,そのさえも灯火ともしびようなどの需要じゅようがあり,ウルシは,樹液じゅえきとの効用こうようから本数ほんすう登録とうろくされるれいがあり,イボタ蠟など山林さんりんむしるい産物さんぶつも,小物こものなりとしてしるされもした。古来こらい有力ゆうりょく農民のうみんてらで,家伝かでんやく配布はいふれいおおいのは,その山野さんや支配しはい由来ゆらいするめんをもつが,幕府ばくふしょはん山地さんち薬草やくそう探索たんさく熱心ねっしんで,くすりしゃ深山みやまへのたびは,本草学ほんぞうがくじくとした自然しぜん理解りかいすすめた。くすりとしては,くま筆頭ひっとうとするやま動物どうぶつ重要じゅうようであったが,動物どうぶつるいでは,たか幼鳥ようちょう捕獲ほかくが,とくに幕府ばくふおおきな関心事かんしんじであった。実効じっこうきのちん鳥獣ちょうじゅう探索たんさくも,18世紀せいき諸国しょこく物産ぶっさん調ちょうなどでこころみられ,ライチョウの捕獲ほかく飼育しいくれい記録きろくされている。金属きんぞく陶土とうど,また土木どぼく材料ざいりょうとしてのいし庭石にわいし石臼いしうすざいなどにおよ鉱物こうぶつも,しゅとしてやまもとめられ,鉱山こうざん開発かいはつ計画けいかくしゃ深山みやま探訪たんぼうした。〈ヤマ〉ということばは,ときに鉱山こうざん意味いみした。温泉おんせんおおくも山地さんちいだされ,湯治とうじが,日常にちじょう生活せいかつからの解放かいほう休息きゅうそく機会きかいとなったのは,やま食料しょくりょうくすり修験しゅげん道場どうじょうとしての役割やくわりなどともむすびつき,さらにやまという平地ひらち世界せかいことなる環境かんきょう重視じゅうしされた結果けっかかんがえられる。

 やま利用りようのためのみちは,しばしばしょむら共同きょうどう作業さぎょうし,むら々のそうろんをもんだが,遠隔えんかくあいだむすみち一般いっぱんやまえたので,意図いとしてやまはいるもの以外いがいにも,通行つうこうしゃおおかった。ふるくからの国境こっきょう(くにざかい)のほか,しょ大名だいみょうりょうさかいやまであることもおおかったから,そこに関所せきしょ番所ばんしょもうけられ,警衛けいえいにんびたむら設定せっていされたりした。18世紀せいきころから,古来こらい特権とっけんてき商業しょうぎょう従事じゅうじしゃなどの統制とうせいたいして,新規しんき流通りゅうつうもとめるうごきがつよまり,険阻けんそ山道さんどうあらたに開発かいはつされる。冬季とうき山道さんどう避難ひなん小屋こやもうけられたれいもある。

 やまは,また河川かせん水源すいげんであり,河川かせんうんざいとして重要じゅうようであったが,農業のうぎょう用水ようすいしん開発かいはつ企図きとするものが深山みやま探索たんさくしゃとなった。山林さんりん濫伐らんばつ水源すいげんうしなわせる危惧きぐおおきく,山崩やまくずれは,その形状けいじょうからへび抜(じやぬ)けなどとばれておそれられた。幕府ばくふが1666ねん寛文ひろふみ6)にはっした諸国しょこく山川やまかわおきては,淀川よどがわ大和川やまとがわ水系すいけいやまについて,所領しょりょうべつえて,水源すいげん涵養かんようのための治山ちさんさくめいじたものとして注目ちゅうもくされる。

 やま資源しげん近隣きんりん住民じゅうみん利用りようされたが,たとえば鷹巣山たかすやま王者おうじゃけんとして将軍家しょうぐんけ鷹狩たかがりようたか調達ちょうたつすべきやまとされ,住民じゅうみんのいっさいの利用りよう拒否きょひするであった。鉱山こうざん将軍家しょうぐんけつよ支配しはいされた。優良ゆうりょう木材もくざいおおくが,領主りょうしゅ排他はいたてき利用りようけんかれ,その河川かせん工事こうじなどの土木どぼく工事こうじ権限けんげんをもささえたが,これも本来ほんらい将軍家しょうぐんけ御用ごようてられる論理ろんり出発しゅっぱつしたらしい。キノコやかわ魚類ぎょるいが,将軍家しょうぐんけへの献上けんじょうひんとして,住民じゅうみん利用りようせいされるれいもあった。また,むら々の山野さんや利用りようけんをめぐるあらそいは,最終さいしゅうてきには幕府ばくふ裁許さいきょつものであり,しょりょう接触せっしょくいき山野さんや開発かいはつについて,幕府ばくふは,個別こべつ領主りょうしゅ権限けんげん否定ひていする方針ほうしんをとった。中国ちゅうごく古典こてんにみえる〈名山めいざん大沢おおさわふうぜず〉という主張しゅちょうささえられて,石高こくだかさない山野さんやは,基本きほんてき将軍家しょうぐんけのものとする観念かんねん存在そんざいした。これと,やま平地ひらち世界せかいから解放かいほうされるであるかにみえるめんとの関係かんけいは,おおきな問題もんだいであるが,領域りょういきかぎって,その範囲はんいない支配しはいとする論理ろんりたいして,耕地こうち経営けいえい密着みっちゃくした山野やまの利用りよう進展しんてんが,事実じじつじょう耕地こうち経営けいえいしゃやまへの私権しけん成長せいちょうをもたらしていっためん注目ちゅうもくしてよかろう。幕府ばくふ薬草やくそうへのつよ関心かんしんにもかかわらず,山間さんかん住民じゅうみん薬草やくそう利用りようとその知識ちしきが,幕府ばくふ集約しゅうやくしきれなかったことも,この事情じじょう一端いったんしめす。

 やまは,しばしば信仰しんこう対象たいしょうであったが,とくに参詣さんけい対象たいしょうとならないやまでも,雨乞あまごいのさいのぼになったりした。旅行りょこうしゃ航海こうかいしゃにとって,やま重要じゅうよう目印めじるしであり,伊能いのう忠敬ちゅうけいらにいた測量そくりょうも,やまのこの機能きのう依拠いきょしていた。山肌やまはだ雪模様ゆきもようやまにかかるくもなどの観察かんさつ経験けいけんから,農事のうじれき天候てんこうっていたことも,ひろくみられ,ひとつのやまどう一方向いちほうこうからものは,イメージにむすびついた郷土きょうど感覚かんかく共有きょうゆうした。名山めいざんが,しばしば郷土きょうどほこりのだいいちにあげられるのは,そのような事情じじょうによるであろう。
執筆しっぴつしゃ

すくなくとも日本にっぽんふくめたアジアしょ地域ちいきにおいては,生活せいかつ様式ようしきとしてのやま民俗みんぞくさと農村のうそん都市としのそれと比較ひかくして,後進こうしんてきであるという前提ぜんていって研究けんきゅうすすめられてきた。さと生活せいかつ様式ようしき中心ちゅうしんとしてみたやま後進こうしんせいへの関心かんしんは,やまにはよりふる生産せいさん形態けいたい社会しゃかい組織そしき信仰しんこう現象げんしょう残存ざんそんしており,それを抽出ちゅうしゅつすることによってさと現在げんざい説明せつめいすることが可能かのうかんがえたためである。したがって,なぜ後進こうしんてきであるかについての検討けんとう十分じゅうぶんなされないままであった。その要因よういんひとつは,日本にっぽん民俗みんぞく歴史れきし水田すいでん稲作いなさく農耕のうこう単一たんいつ基盤きばんとして形成けいせいされ,一元いちげんてき発展はってんしてきたという常識じょうしき支配しはいされた研究けんきゅうしゃおおかったためであり,やまさと生活せいかつ様式ようしきちがいを体系たいけいてき文化ぶんかとしてとらえようとする問題もんだい意識いしきまれにくかったのだといえる。

