目次 語義 分類 全体社会 部分社会 社会の形成 機能的説明の基盤 生物の社会 動物の社会 社会の進化 語義 ごぎ 複数 ふくすう の人 ひと びとが持続 じぞく 的 てき に一 ひと つの共同 きょうどう 空間 くうかん に集 あつ まっている状態 じょうたい ,またはその集 あつ まっている人 ひと びと自身 じしん ,ないし彼 かれ らのあいだの結 むす びつきを社会 しゃかい という。この定義 ていぎ では,街頭 がいとう の群集 ぐんしゅう や映画 えいが の観衆 かんしゅう のような流動的 りゅうどうてき ・一時 いちじ 的 てき な集 たか りは排除 はいじょ されているが,人 ひと びとのあいだに相互 そうご 行為 こうい があるとか役割 やくわり 関係 かんけい があるとか共通 きょうつう 文化 ぶんか があるとかいったような,社会 しゃかい 学 がく 的 てき によりたちいった限定 げんてい についてはまだふれられていない。これらの点 てん の考察 こうさつ はもう少 すこ しあとの段階 だんかい で述 の べよう。
日本語 にほんご の〈社会 しゃかい 〉という語 かたり は,1875年 ねん に,《東京日日新聞 とうきょうにちにちしんぶん 》の主筆 しゅひつ をしていた福地桜痴 ふくちおうち によって,英語 えいご のsocietyの訳語 やくご としてつくられたという。当時 とうじ は,ほかに〈世態 せたい 〉〈会社 かいしゃ 〉〈仲間 なかま 〉〈交際 こうさい 〉などの訳語 やくご も行 おこな われていたが,しだいに淘汰 とうた されて〈社会 しゃかい 〉に一本 いっぽん 化 か されていった。つまりこの語 かたり は訳語 やくご として登場 とうじょう したのであって,それ以前 いぜん の日本 にっぽん には概念 がいねん としてなかったものである,という点 てん が重要 じゅうよう である。しかし江戸 えど 時代 じだい には,井原 いはら 西鶴 さいかく の《世間 せけん 胸算用 むなざんよう 》(1692)や,江島 えじま 其磧 きせき (きせき)の《世間 せけん 子息 しそく 気質 きしつ (むすこかたぎ)》(1715)などの題名 だいめい に使 つか われている〈世間 せけん 〉という語 かたり があって,〈人 ひと の世 よ 〉〈世 よ の中 なか 〉といった意味 いみ をあらわしていた。
中国 ちゅうごく 語 ご に関 かん しては,宋 そう 代 だい の儒学 じゅがく 者 しゃ 程 ほど 伊川 いがわ (1033-1107)の遺著 いちょ 《二 に 程 ほど 全書 ぜんしょ 》に〈郷 さと 民 みん 為 ため 社会 しゃかい 〉とあるのが引用 いんよう されるのが常 つね である(この句 く は朱子 しゅし と呂 りょ 祖 そ 謙 けん によって編 へん さんされた《近 きん 思 おもえ 録 ろく 》にも収録 しゅうろく されている)。しかし中国 ちゅうごく の古 ふる い語義 ごぎ では,〈社 しゃ shè〉というのは土地 とち の神 かみ を祭 まつ ったところという意味 いみ で,上記 じょうき の用例 ようれい ではこれに人 ひと びとの集 たか りという意味 いみ の〈会 かい huì〉をつけて,〈村人 むらびと たちが土地 とち の神 かみ を祭 まつ ったところに集 あつ まる〉といっているのであるから,これは現代 げんだい の意味 いみ での社会 しゃかい とは別 べつ のことである。現代 げんだい の中国 ちゅうごく 語 ご で用 もち いる〈社会 しゃかい 〉は,日本語 にほんご からの逆 ぎゃく 輸入 ゆにゅう によるものである。
英語 えいご のsocietyはフランス語 ふらんすご のsociétéが16世紀 せいき に導入 どうにゅう されて変化 へんか したもので,フランス語 ふらんすご はラテン系 けい の言葉 ことば だからsociétéの語源 ごげん はラテン語 らてんご のsocietasである。societasは仲間 なかま ,共同 きょうどう ,連合 れんごう ,同盟 どうめい といった意味 いみ をあらわしていた。ドイツ語 ご のGesellschaft の語幹 ごかん GeselleはSaalgenoss,すなわち〈同一 どういつ の室 しつ にいる仲間 なかま たち〉を語源 ごげん とするもので,この空間 くうかん 的 てき 表象 ひょうしょう が中世 ちゅうせい 後期 こうき に〈人 ひと びとの結 むす びつきVerbindungen von Menschen〉を意味 いみ するものに転 てん じて,〈社会 しゃかい 〉の概念 がいねん ができた。明治 めいじ の初年 しょねん に日本 にっぽん の知識 ちしき 人 じん たちが,これらの西洋 せいよう 語 ご を〈仲間 なかま 〉とか〈交際 こうさい 〉などと訳 やく したのは語義 ごぎ として当 あ たっていたということができる。
しかし西洋 せいよう 語 ご のこれらの概念 がいねん は,いずれも近代 きんだい 初頭 しょとう ,すなわち17~18世紀 せいき において社会 しゃかい 科学 かがく の母体 ぼたい をなしたイギリスおよびフランスの啓蒙 けいもう 思潮 しちょう と,その系譜 けいふ を引 ひ くイギリスの道徳 どうとく 哲学 てつがく および古典 こてん 派 は 経済 けいざい 学 がく ,フランスの理性 りせい 主義 しゅぎ 的 てき 進歩 しんぽ 史観 しかん および実証 じっしょう 哲学 てつがく ,ドイツの観念論 かんねんろん 哲学 てつがく などの諸 しょ 思想 しそう の中 なか で,〈市民 しみん 社会 しゃかい civil society,bürgerliche Gesellschaft〉という,抽象 ちゅうしょう 化 か された概念 がいねん へと高 たか められ,近代 きんだい 思想 しそう の中核 ちゅうかく を形成 けいせい するにいたる。この抽象 ちゅうしょう 化 か された中核 ちゅうかく 概念 がいねん をあらわすのに,日常 にちじょう 性 せい の中 なか での具体 ぐたい 的 てき イメージを担 にな った〈仲間 なかま 〉とか〈交際 こうさい 〉ではぐあいが悪 わる い。〈社会 しゃかい 〉という語 かたり は,江戸 えど 時代 じだい までの日本 にっぽん になかった新 あたら しい造語 ぞうご である点 てん で,またその抽象 ちゅうしょう 化 か された語感 ごかん とあいまって,この西洋 せいよう 近代 きんだい の中核 ちゅうかく 思想 しそう をよく日本語 にほんご の中 なか に移 うつ す効力 こうりょく を発揮 はっき したということができよう。
