放浪ほうろう（読よみ）ホウロウ

岩野いわの泡鳴ほうめいの長編ちょうへん小説しょうせつ。1910年ねん（明治めいじ43）東雲しののめ堂どう刊かん。樺太からふとの缶詰かんづめ事業じぎょうに失敗しっぱいした田村たむら義雄よしおは，ひとまず札幌さっぽろの友人ゆうじんたちのもとに身みを寄よせて再起さいきを図はかる。しかし，樺太からふとに残のこしてきた弟おとうとや従弟じゅうていをはじめ東京とうきょうにいる妻子さいしや愛妾あいしょうお鳥とり，そして抵当ていとうに入はいっている家いえのことなどもからんで，すべてうまくいかない。絶望ぜつぼう的てきな日々ひびの中なかで薄野すすきの（すすきの）遊郭ゆうかくで敷島しきしまという女おんなを知しる。やがて義雄よしおは，彼女かのじょの生いき方かたの中なかに自分じぶんの哲理てつりが具現ぐげんされているのを感かんじ，思おもいを深ふかめてゆく。《断橋だんきょう》《発展はってん》《毒薬どくやくを飲のむ女おんな》《憑（つ）き物もの》とともにいわゆる〈泡鳴ほうめい五部ごへ作さく〉をなすが，後年こうねん，自説じせつの一元いちげん描写びょうしゃ論ろんに合あわせて改編かいへんされた。作者さくしゃ自身じしんの体験たいけんにもとづき，自我じが独どく尊みことの哲理てつりと生せいをユニークに描えがいた自然しぜん主義しゅぎ文学ぶんがくの代表だいひょう作さく。
執筆しっぴつ者しゃ：榎本えのもと 隆司たかし