 なが日本にっぽん歴史れきしをとおして,水田すいでん稲作いなさく農耕のうこう文化ぶんかつよ刺激しげきけながらも,やま独自どくじ文化ぶんか維持いじされてきたのは,なによりもやまという自然しぜん人間にんげんとの相互そうご作用さようもとづく生産せいさん形態けいたい相違そういによるものであった。そのひとつは焼畑やきばたつねはたけ代表だいひょうされる畑作はたさく農耕のうこうである。根菜こんさいるい穀類こくるいおもとする畑作はたさく農耕のうこうは,水田すいでん稲作いなさくとはその生産せいさん技術ぎじゅつがあり,また生産せいさんされる作物さくもつ認識にんしき体系たいけい利用りようほうことなっている。水田すいでん稲作いなさく一義的いちぎてき価値かちがわからみれば,稲作いなさく農耕のうこう劣位れついき,そのような農耕のうこうしかおこないえない人間にんげん同様どうよう劣位れつい位置いちづけるということになる。これはおおきな誤解ごかいである。技術ぎじゅつろんてき次元じげんでは根菜こんさい雑穀ざっこく栽培さいばいから稲作いなさくへの変遷へんせんかんがえることが可能かのうであるが,かく段階だんかいはそれぞれ独立どくりつした対等たいとう文化ぶんかであり,共存きょうぞんすることのできる文化ぶんかなのである。やま根菜こんさい雑穀ざっこく栽培さいばい従事じゅうじする人々ひとびともまた,いね根菜こんさいるい雑穀ざっこくよりもすぐれていると認識にんしきしている。これはすくなくとも近代きんだい以降いこう政治せいじ学問がくもん一貫いっかんしてさとにおける稲作いなさく近代きんだい合理ごうりすすめてきたためである。また根菜こんさい雑穀ざっこく栽培さいばいかんする研究けんきゅう検討けんとうすべき資料しりょううしなわれて,その価値かちについての評価ひょうかがむつかしくなっているためである。

 いまひとつは,やま豊富ほうふ生活せいかつ資源しげん提供ていきょうするでもあったことである。自給自足じきゅうじそくてきにはくさなどの採取さいしゅぶつがあり,また交易こうえきひん生産せいさんのための専門せんもん技術ぎじゅつとしては,養蚕ようさん狩猟しゅりょうをはじめ工業こうぎょう鉱業こうぎょう薪炭しんたんぎょうなどを成立せいりつさせる資源しげんやまゆうしていた。これらの産物さんぶつ技術ぎじゅつさととの交流こうりゅうむすびつき,やま文化ぶんかたいする認識にんしきふかめさせてきたのであるが,かれらがさと漂泊ひょうはくし,やがて定住ていじゅうするにいたって,水田すいでん稲作いなさく農耕のうこうみんから劣位れついかれるようになった。しかしやま人間にんげんとの相互そうご作用さようのうえに成立せいりつした多様たよう生産せいさん技術ぎじゅつは,さと文化ぶんか刺激しげきあたえる役割やくわりになっていたのである。

 やま舞台ぶたいとした人間にんげん人間にんげんとの関係かんけいは,やま共有きょうゆうすることを前提ぜんていっているため,対等たいとう原則げんそくとしてきたといってよい。山菜さんさいるい採取さいしゅくちせい慣行かんこうにより,特定とくてい日時にちじさだめてやまはいるのがふつうである。近畿きんき地方ちほうのように,松茸まつたけるころになると,私有しゆうやまであってもむら松茸まつたけ採取さいしゅけん入札にゅうさつせい売却ばいきゃくし,その収益しゅうえき公共こうきょう費用ひようてるところもある。また,狩猟しゅりょう場合ばあい獲物えもの分配ぶんぱい参加さんかしゃ平等びょうどうであり,ときには鉄砲てっぽうおといてけつけたものがあっても平等びょうどう分配ぶんぱいしたので,山分やまわけという言葉ことば一般いっぱんしたほどである。

 焼畑やきばた共有きょうゆうやま利用りようすることがおおかった。特定とくてい区画くかくいてすうねんあいだ作物さくもつ栽培さいばいし,土地とちちからよわまると放棄ほうきしてやまもどし,区画くかくくのである。くときは共同きょうどう作業さぎょうおこなっても,栽培さいばい作業さぎょう単独たんどくおこなわれた。共同きょうどうやま利用りようしながら,狩猟しゅりょうのようにその恩恵おんけい平等びょうどう配分はいぶんし,焼畑やきばたからの収益しゅうえきはその個人こじんてき能力のうりょくにまかせるのであるから,そこには独立どくりつてき人間にんげん関係かんけい原則げんそくつらぬかれている。

 やま漁民ぎょみんにとっても重要じゅうよう意味いみをもっていた。漁民ぎょみん海上かいじょうたとき,やま目印めじるしとしてふね位置いち方法ほうほうやまあてといい,漁民ぎょみんにとってやま自己じこ存在そんざい確認かくにんする尺度しゃくどであった。このやまえなくなってしまう沖合おきあいやましというように,やまえる空間くうかん漁民ぎょみん空間くうかん認識にんしきされていたことがわかる。漁民ぎょみんうみ使つかおき言葉ことばと,猟師りょうしなどがやまはいって使つかやま言葉ことばとが,各地かくち不思議ふしぎ一致いっちをみせているのは,両者りょうしゃあいだ交渉こうしょうのあったことをしめしている。
山岳さんがく信仰しんこう →修験しゅげんどう →やまかみ →山人さんじん
執筆しっぴつしゃ

顓頊(せんぎよく)と天下てんか覇者はしゃ地位ちいあらそったきょうこうが,はらだちまぎれに周山しゅうざんにぶつかり,てんささえるはしられ,をつなぎとめるつながきれ,そのためてん西北せいほくかたむき,東南とうなんかたむいたという伝説でんせつにもうかがわれるように,古代こだい中国人ちゅうごくじんにとって,やまてんをつなぐ存在そんざいであるとかんがえられた。中国ちゅうごく西北せいほくかた存在そんざいすると想像そうぞうされた崑崙山こんろんざん(こんろんざん)も,それは大地だいち中心ちゅうしん位置いちするてんばしらであって,天帝てんていしたかれ,天上てんじょう神仙しんせん世界せかいかう通路つうろであるとされた。

 一方いっぽう現実げんじつやまは,こうかんりゅうひろし(りゆうき)の《しゃくめい(しやくみよう)》が〈やま〉を同音どうおんの〈さん〉で解釈かいしゃくし,〈万物ばんぶつむ〉の意味いみだと説明せつめいしているように,鳥獣ちょうじゅう草木くさき動植物どうしょくぶつだけでなく,さまざまの鉱物こうぶつ資源しげん産出さんしゅつするところであった。たとえば《山海さんかいけい(せんがいきよう)》には,天下てんか名山めいざんは5370,そのうちどう産出さんしゅつするやまは467,てつ産出さんしゅつするやまは3690とかぞえている。それらしょ名山めいざん代表だいひょうだけ,すなわち東岳あずまだけ泰山たいざん山東さんとうしょう),西岳にしたけ華山かざん陝西せんせいしょう),南岳みなみだけの衡山(湖南こなみしょう),きただけつねさん河北かほくしょう),中岳なかだけ嵩山すせ(すうざん)(河南かなんしょう)の五山ごさんであり,三公みつきみ地位ちいになぞらえられて天子てんしまつりをおこなった。なかでも東岳あずまだけ泰山たいざんは,死者ししゃ霊魂れいこんあつまる冥府めいふ所在地しょざいちかんがえられ,また,しばしばふうぜん儀式ぎしきおこなわれたところとして有名ゆうめいである。

 やま神聖しんせいする観念かんねんは,とりわけみち教徒きょうとあいだではぐくまれた。《たけかたち》とばれる山岳さんがくかれらのあいだ重要じゅうようされたし,またねりをはじめとする仙薬せんやく製造せいぞう山中さんちゅうおこなわねばならぬとされたのは,山神さんじん加護かごるためであった。だがその一方いっぽう山神さんじんおそろしい存在そんざいでもあった。やまそれぞれに入山にゅうざんまっており,もしちがえると山神さんじんのたたりがあるとかんがえられた。また,あらかじめすう日間にちかん斎戒さいかいおこなったうえ,〈入山にゅうざん〉とばれる護符ごふおびにつけ,かがみにかけて入山にゅうざんしなければならなかった。山神さんじん妖怪ようかいかがみ姿すがたをうつされると正体しょうたいあらわし,危害きがいくわえることができないとしんぜられたからである。
執筆しっぴつしゃ