分類 ぶんるい 社会 しゃかい は最 もっと も広 ひろ い意味 いみ では人間 にんげん に関 かん する事象 じしょう の総体 そうたい (ただし自然 しぜん としての人間 にんげん ,すなわち生理 せいり 的 てき ・動物 どうぶつ 的 てき レベルの事象 じしょう を除 のぞ く),すなわち〈自然 しぜん 〉対 たい 〈社会 しゃかい 〉という対比 たいひ の文脈 ぶんみゃく での社会 しゃかい を意味 いみ する。これはギリシア哲学 てつがく 以来 いらい のフュシス対 たい ノモスという対比 たいひ におけるノモスに当 あ たり,人間 にんげん にとって所与 しょよ の自然 しぜん に対 たい して,人間 にんげん がつくった習慣 しゅうかん や法律 ほうりつ や制度 せいど など人為 じんい の世界 せかい をあらわしている。これがここでいう広義 こうぎ の社会 しゃかい であって,自然 しぜん 科学 かがく に対 たい する意味 いみ で,社会 しゃかい 科学 かがく というときの社会 しゃかい は,この意味 いみ のものである。社会 しゃかい 科学 かがく は,経済 けいざい 学 がく ,政治 せいじ 学 がく ,法律 ほうりつ 学 がく ,社会 しゃかい 学 がく をはじめとする多 おお くの個別 こべつ 科目 かもく を含 ふく み,広義 こうぎ の社会 しゃかい というのはこれらの諸 しょ 科目 かもく の研究 けんきゅう 対象 たいしょう である経済 けいざい ,政治 せいじ ,法 ほう 規範 きはん ,狭義 きょうぎ の社会 しゃかい 等 とう 々多 おお くの諸 しょ 現象 げんしょう を包含 ほうがん している。
広義 こうぎ の社会 しゃかい から区別 くべつ されたものとしての狭義 きょうぎ の社会 しゃかい とは,冒頭 ぼうとう に定義 ていぎ した複数 ふくすう の人 ひと びとの持続 じぞく 的 てき な集 たか りの,あらゆる種類 しゅるい のもの,あらゆる大 おお きさのものを総称 そうしょう する。かくして小 しょう は恋人 こいびと どうしの2人 ふたり 社会 しゃかい から,大 たい は国民 こくみん 社会 しゃかい を経 へ て世界 せかい 社会 しゃかい にいたるまでのものが,社会 しゃかい である。狭義 きょうぎ の社会 しゃかい は,個別 こべつ 社会 しゃかい 科学 かがく の1科目 かもく としての社会 しゃかい 学 がく の研究 けんきゅう 対象 たいしょう である。しかし狭義 きょうぎ の社会 しゃかい もまた,種類 しゅるい を異 こと にするさまざまなものを含 ふく んでいるので,社会 しゃかい 学者 がくしゃ はそれらをいろいろに分類 ぶんるい してきた。ここでは,広 ひろ く用 もち いられる基本 きほん 的 てき な分類 ぶんるい 軸 じく だけを示 しめ そう。
全体 ぜんたい 社会 しゃかい その内部 ないぶ で人間 にんげん の必要 ひつよう とするすべての生活 せいかつ 上 じょう の欲求 よっきゅう が充足 じゅうそく される社会 しゃかい 。その意味 いみ で自足 じそく 的 てき な社会 しゃかい である。その範囲 はんい は,未開 みかい 社会 しゃかい ではごく小 ちい さく,文明 ぶんめい 社会 しゃかい になるほど拡大 かくだい する。狩猟 しゅりょう 採取 さいしゅ 社会 しゃかい および園 えん 耕 こう 社会 しゃかい (初期 しょき の原始 げんし 的 てき な農耕 のうこう )では部族 ぶぞく 社会 しゃかい tribal societyがこれに当 あ たり,農業 のうぎょう 社会 しゃかい では農村 のうそん 共同 きょうどう 体 たい rural community,Agrargemeinschaftがこれに当 あ たり,近代 きんだい 国民 こくみん 国家 こっか の成立 せいりつ 以降 いこう では国民 こくみん 社会 しゃかい national societyがこれに当 あ たり,そして現代 げんだい ではそれがしだいに世界 せかい 社会 しゃかい world societyに向 む かって拡大 かくだい しつつある。
部分 ぶぶん 社会 しゃかい (1)地域 ちいき 社会 しゃかい 地縁 ちえん によって形成 けいせい される社会 しゃかい ,すなわち地理 ちり 上 じょう のテリトリー を共有 きょうゆう する人 ひと びとから成 な る社会 しゃかい 。マッキーバー がアソシエーション から区別 くべつ してコミュニティ と呼 よ んだものがこれであって,農村 のうそん と都市 とし がその2大 だい 区分 くぶん をなす。必 かなら ず一定 いってい の政治 せいじ 的 てき に区分 くぶん されたテリトリーと結 むす びついていることを本質 ほんしつ 的 てき 特性 とくせい としており,この点 てん で次 つぎ に述 の べる集団 しゅうだん と区別 くべつ される。前述 ぜんじゅつ の全体 ぜんたい 社会 しゃかい は,地域 ちいき 社会 しゃかい の中 なか の最大 さいだい のものに当 あ たる。
(2)集団 しゅうだん 地縁 ちえん によらず,すなわち場所 ばしょ という要因 よういん に縛 しば られずに(たとえば家族 かぞく は自由 じゆう に引 ひ っ越 こ せるし,企業 きぎょう は自由 じゆう に立地 りっち を選 えら べる)形成 けいせい されるすべての持続 じぞく 的 てき な集 たか り。これはさらに次 つぎ の二 ふた つに分 わ けられる。(a)基礎 きそ 集団 しゅうだん 血縁 けつえん および婚姻 こんいん 関係 かんけい によってつくられる家族 かぞく および親族 しんぞく を基礎 きそ 集団 しゅうだん という。家族 かぞく は親族 しんぞく の限定 げんてい された一部 いちぶ を指 さ すわけだから,親族 しんぞく kinship,Verwandtschaft,parentéによってこれを代表 だいひょう させてもよい。基礎 きそ 集団 しゅうだん と,町 まち とか村 むら のような地域 ちいき 社会 しゃかい とを合 あ わせたものを,〈基礎 きそ 社会 しゃかい 〉と呼 よ ぶい方 いかた もある。これは,親族 しんぞく と地域 ちいき 社会 しゃかい が人類 じんるい の歴史 れきし とともに古 ふる く,狩猟 しゅりょう 採取 さいしゅ 社会 しゃかい から現代 げんだい 産業 さんぎょう 社会 しゃかい までを含 ふく めて,すべての社会 しゃかい に普遍 ふへん 的 てき であることをい表 いあらわ したものである。しかし家族 かぞく の機能 きのう は,狩猟 しゅりょう 採取 さいしゅ 社会 しゃかい において家族 かぞく がほとんど唯一 ゆいいつ の社会 しゃかい 集団 しゅうだん であった段階 だんかい には全 ぜん 包括 ほうかつ 的 てき なものだったのに対 たい し,近代 きんだい 以降 いこう さまざまな機能 きのう 集団 しゅうだん が噴出 ふんしゅつ するに及 およ んで,しだいに縮小 しゅくしょう してきた。とりわけ,家族 かぞく をこえる親族 しんぞく 集団 しゅうだん は,冠婚葬祭 かんこんそうさい 以外 いがい にはほとんど機能 きのう を失 うしな い,かつ頻繁 ひんぱん な地域 ちいき 移動 いどう の影響 えいきょう を受 う け,急速 きゅうそく に解体 かいたい に向 む かいつつある。(b)機能 きのう 集団 しゅうだん 機能 きのう 集団 しゅうだん は目的 もくてき 集団 しゅうだん ともいわれ,機能 きのう 別 べつ ないし目的 もくてき 別 べつ に組織 そしき 化 か された集団 しゅうだん である。企業 きぎょう ,政府 せいふ ・官庁 かんちょう ,自治体 じちたい ,学校 がっこう ・研究所 けんきゅうじょ ,宗教 しゅうきょう 団体 だんたい ,スポーツ団体 だんたい ,その他 た きわめて多 おお くの集団 しゅうだん および組織 そしき (集団 しゅうだん の中 なか で目的 もくてき 達成 たっせい に向 む かって組織 そしき 化 か されている度合 どあい のとくに高 たか いものを組織 そしき という)が,これに属 ぞく する。近代 きんだい 以前 いぜん の社会 しゃかい においては,機能 きのう 集団 しゅうだん は国家 こっか 組織 そしき や宗教 しゅうきょう 組織 そしき などに限 かぎ られ,企業 きぎょう はまだ大 だい 部分 ぶぶん 家族 かぞく と未 み 分離 ぶんり であったので,ごく少 すく なかった。機能 きのう 集団 しゅうだん の噴出 ふんしゅつ は,近代 きんだい 社会 しゃかい における機能 きのう 分化 ぶんか に対応 たいおう するもので,近代 きんだい 化 か の最 もっと もいちじるしい特性 とくせい の一 ひと つである。マッキーバーがコミュニティに対 たい してアソシエーションと呼 よ んだものは大 だい 部分 ぶぶん ここにいう機能 きのう 集団 しゅうだん であったが,ただマッキーバーは近代 きんだい 家族 かぞく を,分化 ぶんか した機能 きのう の一 ひと つを引 ひ き受 う けている集団 しゅうだん と見立 みた てて,これをもアソシエーションに含 ふく めた。この観点 かんてん からは国家 こっか もアソシエーションの一 ひと つとみなされ,この見解 けんかい が20世紀 せいき 初頭 しょとう における〈多元的 たげんてき 国家 こっか 論 ろん 〉の主張 しゅちょう の裏 うら づけとなった。ただL.vonウィーゼ のように,国家 こっか を集団 しゅうだん と呼 よ ぶのは適切 てきせつ でないとして,集団 しゅうだん とは別 べつ のカテゴリーである〈抽象 ちゅうしょう 的 てき 集合 しゅうごう 体 たい abstrakte Kollektiva〉というような名称 めいしょう をこれに当 あ てた者 もの もある。
社会 しゃかい の形成 けいせい 人 ひと はなぜ社会 しゃかい をつくるか。この最 もっと も基本 きほん 的 てき な問 とい に対 たい する答 こたえ として,従来 じゅうらい いくつかの考 かんが え方 かた が提示 ていじ されてきた。西洋 せいよう 近代 きんだい 初頭 しょとう の17世紀 せいき において社会 しゃかい 科学 かがく の出発 しゅっぱつ 点 てん をなしたホッブズ とロック にあっては,この問題 もんだい は次 つぎ のように答 こた えられた。
まずホッブズは,人間 にんげん の自然 しぜん 状態 じょうたい を〈万 まん 人 にん の万 まん 人 にん に対 たい する闘争 とうそう 〉の状態 じょうたい として想定 そうてい し,このような状態 じょうたい のもとでは〈継続 けいぞく 的 てき な恐怖 きょうふ と,暴力 ぼうりょく による死 し の危険 きけん とが存 そん し,人間 にんげん の生活 せいかつ は,孤独 こどく で貧 まず しく険悪 けんあく で残忍 ざんにん でしかも短 みじか い〉ので,人間 にんげん たちは相互 そうご に契約 けいやく を結 むす び,個々人 ここじん に与 あた えられた自然 しぜん 権 けん の一部 いちぶ を主権 しゅけん 者 しゃ に譲渡 じょうと したのである,と説明 せつめい した。この譲渡 じょうと によって,人 ひと びとは国家 こっか の主権 しゅけん に服 ふく しなければならなくなった点 てん で自由 じゆう を失 うしな ったが,それと引換 ひきか えに秩序 ちつじょ による身 み の安全 あんぜん の保証 ほしょう を得 え た。かくして自然 しぜん 状態 じょうたい は解消 かいしょう され,人間 にんげん の社会 しゃかい 状態 じょうたい が開始 かいし された(《リバイアサン 》1651)。