やまてんちか俗界ぞっかい見下みおろすところから古来こらいかみ々の住居じゅうきょとされた。それはギリシアのオリュンポスさん,パルナッソスさんヘリコンさん北欧ほくおう神話しんわにちなむオーディンさん(ドイツ,ボン郊外こうがい)などからもれる。またシナイさんのようにかみ啓示けいじくだ場所ばしょともされる。ゲルマンじんあいだやま神聖しんせいされたことは,9世紀せいきアイスランド植民しょくみんしたきたゲルマンじんがヘルガフェル(聖山ひじりやま)を崇拝すうはいしその神聖しんせいさをまもるための規定きていをつくったことにもよくうかがえる。またゲルマンじんひとぬとおかやまくという信仰しんこうをもっていて,おうはか祖先そせんはかをそこにつくった。ドイツで教会きょうかい礼拝れいはいどうがよくやまうえにあるのは,キリスト教きりすときょう改宗かいしゅうする以前いぜん異教いきょう礼拝れいはいしめしていることがおおい。このように神聖しんせいされ崇拝すうはい対象たいしょうとなったおかあるいはやまは,裁判さいばん祭祀さいしとなり,そこで豊饒ほうじょう祈願きがんきょう犠がおこなわれた。やまにはおう英雄えいゆうばかりか軍勢ぐんぜいまで死後しごにすんでいるという伝説でんせつ西にしヨーロッパにおおい。ドイツのハルツ山地さんちにあるキュフホイザーKyffhäuserにはフリードリヒ2せい(のち1せいあかひげおうむすびつけられる)がすわったまま待機たいきしていて祖国そこく存亡そんぼうときがくるとへいひきいてけつけるという(フリードリヒ伝説でんせつ)。死者ししゃやまにすむという信仰しんこうから,やまはまた小人こども妖怪ようかい悪魔あくま幽霊ゆうれいあつまるところともされた。このためやまおもいもかけぬたから出会であったり,もよだつ恐怖きょうふにさらされる場所ばしょとなる。ドイツのブロッケンさんでワルプルギスのよる(5がつ1にち前夜ぜんや)に魔女まじょたちが集会しゅうかいひらくとされたことは有名ゆうめいである。魔術まじゅつ悪魔あくま山上さんじょうって契約けいやくするのだともいう。

 やまなか小人こどもコーボルトくにがあるというはなしは,さまざまな伝説でんせつやメルヘンにかたられている。また山中さんちゅう突如とつじょみどり牧場ぼくじょう出現しゅつげんしたり,金銀きんぎんでいっぱいの部屋へやがあるとされる。これらは楽園らくえん鉱山こうざんのイメージとむすびついてできたものであろう。みなみドイツのウンターベルクUntersbergの山中さんちゅうにはおおきなドームと黄金おうごん祭壇さいだんられたというが,これはあきらかにキリスト教きりすときょう影響えいきょうおもわれる。やまなかにあるたからというのはたいてい乙女おとめしろおんなくろけんりゅうまたはへびまもられている。人間にんげんがそこへはいるためにはふつう〈あおはな〉や〈びはねる〉などを必要ひつようとする。またこのようなやまは3ねんに1とか一定いってい一定いってい時刻じこくにしかひらかず,幸運こううんにもなかれたひとは,はこべるだけのたからはこぶことがゆるされるのだが,められた時間じかんないなければならない。またあとたからのことを他人たにん口外こうがいしてはならない。そうするとせっかくにした金銀きんぎんえたり,生命せいめいまでうしなうことになる。やまはまた天気てんきうらなうのにも重要じゅうよう役割やくわりたす。やまくもかさがかかればあめ,かからなければはれのように。復活ふっかつさいのころむかしはよく雨乞あまご行列ぎょうれつがドイツをはじめおおくのところでなされたものである。
もり
執筆しっぴつしゃ

ギリシア神話しんわでは,ギリシアいち高峰こうほうオリュンポスさん頂上ちょうじょうかみ々の天上てんじょうかいとみなされているが,このように高山こうざん頂上ちょうじょうかみ々の住処すみか(すみか)とする観念かんねんは,おおくの神話しんわ共通きょうつうしてみられる。古代こだいインドの神話しんわでも,大地だいちほぞたる世界せかい中心ちゅうしん神山かみやまメールがそびえ,その頂上ちょうじょうにインドラがおうとして支配しはいする天国てんごくスワルガがあって,かみ々と神霊しんれいたちがそこに都市としつくってんでいるとされており,この信仰しんこうは,須弥山しゅみせん(しゆみせん)の頂上ちょうじょうにある帝釈天たいしゃくてん(たいしやくてん)をおうとするさんじゅうさんてん住処すみかの〈忉利てん(とうりてん)〉として,仏典ぶってんれられている。古代こだい中国ちゅうごくにおける崑崙山こんろんざん同様どうようでのちにこのやま西王母せいおうぼ(せいおうぼ)の住処すみかとみなされるようになった。メールさん観念かんねん影響えいきょう北方ほっぽうアジアのアルタイけい遊牧ゆうぼく民族みんぞくあいだひろいだされ,モンゴルけいしょぞく神話しんわでは,世界せかい中心ちゅうしんにあって頂上ちょうじょうかみ々の住処すみかがあるやまは,メールさん別名べつめいであるスメールや,その転訛てんかであることがあきらかなスムル,スムブルなどというばれる。ブリヤートじん神話しんわによれば,原初げんしょはただいちめんみずと,そのなかに1とう巨大きょだいかめがいるだけであったが,かみがこのかめをあおむけにしてそのうえ大地だいちつくったという。4ほんあしうえには,それぞれ大陸たいりくつくられ,ほぞうえにスムブルやまつくられ,その頂上ちょうじょうかみ々の宮殿きゅうでんかれた。この宮殿きゅうでんにあるとう黄金おうごん先端せんたん北極星ほっきょくせいであるという。タタールじんあいだでは,このやまはある地方ちほうでは〈てつやま〉とばれ,べつ地方ちほうでは〈黄金おうごんやま〉とばれて,最高さいこうしんバイウルガンの天上てんじょうしょしんじられている。ヤクートじん神話しんわでは,天上てんじょうにあるかみ々の住処すみかいしやまで,ゆきのように純白じゅんぱくであるとされている。

 カルムイクじん神話しんわによれば,世界せかい創造そうぞうしたのは4にん怪力かいりきかみで,かれらはちからわせてスメールやまをつかみ,それで大洋たいようを,バターを攪拌するのとおなじやりかたはげしく攪拌して,うみから太陽たいようつきほしなどを発生はっせいさせた。これはあきらかに,不死ふし飲料いんりょうアムリタが製造せいぞうされた次第しだい物語ものがたった,有名ゆうめいなインド神話しんわ変化へんかしたはなしである。インド神話しんわによると,かみ々はあるときビシュヌ大神だいじん指示しじしたがい,悪魔あくまたちとともにちからわせて大洋たいようを攪拌し,アムリタをることにした。かれらは,まずマンダラやまいてうみれ,海底かいていかめおうアクーパーラにそれをささえさせた。そしてへびおうバースキをつなかわりとしてそのまわりにきつけ,悪魔あくまたちにへびあたまたせ,かみ々はしりって,い,海中かいちゅうやま回転かいてんさせた。すると海水かいすいかみなりのような轟音ごうおんはっし,マンダラさん摩擦まさつによってがり海中かいちゅう山中さんちゅうおおくの生物せいぶつに,大量たいりょう樹脂じゅしくさしる海中かいちゅうながんで海水かいすいちちわった。なお攪拌をつづけるとバターになった。そしてこのバターのうみから太陽たいようがつ女神めがみラクシュミー,さけ女神めがみスラー・デービー,白馬しろうま宝珠ほうしゅカウストゥバなどが次々つぎつぎしょうじ,最後さいごにアムリタのはいった純白じゅんぱくはちった医術いじゅつかみダンバンタリが出現しゅつげんした。かみ々と悪魔あくまたちのはげしいあらそいのすえに,アムリタは結局けっきょくかみ々に独占どくせんされることになったというのである。