次 つぎ にロックは,ホッブズと異 こと なって自然 しぜん 状態 じょうたい のもとで人間 にんげん は平和 へいわ であり,すべての個人 こじん が生 う まれながらにしてもっている自然 しぜん 権 けん を尊重 そんちょう しあって生 い きていたとの想定 そうてい に立 た つものであったが,そう考 かんが えた場合 ばあい でも秩序 ちつじょ を乱 みだ し他人 たにん の財産 ざいさん を盗 ぬす んだり他人 たにん を殺 ころ したりする不心得 ふこころえ 者 しゃ があらわれるので,これを公的 こうてき な権力 けんりょく によって裁 さば くことができるようにするために,自然 しぜん 権 けん の譲渡 じょうと を行 おこな って国家 こっか 主権 しゅけん が成立 せいりつ した,と説明 せつめい した。そのような公権力 こうけんりょく としての国家 こっか 主権 しゅけん の形成 けいせい された状態 じょうたい を,ロックは市民 しみん 社会 しゃかい civil societyと呼 よ んだ。市民 しみん 社会 しゃかい の目的 もくてき は生命 せいめい の安全 あんぜん と私有 しゆう 財産 ざいさん の保全 ほぜん にある,とロックは考 かんが えた(《統治 とうち 二 に 論 ろん 》1689)。
ホッブズとロックの理論 りろん は,近代 きんだい 市民 しみん 社会 しゃかい の基礎 きそ づけを与 あた えたものとして,すべての社会 しゃかい 科学 かがく 思想 しそう がそこから出 で てくる共通 きょうつう の源泉 げんせん をなす。社会 しゃかい 学 がく にとってもこの点 てん は同様 どうよう である。それらは直接的 ちょくせつてき には,国家 こっか 権力 けんりょく の形成 けいせい を説明 せつめい しているのであって,社会 しゃかい そのものの形成 けいせい を説明 せつめい しているのではない。とくにロックの理論 りろん は,最初 さいしょ から人間 にんげん の社会 しゃかい 状態 じょうたい を仮定 かてい しているから,社会 しゃかい そのものはそこでは説明 せつめい されていないといわねばならない。しかしホッブズの理論 りろん は,社会 しゃかい を契約 けいやく によって説明 せつめい したものとしても解釈 かいしゃく することができる。ホッブズにおいては,社会 しゃかい と国家 こっか とはまったく重 かさ なっていて区別 くべつ されえない。だからそれは,国家 こっか 契約 けいやく 説 せつ であるとともに,また社会 しゃかい 契約 けいやく 説 せつ であるともいえる。
社会 しゃかい 契約 けいやく 説 せつ を社会 しゃかい の形成 けいせい についての一 ひと つの説明 せつめい と認 みと めるにしても,その場合 ばあい の契約 けいやく というのは単 たん なる説明 せつめい 上 じょう のフィクション たるにとどまる点 てん が問題 もんだい となる。なぜなら社会 しゃかい は人類 じんるい の歴史 れきし とともに古 ふる いのであって,売買 ばいばい 契約 けいやく のようにどこかある時点 じてん で成立 せいりつ したものではないからである。そこで,このような概念的 がいねんてき フィクションによるのでないもう少 すこ し科学 かがく 的 てき な説明 せつめい が求 もと められる。
ホッブズから2世紀 せいき ほどたって,近代 きんだい 啓蒙 けいもう 思想 しそう の系譜 けいふ の中 なか から19世紀 せいき 半 なか ばに社会 しゃかい 学 がく が一 ひと つの独立 どくりつ の学問 がくもん として生 う まれ出 で て以来 いらい ,この課題 かだい に答 こた えようとするさまざまの試 こころ みがなされたが,それらは大 おお きく分 わ けて,人間 にんげん は群居 ぐんきょ 本能 ほんのう instinct of gregariousnessをもつといった説明 せつめい と,人間 にんげん は合理 ごうり 的 てき 判断 はんだん の結果 けっか 目的 もくてき 的 てき に動機 どうき づけられて社会 しゃかい 生活 せいかつ を求 もと めるといった説明 せつめい とのいずれかに帰着 きちゃく し,この両者 りょうしゃ が対立 たいりつ する傾向 けいこう がみられた。マッキーバー は,このような〈本能 ほんのう 〉説 せつ と〈合理 ごうり 〉説 せつ のあいだのはてしない論議 ろんぎ は避 さ けるのが賢明 けんめい であるとして,両者 りょうしゃ の中間 ちゅうかん に〈意志 いし された関係 かんけい willed relations〉という概念 がいねん を立 た てることを提案 ていあん し,これによって社会 しゃかい の形成 けいせい を説明 せつめい しうるとした(《コミュニティ》1917)。高田 たかだ 保馬 やすま は,マッキーバーのこの説 せつ を受 う けてこれを〈望 のぞ まれたる共存 きょうぞん 〉と表現 ひょうげん し,共存 きょうぞん の欲求 よっきゅう というものを仮説 かせつ した。高田 たかだ は,この共存 きょうぞん の欲求 よっきゅう には2種類 しゅるい のものがあるとし,その一 ひと つは他者 たしゃ との結合 けつごう それ自体 じたい を求 もと める〈結合 けつごう のための結合 けつごう 〉,もう一 ひと つは目的 もくてき 達成 たっせい のための手段 しゅだん として他者 たしゃ との結合 けつごう を求 もと める〈利益 りえき のための結合 けつごう 〉であるとして,上記 じょうき の両 りょう 説 せつ をそれぞれ位置 いち づけた(《社会 しゃかい 学 がく 概論 がいろん 》初版 しょはん 1922,改訂 かいてい 版 ばん 1950)。
現代 げんだい の社会 しゃかい 学説 がくせつ としては,T.パーソンズ ,マートン ,レビーMarion J.Levyらの機能 きのう 理論 りろん functional theoryないし構造 こうぞう -機能 きのう 理論 りろん structural-functional theoryが代表 だいひょう 的 てき である。これらの学説 がくせつ における考 かんが え方 かた のだいたいの傾向 けいこう は次 つぎ のようなものである。すなわち,まず行為 こうい 理論 りろん から出発 しゅっぱつ して人間 にんげん 行為 こうい の目的 もくてき を欲求 よっきゅう 充足 じゅうそく need gratificationにあるとする。しかしながら人間 にんげん は単独 たんどく ではそれらの欲求 よっきゅう を充足 じゅうそく することができず,そこで他者 たしゃ を目的 もくてき ,手段 しゅだん ,あるいは条件 じょうけん などとして,自己 じこ のあるいは他者 たしゃ との共同 きょうどう の欲求 よっきゅう を充足 じゅうそく するために社会 しゃかい システムをつくる。社会 しゃかい システムの機能 きのう は,個人 こじん からみれば最終 さいしゅう 的 てき には個人 こじん 行為 こうい 者 しゃ (パーソナリティ・システム)の欲求 よっきゅう 充足 じゅうそく にあるが,しかしひとたび社会 しゃかい システムが形成 けいせい されると,社会 しゃかい システムとパーソナリティ・システムは相互 そうご に独立 どくりつ のシステムとなり,両者 りょうしゃ はレベルを異 こと にするので,社会 しゃかい システムはそれ自身 じしん の存続 そんぞく のために社会 しゃかい システム自体 じたい としての機能 きのう 的 てき 要件 ようけん functional requirementの充足 じゅうそく を求 もと めるようになる,というのである。この考 かんが え方 かた の特徴 とくちょう は,社会 しゃかい が形成 けいせい される理由 りゆう をそれが果 は たす機能 きのう によって説明 せつめい することにあると同時 どうじ に,個人 こじん (パーソナリティ・システム)レベルと社会 しゃかい (社会 しゃかい システム)レベルとを独立 どくりつ させることによって,個人 こじん の観点 かんてん からする目的 もくてき 論 ろん 的 てき 説明 せつめい を避 さ けることにある,といえよう(パーソンズ 《社会 しゃかい 体系 たいけい 論 ろん 》1951,その他 た )。
機能 きのう 的 てき 説明 せつめい の基盤 きばん 人間 にんげん がなぜ社会 しゃかい をつくるかということについての機能 きのう 的 てき 観点 かんてん からする説明 せつめい は,動物 どうぶつ の社会 しゃかい についての研究 けんきゅう からの示唆 しさ によって補強 ほきょう されうる。ミツバチやアリの社会 しゃかい はその全体 ぜんたい が〈超 ちょう 個体 こたい 〉と呼 よ ばれるが,これは1匹 ひき ずつの個体 こたい が生殖 せいしょく と食物 しょくもつ 獲得 かくとく の両方 りょうほう の能力 のうりょく を備 そな えていないために自立 じりつ できないことが,機能 きのう 的 てき に社会 しゃかい 形成 けいせい を要求 ようきゅう する極端 きょくたん な例 れい である。これと対照 たいしょう 的 てき に,ミツバチやアリ以外 いがい の多 おお くの昆虫 こんちゅう は,親 おや が植物 しょくぶつ の葉 は の上 うえ に卵 たまご を生 う みつけると,あとは親 おや の世話 せわ にならずにその葉 は を食 た べて自力 じりき で成長 せいちょう するので,社会 しゃかい をつくる機能 きのう 的 てき 必要 ひつよう がない。だからそれらの昆虫 こんちゅう は社会 しゃかい をつくらない。
脊椎動物 せきついどうぶつ 以上 いじょう では,子 こ どもは親 おや が世話 せわ をしないと自力 じりき では成長 せいちょう できないので,子 こ どもが一 いち 人前 にんまえ になるまでの間 あいだ ,家族 かぞく 形成 けいせい が行 おこな われる。すなわち,哺乳類 ほにゅうるい では親 おや が子 こ どもに乳 ちち を与 あた えなければならないし,鳥類 ちょうるい では親 おや が卵 たまご をあたためなければならないだけでなく,ひなになってからは餌 えさ をとってきてやらなければならない。これらの機能 きのう 的 てき 必要 ひつよう から彼 かれ らは家族 かぞく をつくり,そして子 こ どもが成長 せいちょう して自立 じりつ できるようになるや否 いな や,ある日 ひ 突然 とつぜん にその家族 かぞく は解体 かいたい する。すなわち,社会 しゃかい 形成 けいせい はその機能 きのう によって説明 せつめい されうるのである。
人間 にんげん の子 こ どもは他 た の動物 どうぶつ に類例 るいれい をみないほど長期間 ちょうきかん にわたって無力 むりょく であり,そのことが人間 にんげん 社会 しゃかい における家族 かぞく の永続 えいぞく 的 てき 普遍 ふへん 性 せい の理由 りゆう を説明 せつめい する。また人間 にんげん の欲求 よっきゅう は他 た の動物 どうぶつ に類例 るいれい をみないほど高度 こうど であるため,食物 しょくもつ さえ単独 たんどく では調達 ちょうたつ できず,人間 にんげん の欲求 よっきゅう 充足 じゅうそく の中 なか で自力 じりき でなしうるのは呼吸 こきゅう と排便 はいべん と睡眠 すいみん その他 た ,ほんのわずかなものに限 かぎ られる。そしてこの単独 たんどく 個人 こじん の無力 むりょく さは,文明 ぶんめい の発達 はったつ がすすめばすすむほど進行 しんこう するのである。なぜなら,産業 さんぎょう 文明 ぶんめい の高度 こうど 化 か とは社会 しゃかい 構造 こうぞう 的 てき には社会 しゃかい 分化 ぶんか ,すなわち分業 ぶんぎょう の進展 しんてん を意味 いみ し,分業 ぶんぎょう の進展 しんてん とは個人 こじん が部品 ぶひん 化 か していくことにほかならないからである。こうして,人間 にんげん と他 た の動物 どうぶつ を含 ふく めて,社会 しゃかい 形成 けいせい は欲求 よっきゅう の性質 せいしつ から機能 きのう 的 てき に説明 せつめい 可能 かのう である,ということができる。執筆 しっぴつ 者 しゃ :富永 とみなが 健一 けんいち