 古代こだい中国ちゅうごく天下てんかだいいち名山めいざんとされた泰山たいざんは,〈ひとたましいすことをつかさどる〉とか,〈死者ししゃたましいしん泰山たいざんする〉などとわれて冥府めいふのようにみなされ,このやまかみ泰山たいざんくんまたは東岳あずまだけしんは,人々ひとびと寿命じゅみょうあずかるとしんじられた。このように山中さんちゅう冥界めいかいがあるとみなす観念かんねんおおくの地域ちいきにみられる。インドネシアモルッカ諸島しょとうのセラムとうむウェマーレぞく神話しんわによれば,人間にんげん祖先そせんは,このしま西部せいぶにあるヌヌサクというやま頂上ちょうじょうえていたバナナのじゅくしたからしょうじた。バナナのひとつだけなっていた未熟みじゅくからまれたのがサテネという少女しょうじょで,彼女かのじょ祖先そせんたちの支配しはいしゃとなったが,のちにかれらの所行しょぎょう立腹りっぷくしてニトゥとばれる精霊せいれいとなり,かれらのもとからった。以来いらい彼女かのじょ死者ししゃやまのサラフアやまんでおり,人間にんげん死後しご困難こんなんたびてそこにかねばならない。そのたびあいだ死者ししゃやっつのやまえねばならず,これらのやまにはそれぞれべつのニトゥがんでいるという。

 ギリシア神話しんわ最高さいこうしんゼウスは,クレタとう山中さんちゅう岩屋いわやなかまれ,そだてられた。かみ々の伝令でんれいやくつとめるヘルメスも,アルカディアのキュレネ山中さんちゅう岩屋いわやなか誕生たんじょうしている。テッサリアのペリオン山中さんちゅう岩屋いわやには,はんにんはん怪物かいぶつろう賢者けんじゃケンタウロスのケイロンがみ,医術いじゅつかみアスクレピオス,英雄えいゆうアキレウスやイアソンらを教育きょういくした。ギリシア神話しんわでは,やまはまた,サテュロス,シレノス,パンなどのはんししかみたちや,優美ゆうびおんなせいのニンフたちの住処すみかで,狩猟しゅりょう女神めがみアルテミスがニンフのれをれてりにふける場所ばしょでもあり,酒神しゅしんディオニュソスの密儀みつぎが,狂乱きょうらんした信女しんにょたちによりおこなわれる場所ばしょでもあった。このようにやまかみ誕生たんじょう場所ばしょとか,そこで成長せいちょうしあるいは修行しゅぎょうするものちょう能力のうりょくるとか,精霊せいれい怪物かいぶつ住処すみかとか,かみ来臨らいりんする場所ばしょなどとみなす観念かんねん信仰しんこうも,世界せかい各地かくち共通きょうつうしていだされる。
執筆しっぴつしゃ

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日本にっぽん歴史れきし地名ちめい大系たいけいやま」の解説かいせつ

やま
ならやま

[現在地げんざいちめい]秋田あきた南通みなみとおりかめみなみどおりかめまちみなみどおりみなみどおりみそのまち南通築地みなみどおりつきじみなみどおりつきじ南通宮田みなみどおりみやたみなみどおりみやたかく一部いちぶ楢山本ならやまほんならやまほんまち楢山佐竹ならやまさたけならやまさたけまち楢山南中ならやまみなみなかならやまみなみなかまちだい部分ぶぶん楢山ならやまのぼるならやまならやまのぼりまち楢山ならやま御島みしまならやまおんしままち楢山共和ならやまきょうわならやまきようわまちかく一部いちぶ

楢山ならやまにはおおくのまちがあるので、現在げんざいまちごとにかつてあった町名ちょうめいしるす。南通亀みなみどおりかめまちには楢山本ならやまほん新町下しんまちしたならやまもとしんまちしもちょうどうとらくちしんとらのくちしんまち南通みなみどおりみそのまちには楢山本ならやまほん新町上しんまちうえならやまもとしんまちかみちょうどう本新ほんしんまち下丁しもようろどうほん町中まちなかほんちようなかちょうどう本町ほんちょう下丁しもようろ南通築地みなみどおりつきじにはなら山本新やまもとしんまち上丁うえていどう上本うえほんかみほんまちどうなかなかひのと南通宮田みなみどおりみやたには楢山ならやま桝取ならやまますとりまち楢山本ならやまほんまちには楢山本ならやまほんまち下丁しもようろどうほんよこもとよこまちどうすえすえなしまちどう中丁なかちょうどうざるざるまちどう南新みなみしんまち上丁うえていどう南新みなみしんまち下丁しもようろどうおういんまえいおういんまえまちどう牛島うしじまきょうどおりうしじまばしとおりまちどうとら口外こうがいちょうしんとらのくちとばりしんまち楢山佐竹ならやまさたけまちには楢山ならやま上本うえほんまちどう南新みなみしんまち上丁うえていどう古川ふるかわ新町しんまち楢山南中ならやまみなみなかまちには楢山登ならやまのぼりまちどうとら口外こうがいちょう新町しんまちどうざるまちどう入川にゅうがわきょうどおりとういりかわばしどおりのぼりまちどう牛島うしじまきょうとおりまちどう三枚橋さんまいばしさんまいばしどうえさとげえさしまちどうとらくち新町しんまちどう九郎兵衛くろべえ殿どのくろべえどのまち米沢よねざわよねざわまちじゅうけんじつけんまち楢山登ならやまのぼりまちには楢山登ならやまのぼりまちどう入川にゅうがわきょうどおりのぼりまちどう追廻おいまわしおいまわしまち楢山ならやま御島みしままちには楢山登ならやまのぼりまち楢山共和ならやまきょうわまちには楢山ならやま牛島うしじまきょうとおりまちどう下浜しものはましたはままち

家臣かしんだんさい編成へんせいともなさんかいまちわり寛永かんえいろくねんいちろくきゅう実施じっしされた。それがかめかめひのと曲輪くるわ以南いなん楢山ならやま村地むらちないである。楢山ならやまぞくする地域ちいきひろく、またまち性格せいかく足軽あしがるまちさむらいまちとにけられる。

足軽あしがるまち

梅津うめづ政景まさかげ日記にっき寛永かんえいろくねんいちがついちよんにちじょうに、

資料しりょう省略しょうりゃくされています>

とある。同書どうしょはちがつさんにちじょうに、「楢山ならやま足軽あしがる町新まちしんまち古町ふるまちきょう見通みとおごくさるこう」とある新町しんまち古町ふるまちは、新屋敷しんやしき本屋敷もとやしき照応しょうおうするようだが、古町ふるまち本屋敷もとやしき明確めいかくでない。この足軽あしがる屋敷やしき正保しょうほういちろくよんよんよんはち出羽いずはこく秋田あきたぐん久保田くぼたじょう画図えず内閣ないかく文庫ぶんこぞう照合しょうごうすると、楢山登ならやまのぼりまち楢山ならやま九郎兵衛くろべえ殿どのまちどうえさとげまちどうさんまいきょうどうざるまちどうまつまちどうおういん前町まえまち十軒じっけんまち米沢よねざわまち楢山ならやま入川にゅうがわきょうどおりのぼりまちなどがそれにあたる。

楢山登ならやまのぼりまちは「あたまえん茶話ちゃばなし」にのぼりまちとし、「もとじゅう人組にんぐみ足軽あしがるまちを、ノボリまちいまもいふ。そをのぼりまちひとおおし、のぼりまちくべし、じゅうにんのぼりつとむ也、先年せんねんまでのぼり背負せおいふてこと稽古けいこことあり、此一トぐみ御物ぎょもつあたまだいいち先輩せんぱいくみとなる先例せんれいなり」と由緒ゆいしょかたる。また楢山登ならやまのぼりまち藩主はんしゅ参勤さんきん通路つうろにあたり、とらくち追手おってさんもんのぼりまちて、入川にゅうがわきょうどおりのぼりまち牛島うしじまきょうどおり牛島うしじまむらいたったという。ただし、とおるいちなないちろくさんろくころ城下じょうか絵図えず秋田あきた県庁けんちょうぞうに、牛島うしじまきょうどおり東部とうぶは「七軒しちけんまち」とみえ、その西側にしがわは「秋田あきためいあとこう」に「ひろねがいいんまえ」といわれたとある。