生物 せいぶつ の社会 しゃかい 生物 せいぶつ に社会 しゃかい を認 みと めることに対 たい して擬人 ぎじん 主義 しゅぎ であるとの批判 ひはん がかつてはあったが,今日 きょう ,少 すく なくとも動物 どうぶつ の社会 しゃかい という表現 ひょうげん は一般 いっぱん に公認 こうにん されている(その間 あいだ の歴史 れきし については〈動物 どうぶつ 社会 しゃかい 学 がく 〉の項目 こうもく を参照 さんしょう されたい)。以下 いか に動物 どうぶつ の社会 しゃかい について論 ろん じるが,植物 しょくぶつ の社会 しゃかい については〈植物 しょくぶつ 群落 ぐんらく 〉の項目 こうもく で扱 あつか う。
動物 どうぶつ の社会 しゃかい 社会 しゃかい 的 てき 現象 げんしょう というとき,集合 しゅうごう 現象 げんしょう のみが注目 ちゅうもく されがちであるが,離散 りさん も集合 しゅうごう と同様 どうよう に種 たね 社会 しゃかい 維持 いじ のための重要 じゅうよう な役割 やくわり を果 は たす。たとえば,母系 ぼけい 的 てき な単位 たんい 集団 しゅうだん をもつニホンザル の社会 しゃかい では,雄 ゆう は性 せい 成熟 せいじゅく 前後 ぜんこう に出自 しゅつじ 集団 しゅうだん を離 はな れ,放浪 ほうろう ののち他 た 集団 しゅうだん に加入 かにゅう する。したがってニホンザルの種 たね 社会 しゃかい は,互 たが いに社会 しゃかい 的 てき 距離 きょり をおいて分散 ぶんさん 対立 たいりつ する単位 たんい 集団 しゅうだん と,その空隙 くうげき (くうげき)を彷徨 ほうこう (ほうこう)する雄 ゆう の単独 たんどく 行動 こうどう 者 しゃ によって模 も 式 しき 化 か することができる。しかし,このような集団 しゅうだん を形成 けいせい せず,単独 たんどく 行動 こうどう 者 しゃ のみからなる種 たね 社会 しゃかい も少 すく なくなく,このような例 れい では,交尾 こうび 期 き における出会 であ いと,雌 めす にまかされる育児 いくじ 期 き だけが社会 しゃかい 的 てき 交渉 こうしょう をもつ期間 きかん となる。夜行 やこう 性 せい の原猿 げんえん 類 るい ,食 しょく 虫 むし 類 るい ,食肉 しょくにく 類 るい などの多 おお くがこのような社会 しゃかい をもっている。無 む 脊椎動物 せきついどうぶつ や下等 かとう な脊椎動物 せきついどうぶつ では,交尾 こうび 期 き における雌雄 しゆう の社会 しゃかい 的 てき 交渉 こうしょう があるだけで育児 いくじ 期 き を欠 か くものが少 すく なくない。昆虫 こんちゅう 類 るい ,魚類 ぎょるい ,両生類 りょうせいるい ,爬虫類 はちゅうるい などは,産卵 さんらん によって親 おや の代 だい の務 つと めを終 お わり,あとは子 こ の世代 せだい の自力 じりき の孵化 ふか (ふか)と成長 せいちょう にゆだねる。しかし,社会 しゃかい 性 せい 昆虫 こんちゅう ,巣 す をつくって雌雄 しゆう で子 こ を育 そだ てるトゲウオ,口 くち の中 なか に子 こ を入 い れて保護 ほご するマウス・ブリーダーといわれるシクリッド科 か の魚 さかな など例外 れいがい 的 てき な存在 そんざい もある。このような生活 せいかつ における世代 せだい の重 かさ なりあいは,生得 しょうとく 的 てき な能力 のうりょく に加 くわ えて学習 がくしゅう を可能 かのう とする機会 きかい を与 あた えるがゆえに重要 じゅうよう な意味 いみ をもつが,本格 ほんかく 的 てき な学習 がくしゅう は哺乳類 ほにゅうるい にいたって認 みと められる。社会 しゃかい 性 せい 昆虫 こんちゅう の一 ひと つのコロニーには,女王 じょおう ,王 おう ,ワーカー(働 はたら きアリ,働 はたら きバチ),兵 へい などの形態 けいたい と機能 きのう を異 こと にするいくつかの階級 かいきゅう によって構成 こうせい され,繁殖 はんしょく ,労働 ろうどう ,防衛 ぼうえい などの分業 ぶんぎょう 的 てき 体制 たいせい によってコロニーを運営 うんえい するものがあり,今西 いまにし 錦司 きんじ はこの全体 ぜんたい を超 ちょう 個体 こたい 的 てき 個体 こたい と呼 よ んだ。
社会 しゃかい の発達 はったつ を論 ろん ずるにあたって重要 じゅうよう な目安 めやす となるのは,個体 こたい 間 あいだ に相互 そうご 認知 にんち があるか否 ひ かという点 てん である。社会 しゃかい 性 せい 昆虫 こんちゅう の中 なか には,女王 じょおう の分泌 ぶんぴつ 物 ぶつ を同 おな じコロニーの構成 こうせい 員 いん が分有 ぶんゆう することによって相互 そうご に認知 にんち しあっているものがあるが,アシナガバチのように個体 こたい 間 あいだ に優劣 ゆうれつ があり,より高度 こうど な認知 にんち 能力 のうりょく を示 しめ すものもある。しかし哺乳類 ほにゅうるい 以外 いがい の脊椎動物 せきついどうぶつ と無 む 脊椎動物 せきついどうぶつ には個体 こたい 相互 そうご 間 あいだ の認知 にんち がないものが多 おお く,これらの集合 しゅうごう を無名 むめい の群 む れanonymous groupと呼 よ ぶ。このような集合 しゅうごう はまた,一般 いっぱん に群集 ぐんしゅう crowdと呼 よ ばれるが,その中 なか では成員 せいいん の交換 こうかん が可能 かのう であり,その構成 こうせい はたえず変化 へんか している。繁殖 はんしょく 期 き には,相互 そうご 認知 にんち にもとづくつがいをつくっている鳥類 ちょうるい も,渡 わた りの時期 じき には無名 むめい の大 だい 集団 しゅうだん をつくることがあるし,季 き 節 ぶし 移動 いどう を行 おこな うウシカモシカ やハーティビーストの大 だい 集団 しゅうだん も相互 そうご 認知 にんち に支 ささ えられているわけではない。
個体 こたい の相互 そうご 認知 にんち のために重要 じゅうよう な働 はたら きを果 は たすのは,血縁 けつえん と優劣 ゆうれつ である。安定 あんてい した単位 たんい 集団 しゅうだん をもつ霊長 れいちょう 類 るい では,母子 ぼし の認知 にんち は終生 しゅうせい 失 うしな われることはない。また長期 ちょうき 観察 かんさつ の結果 けっか から,兄弟 きょうだい 姉妹 しまい 等 とう の血縁 けつえん 関係 かんけい もなんらかの形 かたち で認知 にんち されていることが明 あき らかにされている。また,個体 こたい 間 あいだ の安定 あんてい した優位 ゆうい 劣位 れつい 関係 かんけい dominance and subordinance relationshipも,自他 じた のアイデンティティ の規準 きじゅん を与 あた え,同 おな じ集団 しゅうだん 内 ない で共存 きょうぞん するための重要 じゅうよう な絆 きずな (きずな)となる。また,これらの絆 きずな によって結 むす ばれていない個体 こたい 相互 そうご の間 あいだ には,さまざまな形 かたち での敵対 てきたい 的 てき な関係 かんけい が認 みと められる。単独 たんどく 行動 こうどう 者 しゃ の社会 しゃかい では個体 こたい のなわばりが,集団 しゅうだん 間 あいだ には集団 しゅうだん のなわばりが認 みと められる場合 ばあい が多 おお い。このように,ある空間 くうかん の占有 せんゆう を自他 じた ともに認 みと めあうことによって,すみわけて共存 きょうぞん する社会 しゃかい 的 てき 機 き 制 せい をなわばり制 せい territorialityという。しかし集団 しゅうだん 間 あいだ にも優劣 ゆうれつ が認 みと められることがあり,そのような場合 ばあい には力 ちから に応 おう じた空間 くうかん 的 てき な広 ひろ さによって均衡 きんこう をとり,あるいは優位 ゆうい 集団 しゅうだん の接近 せっきん を劣位 れつい 集団 しゅうだん が避 さ けることによって衝突 しょうとつ を避 さ ける。
社会 しゃかい の進化 しんか 霊長 れいちょう 類 るい は,きわめて原始 げんし 的 てき な種 たね 社会 しゃかい から,高度 こうど な発達 はったつ を遂 と げたものまでを含 ふく み,これらを系統的 けいとうてき に追 お うことによって,社会 しゃかい の進化 しんか の道 みち すじをたどることができる。その最 もっと も原始 げんし 的 てき な社会 しゃかい は,ロリス,アイアイ,コビトキツネザル などの夜行 やこう 性 せい の単独 たんどく 行動 こうどう 者 しゃ の社会 しゃかい に見 み ることができる。霊長 れいちょう 類 るい は,夜行 やこう 性 せい から昼 ひる 行 ぎょう 性 せい へと進化 しんか したが,昼 ひる 行 ぎょう 性 せい になったものはすべて安定 あんてい した単位 たんい 集団 しゅうだん をもつようになっている。霊長 れいちょう 類 るい の単位 たんい 集団 しゅうだん は両性 りょうせい からなり,特定 とくてい の要素 ようそ (個体 こたい )を放出 ほうしゅつ し,かつ外部 がいぶ から受容 じゅよう する半 はん 閉鎖 へいさ 的 てき な構造 こうぞう をもっている。集団 しゅうだん の構成 こうせい には,単 たん 雄 ゆう 単 たん 雌 めす ,単 たん 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす ,複 ふく 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の3型 がた が認 みと められるが,集団 しゅうだん の維持 いじ 機構 きこう からすると後 のち 2者 しゃ はさらに各 かく 2型 がた に分 わ けられる。単 たん 雄 ゆう 単 たん 雌 めす の集団 しゅうだん は,霊長 れいちょう 類 るい における最 もっと も原型 げんけい 的 てき な構造 こうぞう と考 かんが えられ,夜行 やこう 性 せい の原猿 げんえん メガネザル,アバヒ,昼 ひる 行 ぎょう 性 せい の原猿 げんえん インドリ,シファカ ,真猿 しんえん のキヌザル,ヨザル,ティティ ,サキ,そして類人猿 るいじんえん のテナガザル などがこの型 かた の集団 しゅうだん をもっている。子 こ どもは両性 りょうせい とも性 せい 成熟 せいじゅく までに出自 しゅつじ 集団 しゅうだん を離 はな れ,またいかなる個体 こたい も外部 がいぶ からの移入 いにゅう を許 ゆる さないことによって,この集団 しゅうだん のペアの構成 こうせい は維持 いじ される。残 のこ る4型 がた 中 ちゅう ,単 たん 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす と複 ふく 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の各 かく 1型 がた は母系 ぼけい の集団 しゅうだん で,雄 ゆう だけが集団 しゅうだん 間 あいだ を移籍 いせき する。