九郎兵衛くろべえ殿どのまち菅江すがえ真澄ますみは「笹屋ささや日記にっき」に「この久保田くぼたのならやまかわ後郷うらごうかわしりのさとうちに、九郎兵衛くろべえ殿どのまちといふ足軽あしがるまちあり、あやしきめいながら、慶長けいちょうころ大塚おおつか九郎兵衛くろべえといふ武士ぶしひと組子くみこのものあまたおけれたりしかば、しかうんつたへて、いまそこにとしふる」という。


やま
ややま

赤来あかぎまち南西なんせいさんこくみくにやま北方ほっぽうにあり、標高ひょうこうななさんメートル、「出雲いずもこく風土記ふどき飯石いいしぐんじょういわいわすきかわ神戸こうべがわ上流じょうりゅうあか穴川あながわ説明せつめいに「みなもとぐん西南せいなんななじゅうなるさんよりだしで、きたながれて須佐すさがわはいる」としるされる。須佐すさすさかわ来島らいとうきじまかわ神戸こうべがわ上流じょうりゅう呼称こしょうとされる。大山おおやま咋神の化身けしんである丹塗にぬりがこのやまからんできたのをたまひめいのちひろげたことにちなむ丹塗にぬり神話しんわにゆかりのふかやまである。やまについて「赤名あかなむら」に「はじけんかく見神けんしん乙女おとめたまひめいのち女神山めがみさんすわせるときやまゆうす。

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日本にっぽんだい百科全書ひゃっかぜんしょ(ニッポニカ)やま」の意味いみ・わかりやすい解説かいせつ

やま
やま
mountains

周囲しゅういていたいら地形ちけいめんから突出とっしゅつし、だかおおきい地表ちひょう地殻ちかく)。どの程度ていどだかがあれば「やま」とよぶかは、地方ちほうくに研究けんきゅうしゃなどでことなる。

有井ありい琢磨たくま

分類ぶんるい

やまには火山かざん作用さよう侵食しんしょく作用さよう形成けいせいされ、孤立こりつしてそびえているものがあるが、おおくのやまはある範囲はんいあつまっており、それらの全体ぜんたい山地さんちとよぶ。山地さんちこまかく分類ぶんるいされ、みゃくじょうつらなったやまたい山脈さんみゃく塊状かいじょうのものは山塊さんかい不規則ふきそくあつまったものをやま彙(さんい)、山脈さんみゃく山塊さんかいなどの集合しゅうごう山系さんけいとよんでいる。一般いっぱんやまといえば、陸上りくじょうにあるやまたいをさすことが普通ふつうであるが、海面かいめんすなわち海底かいていにあるやまたいは、海嶺かいれい(かいれい)、うみ膨(かいぼう)、海底かいてい山脈さんみゃく海底かいてい火山かざん海山うみやまなどとよばれている。これらの地形ちけい配置はいち成因せいいんなどは、海溝かいこううみぼんなどの海底かいてい地形ちけいと、陸上りくじょうだい山脈さんみゃく弧状こじょう列島れっとう台地だいちだてじょう(たてじょうち)などの大地だいちがたとともに、プレートテクトニクスせつ統一とういつてき説明せつめいされるようになった。

 山地さんち起伏きふくによって、(1)ていやませい山地さんちていやませい丘陵きゅうりょう)、(2)中山なかやませい山地さんち、(3)高山たかやませい山地さんち分類ぶんるいされることがある。この場合ばあい、(1)は標高ひょうこうやく1000メートル以下いか起伏きふくりょう、(2)は1000~3000メートルの起伏きふくりょう、(3)は3000メートル以上いじょう起伏きふくゆうする山地さんちをさしている。ヒマラヤ、天山あまやま、アルプス、ロッキー、アンデスなどのしょ山脈さんみゃくは、いちじるしい氷河ひょうが地形ちけいしゅう氷河ひょうが地形ちけい侵食しんしょくされ、典型てんけいてき高山こうざんせい山地さんち景観けいかんあらわしている。飛騨ひだ(ひだ)、木曽きそ(きそ)、赤石あかし(あかいし)、にちだかなどの日本にっぽん山脈さんみゃく高所こうしょにも高山たかやませい山地さんち景観けいかんがみられる。

 山地さんちは、たにそこたにかべ尾根おね山頂さんちょうしょう起伏きふくめんなどの侵食しんしょく地形ちけい発達はったつ状態じょうたいによって、幼年ようねん山地さんちはや壮年そうねん山地さんちまん壮年そうねん山地さんちばん壮年そうねん山地さんち老年ろうねん山地さんちなどに分類ぶんるいされている。ていやませい山地さんち幼年ようねん山地さんち特色とくしょくあらわし、高山たかやませい山地さんちまん壮年そうねん山地さんち特色とくしょくあらわ場合ばあいがある。

 また、山地さんち形成けいせいした営力によって、(1)火山かざん作用さよう形成けいせいされた火山かざん、(2)侵食しんしょく作用さよう形成けいせいされた残存ざんそん山地さんち、(3)地殻ちかく運動うんどう形成けいせいされた山地さんちなどに分類ぶんるいされる。(1)の火山かざんは、形態けいたい構造こうぞうから、単式たんしき火山かざん成層せいそう火山かざんだてじょう火山かざん溶岩ようがんえんいただきおか溶岩ようがん尖塔せんとう(せんとう)、砕屑(さいせつ)おか火砕流かさいりゅう台地だいち溶岩ようがん台地だいちなど)と複式ふくしき火山かざんふくなり火山かざん。カルデラや単式たんしき火山かざんふくあい)などに分類ぶんるいされる。カルデラをもつ複式ふくしき火山かざんでは、じゅうしき火山かざん中央ちゅうおう火口丘かこうきゅうひとつのカルデラ)、三重みえしき火山かざん中央ちゅうおう火口丘かこうきゅうふたつのカルデラ)などの区別くべつがある。また火山かざんには、噴出ふんしゅつ位置いちによって陸上りくじょう火山かざん海底かいてい火山かざんこおりそこ火山かざん区別くべつがあり、火山かざんたいにおける噴出ふんしゅつ位置いちによってがわ火山かざん寄生きせい火山かざん)、中央ちゅうおう火口丘かこうきゅうなどの区別くべつがあるほか、火山かざん活動かつどう仕方しかたによっては爆発ばくはつがた静穏せいおんがた火山かざん活動かつどう噴出ふんしゅつ時代じだいによっては、近年きんねんあまりもちいられなくなったが活火山かっかざんおよび休火山きゅうかざん死火山しかざんなどの区別くべつがある。(2)の残存ざんそん山地さんちには、湿潤しつじゅん気候きこう地域ちいき侵食しんしょくしょうじたざんおか乾燥かんそう地域ちいきしょうじたインゼルベルクInselberg(ドイツ)やボルンハルトBornhardt(ドイツ)とよばれるものなどがある。これらのやまは、類型るいけいやまくらべて小規模しょうきぼであり、その分布ぶんぷ範囲はんいせまい。(3)の山地さんちには、褶曲しゅうきょく山地さんち(しゅうきょくさんち)、きょくたかし山地さんち、ドームじょう山地さんち断層だんそう山地さんちかたぶけどう山地さんちなどがある。

 造山つくりやまによってやま区分くぶんする場合ばあいには、普通ふつう中生代ちゅうせいだい中期ちゅうきまでのいにしえ造山つくりやま運動うんどうしょうじた山地さんちと、中生代ちゅうせいだいまつ以降いこうしん造山つくりやま運動うんどうしょうじた山地さんちとにけ、またかく山地さんち形成けいせいされた地質ちしつ時代じだい基準きじゅんにして、古生代こせいだい褶曲しゅうきょく山地さんち中生代ちゅうせいだい褶曲しゅうきょく山地さんち新生代しんせいだいしん褶曲しゅうきょく山地さんちなどのようにけられる場合ばあいもある。

有井ありい琢磨たくま

分布ぶんぷ

陸地りくちにあるやまは、地表ちひょうかぎられた帯状おびじょう地域ちいき分布ぶんぷする傾向けいこうがある。すなわち、アルプス‐ヒマラヤ造山つくりやまたい環太平洋かんたいへいよう造山つくりやまたいには世界せかいだいいちきゅう高峰こうほう集中しゅうちゅうし、火山かざんたい地震じしんたいなどの分布ぶんぷとも一致いっちしている。このほか中央ちゅうおうアジアからロシア東部とうぶにかけての地域ちいき、アフリカ北西ほくせい南東なんとうきたアメリカの東部とうぶなどにやま集中しゅうちゅうしているところがある。

有井ありい琢磨たくま

やまたいするさまざまな観念かんねん

やまは、平地ひらちからは視覚しかくてきえずあお対象たいしょうであり空間くうかんてき指標しひょうとなっていて、人間にんげんにとっては印象深いんしょうぶか存在そんざいである。気温きおんうえしょうをはじめ、さまざまにその環境かんきょう平地ひらちとはことなっているため、やま平地ひらち通常つうじょう生活せいかつ空間くうかんとはことなる世界せかいとして人々ひとびと認識にんしきされていることは、ほぼ普遍ふへんてきである。その認識にんしきは、一方いっぽうではせいなる空間くうかんとしてのやまであり、とくに農耕のうこうみんにとってはやま水源すいげんであり、灌漑かんがい(かんがい)みずをつかさどるかみまで想定そうていしていた。しかし、他方たほうでは、環境かんきょう異質いしつせいは、平地ひらち常住じょうじゅうする人々ひとびとにとっては不案内ふあんないであり危険きけんともなうために、不気味ぶきみ不可思議ふかしぎ世界せかいともかんがえられる傾向けいこうもある。

 だいいち認識にんしきやまかみ世界せかいとするものである。古代こだいギリシアではオリンポスをはじめやまかみ々の世界せかいであり、日本にっぽん記紀きき神話しんわにも、やまかみ々の空間くうかんであることは「天香久山あまのかぐやま(あめのかぐやま)」などの表現ひょうげんからもあきらかである。あるいは、やま天上てんじょう世界せかいからかみ降臨こうりんする場所ばしょかんがえられており、現在げんざいでも、神社じんじゃ祭礼さいれい使つかわれる山車だしは、「ダシ」または「ヤマ」とよばれ、かみ降臨こうりんするだい(よりしろ)とかんがえられている。仏教ぶっきょうにおいても須弥山しゅみせん(しゅみせん)、ユダヤきょうではシナイさんなど、やま宗教しゅうきょう成立せいりつ原初げんしょむすいていることから、やま宗教しゅうきょうむす現象げんしょう普遍ふへんてきであるといえよう。

 一方いっぽうやま不気味ぶきみ空間くうかんとみる結果けっか中世ちゅうせいのヨーロッパでは、やま妖怪ようかい(ようかい)や妖精ようせい魔女まじょのすみかとかんがえられていたし、山岳さんがく信仰しんこうあつし(あつ)い日本にっぽんでも、山間さんかん漂泊ひょうはくする採集さいしゅう狩猟しゅりょうみん木挽こびき(こびき)、木地きじ(きじし)などにたいする偏見へんけんむすいて、「山人さんじん(やまひと)」「山姥やまうば(やまんば)」「山男やまおとこ山女やまめ」などの伝説でんせつ数多かずおおくあった。柳田やなぎだ国男くにお(やなぎたくにお)の『遠野とおの物語ものがたり』『やま人生じんせい』などにしるされる山人さんじんは、身体しんたいおおきく、毛髪もうはつ通常つうじょう日本人にっぽんじんことなる「異人いじん」のイメージであり、またその能力のうりょくなみはずれた超人ちょうじんのイメージである。天狗てんぐ(てんぐ)などの信仰しんこう山人さんじん信仰しんこうどう一線いっせんじょうにある。山地さんちをつかさどるのは「やまかみ」であるが、やまかみとは、また、出産しゅっさんをつかさどるかみ木挽こびき狩猟しゅりょうしゃなど山地さんちはたら人々ひとびと守護神しゅごじん豊穣ほうじょう(ほうじょう)をもたらすかみであるとともに、しばしばたたり(たた)りかみともなり、多様たよう複雑ふくざつ性格せいかくをもっている。このことは、日本人にっぽんじんやまたいして複雑ふくざつ矛盾むじゅんする認識にんしきをもっていることのあらわれである。

 やま死者ししゃ世界せかいであるという、いわゆる山中さんちゅう他界たかいかんは、日本にっぽん中国ちゅうごく朝鮮ちょうせん、ヨーロッパ、東南とうなんアジア、みなみアジアの各地かくちひろくみられる。ヨーロッパには、英雄えいゆうぬのではなく、やまなか一時いちじてきかくれていて、自分じぶん民族みんぞく危急ききゅうのときにはふたたびよみがえり、みずからのみんすくうという伝説でんせつがあり、これは、やまかみ々の世界せかいだとする信仰しんこう死者ししゃ世界せかいだとするかんがかた融合ゆうごうだとみなすことができる。同様どうようなことは日本にっぽんでもみられる。しかも、日本にっぽん氏神うじがみないしやまかみれい同一どういつされることがおおく、氏神うじがみれいやまかみかみとが同一どういつされ、このようなかみ多面ためんせい変貌へんぼう(へんぼう)は、むらさと)とやまという空間くうかん対立たいりつてきにとらえることにより、その異質いしつ空間くうかん移動いどうするとともにかみ変貌へんぼうするという信仰しんこうは、日本人にっぽんじん世界せかいかんひとつの表現ひょうげんであるといえよう。

 インドネシアのバリ島ばりとうは、しま中央ちゅうおう山脈さんみゃくがある。バリの文化ぶんかには、色彩しきさいみぎひだり方位ほうい垂直すいちょくてき上下じょうげをはじめ、明確めいかく複雑ふくざつ発達はったつしたシンボリズムがみられる。方位ほういのものとむすいてとくに重要じゅうよう象徴しょうちょうてき意味いみをもっているが、山脈さんみゃくさかいとし、しま北部ほくぶでは、きた宗教しゅうきょうてき劣位れつい方角ほうがくで、みなみ優位ゆうい方角ほうがくである。ところが、しま南部なんぶではその関係かんけいぎゃくになり、きた優位ゆういみなみ劣位れつい方角ほうがくとなる。つまり、やませいなる空間くうかん宗教しゅうきょうてき優位ゆうい空間くうかんという認識にんしきが、方位ほういのシンボリックな意味いみ決定けっていしていることがわかる。さきべたように、やま空間くうかんじょう指標しひょうとなるため、人々ひとびと世界せかいかん形成けいせいするおおきな要因よういんとなるといえよう。

 やまはまた、地理ちりてき境界きょうかいせんであり、山脈さんみゃくはさんでやま両側りょうがわ気候きこう風土ふうどいちじるしくことなることがある。また、生業せいぎょう形態けいたい経済けいざい言語げんご方言ほうげん)、風俗ふうぞく習慣しゅうかんことなることがおおく、そのため、やま稜線りょうせん(りょうせん)(尾根おね)やとうげは、とくに境界きょうかいせんとして特別とくべつ関心かんしんはらわれることになる。日本にっぽんでも各地かくちとうげにはやまかみや「ヒダルしん」などがまつ(まつ)られたり、さまざまな伝説でんせつつたえられるなど、特別とくべつ意味いみのある空間くうかんとして認識にんしきされることがある。アルプスやピレネー山脈さんみゃく山地さんちで、とうげにマリアぞうまつられるのもおな認識にんしきから信仰しんこう表現ひょうげんである。