この単 たん 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の型 かた は,オナガザル類 るい の約 やく 半数 はんすう に見 み られるが,複 ふく 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の型 かた はキツネザル,ホエザル,クモザル,そしてオナガザル類 るい の残 のこ る半数 はんすう に見 み られる。あとの2型 がた は,雌 めす が出自 しゅつじ 集団 しゅうだん を出 で て他 た 集団 しゅうだん に加入 かにゅう する点 てん で母系 ぼけい の集団 しゅうだん とは異 こと なっており,その単 たん 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の構成 こうせい をもつものがゴリラで,この社会 しゃかい では雄 ゆう も性 せい 成熟 せいじゅく 前後 ぜんこう に出自 しゅつじ 集団 しゅうだん を離脱 りだつ するが,外部 がいぶ からの雄 ゆう の移入 いにゅう はない。したがって,離脱 りだつ した雄 ゆう はそれぞれ雌 めす と結 むす びついて新 あたら しい単位 たんい 集団 しゅうだん を形成 けいせい する。チンパンジー とピグミーチンパンジー の集団 しゅうだん は複 ふく 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす の構成 こうせい をもち,雌 めす は集団 しゅうだん 間 あいだ で交換 こうかん されるが,雄 ゆう は出自 しゅつじ 集団 しゅうだん にとどまり,父系 ふけい の集団 しゅうだん を形成 けいせい する。以上 いじょう の諸 しょ 型 かた の集団 しゅうだん の維持 いじ 機構 きこう は,近親 きんしん 婚 こん の回避 かいひ と深 ふか く結 むす びついている。ヒトを除 のぞ く霊長 れいちょう 類 るい 社会 しゃかい には,人間 にんげん 社会 しゃかい に見 み られるような家族 かぞく の形成 けいせい は見 み られない。特定 とくてい の雌雄 しゆう の恒常 こうじょう 的 てき な結合 けつごう ,性 せい による分業 ぶんぎょう ,集団 しゅうだん 間 あいだ の対立 たいりつ の解消 かいしょう ,そして言語 げんご や社会 しゃかい 制度 せいど の発生 はっせい などと深 ふか く結 むす びついているに違 ちが いない家族 かぞく の起源 きげん の解明 かいめい は,直立 ちょくりつ 二 に 足 そく 歩行 ほこう の起源 きげん と並 なら んで古来 こらい 人類 じんるい 学 がく 上 じょう の難問 なんもん とされている。複 ふく 雄 ゆう 複 ふく 雌 めす のオナガザル類 るい の集団 しゅうだん は,順位 じゅんい 秩序 ちつじょ によって貫 つらぬ かれた集団 しゅうだん ,換言 かんげん すれば不平等 ふびょうどう 原理 げんり によって支 ささ えられた集団 しゅうだん であった。ところが同 おな じような構成 こうせい の集団 しゅうだん をもつチンパンジーやピグミーチンパンジーの社会 しゃかい では,平等 びょうどう 原則 げんそく にもとづく社会 しゃかい 的 てき 交渉 こうしょう が多 おお く見 み られるようになる。多彩 たさい な挨拶 あいさつ の行動 こうどう ,とくにピグミーチンパンジーの社会 しゃかい では性器 せいき を用 もち いての頻繁 ひんぱん な宥和 ゆうわ (ゆうわ)行動 こうどう が目 め だつようになり,また食物 しょくもつ の分配 ぶんぱい は集団 しゅうだん 内 ない の個体 こたい 間 あいだ の新 あたら しい共存 きょうぞん のあり方 かた を示唆 しさ するものだといってよいであろう。チンパンジーを用 もち いた実験 じっけん 心理 しんり 学 がく 的 てき な研究 けんきゅう は,高度 こうど な言語 げんご 的 てき 機能 きのう の存在 そんざい を実証 じっしょう しているが,このような心理 しんり 的 てき 能力 のうりょく の進化 しんか に伴 ともな って社会 しゃかい の内容 ないよう にも変化 へんか が見 み られるのである。日本 にっぽん の研究 けんきゅう 者 しゃ は,ニホンザルの群 む れ間 あいだ に食物 しょくもつ や採 と 食 しょく 行動 こうどう などの相違 そうい が認 みと められ,これらの行動 こうどう はそれぞれの群 む れで伝承 でんしょう されていることを明 あき らかにして,それをカルチャーcultureと呼 よ んだ。同様 どうよう の現象 げんしょう は,チンパンジーの社会 しゃかい により高度 こうど な形 かたち で見 み られた。それは,アリやシロアリを釣 つ って食 た べる道具 どうぐ にも見 み られたし,ある地域 ちいき 集団 しゅうだん の個体 こたい は堅 けん 果 はて を石 いし で割 わ って食 た べるといった行動 こうどう を見 み せたのである。以上 いじょう ,主 しゅ として種 たね 内 ない 社会 しゃかい について見 み てきたが,系統 けいとう 的 てき に近 きん 縁 えん な異 こと なる種 たね 社会 しゃかい 間 あいだ にはすみわけの現象 げんしょう が見 み られ,また,生活 せいかつ 様式 ようしき を同 おな じくする異種 いしゅ 間 あいだ で混 こん 群 ぐん mixed groupを形成 けいせい するといった現象 げんしょう も,森林 しんりん 性 せい のオナガザル類 るい や,秋 あき 冬季 とうき のカラ類 るい などに認 みと められている。異種 いしゅ 間 あいだ の社会 しゃかい 関係 かんけい の中 なか で特異 とくい なものとしては,共生 きょうせい と寄生 きせい をあげることができ,また捕食 ほしょく 者 しゃ と被 ひ 捕食 ほしょく 者 しゃ の関係 かんけい には食物 しょくもつ 連鎖 れんさ という形 かたち でとらえうる生態 せいたい 学 がく 的 てき な秩序 ちつじょ 系 けい もある。 →順位 じゅんい →なわばり →群 む れ執筆 しっぴつ 者 しゃ :伊谷 いたに 純一郎 じゅんいちろう