 やまたいする信仰しんこうは、おおきくふたつにけられる。(1)特定とくていやま、とくに、そのかたち秀麗しゅうれいであるとか、万年雪まんねんゆきいただいている、あるいは平地ひらちなかいちほうだけ非常ひじょうだつかたち存在そんざいしているなどによって、やま神格しんかくされたり、特別とくべつ聖域せいいきとして信仰しんこう対象たいしょうになっている場合ばあいである。日本にっぽん富士山ふじさん岩木いわき(いわき)やま青森あおもりけん)あるいはさんりん(みわ)やま奈良ならけん)、またメキシコのポポカテペトルさんなどがそれである。修験しゅげんどう(しゅげんどう)の発展はってんのなかでそのやま修行しゅぎょうしたり、そのやま登山とざんすると特別とくべつけん(しるし)があるとされた出羽でわ(でわ)さんやま山形やまがたけん)、大峰おおみね(おおみね)やま奈良ならけん)、英彦ひでひこ(ひこ)やま福岡ふくおかけん)などがそれにあたる。(2)には、やまというものがもつ異質いしつせい信仰しんこう対象たいしょうになっていることで、やまへの信仰しんこう非常ひじょうによく内容ないよううみや、平原へいげん人々ひとびと森林しんりんたいする信仰しんこうにみいだせる。先述せんじゅつの、ヨーロッパ大陸たいりく英雄えいゆうやまがくれをする信仰しんこうが、イギリスではアーサーおうの「島隠しまがくれ」の伝説でんせつになっている。日本にっぽん本土ほんどでは山中さんちゅう他界たかいかんが、南西諸島なんせいしょとうには海上かいじょう他界たかいかんつよい。このように、やまかんする信仰しんこううみなどへの信仰しんこうとの比較ひかくかんがえてゆかなければならない。

波平なみひら恵美子えびす

やま民俗みんぞく

倭人わじん(わじん)はおびかた(たいほう)の東南とうなん大海たいかいなかり、山島やましま(よ)りてくに邑(こくゆう)をため(な)す」と、ふるく3世紀せいきの『こころざし倭人わじんでん』(ぎしわじんでん)もしるすように、日本にっぽん島国しまぐにであり、また山国やまぐにでもあって、平地ひらち全土ぜんどやく16%にとどまり、残余ざんよはおおむね樹林じゅりんおおわれた山地さんちめられている。そして、農耕のうこう生活せいかつとかかわりのおお集落しゅうらく周辺しゅうへんの「里山さとやま端山はやま(はやま)」、もっぱらやま仕事しごとしたが人々ひとびと生活せいかつの「」としての「奥山おくやま深山ふかやま(みやま)」、さらには人跡じんせきまれなこうたかし(こうしゅん)の「たけ」(たけ)と、人々ひとびとやまかいとのかかわりにもおのずから差違さいしょうじて、それぞれに特異とくい民俗みんぞくしてきた。

 水稲すいとう栽培さいばい日本にっぽん農業のうぎょう根幹こんかんであり、それはおもに山谷さんやからながる「みず」に依存いぞんした。河川かせん水源すいげん地帯ちたいにそびえ秀峰しゅうほういただきかみまつ(まつ)り、その山麓さんろく(ろく)の「さとみや」やたに入口いりくちの「山口やまぐちかみ」と対応たいおうさせるかたちひろ各地かくちにみられ、またその祭神さいじんを「水分すいぶんしん(みくまりのかみ)」とすることがおおい。大和やまと(やまと)(奈良ならけん)などにはとくにそのかたちがよくのこっている。「あめ乞(あまご)い」の行事ぎょうじ山上さんじょうおこな習俗しゅうぞく一般いっぱんてきで、大火たいかをたき、大声おおごえはっしてあめをよび、あるいは山上さんじょう小池こいけ谷奥たにおくふち(ふち)を攪乱かくらん(かくらん)するなど、その作法さほう多様たようだが、やまの「神霊しんれい」に「あめめぐみ」を趣旨しゅしおなじであり、それを「竜神りゅうじん」とかんがえているれいおおい。たけのこゆきのありかた作柄さくがら豊凶ほうきょうる「ゆきうらない(ゆきうら)」や、特定とくていの「ゆきがた(ゆきがた)」の出現しゅつげんで「農作のうさくはじめ」(種播たねまき(たねま)きなど)の適期てっき風習ふうしゅうなども、たけ農民のうみんとのかかわりをしめ民俗みんぞくれいであろう。稲作いなさくまもがみひろく「かみ」とよばれているが、収穫しゅうかくぎるとかみ田野でんやってやまのぼり「やまかみ」になる、そしてよくはる農作のうさくはじめ」にはまたさとくだって「かみ」になる、とかんがえられてきた。苗代なわしろ(なわしろ)の「水口みずぐちさい(みなくちまつり)」やあきの「稲上いなかみげ・じゅうにちよる(とおかんや)」(案山子かかし(かかし)あげ)などの行事ぎょうじからは、こうした神霊しんれいの「おくむかえ」の意味いみがよくうかがえるが、しかしこうした「かみやまかみ」の神格しんかく漠然ばくぜんとしか思念しねんされておらず、別段べつだん特定とくていの「しゃほこら(しゃし)」ももうけられず、かえしずまる「やま」さえまってはいない。

 しかしこうした農民のうみんの「やまかみ信仰しんこう集落しゅうらくちかくの「端山はやま」にそくしたもので、阿武隈あぶくま(あぶくま)山地さんちの「葉山はやまかみ」のまつりなどはそのをとどめるものであろう。そこでは歳末さいまつさとちか秀峰しゅうほう神霊しんれいとき(いわ)いしずめ、とし豊凶ほうきょううらな行事ぎょうじよるてっしていまもおこなわれている。正月しょうがつ門松かどまつしょう(こ)正月しょうがつ若木わかぎぼん供花きょうかさとちかやまから採取さいしゅすることを「まつむかえ・ぼんはなむかえ(ぼんばなむかえ)」などとよぶ。やまから神霊しんれい精霊せいれい(しょうりょう)をむかえてくる意味いみで、ぼんまえの「山道さんどうつくり」(ぼんどう)もおな趣旨しゅしであり、4がつ8にち山野さんやはなをとってきて門口かどぐち風習ふうしゅうかたちである。

 死者ししゃ霊魂れいこんやまくとしんじて、「やまたずね(やまたずね)」(亡魂ぼうこんやまたずまわる)やさとちかやま死者ししゃほうむ風習ふうしゅうふるくからあったことは『万葉集まんようしゅう』の挽歌ばんか(ばんか)などからもうかがわれ、また各地かくち死者ししゃ霊魂れいこんあつまるところしんじられてきた山中さんちゅう霊地れいちもいくつかある。れいやままつる「山宮さんぐう」の成立せいりつもこれと関連かんれんするとみられている。ともかく人里ひとざとちかい「端山はやま」はこうして日本人にっぽんじん霊界れいかいについての想念そうねんふかくかかわっていた。なお「やまあがり・やまあそび・やまごもり」などとしょうして、早春そうしゅん村人むらびとさとちかくのやまのぼり、「遊山ゆさん(ゆさん)」に1にちごす風習ふうしゅう注目ちゅうもくされよう。

 山奥やまおく森林地帯しんりんちたいは、木地きじ(きじし)(ろくろ)、檜物ひもの(ひものし)、杓子しゃくし(しゃくしうち)、木挽こびき(こびき)、そま(そま)などの木工もっこう職人しょくにんや、かね、たたら製鉄せいてつ)、炭焼すみやきなどの鉱山こうざん職人しょくにんたちの「生活せいかつ」で、一般いっぱん農民のうみんとはまたべつおもむき様相ようそうがみられた。鉱山こうざん関係かんけい職人しょくにん近世きんせい初期しょき以後いご特定とくてい集結しゅうけつして特異とくい集落しゅうらくをつくり、とくに製鉄せいてつ関係かんけいしゃは「山内やまうち(さんない)」という同職どうしょくしゃのムラを山中さんちゅう形成けいせいして異色いしょく協同きょうどう生活せいかついとなんだ。しかしいずれも「金山かなやま(かなやま)かみ」の信仰しんこう中心ちゅうしん特異とくい習俗しゅうぞく伝来でんらいしてきたことはわらない。木工もっこう職人しょくにんるい転々てんてんはらざいもとめてそのきょしょうつし、「山中さんちゅう仮泊かはく」の集落しゅうらくてき生活せいかつつづけた。とくに「ろくろ」工具こうぐもちいる木地きじは「しょくおもんみたかし(これたか)親王しんのう」のつたえる近江おうみ(おうみ)国東くにさき小椋おぐら(おぐら)たに神社じんじゃ中心ちゅうしん特異とくい統制とうせい組織そしききずきあげ、諸国しょこく往来おうらい自在じざい特権とっけん誇示こじしてきた。いわゆる「木地屋きじや文書ぶんしょ」による稼業かぎょう保証ほしょうである。それゆえかれらの仲間なかま生活せいかつにも種々しゅじゅ特異とくい民俗みんぞくがおのずからしょうじた。なお、俗界ぞっかいとまったく隔離かくりした「さんか」の一団いちだんもそこにはあり、山野やまのづるふじ(つるふじ)・しのささ(しのささ)をざい(み)やかご(かご)をつくり、あるいはかわぎょりょう(すなど)って里人さとびととわずかの交渉こうしょうをもつにとどまった。しかし、こうした「やま流民りゅうみん」のあともいまはかすかになった。

 大形おおがた野獣やじゅうとぼしい日本にっぽん専業せんぎょう狩人かりゅうど(かりゅうど)のできる条件じょうけんとぼしかったが、東北とうほく地方ちほうのマタギをはじめ、九州きゅうしゅう中部ちゅうぶ山地さんちには若干じゃっかんそのるいがあった。かれらはふゆはるには山岳さんがく跋渉ばっしょう(ばっしょう)してシカ、イノシシ、クマ、カモシカのるいもとめ、ひさしく山中さんちゅう仮泊かはく生活せいかつつづけるため、「山岳さんがく立入たちい自在じざい狩猟しゅりょう認許にんきょ」の特権とっけんをもつ必要ひつようがあった。それらはどれも「山神さんじん(さんじん)信仰しんこう」に由来ゆらいするもので、またべつおもむき信仰しんこう伝承でんしょう保持ほじして、特異とくい狩猟しゅりょう習俗しゅうぞくのこしてもきた。秀麗しゅうれい姿すがたでそびえつ「たけ」が神霊しんれい宿やどる「神体しんたいさん(しんたいさん)」として崇拝すうはいされた由来ゆらいひさしく、各地かくちのこる「おやまがけ」の成人せいじん儀礼ぎれいもそのみなもとをそこにはっしているが、これを主導しゅどうしたのは「修験しゅげんどう(しゅげんどう)」であり、熊野くまの吉野よしの羽黒はぐろはじめ各地かくちにその拠点きょてんふるくつくりだした。ふる山岳さんがく信仰しんこうもと密教みっきょう教義きょうぎによる特異とくい神仏しんぶつこんとおる宗派しゅうはしょうじ、庶民しょみん生活せいかつにもおおきな影響えいきょうおよぼしたことはくまでもない。明治めいじ中期ちゅうき「アルピニズム」が導入どうにゅうされるまで、日本人にっぽんじんの「山岳さんがく登高とうこう」はまったく修験しゅげん先導せんどうおこなわれてきたのであった。

竹内たけうち利美としみ

都城みやこのじょう秋穂あきほ安芸あき敬一けいいちへん岩波いわなみ講座こうざ 地球ちきゅう科学かがく12 変動へんどうする地球ちきゅうⅢ――造山つくりやま運動うんどう』(1979・岩波書店いわなみしょてん)』町田まちださだ貝塚かいづか爽平へん地形ちけいがく辞典じてん』(1981・二宮にのみや書店しょてん)』柳田やなぎだ国男くにおちょやま人生じんせい』(『定本ていほん柳田やなぎだ国男くにおしゅう4』所収しょしゅう・1966・筑摩書房ちくましょぼう)』大林おおばやし太良たら編著へんちょやまみん海人あま』(『日本にっぽん民俗みんぞく文化ぶんか大系たいけい5』所収しょしゅう・1983・小学館しょうがくかん)』

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ブリタニカ国際こくさいだい百科ひゃっか事典じてん しょう項目こうもく事典じてんやま」の意味いみ・わかりやすい解説かいせつ

やま
やま
mountain

かなりの高度こうどをもった地表ちひょうとつ厳密げんみつ定義ていぎはないが,地形ちけい学的がくてきには一般いっぱん起伏きふくりょうすうひゃくm以上いじょうで,その構造こうぞう複雑ふくざつなものをやまぶ。起伏きふくりょうが 400~500m以下いかとつ丘陵きゅうりょうぶ。山地さんち起伏きふくりょう高度こうどによって高山たかやま中山なかやまていやまけられ,成因せいいんてきには火山かざん構造こうぞう山地さんち分類ぶんるいする。前者ぜんしゃ孤立こりつほうをつくることがおお面積めんせきちいさい。後者こうしゃだい規模きぼ山地さんちをつくる。これは褶曲しゅうきょくかたまり山地さんちきょくたかし山地さんちなどに大別たいべつされる。

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デジタル大辞泉だいじせんプラスやま」の解説かいせつ

やま

日本にっぽんのポピュラー音楽おんがくうた男性だんせい演歌えんか歌手かしゅ北島きたじま三郎さぶろう。1990ねん発売はつばい作詞さくし星野ほしの哲郎てつろう作曲さっきょくはら譲二じょうじ

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世界せかいだい百科ひゃっか事典じてん旧版きゅうばんうちやま言及げんきゅう

】より

日本にっぽんでは府県ふけんはな指定していして地方ちほう性格せいかく代表だいひょうさせることもあり,天然記念物てんねんきねんぶつになっている名木めいぼくおおい。著名ちょめい大木たいぼくれいとして,スギでは前述ぜんじゅつなわもんすぎのほか,高知こうちけん長岡ながおかぐん大豊おおとよまちすぎ千葉ちばけん安房あわぐん天津小湊あまつこみなとまち清澄きよすみ大杉おおすぎ日光にっこうすぎ並木なみきなど,ケヤキでは新潟にいがたけんひがし頸城ぐん松之山まつのやままち山形やまがたけん東根ひがしね山梨やまなしけん中巨摩なかこまぐん若草わかくさまち三恵さんけい山梨やまなしけん北巨摩きたこまぐん須玉すたままち根古屋ねごや神社じんじゃなどの大木たいぼくがある。【岩槻いわつき 邦男くにお
利用りよう
 人間にんげんむかしからふかいかかわりをもっているが,そのおおくは木材もくざい利用りようとおしてである。…

山賊さんぞく】より

山中さんちゅうにおいて旅人たびびとなどの通行人つうこうにんから財物ざいぶつ奪取だっしゅする強盗ごうとう,またその集団しゅうだん山立やまだち(やまだち),やま落(やまおとし)ともいう。…

やまろん】より

…〈やまろん〉ともいう。山林さんりん原野げんや用益ようえきをめぐって発生はっせいする紛争ふんそう山野やまの利用りよう具体ぐたいてき内容ないようは,(1)果実かじつとう採取さいしゅ,(2)狩猟しゅりょう,(3)薪炭しんたんとう燃料ねんりょう,(4)建築けんちく用材ようざい,(5)くすり染料せんりょう,(6)飼料しりょう,(7)肥料ひりょう,(8)鉱物こうぶつとう地下ちか資源しげん,(9)灌漑かんがい用水ようすいとうじつ多様たようであり,かつ農民のうみん生活せいかつ生産せいさんさい生産せいさんにとって非常ひじょう重要じゅうようなものであった。…

山人さんじん】より

山間さんかん生活せいかつ根拠こんきょとして,独自どくじ文化ぶんか体系たいけい形成けいせいしていたとかんがえられる人々ひとびと。《延喜えんぎしき》や《万葉集まんようしゅう》などにもしるされているが,その実体じったい不明ふめいてんおおい。…

※「やま」について言及げんきゅうしている用語ようご解説かいせつ一部いちぶ掲載けいさいしています。

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